表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/180

朝鮮半島の混迷2

ローファンタジー部門でいきなり2位になって驚き、喜んでいます。

読んで頂いている皆さんのお陰です。

出来るだけ頻度を高く更新しようと思っていますのでよろしくお願いします。

 朝霞駐屯地の司令官の天野陸将補は、今日は首相官邸に呼ばれている。

 彼は、いま韓国の愛国臨時政府の大統領に収まっている、金ユッケ中将のことを聞かれるために呼ばれたのだ。金ユッケは准将の時に、日韓の交換将校として1年間滞在し、その間の自衛隊側のカウンターパートが天野だったのだ。


 天野も韓国のクーデターそのものには余り驚かなかったが、それは、いくら何でも核で脅されて北朝鮮の支配下に入ったら、韓国の国民がどういう扱いを受けるかくらいは国民自身の判断がつくだろうと考えたのだ。

 しかし、韓国の白政権では、慰安婦合意の順守のため、慰安婦像を撤去にすることで日本による核ミサイルへの防衛の要請は出来ないであろうし、またすでに米国を徹底的に怒らせていることから米軍を引き留めるすべはないだろう。


 その場合の、北の併合を防ぐ唯一の手段は、軍によるクーデターであり、そういう状況で行われるクーデターについてはさすがの韓国国民も、北のコアなシンパを除いては反対しないだろう。

 その場合に、金ユッケがそのクーデターの指揮を執るのは彼をよく知る天野にしてみれば、韓国人にしては珍しくまともな判断をしたと感心した。これは間違いなく、アメリカ政府及び軍とは歩調を合わせての行動であろうが、韓国軍にもまともな軍人がそれなりに居ることも意味するとも思う。


 韓国の企業や銀行は、IMFの傘下に入ったアジア危機以来、大部分がアメリカ資本の支配下にあり、アメリカがそう簡単にその資産を手放すはずはないと天野は信じていた。その彼にしてみれば、アメリカ軍が撤退するという宣言がどこか嘘くさいものに感じられた。

 それで、彼のその考えと今回のクーデターが繋がるのだ。多分、アメリカは駐留の延長を呑むだろう(この時点では、まだ駐留延長の交渉はまだ行われていない)から、韓国は米軍の下での安全を手に入れるわけであり、それは臨時政府の手柄になるわけだ。


 アメリカも、今までの扱いにくい北シンパの政府の訳の分からない行動から解放されて、話の分かる韓国政府と付き合えばいいのだから、これもハッピーだ。こうしたことを考えながら、天野は官邸に入り、首相秘書官に案内されて室内を進む。

 中を進んで秘書官が一つのドアをノックすると、「入ってもらってください」室内から声が聞こえる。あれは、テレビでよく聞く官房長官の声だ。

 秘書官が「失礼します」の声と共にドアを開き天野を招くと、中には首相の阿山、官房長官の篠山、外務大臣の加藤に加え、財務大臣と副首相を兼ねる早山が、一人立っている篠山を除き座って待っている。


 立っている篠山が天野に声をかける。「天野陸将補、今日はお忙しいところを、お呼びたてして申し訳ありません。まず、お座りください」

 車状に並んでいる椅子の、奥側に空いている椅子を指して篠山が言う。


「天野陸将補です。今日はよろしくお願い致します。政府のご要望に応じるのも我々の責務ですので、こうしてお呼び頂けるのは本望です。では、失礼して座らせて頂きます」

 こうした挨拶の後、天野は指定された椅子の所に進んで座る。


 篠山も傍らの自分の席について、数瞬の間の後、柔らかい笑いを浮かべて再び口を開く。

「もう、予想されておられると思いますが、今の韓国の臨時大統領の金ユッケ氏をよくご存じの天野さんから、彼についてお聞きしたいと思って今日は来ていただきました。

 それにしても、いま天野さんが指揮を執っておられる朝霞駐屯地に滞在している二宮ハヤト氏の件と言い、天野陸将補は国の大事にかかわることになっている運命のようですね」


「いやいや、たまたまです。これまでは至って平凡な人生を送ってきております」

 天野も苦笑いをしながら手を振って否定する。


 それに対し、少し表情を引き締めた篠山が質問を始める。

「さて、まずは天野さんの金ユッケ氏との交流についてお尋ねします」


「はい、金氏が私のいる基地に来て、1年間滞在したのは5年前の4月から翌年の3月までで、かれは当時准将で私は1佐、歳は彼が48歳で私が45歳でした。その1年間は私がカウンターパートに任命されて、仕事で殆ど一緒に行動するほかに、家にも何度も呼ぶような感じでかなり親密に付き合いました。

 その後、2年前に私が彼の駐屯している太田の基地に招かれた形で1ケ月滞在しましたが、彼は司令官として忙しかったのでしょうが、この間も親しく付き合いました」


 天野の答えに篠山が再び応じる。「ありがとうございました。やはり、我が国にあなた以上に韓国の臨時大統領のことを語れる人はいないようですね。では、天野さんの主観でよろしいのですが、金ユッケ氏の人となりについてお話し願えますか」


「はい、非常に緻密かつ頭のいい人ですね。物事の理解が早く、本質を素早く把握して概ね的確な判断を下せる人だと思います。また、韓国人にありがちな、激するところも少ない人で、部下を叱りつけたりということはせず、言い聞かせるという風です。

 そういう意味では、特にあちらの基地に行ったときに感じましたが、部下思いの将校だと思いました。であればこそ、周りの信頼の下に今回のクーデター騒ぎの主導者になったのだと思います。

 また、これもまた韓国人に多い公私混同については、少なくとも私と一緒の中では見せなかったですね。ただ、訓練等では優秀でありましたが、実戦あるいはエマージェンシーの時にどうふるまうかはわかりません。まあ、これは我が自衛隊の殆どの幹部職員も一緒ですが」


 天野の説明に今度は副首相を兼ねる早山が持ち味のだみ声で聞く。

「それはまた、手ごわそうな相手だね。それと、彼の対日感情についてはどう感じましたか?」


「ええ、基本的にはニュートラルです。しかし、韓国にはびこる反日及び日本を貶める卑日には、むしろ韓国側の国益を損ねるとしていら立ちを隠せないようでした。とりわけ、嘘の歴史に基づく反日キャンペーンについては、北シンパの働きが大きく、それに簡単にマスコミ、また民衆が乗せられるという点を憂いていました。

 また、そうした嘘を世界にばらまくことは、将来必ずや韓国民に災いとして返ってくると心配していました。しかし、別に親日という訳でなく、現状の所では日本の力を借りるというか利用するしかないという現実的な考えが強いようです」


 天野のその言葉に、加藤外務大臣が驚いたように返す。

「それは珍しい人ですね。しかし、韓国人にも案外そういう人は多いのだけど、周りの人の反発が怖くて公には言えないという面はあるでしょうね。

 しかし、韓国にも知性を持った人はたくさんいるわけですから、知性があれば、金ユッケ氏のような意見になるはずです」


 そこで、熱心に聞いていた阿山首相が初めて口を開く。

「今のお話を聞いていて、大変安心しました。実のところ、韓国の今までのやり口には、はらわたが煮えくりかえるような思いを何度もしてきました。

 しかし、今回得られたミサイル防衛の力があっても、我が国はそれらのやり口に対して、腹立ちまぎれに韓国をわざわざ敵側に追いやる余裕はありません。今の天野さんのお話を聞くと、臨時政府とは我が国もそれなりに手を携えて行けるかなと希望を持てます。

 いずれにせよ、韓国からはミサイル防衛の求めがあるわけですから、今後お互いに協議を行う必要もあり、その中で相手の出方もはっきりわかるでしょう。

 また、北朝鮮にしても、今回の事態をだまって見ているとは思えません。この辺りを、今後とも官邸と防衛省は協力して北の問題を解決していく必要があります。北の総連関係では、今回の秋田を狙ったミサイルの関係もあって、少し強引に取り締まりをやりつつあるところです。

 今日は、本当にありがとうございました。今後、金ユッケ氏と交渉する際には、天野陸将補のお力を借りることも考えられます。その節はよろしくお願い致します」

 この首相の話を最後に、官邸での会合は終わった。


 韓国で、朴チョンサは友人のマヤラを含めた数人と、今度の政変について話をしている。

「白大統領をはじめ、大臣も軒なみ牢にいれられてしまったのよ。選挙で選ばれた政府を軍人が覆すなんて、クーデターよ。

 また、なんと彼らはソウルの日本大使館前とプサンの日本領事館前の少女像を乱暴に壊したのよ。そんなの許して良いの。またろうそく革命を起こすのよ。私たちの力で政府を倒すのよ!」

 チョンサは叫ぶが、冷ややかな視線が返るばかりである。仲の良いマヤラも彼女に賛成せず首を振っている。


 彼女の言葉に、クールなことで知られる男友達のミンジョンがいつものように冷静に言う。

「大統領が、あの白のままだったら、まず米軍は実際に出ていくだろうし、その直後には、すぐ我が韓国は北の核に脅されたということでその支配下に入るだろうな。

 白の政権は、そういう北の支配下に入りたい連中ばかりで、要は彼らは、自分たちもその体制の中の貴族になりたいと思っているわけだ。知っているか?北は彼らの建国の時に貢献した者達の血筋を極めて重要視していて、彼らがいわば貴族になっているんだ。

 そういう意味では、俺たち韓国に住んで者は北とそのような形で併合された場合には、最低中の最低の身分になるのだよ。まあ、昔の李氏朝鮮のヤンパンと平民との関係を続けているのが今の北だが、その下に俺たちが奴隷で入るわけだ。

 昔の李氏朝鮮のヤンパンは、平気で平民の財産を奪っていたけど、それを裁くことは実質的にまったくできなかったのだ。俺たちは、その平民からさらにいじめられる立場になるんだぞ。お前は、そういう道を選びたいのか?」


「ええ?だって李氏朝鮮の時代は問題もあったけれど、素晴らしい世界だったって。テレビでやっているわよ」チョンサは反論するが、鼻で笑われる。


「ばかだな、お前は。我が国のテレビドラマは全て嘘っぱちだ。大体、相当な地位の貴族以外は色のついた服は着ることは出来なかったんだ。その技術が無くて白のみの服、それも汚れて煮しめたような色のね。テレビの色とりどりのあれは全くの嘘っぱちだ」


 ミンジョンは言って、さらに冷静に続ける。

「今回は、金ユッケ将軍のクーデターしか、我々がその奴隷の奴隷になることを防ぐ方法は無かった。 まず間違いなく、将軍は米軍を引き留めることに成功するだろうよ。そして、日本に対してはすでに2015年の合意を実行したのだから、核ミサイルから守ってもらえるわけだ。日本は判らんが、アメリカとは金ユッケ将軍は示し合わせてのことだと俺は信じているよ」


 しかし、なおもチョンサは激高して叫ぶ。「じゃあ、少女像は。あの破壊は許していいの?」


 しかし、彼はなおも冷静に続ける。「少女像?日本軍に連行された慰安婦なんて嘘っぱちだ。みな親や親せきから売られた売春婦だよ。20万人いた?それも攫われた?朝鮮の男はそれを黙ってみていたのか?ころころ変わる、元慰安婦の証言などが何のあてになるか。みな、日本との離間を図る北の謀略だよ」


 この言葉にチョンサは切れた。「慰安婦のおばあさんを侮辱した!フジコ!フジコ!フジコ!」自分でも何を言っているか判らないが、叫びたてる。韓国人得意の火病である。暫くして、冷めてみると友人たちは誰もおらず、そこには自分一人が、口から泡を吹いてたたずんでいる。



 北朝鮮の独裁者の金傍訓は、随員の朴を伴って、将軍たちが待っている部屋の前で話すべきことをおさらいしていた。

 彼は、秘密警察「突撃隊」を掌握し、適度にいけにえを選び処刑することで軍幹部に恐怖させ、さらに彼が握る秘密資金により海外から買い付けたぜいたく品や、質の良い必需品を分け与えることで彼らの忠誠心を繋ぎとめていた。


 しかし、秘密資金については、アメリカ主導の制裁で資金源が次々に断たれ、加えてアメリカのCCCという機関からの献金が無くなり、急速に底をついてきている。従って、もはや新たなミサイル製造のための部品購入もできないというのが正直なところである。

 アメリカにも届くであろう最新型の火星8号は残り2基しかなく、だから先に日本に撃墜されたあのミサイルは是が非でも成功する必要があったのだ。


 彼も、今の自分の立場を取り巻く状況が極めて悪いことは解かっていた。彼の今の絶対者としての立場は、必要なポジションにあるものをおだてて、脅し、金や物で釣って、権力掌握に必要な者をあやつって確立したものであり、自分でもうまく立ち回ってきたと思っている。


 一方で、国の状態は農業政策の失敗から国民の8割以上は飢えて殆ど乞食同然の生活をしており、碌な産業はなく当然税収も極めて低いため、ミサイル開発製造の経費は、麻薬等の非合法品や武器の密輸出、クラッキングによる盗みで賄ってきている。

 精強な軍を謳ってみても、すでに車両、戦車、軍用機を動かす油は決定的に不足し、弾薬類も一会戦で尽きるレベルである。


 ソウルに届く大量の長距離砲やロケット砲により、ソウル市に大損害を与えることはできるであろうが、実質それしかできないのだ。それにしても、南の奴らの何と愚かなことか。国境線からあんなに近い位置に高層アパート群を作るとは、自分から人質になりに来ているようなものだ。


 実質、ソウル市の連中を人質に取ってきたため、我々は今まで非難されながらも核開発を続けて来られたのだ。数日前のアメリカ艦隊が日本海に入り込んできた時も、ソウルの人質があるから、アメリカからの実際の攻撃はないと踏んでいたのだ。

 ただ、一部の将軍は、火星8号が成功したら、アメリカ軍は実際に攻撃することを決心していると主張しているが、アメリカなど民主主義とかいう妙な主義を信奉している奴らが、数万、数十万の犠牲に耐えられる訳がない。


(この点は、彼の読み違いで、アメリカは火星8号の発射をもって空爆とミサイル攻撃を決心していた。そのため、すでにソウルの被害想定地区のアメリカ市民と日本人他の同盟国の連絡の着く者は、米軍の巨大な防空壕に避難することになっていた)


 しかしながら、ぎりぎりの生存に必要なものを除いて、殆どすべての資源を投入して営々と開発してきた核ミサイルが、あの日本の宣言と実証によって殆ど無用の長物と化してしまったのだ。

 無論、あの核ミサイルは中国とロシアには届くが、あの2国はアメリカや日本などという甘い相手ではないし、我が国よりはるかに整った核ミサイルシステムを持っている。

 こちらが核で脅すようなそぶりを見せたが最後、ためらいなく核ミサイルを撃ちこんでくるだろう。彼らには韓国の被害を考える必要はないのだ


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ