表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
167/180

ハヤトに迫る危機3

お読み頂きありがとうございます

 やがて、ハヤトと2年連続チャンピオンのガーズライ・ダナーイル試合開始の合図がされる。その時点では彼らはお互いに距離は50mほど離れている小山の上に立っている状態である。


 その瞬間、ブン!という音と共に、はっきり見える巨大な風の刃がハヤトを撫で切ろうと襲ってくる。「ほい!」ハヤトは掛け声とともに、あっさりそれを跳ね上げ、そのままの勢いでそれを念動力で掴んで上方に大きなカーブを描いて出発点に戻そうとする。


 無論、風の刃そのものはダナーイルにより形成されているので、彼が魔力を抜けば霧散する。実際はその通りで、途中で風の刃は霧散して消えてしまった。だからハヤトの魔法は、相手を攻撃するというより只の嫌がらせである。それを悟って、憤然として自分を見るダナーイルにハヤトがニヤリと笑いかける。


 それに対して、3つの直径が1mほどもある火の玉がハヤトとダナーイルの中間付近に出現して、ボッと音を立てて飛んでくる。ダナーイルが、他の出場者とは一線を画すのは、黄白色で輪郭のはっきりした高温の火の玉と高速で走るスピードである。しかしハヤトの反撃方法は変わらない。魔法を物理的な現象に昇華する以上は、魔法によって生み出された力で操作可能であるのだ。


 力で軌道を上方にそらし、それを操ろうとしたところ、今度はハヤトの頭上高く再度火の玉が2つ現れ、高速でハヤト目掛けて振ってくる。流石にハヤトも最初の3つの火の玉を操っている余裕はなく、ほぼ鉛直に降ってくる新たな火の玉の軌道を逸らし地上に叩きつける。グワンと地上に落ちた火の玉に、数瞬気を取られている間に、今度は先ほどの火の玉が後ろ斜めから降ってくる。


 なかなか手強い。ハヤトは方針を変えて、体にしっかりバリヤーを巡らした状態で、相手の頭上から風のハンマーを叩きつけようとする。その魔法が完成する前に、ハヤトのバリヤーに一つの火の玉がまともに命中して、2つは掠める状態で当るが、目論見通り一瞬熱は感じたもののバリヤーは火の玉を中和する。


 これらの火の玉は、元々質量が無いに等しいものを念動力で推進している形なので、命中のショックは小さく、地面に魔法で固定しているハヤトの体は殆ど揺れない。ハヤトがその火の玉の命中・消去を意識する間もなく、彼が大きな力を乗せた風のハンマーが相手の体にたたきつけられる。


 ダナーイルは、当初はそれを自らのバリヤーで十分防げると思ったようだが、それに乗っている力に気づいて、準備していた魔法を放り出して急きょ逃げる。空間魔法のジャンプだ。


 相手が消え、さらに離れた小山に出現するのを検知して、ハヤトは『空間魔法か!流石に手強いな』思いつつ、ハンマーを消去して自分も距離20mほどの直近の小山にジャンプする。ダナーイルは、ハヤトの出現を検知して、空間収納から槍を取り出して、念動力を乗せて投げつける。


 目にもとまらぬ速さで迫る槍を、ハヤトは同じく空間収納からとりだした刀、微塵で魔力を乗せて打ち払う。ダナーイルは、次には同じく3本の槍を取り出してすぐさま投げつける。


 魔法選手権においては基本的に何でもありで、空間収納が使えるものはその中のものは使用可能だ。しかし、観客に危険が及ぶようなものである、物理的な爆発物、毒物などの劇物の使用は禁止されている。一方、ジャンプで会場外に出ることは禁止されているが、これは会場の外に出ると観客が見ることができなくなるので面白くないからである。


 ハヤトは、魔力を乗せて微塵で3本の槍をまとめて跳ね飛ばすと、巡らせているアラームが警告を送ってくる。後方だ!後ろ上方から3本の槍が降ってくるのを検知して、念動力で引きずり落とすとともに、相手目掛けてジャンプして地上3mから微塵で切りかかる。


 しかし、相手は消えてしまう。またジャンプだ。早い!出現したのを感知すると、15mほど離れた窪地にいる。相手目掛けてジャンプしようとすると、足元から土の槍が伸びあがってくるので、その伸びあがりに合わせてハヤトも上昇し、その勢いのまま微塵を構えて相手に飛び掛かる。


 しかし、相手はまた消え、今度は100mほど離れた小山の上に現れる。これではきりがない。ハヤトは、とっさに近くの小山から取った土砂をまとめて相手の頭上に転移させてばらまく。ジャンプは近距離でもハヤトでさえ5秒ほどの時間を置かないと次のものはできないので、相手も似たようなものだと思っての実行である。


 相手は、頭上にぶちまけられた10㎥ほどの土砂にスクリーンで対処した。だから、その体が直接埋まることはないが、スクリーンごとに深さ2.5mほどの土砂の山に埋まってしまった。ハヤトはさらに、土砂を硬化させて相手の動きを封じる。はたして、数秒してダナーイルは待ち構えているその地点に出現した。しかし、彼も得物をもっており、ハヤトの打ち込みを跳ね返して見せた。


 ダナーイルが出現したのは、閉じ込められていた地点にジャンプする前にいた場所である。彼が土中で閉じ込められ視界を失った状態では、ジャンプできるのは自分が良く認識している地点のみである。その意味では、試合開始時にいた地点も可能性としてはあるが、ハヤトは記憶に新しい地点の可能性が高いと考えたのだ。


 ダナーイルの獲物は金属の棒であるが、直径が3cm、長さは2mほどもある棒を打ち合わせた音響からすれば、内部は中空のようだ。しかし、魔力を込めた木刀と打ち合っても、全く打ち負けしていないところを見ると同様に魔力を込めているのだろう。


 また、ダナーイルは棒術の達人のようだ。棒の中央付近を持って自由自在にその棒を振り回して、ハヤトの斬撃を防ぎ、また攻撃してくる。また、その攻撃は棒の端を持ってのものもあるので、場合によっては長さ2mにもなるのだ。


 逆に言えば、日本刀のように使い方に制限があるものは、動きの種類も少ないために極めるのも容易という面があるが、棒術の場合には持つ位置や撃つ位置は様々に変化するので、動きも柔軟でそれこそ無限に考えられる。


 だから、その術を極めるのは困難であるが、ダナーイルは十分に高度に使いこなしている。そして、相手の棒は仮に微塵をつかっても破壊は困難であろうと思う。ハヤトは、この打ち合いで勝てる要素なないと見切って、今度は自分から逃げた。


 幸い相手は、探査魔法においてはやや劣るようだから、ハヤトのジャンプの後は見つけるのに少し時間を要するだろう。だからその間に次の魔法の準備をするのだ。今後魔法で攻めたてるのは彼の番だ。


 ハヤトは、かつてラーナラにおいての魔族との戦いの中で、刀術において勝てない相手は魔王を始めとしてそれなりにいた。しかし、刀術で勝てない場合には魔法で勝ては良いのだ。ラーナラにおいては、人間も魔族も自然科学の知識が欠けており、魔法についてもそのためにハヤトがそれらの現象を利用するほどには使えない場合が多かった。


 だから、ラ―ナラにおいては、ハヤトは魔法の競い合いでは優位に立てる場合が多かったが、サーダルタ帝国人に対してはその点では優位に立つのは難しいだろう。ただ、サーダルタ帝国人よりハヤトの方が魔力は大きいようだ。だから、ハヤトは力で押し切るという方針で行こうと思っている。


 逃げたハヤトは、相手が探し出した時に、極力相手に近い位置で火のファイヤーボールを出して、相手に向けて全速で放つ。この火の玉は直径こそ0.5m余であるが、青みかかって白熱しているしろもので、その高速飛行においても殆ど揺らがないほど、かっちりした作りであった。


 ダナーイルは一目見てそのやばさを感じ取り、迎撃の素振りも見せずにジャンプして消えた。しかし、所詮限られた空間の試合場から逃げられないという制限から、ハヤトは出現の瞬間に転移した位置を探りとって、すぐに火の玉を向かわせる。すぐにはジャンプできないダナーイルは、対抗して直径3mほどもある水の塊を現出させる。


 多分その水は空間収納に入れておいたのだろう。それは場内の池のような濁りはなく、清澄な水玉であるが、それを火の玉にぶつける。その結果、直径50cmで温度1万度弱の火の玉に直径3mの水玉が激突する。


 それは、質量としての衝突の衝撃はないが、熱量において激烈な衝撃が生じた。具体的には1㎥ほどの水が爆発的に水蒸気にかわったのだが、生じたのは水蒸気爆発であり、ほぼ試合場の中心でドーンという爆発音とともに、直径30m程度の範囲でもくもくと水蒸気が立ち込めた。


 その爆発エネルギーも、火の玉を吹き消すまでは至らなかったが、大半のエネルギーを失った結果、火の玉は赤く輪郭も揺れるという弱々しいものになった。ダナーイルは水蒸気爆発の衝撃で、吹き飛ばされたが特にけがもなく元気に起き上がり、弱った火の玉を処分する。


 しかし、無論ハヤトの攻撃はそれで終わりではなく、相手の上空に直径30cmほどのごつごつした岩塊の集まりを10㎥ほども出現させて重力魔法で加速して落とす。いまだ転移のできないダナーイルは、必死に念動力を駆使して横っ飛びに逃げる。


 ズズズーンと20トンもの岩が2Gで落下した衝撃が会場全体を揺らすが、さらに落下した岩の半分ほどが消えたとおもったら、またダナーイルの頭上に出現して落下し始める。空間魔法には、未だ解明されていない謎が多くある。自分を含めた物体をジャンプさせる場合には、連続にはできないが、自分以外の物体を転移させるのは連続でも可能という点はその謎の一つである。


 このハヤトの攻撃に対して、ダナーイルは可能になったジャンプで逃げるが、今度はおおむね会場の中心にいるハヤトに対して、会場の端のドームの基部に現れる。ハヤトは再度落下した岩を再度持ち上げて塊にしていたが、ダナーイルの位置をつかんだ途端にまた頭上に岩群を出現させて重力を増して落下させる。


 ダナーイルは尚もくじけず必死で岩群の下から逃げ出すが、岩群が少なくなっているので動きは鈍くなっているものの辛うじて無事に横に逃げる。ハヤトはまた岩群を頭上に持って行こうとしたが、ダナーイルが魔法も乗せた全力で駆け寄っているのを見て、思い直して迎え撃つことにした。


 ハヤトは微塵を構え、ダナーイルは例の棒を持っている。

「イヤー!」全力で駆け寄ってきたダナーイルは、叫んで棒の端を握ってハヤト目掛け槍のように突いてきた。それは目にも止まらない早く鋭い技であったが、ハヤトはするりと体を回転させて、微塵を構え目の前に突き出された棒を「エイ!」という気合と共に切りつける。


 魔力の全力を込めた振りは、見事に棒の半ばを切り落とす。それを見たダナーイルが茫然と動きを止めるや、ハヤトは微塵の刃先を彼の喉元に突きつける。

「参った」強敵であった前チャンピオンは、棒を取り落として静かに言ってハヤトの前で頭を垂れる。


 公爵シンガ・ミダ・キルマールンは、史上最強と言われた前チャンピオンのダナーイルが頭を垂れている様子を、貴賓室の大スクリーンと、100mほど離れた遠目で確かめていた。


 公爵も最初はどちらかが勝つかは判断がつかなかったが、ダナーイルが彼のシンバ術(棒術)がハヤトの剣に勝るのを見て、『勝った』と思ったものだ。しかし、見たことのない高温の火の玉の攻撃、さらにその後の岩を多量に相手に重力を増して加速して落とすという、単純であるが強力なハヤトの魔法を見てダナーイルが劣勢であることを認めざるを得なかった。


 しかし、最後になってハヤトがシンバ(棒)を持ったダナーイルを迎え打とうとしているのを見て再度望みが出て来たと思ったのだ。結果としてハヤトがシンバを切断してしまったのを画面で確認して、周りの人々と同様に彼も茫然とした。あのシンバは刃物で切断できるような代物ではないのだ。


 要は今日の結果から言えることは、地球を代表して戦ったハヤトという戦士は、個人としてサーダルタ帝国の誰よりも戦いにおいて強いということを証明した結果になった。


 帝国皇帝イビラカカン・マサマ・サーダルタも、キルマールン公爵と同じ貴賓席から試合を見ていた。ハヤトにこの選手権に出場することを薦めたのは彼自身であり、その時点ではまさかハヤトが優勝することになるとは思わなかった。それは、言ってみれば貴人としての気まぐれに近いものであったが、結果は聊か苦いものになった。


 ただその慰めは、ハヤトが地球を代表していると言っても、彼の存在は地球人の中で突出しており、彼に近い者すらいないという点だ。ハヤトを除けば、地球人には今日の決勝トーナメントはおろか、そもそもこの競技場に出場して予選を戦えるものすらいないのだ。


 皇帝は、様々な会議を主宰しているし、重要な報告書には目を通しているので、ハヤトの軍事的な価値を良く知っていた。そして、彼の存在無くば、そもそもサーダルタ帝国が地球と現在のような対等に近い形で和を結ぶこともなかったことも知っていた。だから皇帝も『ハヤトを除ければ』という点を再度真面目に考えた。


 貴賓室を出たキルマールン公爵の元に、ある男がやって来た。

「公爵閣下、あのハヤトというものはなかなか手強いですな」男の言葉に公爵も頷く。

「ああ、手強い。個人としては最強だな」

「ただ、人は戦いの中で死ぬのみではないですからね」男は言った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ