地球の情勢1
読んで頂いてありがとうございます。
今回解説回になってしまいました。
済みません、サブタイトルを変更します。
2031年1月、ハヤトは久しぶりに帰ってきた利根市の自宅でくつろいでいる。父誠司、母涼子と妻の裕子に彼女との間にできた息子の健太郎6歳と、娘の幸4歳と共に久しぶりの一家団欒である。ハヤトには浅井みどりとの間に娘の美和8歳がいるが、美和は母親のマンションに一緒に住んでいて、今日は来ていない。
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浅井みどりは、いわゆるシングルマザーになるが、彼女のようなケースは多数派ではないが今では珍しくはない。これは、近年では女性の生活力が上がってきたうえに、魔法の処方のお陰で男女の能力差がますます無くなることで、生活を男性に頼る必要がなくなったことが大きい。
このため、結婚しない女性が増えて、さらに離婚率もますます高まる方向にある。そして、子供が欲しい独身の女性は好きな男に種を貰って自分で育てるというケースが大変多い。こうした女性は一人暮らしの場合も多いが、仲のよい女友達同時で、または活力のある自分の母と共同生活をするケースが増えてきている。
今や処方によって活力の上がった高齢者は、70歳台の後半まで元気で多くが働いている。そして寿命が近くなると急速に衰えて長く患うこともなくその一生を終えるのだ。
このように、女性達は気の合う仲間同士で、互いに協力しながら子育てもするのであるが、彼女らがこのように結婚を選ばなくなり、その生活を続けなくなると、男も配偶者がいない場合が多くなる。しかし、男の場合は共同生活を続ける場合には自分の親に限るようで男の友人同士というケースは少ない。
ちなみに、このような様々な形態の家族がいる訳であるが、現在の日本では望むものは職が見つかるので皆が何らかの形で働いている場合が多い。その際に問題になるのは家事であるが、これについては現在ではすで家事ロボットが実用化されて、車程度の価格で買えるのだ。
このロボットは、それぞれ買われた家で名前を付けられて、5LDK程度の広さで8人程度の住民までは掃除・洗濯・食事の準備をほぼ完ぺきにやってのける。
ただ、この家事ロボットは、基本的には歩行型ではないために買い物など外回りは無理であるので、屋内専用である。だから、買い物は人間が自分ですることになる。このロボットの走行(歩行)は、車輪によっており玄関の段差程度の昇降はできるが連続した段差である階段は歩行できない。
形はあたかもロングスカートをはいた女性のようであり、上半身は腕も顔もあって人間に近い。手は、親指と指2本の合計3本で人間と同様な作業が可能である。
現在、日本においてはこの家事ロボットは、2千万台以上が使われており毎年5百万台増えているとされる。むろんこのように便利なものが世界に広がらない訳はなく、かつての先進国のみならず、アジア・アフリカ・中南米にもどんどん広がっている。
元々、このロボットは最初に処方を受けて知力増強の恩恵を受けた日本において、自動車と電気のメーカーが先鞭をつけたもので、その後これら3社のメーカーは自社の製品に様々な改良を重ねてきて、1社は世界のトップ、他の2社もベスト10に入るなど最大の競争力を持っている。
この家事ロボットの上半身は、腕・指も含めて柔らかい樹脂製であり、人間の皮膚に近い感触になっているし、顔は表情こそないが異様に見せないために人間の顔に近い形になっている。だから、日本では各家庭でそれぞれに名前を付けて可愛がっているようだが、そのような現象は日本以外には見られないという。
ただ、子供についてはロボットにほぼ全面的に子育てをさせる場合には1歳までと、1歳以降3歳までは専用の子育てロボットが必要である。とりわけ、生まれてから1歳までのものは繊細な状況把握と動きが必要なために高度な技術が必要であり、当然値段も高く通常の家庭では買うのは難しい。
しかし、使う期間も長くはないわけであるので、メーカーも最初からリースを前提での乳児用、幼児用の子育てロボットを世に出したのだ。このリース料は、そのような施設に預けるのに比べるとその金額はむしろ安く、優秀なキャリアの女性には大うけしている。
乳児用のロボットは家事ロボットに似て二足歩行はできないが、幼児用のロボットは歩き回り、走り回る幼児に付き合うために二足歩行が可能で多少は走れるものになっている。
これらのロボットの出現も一因となって、出生率が上がったことは事実であり、現在では2.0に近づいている。やはり、少なくとも女性は可能なら自分の子供が欲しいものが多いのだ。
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話が逸れたが、浅井みどりは学生時代からの友人である県のキャリア官僚の2人の子持ちの女性と一緒に暮らしている。その名前は西野淳子で、浅井と同じ45歳で、小学生の女の子と男の子がいる。みどりとハヤトの子の美和が小学校3年生であるが三千人という男の子が同級生だ。
彼らの住居は、千葉市のマンションで2つの2DKの部屋を繋いだもので、近年は共同生活の広がりと共にこうした形のマンションのフラットが増えている。
むろん、“しおん”と名付けた家事ロボットは持っており、帰りが遅くなりがちの母親がいなくても、同じ年頃の3人がいれば子供は寂しくはない。
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日本では、基本的に子供が学齢に達すると処方を受けさせる。無論その時点で魔力を測定して記録し、それをを伸ばすための指導が行われて、3カ月ごとに学校で魔力が測定される。魔力を伸ばす方法は体に魔力を巡らせ滑らかに巡るようにすることでスムーズにそれを操ることと、出来るだけ使うことで大体18歳までは継続的に伸びる。
魔力の強さと知力増強の結果には強い相関があるが、処方が完全にできれば通常元の状態から1.3〜1.4倍にあがる。これを処方による知力増強のベース状態とすると、魔力の強いものはさらにその1.2倍程度まで上がることが確かめられている。
つまり、先天的に魔力の強い日本人と台湾人は、知能について高い伸びが期待できるのだが、魔力が最も小さい白人種は補助機器を用いて処方は可能であるが、その効果はベース状態に留まるのだ。
現在社会においては知能が伸びることは、極めて大きいメリットであって、それは万人が等しく認めている。その意味では、日本人の地球人類中における優位性は明らかであるが、必ずしも知性のみがその社会の技術力や効率性を決める訳ではない。
少なくとも、魔法の処方が知られ使われるようになる前でも、地球人類は少なくとも技術レベルではそれなりの高度さに達し、社会の面でもいわゆる野蛮さは脱していたのだ。その人類の知力、これは知能と知的なスタミナと解釈されているが、それが3割〜5割伸びた場合にどういうことが起きるのか?
実際には、社会的な面では大きくは変わっていない。基本的に人は働かないと食えない構造は変わらないし、いきなり能力が上がったからといって、給料がどっと上がるわけもない。しかし、人々が処方によって『賢く』なった影響は時間を経つにつれて大きく深くなっていく。
人々が最初に自覚するのは、物事の把握が早く正確でかつ深くなるということだ。つまり、かつてであれば相手の要求を飲みこみ理解して、その対応策を考えるのに1日かかったものが、僅か1時間足らずでできてしまう場合も多くある。この点は、少なくとも日本では現在OA機器が魔力で操れるようになっている点が大きくプラスに寄与している。
これは以前であれば、文章や図など他に伝わるように表現する手段としては、指でタイピングする必要があって、これは知力増強・身体強化によってもあまり早くならない。しかし、魔力でOA機器を操る場合には思考の速度にのみ、その表現のための文章や図その他の作製早さが制限されるのだ。
だから、魔法の処方が広がって魔力によって操られるOA機器が運用され始めてから、日本の人々がある要求に対して答える速度は概ね3倍と言われている。そして、その答えの質も日本の場合には知力において1.5倍になったという人々が作っているものだから当然ずっと上がっている。
しかし、残念ながらそうした知力増強と魔力で使えるOA機器の恩恵に与かれる分野ばかりではない。当然のことながら、工場のラインで製品を組み立てているような人々は殆どその恩恵はない。また、現場で組み立てなどの作業をやっている人々は、身体強化の恩恵はあっても、全体としての効率の上昇はさほどのことはない。
日本以外の例えば白人国において、どうであったかというと、実のところは日本とそれほど仕事の効率そのものにはそれほど差はない。これは例えば、100が140になるのと160になるのとどれほどの差があるかといえば、それほどでもないという結果になったに過ぎないからである。
白人たちは、魔力で操るOA機器が知力増強を有効に生かすのに有用であるとなると、それほど時を置くことなく魔力の増幅装置とそれで動く機器を開発して実用化した。だから、オフィスでの業務効率は白人国もそれほど、日本とそん色はないのだ。
しかし、毎月のように日本から出される様々な改良した製品、また仕事や、家事、身の回りの様々なことに関する改良は完全に他の世界を圧倒している。この点は、他と協力し、係るのを厭わない日本人の特性とさらにやはり知力増強の度合いの差が効いていると分析されている。
また、日本においては処方の効果が出にくい部分は、早めにそのことが明らかになって放置できないということになった。放置すれば、生産性の劣る部門で働く人々は低い収入で暮らすことになるからであるが、その解決策は比較的容易である。これは、人がその手や肉体でこなす仕事の機械化、自動化を進まればよいのだが、すでにそれに必要なテクノロジーは存在するのだ。
ただ、未だに自動化されずに残っている分野の機械化は、コストの面でそれほど容易ではない。ほとんどの場合に動きが複雑、かつ多種多様であるため、勢いその構造も複雑でその設備は高コストにならざるを得ないのだ。
例えば建設現場の作業員の仕事を考えればわかるが、その仕事は場合によっては延々と杭を打つなど、単調な仕事を繰り返すこともあるが、日々の仕事は非常にバラエティに富んでいる。結局、この場合は人間と同じ仕事ができる人型ロボットが必要になるのだ。
このレベルのロボットも、現在の技術であればできるが、頑丈に作る必要がある点から、先述した乳児の子育てロボットも2倍程度の値段になる。それでも、継続的に上がっている人件費を考えれば、最終的にはペイすることは確かであるが、こうした自動化は労働力の過剰を招くこともこれまた確かである。
つまり、工場のライン労働者、建設現場の作業員の仕事を自動化してその必要性を無くした場合に、その人々はどこで働くかということだ。この点は、現状ではこうした自動化のためのロボットを含めた設備及び工場等の建設のための職が数多く生みだされており、問題は深刻化していない。しかし、近い将来に抜本的な手を打つ必要はあり、その点は政府で揉んであるところである。
ところで、日本において最も生産性の低い部門というと農林水産業であったが、しかしこの部門ではすでに大きな改善があって、その生産性は大きく改善されている。これは、その一人当たりの生産量が大きく改善されたのと同時に、相対的に農産物・魚産物の価格が上昇してきた結果、1人当たりの生産額は大きく伸びたのである。
一人当たりの生産量の増加は、なんといってもアフリカ東岸の日本自治区の存在が大きい。多くの農業従事者やその後継者が日本の自分の農地を手放して、自治区に渡った結果、日本における農業が一気に大規模化したのだ。それに加えて、知力増強にともなうバイオ技術の進展で、国内の農業の生産性はアメリカやオーストラリアの大規模農場に劣らなくなった。
約500万人の日本人のが移り住んだアフリカ東部の自治区の農場は、無論最初から大規模でありバイオ技術の成果も当然駆使しているので、生産性は大規模化を果たした日本本土以上である。
また、この自治区では海岸線で大規模な養殖漁業を行って、日本人の好みの魚や甲殻類などを多量に出荷している。こうしたことから、日本は自治区を含めれば、カロリーベースでほぼ自給を達成している。
農林水産物の価格上昇は、要は途上国の人件費が上昇してきたことによるものである。これは、生産性を上昇させて全体を豊かにする計画が地球連盟の下で進められているが、その一環で、ある程度は人為的に途上国の人件費を上げているのだ。効率が低い途上国の農林水産物の価格が先進国に比べて低いのは、基本的に安い労働力を前提での話であったのだ。
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また話が大きく逸れたが、浅井みどりとハヤトとの娘の美和に同居している友人の西野淳子の子2人の合計3人が近所の小学校に通っている。6・3・3制の小学校から高校までの日本での学校制度は変わっていないが、その中身は大きく変わっている。
なにしろ、児童、生徒の知能そのものがかつての5割近く上がっているので、初等教育においては以前の教育の中身はそれほど変わっていないとしてもその進度は大幅に早くなっている。ただ、処方は学齢になってから受けさせるので、小学校に上がると同時に知力増強が起きることになるため、入学初期の1ヵ月半年程度はその状態に慣れさせるための授業になっている。
その後はどんどん授業を進めていって、ほぼ小学校6年で中学の内容をまでを更に細かく詳しく教えることになる。一般に、中学校までの授業の内容をきちんと頭にいれておけば、社会人として常識は概ね十分である。だから、処方後の日本の中学1年生は、ほぼ落ちこぼれもなく過去の中学までの学業を完了させているので、かつての社会人としての常識はわきまわていると言えるだろう。
しかし、情緒面でどうかと言えば無論未熟ではあるが、大体過去の中学卒業位という研究がある。だから、今の小学校の卒業生は、大体過去の中学卒業生程度ということになり、一応社会に出てもやっていけるレベルなのである。だから、小学校3年生のハヤトの娘の美和は、すでに世の中のいろんなことを知っていることもあって、その態度も大人びている。