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ハヤト、サーダルタ帝国に乗り込む1

読んで頂いてありがとうございます。

 地球連盟軍所属の母艦“むつ“が、客船のアナザワールドを帯同してサーダルタ帝国母星サーダルタの帝都サダンの第3空港に降り立った。惑星サーダルタの直径は1万5千kmで、地球より25%大きいが比重は小さいため重力は地球の1.01倍で大差はない。


 サーダルタ人の人口は総計75億人で、その内でサーダルタに居住する人口は52億人であるが、残りは大部分が2つの植民惑星に住んでいる。この世界の陸地の面積は35%余であるので、人口密度は地球の方がかなり大きいことになる。


 この世界は、地球との平和条約の結果、その支配する世界の大幅な減少で大騒動になっている。これは支配していた11の世界の総督府、及び様々な取引のための人員による引揚者が2500万人に及び、そのうち1800万人はこの世界に帰ってきたのだ。


 この引っ越しは、地球時間1年足らずの間に行われることになるため、そのための輸送船の発着、宿舎の手配とそれなりの騒ぎになっている。またこれは、知られている世界すべての支配者であったサーダルタ帝国が、“地球”というまだ統一もされてない世界に武力で敗れ、強制されてのものである点で帝国の国民にとっては大きな衝撃になっている。


 ただ帝国と名がついて皇族、貴族などの特権階級があるものの、立憲君主国であるこの国には言論・報道の自由があり、地球との地球・マダンにおける戦いについてはほぼ事実に即した報道がなされている。


 しかし、結局余りに稚拙な戦いではあったため、殆どの理由を十分な情報が得られなかったとして、諜報の問題に帰着させている。また、経済面から11の支配下の世界の経営は、そのために整えられた軍備を考えると必ずしもメリットがなかったことが語られた。


 さらに多くの戦闘艦とその人員が失われた今、帝国の総予算の数年分を費やして地球に対してほぼ無力になったそれを再建する意味がないことも説かれた。一方で地球側に帝国を侵略する意図はなく、その要求がサーダルタ人が植民した2世界を除く、11の征服世界の解放であることから、地球との和解に至ったとの説明がなされた。


 その意味では、サーダルタ帝国がすでにそれなりの文明を築いていた被征服世界に植民しようとしなかった点は幸いであったと言えよう。しかし、こうして和平を結ぶことの合理性を理解はされたが、帝国臣民の傷ついたプライドは別の問題であった。


 元々、立憲君主性という仕組みの下で、国民が文明人であるサーダルタ人にとっては、帝室と貴族は必ずしも絶対的な存在ではなく、間違った判断によって問題を起こした場合には非難の対象になる。その意味で、地球への侵攻に伴うマイナスの大変動は帝国政府及びそれを主導する皇帝や貴族に対する失望を生んだことは事実である。


 とは言っても、それが故に反抗の運動が起きるというわけでもなく、精々議会の与党の支持が落ちて、次回の選挙では与党の地位が保てるか怪しい、という程度であるが。


 地球使節団を迎えるために、空港に来ているヨハナ・バルダッキは昨日の会議を思いだしていた。

 彼女は、32歳の外務省のキャリアであり、名門ではあるが近年目立った人材が出ていないために落ちめのバルダッキ一族の一員である。整った顔立ちであるが、鋭い目つきと肩までの茶色の髪にキャリアとしての制服姿の彼女は、中背ではあるが細身の引き締まった体つきだ。


 昨日の会議では、外務省が地球侵攻前、侵攻のための戦い、マダンの戦いを通じて全力を挙げて集めた情報が共有され,これは要約されて皇帝陛下に報告された。

 ヨハナは、最初に地球の反攻のあったマダンの総督府勤務を、最後に地球の派遣軍に追い出されるまで5年間続けていた。だから、まだこのサーダルタ世界に帰って3ヶ月である。マダンでは、その地球軍の侵攻後の緊迫した推移を見守ることになった。


 その間に、大きな印象に残ったのは地球の戦闘機の途方もない速度と、亜宇宙まで及ぶ行動範囲の広さ、さらに極めて遠距離から正確に当てることのできるその砲の威力に代表される軍事力が第一であった。


 さらには、マダンの現地人の安全を気遣うその態度であり、文明人と自負しているサーダルタ人にも勝ると思う。また、その職務上、地球人の様々な肌色の軍人と一部官僚と様々な折衝をしたが、地球人の肌色を始め見かけに差異が大きい事、また理解力、実行力において少なくとのサーダルタ人に勝るとも劣らないということも感じた。


 サーダルタ人一般は、侵略して他の世界を支配することが野蛮なこととは全く思っておらず、それをむしろ、帝国の優れた文明を被征服世界にもたらすものと考えている。


 そのために戦いになるが、その犠牲はその過程の中でやむを得ないものとして捉えているのだ。しかし、少なくともサーダルタ人は、敵に対しても好んで犠牲を出そうとは思っておらず、支配下にあるものに対しては慈悲深くあれ、というのが国民に対する教育の基本である。


 その意味では、地球人の態度は、サーダルタ人の捕虜に対しても全く残虐行為はなく傷ついたものは適切に手当てがなされており、全くケチのつけようがない。しかし、地球の歴史ではそれこそ100年もたたない前には、その世界の半分以上を巻き込むような戦争を起こして、多くの自分たちの仲間を残虐に殺している。


 また、その世界の人口はサーダルタ人全体を合わせたほどもあり、それが100以上の国に分かれて多くがいがみ合っている。今あそこに着陸しようとしている、戦闘母艦にしても地球同盟と言っているが、まだいくつかの国の有志連合に過ぎず、まだまだ統一政府を作るには時間を要するようだ。


 いずれにせよ、記録された歴史が1万年を超え、概ね500年かけて全世界政府として形成されたサーダルタ帝国に比べると地球は歴史も浅いが、とりわけ最近100年で大きく文明国に変化してきた世界であることは間違いない。今後、嫌でも同等の相手として向き合っていく必要がある、極めて興味のある世界ではあると思う。


 昨日の会議では、情報局のチーフから大変興味深い発表があった。

「今回の地球からの使節団は480人だ。半分ほどは報道関係者であり、他は外務関係と様々な分野の調査員だな。その中に知っての通り、例のハヤトが入っている。彼の立場は政治家としてのもので、実際に彼はかの地球連盟の議員でもあり、彼の属する国の議員でもある。

 だから彼は正式な使節団12人の一人に入っている。彼については、すでにいろんなことが言われて、何が真実か判らなかったが、ようやく彼の最近10年足らずの内に彼の果たした役割が解ってきた。

 彼は、異世界に召喚されてそこで7年を過ごし、魔族という人族を脅かせていた種族を滅ぼして、地球に帰ってきたという。実際、彼は帰ってきた時点で、巨大な魔力の持ち主で、マナの濃度が極めて低い地球でもある程度の魔法が使えたらしい。

 彼は帰ってからも自分の能力を隠さず、魔力の巡らし方を皆に教えたという。そのため、少なくとも彼と同じニホンジンという種族は身体強化はできるようになって、しかも知力が5割程度上がったのだ。

 その結果が、我々のものにはるかに勝る、彼らの原子励起発電、重力エンジン、さらには超バッテリー、それから電磁砲であり、またそれを極めて精度よくコントロールする人工知能だ。

 これらのほとんどが、ハヤトが地球に帰ってきて魔力の使い方を教えた後の過去10年程度で成し遂げられている。我々は、無論古くから魔力を活用してきたから身体強化についてはほぼすべての者ができるし、魔法を使える者も多い。

 しかし、魔力の使い方を習っても知力が著しく上がったという所見はない。もっとも、大体8歳の頃魔力の使い方を覚えるから、その自覚がないだけかも知れんが」


 カザル・ルーアルという名の、中年の彼は、一旦言葉を切って50人ほどの聴衆を見渡す。それに対して、聴衆の一人が手を挙げて話し始める。著名な社会学の学者だ。


「先ほど言われた数々の発明は、まさに画期的なものであるな。魔力の巡らし方を覚えて、知力が上がったと言っても、それほどのことが出来たというのは、まさに地球にそれだけの科学に関してベースがあったということになる。

 我がサーダルタ帝国は、古くから魔法を活用してきて、それが大変便利であったために、自然の物理的・化学的な成り立ちの研究をおろそかにしてきた面がある。その点は、過去我々が征服したいくつかの世界の者達から学んできているが、やはり魔法優先の考えから、その意義が理解されないため、研究は遅々として進んでいない。

 しかし、科学を進歩させて我々のシステムを上回る成果を挙げている地球という世界が現れた以上、我々も謙虚に彼らに学んで彼らのシステムを取り入れる努力をする必要があるだろう。少なくとも、軍事的に彼らに全く抵抗できない現状は我々の生存のためにも変えなくてはならんだろうな。

 君らも、報道はされていないが、昨日キリマララの反攻分子が明日着く使節団の船を襲って、手も足も出ずに引き上げた話を聞いているだろう。さらにマダンと地球での戦いも同様だ。地球でこそ、相手にもそれなりの損害を与えているが、あれは彼らが同胞への損害を減らすための不利な戦いを強いられた結果だ。

 マダンでは、まさに殆ど手も足も出ずに、現地民を人質にして防衛するしかなかった。だから皇帝陛下が和平を選んだのは正しい。まあ、相手が持ちかけて和平を選ぶことが出来たというべきだがな。かつての我が帝国あるいは、我々が征服した様々な国であれば、和平の申し入れなどせずに、相手が屈服するまで攻撃を続けたであろうな。

 その点では、地球がわが帝国のような侵略的な性向をもっていなかったことを感謝するしかない。陛下は経済的な側面を挙げておられたが、わがサーダルタ帝国は地球というまだ惑星が統一もされていない世界に対して、軍事的に負けているのだ。その理由は、さっきルーアル君の言った技術を彼らが持ち、我々が持たないのがためだ。

 それだけではない、とりわけ原子励起発電、重力エンジン、それに超バッテリーがあればどれほど産業に利するか君らも想像がつくだろう?だから、地球という世界と交流することは望ましいのみでなく、必要なのだ」


「レガス先生有難うございます。先生は地球と交流することの必要性を説きましたが、私もそれには全面的に賛成です。

 ただ、私はここで、先ほども話に出たハヤトという個人についてもう少し話を続けたい。彼の魔力は膨大で、おそらくわが帝国にも彼に比肩するものはいても数人であると思う。しかし、知っての通り地球と異世界のマナは極めて濃度が低く、殆ど魔法は使えず、使えても極めて限定的だ。

 彼は、マナを圧縮してボンベに蓄えて使うという我々の技術を我々から盗んで、その魔力で地球での戦いで大活躍をしたようだ。どうやら、撃ち落とした我々のガリヤークから取り出したマナ入りのボンベを手に入れてからのようですな。

 異次元転移装置を地球が手に入れたのは、ハヤトの働きであることは間違いないようだ。それに、名門マダン家の艦長ミールク・ダ・マダンを捕虜にしたのも彼であることは確かだ」


 そこで、若い軍人が手を挙げて発言する。

「しかし、多分そのハヤトは地球で最高の魔力の持ち主だと思うが、よくそんな人材を地球はいわば未だ敵性の我々の本拠に送り出してきたものですね」


「ああ、私もそう思ったが、考えてみれば、すでにここに至っては彼の存在があろうとなかろうと地球の強みは変わらないのだ。地球の強みは我々に勝るいくつかの技術的成果であり、それは、間接的にはハヤトによって生み出されたと言ってもいいかもしれないが、実戦配備された今どうしようもない。

 また、ハヤトによって直接奪取されたと考えられる異世界転移装置もそうだね。だから、地球は彼を送りこんだのだろうし、もう一つは魔法が使えるものが多い我が国に、魔法については、それほど長けていないと考えられる地球人が乗り込むのは危ないものがあるとは思わないか?

 その意味で、魔法に関して一人者である彼を見張り役で着けたのだと思う。まあ、本人は来たかったから来たのかもしれないがね。いずれにせよ、彼は空間転移が使え、空間収納が使え、探知が使え火・水・土・風に係わるあらゆる魔法が使える。

 そうそう、彼は地球殆ど全土の資源探査ということをやったそうだよ。わが帝国では個人でそれを広範囲に意図的にやったと記録はないな。支配する世界が3つになってしまった我が国も是非これは実現したいと思っている。いずれにせよ、ハヤトという個人については着目してほしい」


 ヨハナ・バルダッキは昨日のこうした話を思い浮かべながら、殆ど同じ大きさ形の母艦と客船の船腹から階段が伸びてきて地上に着くのを見ている。2隻の艦は100mほどの間隔を置いて着陸している。階段の正面に向かった彼女からは、幅が2m高さ3mほどの開口部から船内に人がひしめきあっているのが見えて、そこから次々に人が下りてくる。


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