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ハヤト、サーダルタ帝国に乗り込む3

読んで頂いてありがとうございます。

 ハヤトは帝国魔法学校に来ている。

 地球、特に魔力の強い者が多い日本では、最近の10年間に魔力と魔法について研究が進んでいたが、ハヤトがサーダルタ帝国のマナの圧縮タンクを使って、本来持っている強力な魔法を使えることを示してから、大きくその研究が進展した。


 地球の薄いマナでは、魔力はあっても大きな力のある魔法は使えないのだ。マナについては、物理的には感知できず、そのために近年までその存在には気づかれていなかった。魔力も同様であり、これも物理的な力ではないため、今まで検出されなかった。


 魔力レーダーは、だから物理的なメカニズムを魔力で操作することで機能するものであり、魔力を使うことなくしては機能しない。その意味では、日本において短期間で魔力レーダーを開発できたのは、やはり知力が増大した魔力の高い者達が、自分たちの魔力の働きを深く調べてこそ可能になったのだ。


 しかし、今まで魔法というのはすなわち身体強化であり、弱い光を灯したり、マッチ棒を動かすことができるような手品めいた余技というのが常識であった。しかし、マナの濃度を高くしてそれなりの力のある魔法を使うことが出来るということが知られると、ある程度の魔力のあるものは強烈な光を発し、金属を溶かし、あるいは人間くらいは倒せるような風を起こすこともできることになる。


 サーダルタ帝国から奪ったマナの濃縮・貯留の技術は、当初はマナの濃縮タンクのみであった。それはしかし、そのタンクから、魔法を使うためにマナを引き出す魔法と科学の混合したメカニズムもついていた。さらに、ハヤトは欧州で捕虜にした帝国の技術将校を精神操作して、濃縮したマナのタンクへの周囲のマナを濃縮して貯留する方法、その中から自由にマナを引き出すメカニズムを手に入れている。


 当初は、最初に捕虜にしたミールク・ダ・マダンから入手しようと思ったが、彼女はそれを漏らすのを躊躇い、さらにどちらにしても詳しいことは知らなかったのだ。技術将校にしても、彼らの艦の人工頭脳から引き出した情報でそれを作る方法を示すことができたものだ。


 いずれにせよ、今や地球ではマナを圧縮するシステムと、貯留タンクが製造されるようになったが、今のところはその設備は試作段階である。これらの少数が供用されて、10を超えるいくつかの大学と同盟軍の研究所で魔法の実用が研究されている。ハヤトも当然ながら、これに引っ張り込まれており、軍の研究所の技術顧問の立場になって、大学の研究室にも折に触れて訪れている。


 今回のサーダルタ帝国への訪問団にも、同盟軍研究所の魔法能力開発室から所長の東晴美35歳と、研究員の陳シャリオン36歳が加わっている。陳は台湾人でそれなりに高い魔力を持っているが、東はハヤトの妹のさつきレベルであり、2人とも魔法関係の研究で博士号を取得している。ちなみに、現在魔法の研究についてはそのものずばりの“魔法学”という名がついており、魔法学会も設立されて立派な学問の1ジャンルになっている。


 ハヤトが帝国魔法学校に彼ら2人に同行したのは、同様の学校を地球でも設立しようと計画している彼らの依頼もあったのだが、ハヤト自身も来てみたかったのだ。与えられた情報によると、同様の学校は帝国に30校以上あり、魔力の高い者達を集めて、その魔法の能力を伸ばし磨くというものである。


 しかし、一方で近代国家らしく、魔法を戦いに使おうという面は殆どなく、地球に劣らないレベルに達している科学技術を駆使した機器に囲まれたなかで、魔法を有用に使うという点に特化している。だから、魔法学校と言う名はついているが、むしろ魔力の高いものが知能も高いという点も重視して、普通の学問としての勉強にも大いに力を入れている。


 このような経緯から、魔法学校(日本でいうほぼ小学部、中学部、高等部から構成されている)の生徒は魔法にも長けて、学力も最高レベルのエリートと目されている。そして、殆どのものが高等部卒業後、高いレベルの大学に入ってそれぞれエリートとしての人生を歩んでいる。


 そのあたりから、サーダルタ帝国は魔法第一主義などと言われるようになっているが、実際は魔力が強く頭脳も優秀で活力も高い人間がさらに鍛えられて上に登っていくのは当たり前であろう。実際には魔法そのものは、彼らが社会の階層を登っていくのにそれほど貢献はしないはずだとハヤトは思う。


 ハヤト一行が訪れたのは、サダン魔法学校であり、エリートが集まる魔法学校でも首都に唯一ある処だから最高ランクに位置づけられている。とは言え、子供たちはその居住する地区の学校に行くことを義務つけられているため、この学校で学んでいるのは、首都とその周辺から来たもののみである。そのことは、結局首都に住む者が優秀であるため、その子弟も優秀であることを示していることになる。


 ハヤトと研究所の東達は、案内のサーダルタ側の外務省のヨハナ・バルダッキと共にまず校長室に通された。校長は、例によってエルフ顔の厳しい顔つきで細身の長身の女性であり、地球人一行の訪問にあまりうれしそうではないが実際は好奇心に満ちていた。


「私は、このサダン魔法学校の校長のマニヤ・ジ・ラーザルです。遥々地球という世界から来られた視察の皆さんを歓迎します」それから彼女は同席していた各学部主任を紹介して話を続ける。無論各自が持っている携帯端末から翻訳された言葉が流れてくる。


「すでに送られた書類から、ご訪問の趣旨は分かりましたので、答えられるところから答えます。まず、小学部、中学部、高等部それぞれでどういう教育が行われているかですね。各学部主任から答えさせます」それから、暫く説明があったが、要約すると以下のようであった。


 1)魔力を操れるように処方を施すのが5歳の時で、小学部の入学は6歳である。すなわち、5歳の時に処方により魔力とその適性を見極わめて、素質のあるものが魔法学校に入学の試験を受ける資格ができる。その段階で、サダン魔法学校の場合の校区で200万人から600人が選ばれ、さらに入学試験で半分に絞られる。

 小学部では通常の学校教育の授業の他に、魔力を伸ばして使い方を覚えるような基礎的な魔法の使い方を学ぶ。この段階で魔法学校に匹敵する教師はいないので、魔法学校の生徒は魔力の使い方や、魔力の増大の面で圧倒的に有利な条件になる。


 2)中学部にも入学試験があって、小学部の卒業生の他に外部から3千人ぐらい受験者があるが、小学部から合格するものが80%である。つまり300人の内20%程度が脱落する。中学でも通常の教育の他に、基礎的な訓練は続けるのに並行して、魔法のより高度な使い方を学び訓練する。中学部を卒業する頃にはその魔力は小学部の卒業時の10倍程度に達する。


 3)高等部も同様に入学試験があるが、この段階では内部合格が90%に達する。魔力が最も伸びるのはこの間であるので、訓練は厳しく魔力が枯渇するまで行うことが普通になる。高等部になると、他と競い合うことを勧められるので、中の10クラスの各々、また他の魔法学校との競争(試合)がしばしば行われる。それは、能力の競い合いのようなものもあるが、中には戦闘に類するものもある。

 それらの競い合いでも、サダン魔法学校が最優秀な成績を収めることが多いという。


「なるほど、わかりました。そのように素質のあるものを更に優秀なシステムと教師で鍛えるわけですから、魔法についてここの生徒が優れているのは解りました。それで、いわゆる学業成績はどうでしょうか?」

 各学部主任から話を聞いたあとに東が聞くと、ラーザル校長が胸を張って答える。


「むろん、サダン地区の統一試験では、トップ100に50人は入りますし、200万人中のトップ1000には全員が入っています。帝国全土での統一試験でも、トップ100に10人が入ります」


「ほお、魔法にそれなりに時間を割いて学業成績もそれほど良いとは凄いですね!」ハヤトは真実感心して言うと、校長は気持ちよさそうにその言葉を受けてハヤトに問う。


「ハヤトさん、魔法については地球に導入したのはあなたといいますし、魔法については我が帝国にも並ぶものはないのではないかと言います。あなたの学業成績もさぞかし良かったのでしょうね?」ハヤトはそれに関しては頭を掻くしかない。


「いや。残念ながら、私は15歳の時に異世界に攫われて、それ以来は魔法と戦いの訓練のみで学業の勉強などは全くやっていないのです。私の学歴は自分の国では最も低いものに留まっています」


「そう、学校にはあまり行ってないのね。あなたの魔力が非常に強いのは判りますし、知性も十分高いのが解ります。それで十分なのではないでしょうか」彼の機嫌を損ねないように、校長は話を合わせる。


 帝国でも屈指の魔力を磨きあげてきた彼女は、ハヤトの魔力と存在の大きさがはっきり分かった。魔法も無論だが、知性もこの国の誰に比べても劣らないだろう。ハヤトのことは帝国の魔法に深く係わっている者には有名であり、本当のところどの程度なのか大いに気になっている。それに加えて、ハヤトがこの学校を訪れると聞いた皇帝陛下が、どの程度の魔法を使えるのか出来るだけ調べるように彼女に依頼している。


 彼らはそれからも、主として東の聞きたいことを題材として様々なやり取りがあったが、その後に彼女は切り出した。


「ハヤトさんは、我々との出会い以来大変活躍されたと聞いております。我々が知っている限りで、わが帝国にも多くはない空間魔法が使えるようですね。それも収納と転移のようですが、転移の距離は我々も聞いたことにない距離をカバーするようですね。無論、火魔法、水魔法、風魔法、光魔法等は使えるようですが、具体的にはどのようなものが使えるのですか?」


「うーん、そうですね。具体的には見せた方が早いと思います。その際に一緒にこの学校の生徒が魔法を使うところを見せていただきますか?」


「そうですね。では訓練場に行きましょう」校長が応じると、東と陳が嬉しそうな顔をする。彼らが最も見たかったのは魔法を実際に使うところだ。


 その訓練場は、ほぼ100m正方形の広場で屋根がある。見たところ床は地面のようで壁は森林の中に見えるように樹木が描かれ、天井は青空に見える。しかし、実際のところ床は何か頑丈そうな滑らかなすべすべした樹脂状のものに覆われており、壁に触ると同じ材質であるようだ。


 天井の材質は判らないが、青空の絵に騙されるが探査で調べるとその高さは30mはあるだろう。全く柱もない100mのスパンを構造材の見えないあの天井でどうやって支えているのか分からない。また照明らしきものは見えないが、青空の絵そのものが明るいようで、その中はまぶしいほどではないが十分明るい。


 壁に近い辺りに様々な訓練に使うのだろう機材が、多分100基ほど整然と並んでいる。そこには、50人程の白っぽい服をきた人々、少年・少女が集まって何やらやっている。


「ああ、丁度、最高学年の生徒達が訓練中です」高等部の主任と紹介された教師が言って彼らに近づいていくが、ハヤトたちも校長に促されてその後を追う。


 その教師は、小柄で華奢だが鋭い目をした少年の肩に手をやり紹介する。

「マジナ・ド・カーミナル君です。この中では随一の魔法の使い手です」さらに彼女はハヤトたちを、50人を超える生徒達に紹介する。


「皆、この方たちは地球から来た使節団の方々で、大事な帝国のお客さんだ。君たちの魔法の訓練の様子を見たいということだ。カーミナル君、光、火、風魔法の訓練第3段階を見せてほしい」


 その言葉に、ハヤトは少年の目が鋭くなったように感じ、少年から放たれる怒りに気が付いた。地球との争いで帝国からも数十万の戦死者がでているので、その中に彼の近親者もいたのかもしれないし、彼もそうかもしれない。

 ハヤトは少し憂鬱になった。敵としてかかってくるものに反撃するのは当然であるが、それによって死者がでれば、当然その近親者や親しいものは相手を憎むようになるのは当然だ。


 しかし、少年は壁を背にして、両手を突きだして鋭い声で小さく叫ぶ。

「光よ!われらをまぶしく照らせ!」太陽ほどはまぶしくないが、20cmほどの光の玉が前方10mほどの空間に現れて1分以上光を放つ。その光で、立っている生徒達に影ができるほどだ。


「おお!」「ああ!」東と陳が思わず声を出すとその方をちらりと見て、カーミナルがさらに続ける。


「火よ、燃え盛る火よ」一旦言葉を切ると広げた両手の間に直径が50cmほどもある火の玉が現れる。


「飛べ!敵を打ち倒せ!」叫ぶとその火の玉がボウ―という音を立てて勢いよく飛んでいき、反対側の壁にぶつかり火の粉を散らして消える。


「おお!凄い」なおも東と陳が叫ぶが、それを生徒達が見て笑っている。


「風よ。切り裂く風よ」更なる声にゴウ!と風が鳴り、大気が歪む。


「切り裂け!」顔は動かさないが、少年が見つめているのを感じた途端、ハヤトをヒュンという風の渦が襲った。差し渡し1mほどもあるなかなか規模の大きい風の刃だ。

 ハヤトはニヤリとして、同じく風魔法である念動力でそれをかちあげる。すると、その強大な力に風の刃は軌道を変えて霧散する。それを見て、皆が目を丸くして見ているが、校長が厳しい声で言った。


「カーミナル、何をしているの!」


 それを、ハヤトが穏やかな声で宥める。

「ああ、いやいや、なかなかのものだったですな。今のは力が入りすぎたのかな?」それから一息置いて言う。


「ではすこし変わった魔法の使い方をお見せしましょう。これを見てください。これはある国のコインです」


 ハヤトは、ジムカクで手に入れた直径4cmほどもあるステンレス製のコインを空収納から出して見せ、皆が確認したところで10mほど放り上げる。

 それが爆発したように閃光を放って煙を上げた。高熱の中で成分の金属が燃えたのだ。


「「「「おお!」」」」感嘆の声があがった。生徒は変わった魔法としか思っていないが、帝国でも最高の魔法使いのラーザル校長はその真髄が解った。高熱だ。信じられない高熱でないと金属は燃えない。おそらく帝国でも実際にやれる者はいない。しかも無詠唱だ。

 彼女は、ハヤトという地球人の魔法の能力の片鱗を見た。


誤字の訂正、いつも有難うございます。

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