隣国からの挑発4
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地球同盟本部は、朝鮮共和国の治安出動に“GO”を出した。
それを受けて、同盟軍の日本基地では正午に作戦部長の水田大佐の示唆した戦力に加えて、大統領府を解放するための陸戦隊を送り込むための準備に入っている。この前に、韓国政府は早朝の午前6時に声明を発し、午前6時半には朝鮮共和国、7時には日本政府、さらに8時には地球同盟からの声明が発せられた。
韓国政府からは、首相のムン・サイユウがテレビ画面に出演して発表しているが、無論記者の質問などもなく一方的なものである。
「私は韓国首相のムン・サイユウです。私は韓国政府を代表して、わが朝鮮半島の北を占める朝鮮共和国を我が国の戦闘機によって制圧下に置いたことを発表します。さらに、北朝鮮の大統領府を制圧下においたことは、我が大統領補佐官などからすでに発表した通りであります。
この私のいる朝鮮半島は、半万年の昔から我々朝鮮民族のものであり、それは幾多の中国や日本からの侵略や占領を経ても変わることはありません。その意味では、過去70年以上にわたる南の韓国と北の国、つまり北朝鮮の分断は明らかに非正常なものであります。
その点は、今の共和国政府の前の朝鮮民主主義人民共和国とも完全に一致していました。そこでわが韓国は、現在の朝鮮共和国に統一の準備に入るべく何度も申し入れをしてきましたが、いずれも拒否されました。
客観的な事実として、多少改善されたとは言え、まだまだ北朝鮮は貧しい国であり、一人当たりのGDPは我が国の3分の1程度であります。そして、それのみでなく、我が国は長く外に向けて窓を開き世界の人々と深く交流してきた結果、極めて進んだ文化と社会制度及び科学技術を持っています。
その意味で、わが韓国とその国民達は長く国を閉ざしてきた北朝鮮の人々を教え導き、豊かにして短い時間で近代国家の一員にすることができます。従って統一によって、どちらが得をするかは、北朝鮮の人々であることは明らかであります。
我が国は、当面北朝鮮を統治してその支配権をもつキム一族の正当な後継者であるキム・シャウン氏より統一の同意を得ています。具体的な手続きとしては、当面シャウン氏に一旦この国の指導者の席について頂き、その後統一の契約を行うことになります。
確かに、我が国は今回の行動で戦力を使ったことは事実でありますが、これは日本など諸外国によって分断されていたわれわれ同じ民族が、再び合同するための必要な行動であり侵略には当たりません。この点は地球同盟に対して、治安出動などをしないように、わが韓国政府より明確に警告しておきます。
そして、日本政府に要求します。日本政府は直ちに平壌にある日本大使館にかくまっている前の大統領リと首相のカクを解放しなさい。日本政府が自主的にそれをしない場合には、我が国は日本大使館を攻撃することも検討せざるを得ません。
さて、世界の皆さん。異世界に向き合うようになった中で、わが地球も本来あるべき姿に修正していく必要があります。その一つを今般我が韓国政府が決断して実行したのです。
さて、韓国・北朝鮮の我が同胞たちよ。いまや我が半島は再び一つになる時が来たのです。今よりずっと豊かになり、国際社会のみならず異世界に対しても胸を張って生きていける、栄光ある時代が始まったのです」
その後、北朝鮮のリ大統領が平壌の日本大使館から世界と自国民に向けて声明を出している。
「世界の皆さん、私は民主的で公平な選挙で選ばれたこの朝鮮共和国の第2代大統領のリ・チャシンであります。わが朝鮮共和国は昨晩、韓国軍の侵略を受けて、防衛に当たったわが軍の戦闘機と攻撃機の多くが破壊されて54名の軍人が戦死、122人が負傷しております。
更には、韓国軍はここ平壌の大統領府を占拠しようとして攻撃した結果、上空からの攻撃もあって激しく抵抗した我が警備兵も敗れ、大統領府は韓国軍の現在は占領下にあります。そして、この攻防によるわが警備隊の犠牲は今のところ判っているだけでも、死者が12名に重傷者が8名生じているようです。
しかし、このような韓国に侵略性は、アメリカ合衆国からの重力エンジン戦闘機の大量販売以来顕著になっていましたので、脱出準備を整えていた私と首相のカクを含めた数名は現在日本大使館に避難しています。
自国において、このように友好国の大使館に逃げ込むなどは大変な屈辱でありますが、わが共和国の国民の皆さんは安心してください。いまは、地球同盟があります。力の強いものがその我を通せる時代ではないのです。このような状態は速やかに解消され。韓国のこの暴挙は厳しく罰せられるでしょう」
リは画面を見つめて一旦言葉を切り、再度激しく話し始める。
「私は朝鮮共和国の大統領として、韓国政府に今回の暴挙を深甚なる怒りをもって抗議します。貴国は、過去4回統一の動きを始めるべくわが政府に呼びかけてきました。そして、その理由として貴国の一人当たりのGDPの数字が3倍以上であること、社会、経済、科学技術において大きく先駆けていることなどを挙げてきました。
そして、その中では我が国とその国民は、韓国とその国民にから教え導かれる存在として扱われてきています。それは、露骨な差別感に満ちたものであります。
確かに我が国は長く実質的に国を閉ざしてきましたし、国民に対して偏った教育をしてきています。しかし、世界でも類を見ない悪辣な独裁者であったキム・ボウクンを除き、その一族を追放してからは、世界水準で見て十分開かれた国になり、民主的な政治を行ってきたと自負しています。また教育も、最新の知識をもとに公平で先進的なものであると思っています。
私と我が国の政府の構成する者達は、あなた方韓国を決して見習うべき国とはとらえていません。大体において、他国に対して公式文書のなかで、『あなた方は遅れているから、私達が教え導いてやる』などと書いてくる国とその国民が優れていると誰が思うでしょう。
確かに韓国は全体としては我が国よりはるかに豊かです。しかし、それは平均であって、多数を占める平均以下の人々はむしろ貧しい我が国の国民よりさらに虐げられた、貧しい生活をしていると思っています。
その上に、過去においてこの共和国の地から、その過酷な政治状況から逃れた多くが、“脱北者”として韓国で受けて来た差別とそれによる屈辱は、統一したらどうなるかを如実に示しています。
間違いなく、わが国民は2等市民として位置づけられ、差別の中で暮らしていくことになります。そしてそのことは、わが国民もよく理解しており、明確に韓国との統一には拒否感を示しています。
そして、あなた方の我が国への統一の誘いは、貴国の経済が停滞する中で、我が国がそれなりに成長のカーブを描き始めたこと、さらには日本国との良好な関係にあると疑っております。貴韓国は長く世界でも類を見ないレベルで隣国日本に対して、強烈な反日活動を続けてきました。その実態を日本の人々に知られたこと、さらに嘘の歴史で固めた隣国への数々の非難と、それに基づく侮辱行為は比較的穏健な日本世論を完全に敵に回してしまいました。
あなた方はその結果として、現在の数々の画期的な新発明の発信国である日本から事実上の技術封鎖にあっています。私もこの実態は必ずしも公平なものと思いませんし、妥当とも思っていません。しかし、貴国とその国民による日本に対する数々の言動は、日本のこの一種の行動も無理はないと思わせるに十分です。
一方で我が国は、初代大統領のアン氏が日本人とのハーフということもあって、最も親日的な国の一つでありますし、新体制の出直しさらに現在に至るまでの多くのものを日本に負っています。私達が日本大使館に避難したのもその一つの現れです。ですから、貴韓国政府の狙いは、日本からの技術封鎖のために年々国力を落としているこの状態を打破するためと解釈しています。
さて、このようにわが政府と国民は韓国との統一を望んでいません。この状態で同じ民族の統一が妥当であるという理念、さらに世界を敵に回した最悪の独裁者あったキム・ボウクンの息子にこの国の支配権があるという笑うしかない理屈が、韓国のこの侵略の理由なのです。
こうして我が国に軍事侵略をした韓国の行為は、地球同盟の軍事侵略の禁止に明確に違反すると確信しています。従いまして、数時間前にも申しましたが、私は朝鮮共和国とその国民を代表して、地球同盟に対して即時の治安出動を要請します」
このリ大統領の声明は、日本は無論ほとんどの国々とその国民の共感を得ている。
次は日本政府の声明である。早朝にも関わらず、宗方官房長官から今回の事態に対する日本政府の方針の発表があった。
「ええ、記者の皆さんはすでに韓国と朝鮮共和国の発表・声明でご存知だとは思います。
昨夜、韓国軍が重力エンジン戦闘機、アメリカ名スターダスト、韓国名閃光により朝鮮共和国の平壌近郊の北山基地と順川市基地を攻撃し、我が国から貸与している“しでん”30機の内の22機、“らいでん”4機すべてが破壊されました。その戦闘で、韓国軍の閃光も10機前後撃墜された模様です。
共和国軍の生き残った8機の“しでん”は、我が国の小松基地に避難しております。さて、その攻撃が始まった直後、今度は共和国の大統領府が攻撃され、空中からの攻撃もあって守り切れないとみたリ大統領及びカク首相と随員が日本大使館に避難しています。
なお、その日本大使館はこうしたことも想定されていましたので、朝鮮共和国の協力のもとに大幅に防御を強化しています。だから、通常考えられる攻撃に対しては十分な防御力を持っていると思っています。
さて、韓国の今回の朝鮮共和国への侵略について我が国の立場を述べておきます。今回の韓国の軍事行動は明らかに侵略であり、我が国としてこれを看過することはできません。従いまして、先ほどの韓国首相のムン・サイユウ氏の要求である、朝鮮共和国大統領及び首相などの一行の韓国への引き渡し要求は明確に拒否します。
さらに当該大使館に対しての軍事行動などがもしなされた場合には、これは日本国への軍事侵略とみなし、我が国の法に基づいて適正に防衛行動を取ります。
これらの点は、間もなく韓国大使館に対して我が国からの正式文章によって通告します。
さらに、我が国は地球連盟の一員として、また同共和国の友好国として朝鮮共和国大統領のリ氏の地球同盟への要求が妥当であることを認めます。そしてその要請の通り、韓国の軍事侵略に対する朝鮮共和国への治安出動の要請を行うものです。この点はすでに、地球同盟及び同盟軍に対しての正式な要請を電文で送っております」
宗方が話を切るや、韓国の韓国日報の記者が顔を真っ赤にして手を挙げるが、宗方はその記者を指名することなく話を続ける。
「ええと、地球連盟への要請ですが、間もなく地球連盟総裁の本件に対する談話があるということです。午後にもこの記者会見は開きますので、関連の質問はそれを待って頂きたいと思います」
しかし、韓国日報の記者は立ち上がって叫ぶ。
「我が国を侵略した日本が、我が国の当然の行動を侵略というのか!」それに同調して韓国人の記者数名が立ち上がって叫ぶ。
「そうだ。歴史を見ればそんなことは言えないはずだ」
しかし、宗方は全く相手にせずに横目でそれを見たが知らん顔をして引き上げていく。興奮した韓国人の記者が机の間の通路に躍り出て、官房長官を追おうとするが、色の浅黒いスリランカの記者から足を掛けられてばったり倒れる。
その記者は顔を真っ赤にして、立ち上がりその記者に殴りかかろうとするが、周りの記者が詰め寄ってきて「いい加減にしろ!記者が暴力を振るうのか?」イギリスの記者から英語で言われる。
そして、周りの冷たい視線を見て怯み「け!日本の犬どもが!」捨てせりふを吐いて韓国人の記者仲間と共に去って行く。
地球連盟総裁アラン・ジスカール(アメリカ国籍)の声明は、アメリカへの非難で始まった。
「すでに、皆さんが知っているように、韓国軍がその政府の承認の下で隣国の朝鮮共和国への侵略を実施しました。それは、2つの空軍基地と大統領府への重力エンジン機、及び地上軍による攻撃を含むものであったために、現在わかっている限りでは朝鮮共和国側に60人以上、韓国軍側に20人以上の戦死者が生じています。
この原因は、単に日本国への嫌がらせのみのために、韓国に200機もの戦闘機を売りつけたアメリカ合衆国の現政府にあります。確かに侵略を決意したのは韓国政府であり、その原因も統一をしたいという要望と日本国への嫌がらせの2つが混ざったものでしょう。
しかしながら、アメリカが韓国へ戦闘機を売らなければ、韓国側に動機はあっても、重力エンジン機を30機以上保有していた、朝鮮共和国に韓国が勝てる見込みはなかったので、この侵攻は起こらなかったのは確かでしょう。
だから、私は地球上の紛争を止めることも大きなその役割と認識している地球連盟の長として、正当な理由なくこのような紛争の種をまいたアメリカ合衆国を非難します。ちなみに私は残念ながら、アメリカ合衆国の国民であり、このような非難をしなければならないのを大変に悲しく思っています。
さて、韓国は先ほどの政府としての声明で、いくつかの理由を挙げて自らの行動を正当化しています。しかし、民族が一緒であれば統一は当然ということ、さらに先の体制の指導者であったキム・ボウクンの子息に国の支配権があるなどという点は、いずれも正当なものとは認められません。
現代の朝鮮共和国の政体は、当初は武力革命によるものではありますが、後に国際的な監視団の下で民主的な選挙によって選ばれていますので、いかなる基準で見ても正当なものであります。
従って、韓国の行動はまさに軍事侵略そのものであることを認めます。それに基づいて、わが地球連盟はその総裁である私の名をもって、朝鮮共和国、リ大統領の要請を受け入れます。またこれは、隣国である日本の要請によるものでもあります。
本日ただいま、朝鮮共和国、韓国、日本などの時間帯で午前9時30分をもって、地球連盟は、地球連盟軍に対して朝鮮共和国への治安出動を命じます。この目的は同地区における争いを、必要とあれば武力を行使して停止させ、交戦に至った状況の厳密な把握を行います。
その報告に基づいて、地球連盟は連盟法に基づいて責任者の告発を行います。さしあたっては、韓国政府に対しては、その軍を引きあげさせさらに大統領府の占領を解くことを命じます。いずれにせよ、今日中には朝鮮半島はわが連盟軍の制空権下に置きますので、それに軍事的に挑戦する者は武力で制圧します。
私のこの声明に逆らう行動を行うものは、軍事的に反撃制圧して、地球法廷における裁きを受けさせることになります」
このジスカール総裁の声明は誤解の余地はなかった。さらに韓国政府は、日本の岩国基地で大規模な出動の準備がなされているのを報道で知り、すぐさま自軍の戦闘機と大統領府の要員を引きあげさせた。