終話、地球連盟正式発足
いままで読んで頂いてありがとうございました。
突然ですがこれで終話とします。
ここまで書いてこれたのは読んで頂いた皆さんのお陰です。
とりわけ長い間沢山の誤字訂正をして頂いた方に深く感謝します。
地球連盟政府については、すでに暫定的に政府自体は設立されて運用は開始していたが、難しい問題が山積していた。もともと地球連盟の設立の機運が起きたのは、サーダルタ帝国の侵攻に対して地球が一つになって抵抗せざるを得ないからであった。
また、サーダルタ帝国の侵攻によって、かの帝国のみでない、多くの異世界の存在が明らかになって、それらは精々2〜3つの国から成っているおり、いずれも文明国であることが判ったのだ。さらに、サーダルタ帝国の侵攻を唯一退けた地球が、200以上の国と地域に分かれてとりわけリーダーシップをとる国もないということは是正の必要があるということになった。要は異世界に対して恥ずかしいということだ。
しかし、実際に統一の準備をしている中で、とりわけ問題であったのは地球にある国々の統一である。これは、多くの互いにいがみ合っている国と地域があり、さらにその経済状態が大いに異なる。制度上の統一を行って移動を自由化すると、間違いなく貧しい地域から富める地域への大規模な移動が起きるであろう。
これはすでに現在でも起きており、知力増強の効果でとりわけ若者のスキルが急激かつ大幅に上昇して、いわゆる途上国から先進国に移動しても、その中・上級の労働市場に溶け込んでいけるのだ。だから、優秀な者多くが先進国に移動しているが、十分なスキルを持った上での移動なので時をおかずに職に就けている。
一方で、途上国においては、それなりの国力を持った国々は自ら、そのような力のない国は大抵の場合にはいくつかの国や地域いをまとめて地球連盟の主導によって、かつてタイ王国で実施されたような所得倍増計画あるいは似た計画が進んでいる。知力増強を受けた人々で構成される社会は、十分な投資とその投資に基づく事象を注意深くコントロールすれば、その地域に急速な経済成長を起こすことは難しくはないのだ。
投資については、いずれにせよその地の将来の成長した経済力に向けての借款になるが、すでに10を越える国々がそのような政策を実施して、その結果は100%ではなくとも、いずれも成功して借款の返済も順調に行われている。その実例があるので、出資者を募るのに困難はない上に、地球連盟政府は大きな資産を持っている。
その資産とは、まず、その価格が大きく上がることが確実な途上国で買収した膨大な土地がある。つまり、原野あるいはスラム街などを地球連盟が買い取ってそこを開発することで、その開発行為によってその地のGDPを底上げする。さらには、開発された土地は開発前の殆ど価値のない状態から立派な農用地や都市になるのだ。
加えて、新地球の全陸地は、私有は禁じられているので新地球政府の所有になっており、新地球政府は当面はいわば地球同盟政府の子会社になるのだ。このように、地球同盟そのものが莫大な資産の裏付けを持っているので、いかなる金融機関もその要請があれば大喜びで貸し付けを行う。
このような経済政策によって、途上国に莫大な資金が流入して、それを活用して行われている開発行為のためにそれらの経済状況は急速に改善されつつある。その意味では、途上国の人々は自国で十分な職を得ることができるために、国境の壁は従来に比べれば大幅に低く薄くなっているが人口の移動は少ない。
また、これらのより良い生活を求めての移動人口の大部分は、新地球が吸収する見込みである。2032年4月の時点では新地球の人口はすでに2億人を越えて、なおも月間1千万人を越える流入がある。
このように、地球同盟政府は貧しい地域の経済の底上げに集中しており、その分先進国については自主性に任せている。だが、地球全体が経済成長に巻き込まれているなかで、先進国のみがそれに取り残されることはない。これは、地球全体の建設産業の力の大部分が途上国に集中していることになっているが、先進国ででしか作れないものも多いため、貿易面で潤っているわけだ。
さて、2032年9月1日は地球連盟政府の正式発足日である。すでに、連盟(準備)政府は各国から出資金を集めて、さらに先述した土地に係わる資産を担保とした資金を手当てして、途上国の経済建設、新地球の開発及び移民、新政府発足の準備作業を担ってきた。
地球連盟政府発足後も国々は存続するが、基本的には自治国扱いになる。しかし、200以上の国は議員の配分を考える上でも過剰であるために、人口5千万人を下まわる国はほぼ強制的に合併させて52国にまとめた。日本周辺の国について言えば、日本は台湾と合併したし、中国は北京政府の他に5か国にまとまった。
北朝鮮は韓国と同じ民族であるが、韓国と合併するのは嫌がって中国・東北国と合併した。結果として、韓国にはどこもくっつきたがらず人口がかろうじて5千万人を超えていたために単独国となった。アジアでは単独国になったのは他にはインド程度で、他は多かれ少なかれいくつかの国と合併している。
これらの国々の統合は当然連盟に参加することが前提であり、その合意はすでにできていたので、9月1日をもって正式に加盟することになる。その仕組みの大枠は以下のようになっている。
連盟への分担金は各国の税収の5%であり、連盟の役割りは異世界との外交、途上国の経済建設他の人類社会全体の経済政策、同盟関係にある異世界を含めた防衛、地球上の地域紛争の解決等になっている。だから、連盟政府は極力軽く小さい組織で動かすことを前提となっており、地球頭脳と名付けられた政策人工頭脳がそのかじ取り役になっている。
その議会は衆議院と参議院の両院制であり、それぞれの議員数は500人と300人であり、基本的には各国の人口と連盟への分担金を加味した議員数になっている。連盟会議の決議に関しては、地球頭脳が判定して、介入できるようになっている。
これは、地球頭脳がそもそも決議されると有害であると判定する議案あるいは決議は、18歳以上の有権者によって投票を行って賛成が過半数に達しないと廃案にされるか、または成立しないようになっている。現状のところ、人類は自らの運命を理性的に決められるほど賢くないという自覚からこのような歯止めをかけたものだ。
先の役割りにあるように、軍は全て同盟が保持して管理することになった。すなわち、地球における『国』が起こす武力を使った地域紛争は全て起きえないことになる。しかしながら、このことはすでに連盟軍がすでに運用されていることから、すでに事実をもって担保されている。
この物語の中で述べられたように、韓国軍が朝鮮共和国に攻め込んだが、圧倒的な連盟軍の重力エンジン機に押さえ込まれて手も足も出なかったことは記憶に新しい。他にも、中東・アフリカで同様に国軍が動いた小競り合いが3件あったが、簡単に連盟軍に押さえ込まれた。
現在の主兵器は事実上重力エンジン機に限られ、それの輸送型によって運用される緊急展開部隊でほぼあらゆる事態に対応できる。重力エンジン機は、大気圏内では事実上摩擦熱によってのみ速度が制限され、大気圏を抜けて軌道に登ることで地球を1時間で周回できる。
しかも、反重力の機能を持つので、一つの点に停止できるために地上及び亜宇宙のどこへも極めて短時間に自由自在に行けるのだ。その武器はレールガンであり、25mmの小口径のものはともかく150㎜砲弾に対して防御できる装甲板は存在しない。
また、反重力エンジンはジェットエンジンに比べエンジンの重量こそそれほど差はないが、動力源として燃料油とAEバッテリ―を含めた重量・容量には大差がある。何よりの差はその整備性であり、ジェットエンジンが整備担当を1分隊必要であるのに対して、重力エンジンはその概ね1/10の人数で済む。
そのため、海洋を行動範囲とする軍艦は意味をなくしたし、戦車もその存在価値を無くしてしまった。なにしろ、重力エンジン機は、そのような機体とすれば空中は無論水中も運動できるのだ。しかし、地球の国々が争う可能性がある場合には潜水艦の隠密性はそれなりに利用価値があるので、重力エンジン駆動の潜水艦も計画されたが、後にキャンセルされた。
結局空中を運動できるのに、活動範囲を水中に限ることの意味あいが見いだされなかったことと、地球連盟政府の正式発足が目の前に迫ったその時期に、地球内の紛争でしか役立たないような兵器を作ることの無意味さを悟ったのだ。
ちなみに、連盟政府の正式成立をもって、連盟軍の成立が正式化され、それに伴って各国の軍隊を解散することになる。現状で各国政府は、可能な者は連盟軍に移籍させ、自分で民間に職を得られるものは除隊させている。だがそれでも、3千万人近い人々が軍人という身分を失うことになる。
ちなみに、連盟軍は中央軍と地方軍に分かれ、前者は言ってみれば地球防衛軍に相当して、後者は地域紛争担当軍ということになる。その所属人数は前者が150万人、後者が300万人であり後者は過剰ではないかという意見もあったが、テロ対策は彼らが実施するのでそれぞれの地方にそれなりの兵力を置くことが必要であるし、パトロールも必要であるということで、この人数になっている。
嘗ては4500万人を超えていた世界の軍が、僅か350万人になるのだ。そしてこのことで職を失うことになる元軍人は、新地球の優先移住者に数えられおり、さらにとりわけ途上国においてはそのGDP向上のための空前の建設ラッシュが起きているために、就ける職が多くほとんどトラブルは起きなかった。
むしろ問題になったのは先進国の軍であり、とりわけ質量ともに断然世界トップであった米軍では大きなジレンマを抱えた。米軍は日本発のAE発電、AEバッテリーさらに重力エンジンとレールガンの出現で大きな変革を迫られた。それは最も進んだ兵器を莫大な量所持していたために、余計大きなものであった。
なにしろ、コストが1/5程度にしかならない“しでん”に如何なるジェット戦闘機も武力的にまったく太刀打ちできないのであるから、莫大な資産であるはずのこれらは一気に不良資産になったのだ。さらに、アメリカが莫大な費用をかけて運用している空母戦力が問題であった。軌道高度に上がれば、1時間で地球を一周できる戦闘機“しでん”やスターダストが存在することになると空母に何の意味があるか。
しかも、AE発電機を装備した重力エンジン母艦がすでに実用化されているのだ。イージス艦などの海上戦力は、結局空母機動隊と一体のものであるため同様に無価値になるが、海上戦力は重力エンジンの出現をもってその速度の遅さにために無価値になった。
なにしろ、民間においてもすでに海上輸送はすたれつつあり、全てが重力エンジン貨物機に移行しつつあるのだ。ただ、潜水艦はその隠密性から依然として価値を認められたが、推進機構は重力エンジンが明らかに優れている。そういうことで、先述した理由で潜水艦も地球連盟の正式設立と共に退役することになった。
アメリカ軍にとって、最大の痛恨事はサーダルタ帝国の侵攻に彼らが殆ど機能しなかったことである。
アメリカは“しでん”のノウハウを得て、世界一の軍のプライドをかけて重力エンジン戦闘機“スターダスト”を懸命に製造はしたが、そのコストは不細工ではあっても設計時から量産性を考慮した“しでん”の2倍に近いと言われる。
さらにはサーダルタ帝国侵攻時には、“しでん”大量生産システムをたちまちにして整えた日本が、世界に“しでん”と“らいでん”さらにはパイロット迄を供給して、結局世界一の軍事国家であるはずのアメリカは殆ど出る幕はなかったのだ。
むろん、アメリカは核ミサイル体系を持っており、その意味では攻撃力は日本を凌いでいるが、核は威力が大きすぎまた放射能などで汚すぎて、防衛戦争であるサーダルタ帝国による侵攻には使えなかったのだ。
サーダルタ帝国の侵攻によるごたごたのなかで、日本は少なくとも反重力機の所有数についてはアメリカを大きく凌いで、アメリカ政府と軍内部では密かに緊張した。しかし、日本はその所有機の多くを各国軍に売却し、かつ地球同盟軍に供与して自衛隊向けとして3千機にとどめて、6千機を所有するアメリカを下回るようにしている。これはアメリカの反応を察しての上である。
アメリカ軍はメジェル大統領の求めに応じて、日本を攻撃する場合のシミュレーションをしている。結果としては、地球同盟軍の介入がなかったとしても、3千機の“しでん”に守られる日本を攻撃破壊することは無理だということになっている。
核攻撃は、威力が大きすぎて数百万、数千万の人を虐殺することになり、実行したらアメリカという国が終わることになる。また実際には、ハヤトという存在が居る以上物理的に無理である。彼らとしては日本と自衛隊、そしてハヤトを意識せざるをえなかった。
地球同盟軍にはアメリカ軍から移動した者の数が最も多くなっている。これは、人民解放軍なき今では最大の人数を抱える軍であり、かつレベルの高い軍であることから当然と言えるだろう。しかし、2番目に多かったのは、日本の自衛隊からであり、台湾軍も日本の1/3程度の人数を送り出している。
これは、コストと量産性から“しでん”、“らいでん”が同盟軍の正式兵器に採用されたこともあって、日本人パイロットが最も多かったことが一つの理由である。また、日本人と台湾人のみが実質身体強化ができるということになると、陸戦隊にはこの両国のものが絶対的に有利なのだ。
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すでに、地球同盟議員の選挙はすでに終わっており、各国の議員の割り当て人数が選出されている。台湾と合併した日本の議員は供出金の割合が最高ランクなので、人口比の2倍の衆議院21人、参議院13人である。この議員は国内の議員と兼ねられるのでハヤトも議員として当選している。
初代連盟代表は、暫定連盟理事の間の選挙で選ばれたが、日本の首相経験者である阿山になった。彼は、処方は無論済ませており、加えて知力増強のお陰で急速に進んだ医学の進歩から生まれたアンチエイジ療法のお陰でまだ若々しい。
アメリカの前代表を差し置いて彼が選ばれたのは、メジェル大統領が以前世界を引っ掻き回したスペード以上に世界をかき回して、大いにアメリカの評判を落としたお陰である。そして、連盟政府の行政府の大臣については阿山の意向をベースに、理事の意向を聞きながら決めたものだ。
その中で、阿山は異世界担当大臣にハヤトを推薦し、これは半部程度の候補は差し替える必要があった中で満場一致で決まったものだ。
9月1日の記念式典で、初代地球連邦代表阿山は、カナダに建設された地球連邦政府大ホールの演壇に立って、1000人余りの聴衆とテレビカメラの向こうで聞いている10億人を超える人々に語りかける。
「皆さん、初代地球連盟代表の阿山です。今日ただいま、この地球に本当の意味での統一政府が成立しました。過去、世界連盟、世界連合など汎地球的な組織はあり、それなりに人々の生活の向上平和の維持に努めてきました。しかし、それらの機能は世界をまとめるという意味では極めて限定的なもので、人々の生活の向上、平和の維持に十分なものではありませんでした」
阿山は一旦言葉を切ってカメラを見つめた。
「この地球連盟は、皆さんが御存知のように全くそれらと違います。我々はサーダルタ帝国の侵攻を跳ね返した戦いを通じて、手の届くところにある異世界の存在を知りました。そして、サーダルタ帝国に支配され、それから解放された世界のリーダー的な役割を期せずして担うことになりました。
その我々が、それらの異世界に対して多くの国に分裂して互い相争う、そして貧しさと豊かさが大きく異なる国々から成っている状態を続けるわけにはいきません。私は本質的には地球連盟の成立は、この異世界との出会いによって成ったと思っています。
地球連盟は、国の機能の最大のものとも言える外交と安全保障を担っています。一方で徴税と同時に人々の福祉と生活に関わる自治はそれぞれの国が担当しますが、それぞれの国の機能を超えた、人々の豊かさを公平に向上させるための経済政策は連盟が担当します。
我々は地球内において特に開発の遅れている国々について、全くイーブンになるとは申せませんが、少なくともあらゆる人々が衣食住に不自由することなく、教育が受ける機会が得られるようにします。
我々には、今や新地球というフロンティアがあり、これは地球と同等以上のスペースと資源があります。ですから私が今言ったことは、必ず実現します。
この地球連盟の正式発足は、地球の人類がさらにもう一段の階段を昇る一歩になったと後世言われるでしょう。さあ、皆で人類の輝かしい未来に向かって叫びましょう『輝く未来を!』」
そう言って阿山は叫び、拳を突きあげた。
満場の人々、そしてテレビを見ていた人々も皆同じように拳を突き上げ「輝く未来を!」と叫んだ。
ハヤトも、涼子と隣あって座っていた椅子から立ち上がり「輝く未来を!」と叫ぶ拳を突き上げた。
現在連載中の2つの話も良かったら読んでください。
「日本破産、そして再生へhttps://ncode.syosetu.com/n4788fq/1/」は余り人気はありませんが、作者としては気にいっています。