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地球の情勢2

読んで頂いてありがとうございます。

前の話のサブタイトルを地球の情勢1とします。

アメリカと真面目に闘う因子が見つかりませんでした。

 ハヤトが帰って来た金曜日、Nカンパニ―社長の父誠司、専業主婦の母涼子、Nカンパニーで国内営業部門に勤めている妻裕子が利根市、二宮家の居間で話をしている。息子の健太郎6歳は小学校に、娘の幸4歳は幼稚園に行っており今はいない。


「そういうことでね、ほら、ここを打ち抜かれて、こんな風に背中に抜けたんだよ。まあ、電磁銃だから、余りに速度が大きすぎて綺麗に抜けたから、傷口は大きくなかったから却って助かったよ。普通の銃だったら、抜けた方の傷口はひどいことになっただろう」


 ハヤトが、スポーツシャツを大きくまくり上げて傷口を見せるが、魔法で繕ったそのあとは大きくなく余り目立たない。それに対して家族はどのように反応して良いのか解らず無言であるが、裕子は顔をしかめている。


「まあ、もっとも普通の銃だったら、盾になってくれた山路君の防弾着で弾は止まっているけれどね」ハヤトは家族の反応をあまり気にせず続けて言って、「ハハハ」と笑う。


「でも、その山路さんも気の毒よね。折角盾になって頂いたのに、関係なく突き抜けてしまうなんて」裕子が言うのにハヤトが真面目な顔で言う。


「うん、本人もしょげていたけどね。まあ、でも彼も僕も助かって良かったよ。普通は、肺やら心臓を打ち抜かれたらアウトだよね。だけど、僕を治療してくれた田所先生など魔法を使える医師がいれば、とりあえず血を止めて組織を修復するので大体は助かる。傷口も小さくて綺麗だろう?」


「ああ、そうだな。ちょっと見には分からない程度だ。いずれにせよ助かってよかったよ。まあ、我々が聞いたのはすでに助かったという知らせと共にだったから、心配することもなかったけれどね」父の誠司が言うが、母の涼子が続ける。


「だから、いくら何でもサーダルタ帝国などの少し前まで戦争していた国で、まだ国交も正式に無い国に行くのは無茶よ。どう考えても、ハヤトは敵NO.1でしょう?」


「ああ、危ないとは思ってはいたんだけどね。だけど、マナが濃いサーダルタ帝国だったら、魔法が十全に使えるから、いざというときはジャンプで逃げればいいやと思っていたからね。実際にそうだっただろう?」


「ええ、そうですけど。控えめではありましたが、日本の政府の人から苦情を言われましたよ。もうすこし家族が真剣に止めてくれればとね」


 裕子が真剣な顔をして言うのに、ハヤトも真面目な顔をして返す。

「うん、まあ。危ないところには近づかないように『努力』はするよ」


 都合が悪くなったハヤトは、話題を変えようとして聞く。

「ところで、アメリカは相変わらずいろんな嫌味をやってきているようだけど。あんまりうちのアメリカ興行には影響はないようだね」


 Nカンパニーの主要な営業内容の一つは、30人ほど抱えているパフォーマーが身体強化している状態で嘗てのサーカスのような様々な演技を見せる興行だ。これは、日本以外では身体強化ができるものは極めて少ないので、年間の7割程度は海外での興行になる。


 これらのパフォーマーは通常に人間で不可能な演技をするのに魅せられた人々で、言ってみればトレーニングジャンキ―のなれの果てである。

 その演技は、個人、3〜5人あるいは10人以上のもので、長年の訓練で研ぎ澄まされたもので、それぞれに素晴らしくどこに行っても非常に人気がある。だから、この興行はNカンパニーの収益の半分以上を占めている。


 ハヤトの問いに、社長である父が答える。

「うん、メジェル大統領は今や日本を目の敵で何でもありだけど、幸いうちの興行には殆ど影響はない。元々アメリカの人々はスポーツ好き、お祭り好きだし。アメリカでは、どこかの国と違って政府が言っても意に介しない人は多いからね。それに、一般に人々から日本人に対して悪意を向けられることは殆どないようだね。

 それでも政府からは、一方的な関税の引き上げ、日本からの輸入品への通関の故意の引き延ばし、どうも大統領支持者のようだが日本製品へのあの手この手の製品欠陥への訴訟、それから日本人の入国滞在条件の厳密化、特に駐在の人たちへの締め付けがひどいようだね。

 しかし、輸出額は当初すこし落ちたようだけど、いまでは昨年に比べ殆ど減ってはいない。裁判沙汰もどう見ても無理筋なので、アメリカの司法はどこかの国と違って政府に支配はされていないので、まあ負けることはないだろう。また、日本人への差別的な扱いは国際的な非難を浴びており、アメリカに敵対的な国が真似をしてアメリカ人に同じ扱いをするようになった。

 日本政府は、全てに対して抗議はしているが、大きな実害は生じていないので、対抗措置は取ってはいない。アメリカへの非難には、日本のマスコミもそうだけど、東アジアの2つの国を除いて歩調を合わせているから、国際的な論戦の中でアメリカは大幅に不利だね。

 前だったら、日本のマスコミの半分くらいは政府のやることには必ずケチをつけたものだけど、今や知力増強によって賢くなった読者に合わせなくてはならないからね。まあ、記者自身も知力増強を受けていることもあるだろうけど、日本のマスコミの左ががっているという会社も十数年前と違って、理性的というか理に適っていれば、盲目的に政府の反対に立つことはなくなった。

 また、日本の影響力は嘗ての比ではないし、欧州の影響は相対的に落ちてきてきるけれど、中国から独立した国々を含めたアジア、アフリカ、それに中南米の存在感はどんどん増しているから、アメリカはいわゆる国際社会ではそれほど大きな存在ではなくなっている。その中で、日本への数々の措置は国際的な非難を読んでいる。

 まあ、そんなこともあってメジュル大統領の支持率は30%以下だな。これはアメリカの大統領としては異例の低さだから、1年後の選挙の再選はないだろうと見られているよ」


 父の言葉にハヤトが応じる。

「とは言っても、30%のアメリカ人は自国の覇権が脅かされるのを面白くないと思っている訳だね」


「ええ、殆ど白人層のようだけど、そう思っているようね。相変わらずアメリカのGDPは世界一である点は変わらないけど、すでに圧倒的存在ではなくなったわ。今は世界のGDPの一割以下で、日本がその半分というところだけど、すでにスーパーパワーではなくなったことは事実だわね。

 あの国は相変わらず貧富の差は激しくて、治安も悪い。スーパーパワーの源泉たる軍事力も、重力エンジンの普及でこれまで蓄えてきた軍備が完全に陳腐化した結果、日本にも勝てないレベルだし、なにより地球同盟軍がすでにすべてに優越する軍事パワーを持っているわ」


 裕子がここで口を挟むと、今度は母の涼子が言う。

「だけど、ロシアもそうだけど、アメリカはまだ核ミサイルを持っているわよ。迎撃をシステムがあっても、あれは遠くから撃つ場合には対処できても近くだと対応できないでしょう?」


「うーん。核は人間同士の争いで使うには威力がありすぎて、残虐すぎる兵器なんだね。だから、たとえ戦争状態になっても使ったらその国または組織は、世界中から袋たたきにされてもう終わりだね。まして、経済的な争いで使ったら、その指導者は少なくとも死刑だな。なにか地球政府の正式発足時には、地球上のすべての核兵器を廃絶するという話もあるけれど?」


 母に答える形の父誠司の話にハヤトが答える。

「うん、そうだよ。2年後に予定されている地球政府発足時には、核兵器は全て回収して解体することになっている。実のところ核爆弾のあるところは、小型核でも今では1㎞程度の距離だと検知できるようになっているから、隠しようがなくなる。

 無論、以前の原子力発電所の反応炉も検知するけど、今は核物質を使った反応炉は必要ないからね。ただ、アメリカの現政権にロシアは反対しているけれど、まあ、いざとなれば強制的に没収だ。もっとも、メジェル大統領の来季の目は殆どないから、アメリカに関しては平和的に行くのじゃないかな」


「ところで、ロシアはどうして反対なのかな?それに、中国も持っていたけれど、反対はしていないの?」母の質問に地球同盟の議員であるハヤトが答える。


「うん、ロシアは日本に北方領土を返した結果、サハリンとシベリアの開発で少し経済は持ち直しているけれど、その経済力は台湾より低い。人口は台湾の2,500万に対して1億5千万ほどもあるのにね。その割に国際的な影響力が強かったのは、アメリカに数では劣らない核戦力があったからなんだ。それに、軍事力はGDPの割に高いことも事実だね。

 しかし、軍事力を保つためには経済力が必要だし、兵器というものはどんどん陳腐化していくから、どんどん更新していく必要がある。その意味では、核は元から過剰な破壊力があるので、陳腐化の程度は低いもののその運搬手段についてはどんどん劣化していく。

 さらに、核爆弾は濃縮した核分裂物質だから原子炉の中と同様に熱を出すんだよね。だから、核爆弾を作った瞬間からずっと冷却する必要があるように、結局ただ置いておくわけにはいかないのだよね。だから、ロシアの核及び核ミサイルのどれほどが実際に使えるか怪しいというのが一般的な見方だ。

 とは言え、通常兵器で国際水準に負けないように装備の更新しながら、多数の兵員を抱えるより、核兵器を持ち続ける方がどちらかというと安上がりだね。だから、ロシアは『大国』でいるためには、核体系を持ち続けたいというのが本音だろう。

 彼らが維持しているというミサイルシステムが、実際に機能するかどうかは解らないけれど、『ある』という以上機能すると考えざるを得ないからね。

 ちなみに、ロシアはソビエト連邦の時代、1970〜80代は結構な先進国だった。しかし、どんどんその国力は落ちてきて、今や一人当たりではいわゆる先進国の数分の一のGDPだ。これは、結局人間の能力をうまく使えていないということなんだと思う。

 ソ連が良かった時代は、その人々が意欲を持って生き生きと働いていたんだな。しかし、官僚に支配された国で硬直した人間関係とシステムの中で、ノルマを課せられて『働かされて』いるうちに意欲を失っていったんだ。

 それに、上位下達の共産主義では折角の人材がいても有効に使えない。ソ連式の会議では一番地位の高い者しか喋らないし、何かするにも箸が転んだまで上の許可が要る。

 そんなところの下の者は、上の言うことを聞くだけの存在になる。だから面白くないから帰ってウオッカを飲む、ということだね。ベトナムも頑なに共産主義を守っているけれど、経済は失速しているよね。あれは、共産主義の毒が回って来たんだね。

 この辺のことは、はっきり研究成果として出ている。まだ公表していないけれど、地球政府になった時にはこのことは明らかにして、現在のロシア、ベトナム、北京中国などの制度は叩き壊すことになるだろう」


「ふーん、なるほど。つまり制度を叩き壊す際に、核兵器も廃絶しちゃうわけね。ところで、北京中国について、核兵器はどの程度残ったの?」今度は裕子が聞き、ハヤトが答える。


「ああ、分裂時に北京政府が回収はできなかったから、そのテリトリーに残った基地のみが残った結果になった。それで、5つあった発射基地の内2つが残った。また、原発は4基が残ったから、プルトニウムを抽出は続けているようだね。数は少ないけれど、こっちも方針はロシアと一緒だ」


「ところで、イスラエルも核ミサイルを持っているだろう?あれはどうなるのかな。またパレスチナ問題はどう始末をつけるのかな?」今度は誠司が聞く。


「うん、イスラエルは核を手放すことに否やはない。ただ、無論地球同盟からのイスラエルの存在の保証を求めている。それさえあれば、今やっているように、ハリネズミみたいに周囲を警戒しなくても地球同盟軍から守ってもらえるからね。ただ、イスラエルの土地は2千年前に自分たちが住んでいたということで、バレスチナ人から奪ったものなんだよね。

 とは言っても、ユダヤの人々も歴史的にひどく迫害されてきた人々であることは間違いないし、今更どこかに行けとも言えない。だから、ほぼ決着しかけているのは、西岸地区の入植地は全てパレスチナに返すこと、さらに聖地エレサレムはパレスチナと分け合うことだね。

 そうなると、イルラエルの人々の生活圏が狭くなるので、新地球にまとまった入植地を与えることにしているし、パレスチナの人々にも同様の斡旋をしている。まあ、これはイスラエル対パレスチナのみでなく、世界中あちこちの民族紛争地で新地球への入植を促しているから、血で血を洗うようなことはなくなっていくと思う」


「うーん、そうね。結局そのような争いは突き詰めると土地の争いだからねえ。そういう意味では、新地球を得たことは大きいわね。地球人類が、いっぺんに地球をもう一つ貰ったようなものだから」 ハヤトの言葉に裕子が応じる。


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