ハヤト、ミモザラ共和国に乗り込む2
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ハヤトはミモザラ共和国の大統領(実質は独裁者)以下の、閣僚を集めての閣議が開かれている大テーブルにジェジャートと共に土足で乗り込むという暴挙(?)を実行した。
更には、相棒のジェジャートが出席者の半数以上を持っている日本刀“鬼切り”で殺戮しているのをよそに、テーブルの“上座”に座っている主要閣僚を念動力で縛りつけた状態で、彼らに対して穏やかな声で呼びかけたのだ。
それに対して、戦闘民族を自称するノメラのエリートたちが、反撃しなかったわけではない。とりわけ刀で最小の軌跡で自分たちの首を刎ね、かつ頭蓋を割ってくるジェジャートに対して、とっさに反撃しようとした。
しかし、魔法または身体強化をかけてからの反撃はどうしても発動に数秒の時間がかかる。それでも、あるものは魔法で反撃しようとし、あるものは身体強化をかけようとした。しかし、最初に切りかかられた者達は、そのような余裕はなく、自分の磨いてきた武術で反撃しようとした。
銃の携帯は禁じられているので、許された短刀を引き抜こうとして、その前にジェジャートの同田貫の刃が届く。さらには、逃げようとして立ち上がろうとするものも同様で、魔法または身体強化を発動しようとするものは、1人がファイヤボール、2人が念動力を使おうとしたが、お構いなしに切りつけるジェジャートの刃先を浴びる。
身体強化が成功した者も、肉体の強化はされ、素早くはなるがジェジャートの刃は避けられず、その強化された肉体もその喉を切り裂く刃を防ぐことはできない。それでも、最後に残った2人が椅子を蹴ってドアを開けようとしたが、跳んできたジェジャートの蹴りに床に倒れ、その延髄を刃先が捕らえる。
ハヤトに拘束された主要閣僚もおとなしく拘束されてはいない。まず、一瞬で驚きから覚めた副大統領が、2秒でハヤトとジェジャートに向かって風の刃を放つ。それは大した制御で2人の首筋を狙って飛翔してきたが、ハヤトは魔力をまとわせた微塵でそれをばらばらに切り裂く。
そのようにしながらも、拘束された者達は死にもの狂いで魔力または腕力で逃れようとする。ハヤトはそれに対して、拘束している連中の頭を揺することを意識してその上半身をドンと強く揺らす。このことで、彼らの脳が強く揺らされ大部分が気絶するか、ボーとした状態になる。
しかし、それでも、意識をしっかり持っているのが、大統領と副大統領であり、大統領は自らハヤトの念動力の束縛を振りほどき双刃の直刀を持って、テーブルに跳びあがる。ハヤトの束縛も全体で9人を束縛しているためその束縛はそれほど強くはないが、それを振り切り、さらに先の衝撃も乗り切ったところを見ると、ミザム大統領もなかなかの魔法と身体強化だ。
ミザムが跳びあがった勢いで突いてくるのを、ハヤトはスイと横に躱すや、刀を峰に返して、切り込んできた刀の下から胴を狙う。しかし、その刀身はミザムが刀で叩き落とす。横目で見ると、ジェジャートはすでにテーブルを回り込んで意識のある副大統領に迫っており、彼女はそちらに気を取られているが、ハヤトは彼女にかけている拘束を続ける。
この拘束は的が絞られているのでより強力になるため、彼女は基本的に身動きできずに使えるのは魔法のみである。ハヤトが意識を逸らしているのを感じて、ミザムが一歩踏み出しながら、刀身を跳ね上げてハヤトの喉元を狙って刃先を突き出す。体を後ろにそらしてそれを避けるハヤトを、更に一歩踏み込んだミザムが袈裟懸けに切りつける。
体重が後ろに残って避けられないハヤトは、とっさに念動力で止めようとするが、超人的なノメラの全力で振るわれた刀身を完全には止められない。しかし、ハヤトの胴着はスーパータフネス繊維と呼ばれる繊維で編まれたもので、ライフル銃の弾さえ食い止める。
とは言え、普通の人はその衝撃によって重傷を負う結果になる。ライフルにも劣らない運動量の刀身が撃ちこまれたこの場合は、念動力で衝撃の8割程度は減ぜられて、刀身はハヤトの肩にすこし勢いよく当たった程度であった。そのためハヤトには全く被害はなかった。
会心の一撃を被害なく食い止められたミザムは驚き一瞬動きを止めた。ハヤトにはそれで十分であった。その持っている微塵で首を刎ね上げることもできたが、相手を殺したくない彼は風のハンマーで相手の顎を全力で打ち抜く。
避けられないと考えた相手は、とっさに全力の魔力で顔面を守ったが、簡単に突破されて、体が3mほども浮きあがって、後ろに吹き飛ぶ。フウ!とハヤトは息を継いで、ジェジャートと副大統領の方を見る。
ハヤトもそちらについては、拘束を続ける余裕がなくとっさにそれを解いていたが、ジェジャートは適切に対応して、剣の柄で相手のこめかみを打ち抜いて昏倒させている。流石に、ジャングルで戦ってきた黒人戦士のジェジャートは相手が女だろうが容赦はない。
相手も、身体強化をかけているので、頭蓋骨も強化されて死ぬことはないだろう。そして、ジェジャートほどではないが、大差のない巨人である倒れたミザラに視線をやり、彼が頭を振りながら立ち上がろうとしているのを見て驚く。「何て丈夫な奴だ!」叫びながら、駆け寄りその勢いで再度顎を蹴り上げる。
その時、会議室のドアがグワン、グワンと揺すられ叩かれ、バタンと開けられる。ハヤトが出現した時にロックしておいたのだ。
10人以上の逞しい兵が刀や槍を持ってなだれ込んでくるが、ハヤトはすでにマークしていた母艦の“むさし”のトレーニング室の一角に転移する。無論、ジェジャートと副大統領、さらに大統領を連れてである。
そこには、すでに見張りの兵がおり、転移してきたハヤトたちを見てすぐに端末でどこかに連絡をしている。ハヤトは、“むさし”に転移する可能性が高いとして、転移する部屋も指定しておいたのだ。無論、専用機の“らいでん”も移転の候補であったが、首尾よく相手のトップを捕らえられたのだから、これは様々な人員が乗っているむさしに転移するというのは当然である。
気を失って倒れている男女2人を改めて見る。すでに、ハヤトは相手の名前は読み取って知っており、この大統領カザイール・ダマラ・ミザムと副大統領のミーマラム・サシラムの2人がミモザラ共和国の2巨頭であることは承知している。
大統領のミザムの身長は195cm余で、体重は100kg程度であろう。筋肉質で非常に鍛えているのは明らかであり、シルバーの髪であり厳しい顔つきでたくましい顎である。服装は地球の軍服の正装に近い銀色の飾りのついた灰色のものである。
副大統領の女性ではあるが、身長は190cmくらいあり、横幅は男の大統領に勝るが、ぜい肉のかけらもなく引き締まった細面の厳しい顔立ちで、美しいと言ってもいいかもしれない。服装は大統領のものに似ているが、体にフィットしているその服は巨大なバストを強調している。どうも捕虜にしたノメラからの証言からはこの副大統領サシラムがノメラの理想の女性らしい。
やがて、部屋に人々が集まってくる。無論ジムカク派遣軍司令官の三村(仮)大将もいるし、地球同盟政府の異世界外交局のキャンプ女史、さらにはザラムム帝国側のミモザラ作戦の責任者であるジクラ少将もいる。
ハヤトもジェジャートも立ち会っているが、ジェジャートは真剣勝負の戦闘をこなして満足げにハヤトのそばに立っている。総勢15人余りが、コの字に並べた机についた時、ハヤトが三村に目で聞き、三村が頷く。その合図で、ハヤトはまず男のミザムに歩み寄り、血行を良くするために首筋をもんで頬を張る。
5回ほど頬を張った状態で、「う、うーん」唸り頭を動かして目をぼんやり開けて頭を振る。そしてハヤトに気が付き、さらに自分が樹脂材の床に横たわっており、目の前の長机に多数の人が座っているのに気づいて、跳び起きようとする。さすがに反応が鋭いが、ハヤトが首からかけた翻訳機を通して言う。
「またやられたいのか?ここは、お前の国のミモザ上空に滞空している大型艦の戦闘機母艦だ。逃げようはないぞ。暫くつきあえ」
ハヤトが、銃を持ってその照準を彼に向けている8人の警備兵を顎で示す。ミザムはその鋭く威厳のある目では周囲を見渡し、またハヤトに視線を映して頷いてゆっくりと立ち上がる。そして、示されたひじ掛けのある椅子におとなしく座る。
ハヤトはそれを見て、女性のサシラムにかかり、彼女は頬を張ることはなくすこし優しく起こす。しかし、彼女は目を覚ますと、いきなりハヤトの顔に向けて指を突っ込んでくる。明らかに目を狙っているが、ハヤトの身体強化は桁が違う。
その手首を各々の手であっさり掴んで、両手首を片手に握り直し拳骨で頬を殴り飛ばす。拳の次は裏拳で5往復ほどすると、彼女の眼が焦点を失ってきた。そこで殴るのを止めて、両手首を握った片手でその100kg以上ある体を引きずり起こし、ミザムが座っている椅子の横においてある椅子に座らせる。
ミザムはサシラムが殴られている間も、表情を変えず冷ややかに見ている。ハヤトとジェジャートは監視のために、座った2人の背後に立つ。猛獣のような2人は、彼らを制御できる彼らが常時見張っていないと出席者が危ない。銃を持った兵もこの2人が暴れ出したら制御はできないだろう。
しかし、話が始まらず、向かい合っている人々の顔色が悪い。後ろにいるハヤトとジェジャートは余り感じないが、ミザムが机についている人々に向かって威圧をかけているのだ。ハヤトはため息をついて、ミザムに歩み寄り、その頭をぶん殴って言う。
「やめろ!つまらんことをするな。時間が惜しい」
人々に傅かれてきて、敬われてきたミザムはハヤトによるそこらのチンピラにするような扱いにカッとなって、椅子から跳びだし彼に殴りかかる。
「ほい!」ハヤトはしかし、その腕を取って腰を反転させながらミザムの体を乗せて思い切り床にたたきつける。絵に描いたような一本背負いだ。頭は打たないようにしていたので、気は失ってはいないが「ううー」と唸って顔をしかめている。
「ほい、ほい、時間が惜しいから座ろうね」ハヤトは襟首を持ってミザムを引きずり上げて、先ほどのサシラムと同様に元の椅子に座らせる。サシラムはそれを見ているが、意地が悪い薄い笑みを浮かべているところを見ると2人の関係が窺える。
「エヘン、それでは始めさせてもらおうか。私は地球側のこのジムカク派遣軍司令官の三村と言うものだ。貴官はミモザラ共和国の大統領であるカザイール・ダマラ・ミザムだな?」
呆れてその活劇を見ていた人々であるが、三村が気を取り戻してミザムに聞く。
「いかにもそうだ。私がミモザラ共和国の最高指導者である。しかし、一国の指導者に対してこの扱いは無礼であろうが?」
「現在、ザラムム帝国及び同盟を組んでいる地球は、ミモザラ共和国のザラムム帝国領への突然の侵攻と人々の虐殺をもって国よるテロを仕掛けられている状態であると理解している。従って、貴官は敵国たるミモザラ共和国の指導者であるかもしれんが、テロリストの一人という扱いになる。従って、反抗に対してはそれなりの報復があるということだ。
それから、断っておくが貴国の侵攻については、宣戦布告無しの突然の侵攻であることに加え、その侵攻に当たって意図的に無抵抗の人々の虐殺をした、さらに多くの人々を人質に取って侵攻軍の盾にした。このことは、我々の解釈では、貴国は通常の国としての扱いを受けない組織、いわゆる無法なテロ組織として扱うに当たる。どうかね、この点で言うことはあるかね」
「ふん!我々の解釈では我々ノメラ以外の者は我々に仕える存在であって、我々がどのように扱っても良い存在だ。だから、お前らがそう思うのは勝手だが、我々は自分の正義に則って行動したわけで何らやましいことはない」それに対して地球同盟政府のキャンプ女史が言い返す。
「我々の地球では、テロリストは、有害な最も忌むべき存在であり、その害を除くためなら通常許されない行動も許容されます。そして、あなた方の行動はテロリストそのものと認定されています。しかし、問題はあなた方ノメラの人口が7千万人もいるということで、流石にその全体を抹殺することはできないでしょう。
しっかり考えて頂きたいのは、あなた方が他をどう扱っても良いと思ってきたのはあなた方が強者だったからです。しかし、すでにその点が否定されています。軍事的に我々は、自分たちに全く損害無しにあなた方を滅ぼすことができます」