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日本とアメリカの対立1

読んで頂いてありがとうございます。

「ふむ、ではアメリカは実際に関税を上げるということだね?」大泉首相の言葉に、岸山外務大臣が冷静に答える。

「はい、お手元にある工業製品のほぼ4割、さらに、食料品や雑貨などです」すでに、影響についてはシミュレーションが済んでいて、影響は軽微という結論になっているので、担当としては気が軽いのだ。


 アメリカ側も流石に自国に必須の製品や工業原料については、国内からの余りの反発の強さに耐えられず引っ込めており、結局5.5兆円の製品を対象にすることになっている。しかし日本製品は、現状では魔法の処方初期の様々な改良によるアドバンテージで今のところ圧倒的な競争力を持っており、25%程度の値上げで輸出が大きく減るとは思えないという市場関係者の読みである。


 さらに、アメリカのどう見ても不当な関税を引き上げる措置に対して、日本は現状では特に対抗措置は考えておらず、影響がでてから措置を考えると宣言している。この宣言には国内では反発とかなりの議論があって、対抗措置として食料、特に小麦の関税引き上げと言う意見もあった。


 穀物に関しては、アメリカは現代においても大生産地であるが、実のところアメリカの穀物生産は曲がり角に来ている。主として中西部の広大な平野に作られた大規模な農場において、小麦やトウモロコシのかなりの部分を地下水が水源とした灌漑を行って生産し、それをミシシッピ川流域の運河網で海岸の輸出港まで持ってくることで、競争力のある穀物を輸出できている。


 しかし、以前から指摘されていたように、極めて長期的に貯留されていた地下水を過剰に汲み上げた結果、水源が枯渇してきた農場が多く出た。さらには、どんどん進んでいる重力エンジン機による運搬手段が一般化してくると、必ずしも内陸の運河網による運搬が安くはなくなっている。


 更には、AE発電による電力料の大幅なダウン、さらに日本発の水処理膜の劇的な進化によって、灌漑が過去には考えられないほどに容易に、かつコストが低くなってきた。そうなると、以前は不毛の地が農業の適した土地になってくるのだ。


 例えば内陸の塩分過多の土地でも、その原因が不十分な灌漑水量であった場合も多く、十分な灌漑を行えば農地として蘇る。さらには完全な乾燥地帯では無理としても、ステップ気候の草原など、それなりの養分のある土地に灌漑を行うことで、十分農地や牧草地として使える。地球同盟はそのための大規模な投資を現在行っており、その成果は次々に上がっている。


 その意味では、先進国であるために人件費が高く、比較的コスト高にならざるを得ないアメリカ合衆国の穀物の競争力が失われるのはやむを得ないことである。


 一方で、日本の場合を言えば、そのいわゆる飛び地であるアフリカ東部の日本自治区(いまは『亜州領』と呼ばれる)があって、そこは元々食力自給が出来ず安全保障上脆弱であるとされる、日本の弱点を解消するための日本領である。自治区という名前でスタートしたここは、すでに日本が外交、防衛、警察、課税など自治国として必要な権利を全て持っている。


 しかし、土地の提供を受けたモザンビーク・ジンバブエ・マラウィから100名の亜州領議員の内、それぞれ10、10、5名受け入れている。さらに、逆にその3国の国会にそれぞれ2人づつの議員を出しているし、日本にも衆議院5人、参議院2人を出している。従って、極めて変則的な自治形態であると言えよう。


 最初は、まさにこの亜州領は自治領であったが、そこに5百万を越える日本人が住み、彼らの手でアフリカの人々の魔法の処方を積極的に行った。その結果、アフリカの人々の処方は比較的早く進んだのだ。さらにその自治区では日本人の2倍を超える多くのアフリカの人々を雇用し、世界でも最高レベルの大学を設立してアフリカ中から学生を受け入れた。


 さらには、亜州領周辺の国々の豊かな地下資源を活用して、製鉄を始め様々な精錬工場が立地して、それに伴ってアフリカの需要を満たすためにも機械・電気・電子の産業も立地することになった。その結果として亜州領は、アフリカ全土で最も進んだ地域になってしまった。


 加えて、サーダルタ帝国侵攻時に日本が中心になって、アフリカ全体の国と共同して防衛部隊を結成したことが決め手になった。これらのことで、この領の防衛権と外交権が認められ、さらには国としての必要なすべての権利が認められるようになったのだ。


 亜州領は、現在進められている世界各地の灌漑システムの建設を先取りする形で、ザンビア川等の水を活用して、モザンビーク・ジンバブエ・マラウイにまたがる大規模な灌漑システムを構築して、極めて大規模な農場を整備した。


 その農場で、日本の需要に対して穀物について言えばコメはほぼ半分、トウモロコシは全量、小麦は30%程度であるが収穫している。亜州領の作物は、日本にとっては輸入扱いにはなっていないので、日本の自給率は今や、カロリーベースでも80%を上回っている。


 ちなみに、この場合の日本本土の農業については、すでにハヤトが帰ったきた2018年には、その小規模であることによるコスト高と担い手の老齢化によって存続が危ぶまれていた。そこに、全国民への魔法の処方とその結果の知力増強による産業革命によっての経済の高度成長が起き、さらには亜州領の開発の話が持ち上がったのだ。


 とりわけ農地に近いところに育った人々には農業には関心を持つ者も多く、亜州領の農民の募集は基本的には農業一家の出身であることを大きな条件にした結果、殆どの移住者が農業に携わる人々の一族の出身となった。


 農民募集の代替として、日本の農地は半ば強制的に大規模化・機械化を進めて、専業で十分農業で食える規模とした。日本に残った農業は、コメなどの穀物の生産はいわゆるブランド化した一部の限定的なものになり、野菜・果物など換金性の高いものが中心で十分な利益が出るようになっている。畜産についても、やはり大規模化・ブランド化して残しており、これもまたそれなりの利益を上げられるようになってきている。


 ちなみに、先述の灌漑システムの整備によって、今後20年程度の地球上の食料の供給にほぼ不安はないとされている。また、食料以上に枯渇が心配されていたのは上水源であるが、これの灌漑の水源と同様にエネルギー単価の劇的な低下と先に述べた膜技術の急激な改善で、近い将来には全く問題はないと言われるようになった。


 現状の技術水準であれば、10数年前に千円〜2千円/㎥と言われた海水の淡水化も1/10以下の単価になっているので、最悪は海水の淡水化をしても上水は賄えるのだ。


 このようなことから、人類の未来を暗く考える論は殆ど見られなくなった。これは、先述のような水とそれに関連する食料の供給量の増大に加えて、ハヤトによって行われた資源探査の結果にもよるものである。ハヤトの探査によって見つかった資源は、ほぼあらゆる鉱物資源について、最低でも2倍、資源によっては10倍以上残存資源量が増えた結果になった。


 この中には石油・石炭等の化石燃料も含まれ、これらはAE発電法の開発によってその燃料としての価値は大きく減じたが高分子原料としての価値は、全く失われていない。


 このように、地球の資源の有限性に着目した、かつて有名であったローマクラブの成長の限界という予言は、今や説得力を失った観がある。だが、資源量が増えたとは言っても地球の資源が有限であることは間違いないので、人口が指数関数的に伸びていった場合には成長の限界はあるということになる。


 また近年において問題になったのは、地球の温暖化であるが、この原因の大部分は、人の主として産業活動によって二酸化炭素に代表される温暖化効果ガスが、大気中に多量に排出された結果である。この点の解決策は、原子力発電であると言われたが、そのために使われる核分裂反応を用いた原子炉は、多量に発生する放射能廃棄物の放射能を減らす、または消滅させて処理する手段がない点で不完全なシステムであった。


 AE発電も原子力発電の一種であるが、核融合反応を放射能の発生なしに実現しており、発電の大部分をこの方法によることで、現在の計算によれば、地球上の二酸化炭素の濃度はあと20年で減少に転ずるとされている。


 その間、現在すでに顕在化している気候変動は続くわけであるが、重力エンジンによる力の場を用いて暴風雨の目あるいは中心を散らすことで、その勢力を減ずることのできる“気象庁方式”がすでに実用化されている。

 その気象庁方式の操作のできる、ストームブレーカー号はすでに1号から5号の5隻建造されて世界各地に配置されているので、今後暴風雨による、人々への大きな被害は防がれることになる。


 また、ここに明るい要素として考えることができるのは、異世界の存在である。とりわけ、新地球の開発ができるようになったことは、新しい地球が人類に与えられたに等しい。資源という意味では、先述のようにまだ余裕があると言っても、人々がひしめき合って暮らしている地球上の多くの地域においては、狭いという閉塞感が強かったのだ。


 一方、宇宙の彼方には人が住める星、世界が多くあるという認識はあってもそこにたどり着くことは無理であると人々は思っていた。しかし、そこには地球から数日〜数十日で行けるところに多くの異世界がある。しかも、そのうちのいくつかは知的生物が住んでおらず、それを地球が入手できた。


 この情報が広がり、人々が異世界のいくつかの映像とそこに住む人々のことをメディアを通して知ることで、人々に大いに解放感が広がったのだ。それはあたかも、大航海時代、人々が知らない大陸や島に思いを馳せたのと同様な感情であったかもしれない。



 話が逸れたが、アメリカに対する食料の関税の引き上げは、結局今でも大きくないアメリカからの食料輸入の息の根を止めることになりかねず、余りに相手の反感を掻き立てることになるということで採用されなかった。


 それより確実に大きなインパクトを与える方法は、アメリカにとって必須の工業材料や製品を差し止めることであるが、これもまた影響が大きすぎるとして採用されなかったのだ。


「それで、今のところの読みでは、余りアメリカへの輸出は減らないだろうということだが?」首相の言葉に経産大臣の岸が答えた。


「ええ、日本が輸出するものは嗜好性の強いものでして、どちらかというと収入が高い層が購入するもので、25%程度の値上げでは余り売れる量は変わらないだろうという読みです。それでもまず2兆円程度は減る可能性は高いですね」


「ふーん、2兆円か。大きくはないな。たしか、異世界のマダンとジムカクがAE発電所とバッテリー工場を買いたいということでもうすぐ契約だったな?」大泉首相が聞くのに岸が答える。


「ええ、5年契約で合計4兆円を超えます。また、この両世界にはその他の完成品の輸出品が目白押しで商社が飛び回っています。それだけでなく、新地球にも住民が入るということで、巨額の製品が輸出されます。これらの影響を考えると、単年度で3兆円以上の増になってアメリカの輸出減の影響は相殺できるかと」


 その言葉に加えて、岸山外務大臣が付けくわえる。

「ご存知のようにリーマン国務長官が辞任しましたし、国務省の大部分の幹部は今言ったようなことは知っておりメジェル大統領に反対しています」


「しかし、このままアメリカが関税の引き上げを発表して、殆ど影響がないことを知ったメジェル大統領は怒り狂うだろう。その場合に彼の打つ手はなにかあるかな?」大泉の言葉に岸山が応じる。


「外交的には、どちらかと言え、大統領の過激な言葉で信用を失い始めているアメリカに我が国に対して打てる手は限られているでしょう。ただ、我が国のそばには我が国に不利になることだったら、喜んでやる国がありますからね」


「ううむ。韓国と北京政府か。だけど彼らがやれることは知れているだろう?」首相の言葉に加山防衛大臣が答える。


「首相、北京政府はなるほど距離もありますし、やれることは知れています。しかし、韓国は重力エンジン機をどこから手にいれたのか、一応5機持っていますし、なにしろ距離が近いです。問題はアメリカと組むとすれば核爆弾が問題です」


「核!核は使えんだろう。いくら何でも核を使ったら世界で生きてはいけないぞ」今度は岸が言うが、大泉は顔をしかめて言う。


「うーん。政府として実際は使わんだろうし、使えんよ。しかし、脅しには使えるし、隣国だと必ずしもミサイルでなくとも良い。持ち込みもありうる。そして、アメリカは知らん顔だ」


「しかし、韓国が核を持っているというのは不自然です。今日本と対立している状態で、アメリカが渡したことが極めて疑わしいというのは誰しも思います」岸の言葉に大泉が尚も言う。


「とは言え証拠はない。証拠がなければ突っぱねるのが国際政治の常だ。しかし、それは関税引き上げで我が国が全く痛手を負わなかったときのことだ。今から準備はせんだろう。ただ、我が国としても韓国と北京政府に対しては警戒を強める必要があるな」


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