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EAC (Earth Athletic Competitions)5

読んで頂いてありがとうございます。

 翌日、ハヤトの総合格闘技の決勝トーナメントである。トーナメントに残った8人で準々決勝、準決勝、決勝を戦うことになる。


「さて、総合格闘技の決勝トーナメントの準々決勝3試合目です。優勝候補のハヤト選手と、西山太一選手の戦いです。昨年優勝して優勝候補の筆頭の城山健吾選手は、すでに勝って準決勝に駒を進めています。しかし、青山さん、城山選手の相手の村田選手が負傷しましたが、その結果が懸念されますね」


 アナウンサーの山路が、解説の(財)世界格闘技協会理事の青山正剛に話しかける。

「ええ、村田選手は有望な若手選手で、城山選手もかなり苦戦していましたね。ただ、現時点ではまだ実力には差がありますので、試合の最初の方での苦戦は多分に城山選手の油断だと思います。

 その手こずったことに城山選手は苛立っていましたので、最後の荒っぽい決め技に繋がったのだと思います。確かにこの総合格闘技は何でもありということで、ルールに反しない範囲の荒っぽい技も許されます。

 しかし、それだけに相手に後遺症が残る負傷をさせるような技は、格闘技を競うものとして避けるべきだと思うのです。城山選手は、その点で相手にすでに十分ダメージを与えた状態で、首筋への渾身の回転廻し蹴りですから、身体強化をしている選手でも重い後遺症が残る可能性があります。

 ただ、村田選手は流石にまともに食らうことはかろうじて避けていますので、後遺症が残るとは思いませんが。いずれにせよ、協会としては城山選手に警告を出したいと思っています」


 38歳の青山は、若いころから総合格闘技のスター選手であり、処方によって身体強化が行き渡り始めたころから、最強を目指して身体強化ありの総合格闘技に取り組んできた男で自ら道場を主宰している。元々プロとしてやってきているので、体は大事にする方であり、弟子、後輩にも体を傷めないように心を砕いてきた。


 その意味で、相手の負傷を防ぐことに全く気を使わないどころか、むしろ積極的には痛めつけようとする傾向のある城山を嫌っている。ただ、城山はすでに様々な試合で、数人の選手を再起不能にいるというその荒っぽい試合スタイルを嫌う者も多いが、一方で無責任な観衆はその荒っぽさをはやし立てている。


 だから、彼が加わっている、荒っぽさが売りもののワールド・ガチンコ・コンペティション(WGC)では、城山はスターとしてもてはやされている。

 アナウンサーは、青山を尊敬はしているが、城山の荒っぽさがそれなりに人気のあることを知っているので、青山に全面的に同調することはできないため和らかく反論して話を逸らす。


「はい、ただこの総合格闘技はある意味で荒っぼさが売りでもありますので、城山選手を一概には責められないのですよね。ところで、ハヤト選手は2年前の大会で城山選手も破って優勝しています。また、昨日の100m走決勝では、3位になって見事メダルを取っていますね。今回のハヤト選手の調子はいかがでしょうか?」


「ええ、2年前の試合は私も見ましたが、ハヤト選手は圧倒的でしたね。ただ、その頃に比べるとその試合を糧に選手たちも努力して大幅に実力は上がっていると思います。城山選手がその典型ですね。私もハヤト選手の今年の試合も見ました。その実力は落ちてはいませんでしたが、やはり他の選手の実力が上がっていますね。

 特に若手のホープと言われ始めた、角田誠選手が最終的には負けましたが、それなりに闘っています。次の試合でハヤト選手に当たる西村選手は、ベテランの域でその角田選手より実力は上と言われていますから、今度の試合はハヤト選手の楽勝とはいかないと思いますよ」


「そうですか。では今度の試合は注目ですね。さあ出てきました。両選手、試合場にあがります。伸長180cm、体重78kgのハヤト選手と、身長181㎝、体重82kgの西村選手ではあまり数値に差はないのですが、体つきは随分違いますね。西村選手の方が安定しているように見えます」

 アナウンサーが遠回しに言う通りで、早い話が腰の位置が違うのだ。ハヤトの方の足が長く腰の位置が高い。


「ええ、ハヤト選手はあの長い足から繰り出す蹴りが非常に早く強力です。さらに、突きというか、パンチも多彩で、絡んでも関節技が巧みです。あまり、危険な技は本人が封印しているようですが、ハヤト選手の使う技は、ラーナラで習った相手を壊す、あるいは殺す技だと言います」

 青山がアナウンサーの言葉に応じて言う。


「はい、私もその話は聞いたことがあります。どうなんでしょうか。そのラーナラ流の格闘技とこの日本で体系化された格闘技はどのように違うのでしょうか」


「はい、ハヤト氏がラーナラ流の格闘技を体系化して映像に残してくれています。その動きと技は、人間が使うものである以上はこの地球での技とそれほど大きくは違いません。

 ただ、ラーナラの技は身体強化を前提にしたものであるために、その大きな筋力と速さを有効に生かしたものになっています。

 だから、その点で言えば日本で発達した武術も西洋格闘技も身体強化に適応してものではなかったので、身体強化ありの試合であれば間違いなくラーナラ格闘技に劣っていました。

 しかし、ハヤト氏が体系化して映像で残してくれたおかげで、地球式の武術・格闘技の技をベースにラーナラ式も取り入れて、今では我々の使っている技はラーナラを凌いでいると思います」


「ほお、ということは、ラーナラ式の格闘技を身に着けているハヤト氏は不利だということですか?」


「いや、ハヤト氏は無論、改良された格闘技の技を知っていますよ。彼は、ラーナラ式ではすでに達人であったわけですから、その体系に地球式応用技をすでに取り入れています。だから、不利ということはありません。ただ、かなりの技が危険すぎるということで使えないというか、使わないようにしているという面では、不利とは言えるかもしれません」


「なるほど、ハヤト氏は魔法の処方を持ち込んだのみでなく、身体強化による総合格闘技を確立することにも大いに貢献しているのですね」


「そうです。その通りです。ハヤト氏は今36歳ですか。100m走の結果をみるように、身体強化の場合の年齢による衰えは多少遅いのですが、だんだん衰えてきていますので、いずれ近いうちに彼は一線級を退くでしょう。でも、彼が地球に持ち込んだ身体強化と魔法、そして総合格闘技へのラーナラ式の貢献は失われることはないですよ」


「そうですね。でも、処方による知力増強の効果はもっと影響が大きいですよね。結果、科学技術の大きな進歩と新地球への植民など我々人類の地平線は大きく広がりました。ハヤト氏の貢献は本当に大きいです」


「ははは、なるほどそうですね。社会にとってはそっちの方がはるかに大きいですね、だけど、私のような格闘技馬鹿はなかなかそっちに眼が行かないのです」


 このような会話で座がなごんだところで、審判が登場して試合が始まると見て、アナウンサーが実況を始める。

「さあ、試合が始まります。両選手、礼!西村選手、両手を挙げて吠えた!前傾して突っ込む、前蹴り!ハヤト選手軽く下がりますが、西村追って廻し蹴り!ハヤト、軽く斜めに避けます。さらに西村回転して廻し蹴り!ハヤト前に飛び込んで避けます。

 西村、低い姿勢のハヤトに上から蹴り込むが、ハヤト低い姿勢のまま横に避ける。西村突っ込み顔を狙って前蹴り、ハヤト後転して両手を床に突いて向き直る。早い、両者目まぐるしい動きだ。西村止まらない。さらに飛び込んで突き、あ!しかしハヤトそれを横に躱して、交叉した西村の脇腹に突き!

 西村飛ぶ!しかし立て直しましたが、苦しそうだ。ハヤト向き直った西村の首筋に廻し蹴りだ。入った!入りました。西村膝をついたが、苦しそうだ。あ!西村前に回転して浴びせ蹴りだが、避けられ、飛び込んだハヤトの蹴り足が横たわった仰向けの西村の顔の上で止まる!」


「止め!勝者背番号2!」審判が叫ぶ。


「審判が止めた、勝者ハヤト選手!いやあ、目まぐるしい攻防でしたね。僅か1分半で決着がつきました。やはり、ハヤト強い。どうでしょう青山さん、ハヤト選手まだまだ余裕がありそうでしたが」


「ええ、おっしゃる通り、ハヤト選手余裕がありましたね。と言うより、西村選手に余裕がなかったというべきでしょう。これはよく言われるのですが、ハヤト選手と相対すると気圧される選手が多いというのですよ。

 多分に個人差があるようですが、西村選手などはその影響を受けやすい一人なのでしょうね。

 それが攻め急ぎにつながったと、最後の回転蹴りなどはまず当たらない技です。ダメージもあったのでしょうが、破れかぶれという感じでしたね」


「ほお、気圧されるですか。というと、そのために相手は実力を出せないといことですか?」


「ええ、そういう面はありますが、西村選手の技そのものは切れていましたし、通常の中堅どころの相手ならまず決まっていたと思いますよ。その意味では、それを軽々と捌いたハヤト選手の実力は他より1歩、2歩抜けています。優勝候補筆頭には間違いないでしょう」


「なるほど、それからハヤト選手はいつも最初のうち受けに回って、自分からは攻め込みませんね。これはそういうスタイルということでしょうか?」


「ええ、そのようですね。私はそれを以前聞いてみたのですよ。その答えが、『折角こういう殺し合いでない試合をしているのだから、その中で相手のベストを知りたいのですよ』ということでしたね」


「ほお、そう言うと言うことは相手のどういう技でも受けきる自信があるということでしょうか?」


「いやいや、そういうことは考えていないと思いますよ。まあ、多分ハヤト選手にとっては、この大会などで試合に出ることは楽しみなのだと思います。

 他の選手と違って、彼にとってはこの大会で優勝しようがしまいが、大して彼の名声には影響はないでしょうし、大変な資産家と聞きますから、優勝者の5億円の賞金も余り意味はないと思います。だから、その試合に出てできるだけ楽しみたいのだと思いますね。

 その楽しむ手段が、相手の様々な技を受けて捌くということなのだと思います。その過程で受け損ねて負けても、別段どうということはないということでしょう。まあ、そう言うと余裕があるということなのでしょうが」


 解説の青山は苦笑して言うが、実際彼はハヤトがこのような大会に出場する意図については、単に楽しみのためだろうと思っていた。確かに優勝者には2億〜7億円の賞金は出るが、金銭には淡白というハヤトが、その立場で出場して優勝しても余り意味はないはずだ。


 最初は主催者から頼まれて、人寄せパンダ役でしようがなく出場したのであろうが、今の試合の様子を見ても楽しんでいることがありありとわかる。その意味では、彼を格闘技の世界に身を置いた一人として羨ましく思っていた。自分は、生活のためにも、その生きてきた証を立てるためにも勝つために必死であった。


 だから、若いころには相手のことを思いやることなどできずに、あの城山のように荒っぽい技も使い、相手が傷ついてもそれほどの思いはなかった。しかし、考えてみればハヤト選手は異世界のラーナラで魔族と殺しあいを勝ちぬいてきた存在である。

 だから、その過程は自分たちが通ってきた道などよりはるかに過酷なものであっただろう。その結果として、このような大会を楽しむ余裕があるということなのだろう。


 ハヤトは、控室でトレーナーの山県のマッサージを受けている。

「ハヤトさん、前の試合程度ではあまり疲労するほどのことはなかったですね」


 彼の上腕を揉みほぐしながら言う山県に、ハヤトが今行われている試合の画面を見ながら応じる。

「うん、時間は短かったけど、見かけほど余裕があったわけではないよ、紙一重の差だな。2年前とは全体的にレベルが上がったね。まあ、西村君が俺の雰囲気に気圧されるタイプなんで、少し余裕があったな」


「確かに若手で、ハヤトさん気圧されるタイプとそうでないタイプとありますよね。でも、ハヤトさんのあの“威圧”は使うと試合になりませんね。あれは無意識に出るという面はないのですか?」


 ハヤトに威圧を試しにかけてもらったことにある山県がハヤトに聞く。

「ははは、無意識に出るようだと、この種の試合には出ることはできないよ。あれは、魔力をむき出しにして相手の魔力に働きかけるものだから思い切り意識しないとできないよ」


「なるほど、ところで次の林清吾選手ですが、19歳のニュージェネレーションというやつで、身体強化の使い方が体系化された中で育った世代です。身体強化の状態に慣れ切っていますから、体の使い方が上手くて、技も多彩です。また特徴は速さで、ハヤトさんより早いですが、打撃はその分軽いです」


「うん、俺もビデオでは見たよ。あのタイプは、こちらの動きを最小限にして、捌きに徹すれば最終的に若いだけに破綻するだろうね」


 伸長178cm体重75kgの林との戦いは、息も継がず攻め立てる林の攻撃を徹底的に捌いて5分、さすがに息切れしてきたところに蹴りのカウンターで迎えうって叩き落とし、綺麗に後頭部を刈って首尾よく勝ちを収めた。


 一方の城山は、ハヤトが見ている前で相手の攻撃を徹底したカウンターで迎え打って、まともに攻撃をさせず相手がよろよろになったところを、正面からの前蹴りで相手の顎を蹴り上げて破壊して病院に送りにしている。その上で、仕切り線で勝ち名乗りを受けた後、観客席のハヤトの前に来てその顔を睨んで無言で指さす。


 ハヤトは、まだ試合の余韻が覚めず血走っている目で睨む城山の顔を見て、思わず吹き出してしまった。城山は顔をみるみる赤くして怒り狂い怒鳴る。


「なんだこの野郎!何がおかしい」その言葉にハヤト何も考えず返してしまった。


「い、いやー。若いな!ってね」


「この野郎!」城山は試合場を駆けおりようとするが、「一番、止めろ」と身体強化した審判に抱き留められる。

 それから、中年のその審判はハヤトをキッとみて「ハヤト選手、挑発しない!」言う。

「はい、済みません」ハヤトはぺこりと頭を下げて、横の裕子から頭をこつんと叩かれる。


日本の大借金の問題、米中対立、韓国・北朝鮮の問題を解決する物語を始めました。

よろしかったら読んでください。 https://ncode.syosetu.com/n4788fq/

今現在の熱い問題の私なりの解を書いています。

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