反撃4
いろいろあり遅くなりすみませんでした。
暫く週1回の更新になります。
三村大将のガスを使う場合に、それを悟ったノメラが人質を害する可能性の話に、ザラムム帝国側の作戦本部長であるジクラ少将が答える。
「確かにそれはあり得る。残念ながら、ガスの効きは一瞬ではなく少なくとも数分はかかる。しかし、おそらくそれしか方法はないし、そうなったらそれでやむを得ないと思われるが、どうだろうか?」そこでハヤトが聞く。
「その作戦ですが、ガスは例えばボンベなどに貯留できないのでしょうか」
「それは、可能というか手術で使うガスは通常ボンベに貯留しています」帝国側の若手の将校が答え、ハヤトがその言葉に応じる。
「では、私が空間魔法で、ボンベ内からそのノメラの直近にガスを直接送り込みましょう。その後は探査で見張っていますから、人質を害そうとすれば、風魔法か火魔法で妨害できます。この世界にはマナが、たっぷりありますから、それこそ風の刃で人の首を刎ねるくらいのことはできます」
「な、なんと、魔法でそのようなことまで……」地球人の最高の魔法使いという紹介に、半信半疑だったザラムム帝国側からつぶやきが漏れる。
「それで、決まりですね。まことに申し訳ありませんが、ハヤトさんのチームで順次そのような手順で人質の解放とノメラの捕縛または殲滅を行ってもらうしかないでしょう。
無辜の人々に命はかかっているこの場合、ハヤトさんの言われた方法が最も安全性が高いでしょう」三村がハヤトに賛同する。
「で、では、このハヤト氏は実際に今言われたことができるということですか?」地球側の最高司令官がハヤトの言を認めたことから、ジクラ少将が念を押す。
「ハヤト氏ができるというのなら、できます」三村は頷いて続ける。
「さらに、ジュラムス市の人質解放も急ぎますが、それに先立ってミモザラ共和国にあるだろう空間ゲートを潰しておく必要があります。さらに、侵攻の手段が本当にそのゲートしかないのかを探りながら、並行してジュラムス市の人質解放を行うことになります」三村は一旦言葉を切って皆を見渡して続ける。
「また、今朝のラムチャン市への侵攻は、ジュラムス市のものから概ね24時間後に行われています。こうした侵攻は、出来るだけ続けて実施することが作戦面では正しいと思われるので、たぶん術者の魔力の回復などの理由のためだと思われます。
その推定が正しいとすれば、ラムチャン市への侵攻が6時間前なので、まだ次の侵攻まで18時間程度の余裕があることになります。しかし、ミモザラ共和国の状況は今のところ全く判っていない。だから、その空間ゲートを潰すための調査を行うことが必要になります。
これは、魔力が探知でき、かつ探査の魔法が使えるハヤト氏は少なくとも加わって頂くしかない。また、先ほどの人質解放もすべて彼が主体的に実施してもらうしかない。
だから、この会議が終わり次第、ハヤト氏は“らいでん”改で直卒隊を率いてミモザラ共和国を探り、可及的速やかに空間ゲートを破壊して頂きたい。また、別にジュラムス市でのノメラの戦力、人質について状況を把握しておく必要があります。
だから、ハヤト氏がミモザラ共和国に行っている間に、彼が帰ったら順次人質を排除できるように準備を整える必要があります。ジュラムス市の状況はいま判っている限りで教えていただけますか?」
「現地のザラムム帝国主体の地上部隊の通信を取りまとめているのがわが駐屯軍の情報AIなので、その点は私が答えましょう」駐屯軍のトマス・カージナル大佐が言い、説明する。
「現状ではノメラの部隊は32ケ所に立てこもっており、その兵員の総員は2380人になります。彼らが捕らえている人質は、大体総計で4500人になります。それに対して、封鎖に当たっているわが方の兵員が2550人で、その内地球の陸戦隊は320人です。電磁銃は陸戦隊のみ所有しているので、電磁銃は320丁ということです。とりわけ、ジュラムス市庁舎、アラムール地方省舎にはそれぞれ、5、9グループが立てこもっています」
大佐の説明に三村は頷いて言う。
「なるほど了解した。では、その状況を整理して、ハヤト氏に当たってもらう順番とその際に提供する情報の整理を行おう。ハヤトさん、今言ったようにジュラムス市の状況は把握できているようですから、“しでん”改211を使って頂いて、ミモザラ共和国へ行って頂きたい。護衛のしでんは10機付けますがそれでよろしいでしょうか?」
「護衛は10機もいればどういうことが起きても大丈夫でしょう。もし、彼らの航空戦力が大きい場合には、高空に逃れればいいしね。たぶん、空間ゲートのような多量の魔力を費やす魔法を使った場合にはその残渣が残るはずだ。見つかると思いますよ」
ハヤトは応じて、その後三村はカージナル大佐に、指揮下の“しでん”を使って、ミモザラ大陸からレガシピ大陸の間の海洋を綿密に調べることを命じて会議は終了した。
ザラムム帝国軍側の出る幕は殆どなかったが、彼らの“しでん”や“らいでん”そのもの、またそれらの運用に関してのノウハウは殆ど蓄積されていないので、やむを得ないことである。
その点は、帝国側の指揮官のジクラ少将の理解しており、帝国軍の将兵に、地球側の将兵に帯同して、ノウハウをできるだけくみ取るように命じている。
ハヤトは自分の直卒隊、友人となっているアフリカ人のヤフワ・ジェジャートに軍から影山中尉、仁科少尉、石田1曹、木村1曹、松井2曹を率い“らいでん”改に乗ってミモザラ亜大陸に向かった。
パイロットは無論専門の西田悟中尉であり、高度は千㎞として向かう速度は秒速2㎞である。5千㎞の大陸間の距離をあっという間に渡り、ミモザラ亜大陸の差し渡し1200㎞の陸地を秒速1㎞で横断する。
ハヤトは、目を瞑り魔力に神経を集中するが、なかなかそれらしい強い魔力は検知できない。仕方なく彼はパイロットの西田中尉に頼む。
「西田さん、ミモザラ共和国の首都、ミモザに行ってもらいましょうか。高度、そうですね、50㎞で速度0.5km/秒で近づいてください」
ハヤトは、軍の階級は持たないので直接的には軍人には命令はできないのだ。とはいえ、ハヤトと共同で作戦に当たるのものは直卒隊を含め、彼の命には従うように命じられている。
「了解!“しでん”全機、ミモザに向かう。高度50㎞に落とし、市の100km手前から速度を0.5㎞/秒に落とす」西田はハヤトの要望(命令)に応じ、すぐさま護衛隊に通信して機を旋回させる。
ハヤトは、ようやくにそれに気づいた。それはぼんやりした魔力のもやのようなものであり、大きな魔力が発散した残り香のようなものであった。その場所は、明らかに軍の施設であり、多くの宿舎や事務棟、航空機等が検知できる。
ハヤトは次にその施設にいる人に注目して検知する。そこには合計で言えば万を超える要員がいるが、突出して魔力の高い10人余りが一つの建物に固まっている。
『こいつらだな。この魔力で力を合わせれば、空間ゲートを形成できるだろう』彼は思い、さらにさきほど検知した魔力のもやに集中する。
『なるほど、もうすこしはっきり見えてきた。送り込む要員はサイドカー付きのバイクに分乗してゲートをくぐるわけだ。その隊列があそこに集合して、ゲートの位置はそこだ。間違いないな』彼は考えをめぐらし、しかし躊躇った。
その魔力の強い者達はノメラではないのだ。どうも、余り自律的な思考をしておらず、言ってみればぼんやりしている。ハヤトはさらに詳しく彼らを検知した。
『こいつら、ロボトミー手術を受けているな』
暫く考えたハヤトは、基地の映像を見せながら、直卒隊指揮官の影山中尉に相談した。無論ジャガートをはじめ隊員は聞いている。ハヤトの乗った“らいでん”のその護衛編隊は基地の上空50㎞でゆっくりした速度で近づいている。
「長瀬中尉、状況は掴めた。この基地に空間ゲートが形成され、ここからノメラの隊が出発したのは間違いないようだ。どうも、そのゲートの形成に必要な魔力はロボトミー手術を受けたミモザラ人が提供しているようだ。
彼等はいわばノメラの犠牲者であるが、もし救出しても正常に戻る可能性は少ない。従って私の提案は、彼らも含めてあの基地を殲滅することだ。この機が積んでいる大口径レールガンと、各“しでん”のガンをありったけ撃ち込めば、ほぼあの基地を全滅させられるだろう」
長瀬はそれを聞いて即答した。ハヤトを含むこの小隊の軍としての指揮は影山が執ることになっている。とは言え、実質的にはハヤトの判断に従うようにとの命令が下っており、その判断が“ハヤトの安全を脅かすものでない限り”従うようにとされているのだ。従って、影山からすれば、ハヤトの今回の判断はその危険性を最小化するものであるので、全く異議はなかった。
「それで行きましょう。我が地球の容赦ないスタンスをノメラというとんでもない存在に知らしめるためにも最適です。あそこは、軍用の車両や、航空機の存在からも軍事基地であることは歴然としています。ですから、我々が今から攻撃するという宣言をするべきです」
彼らは今考えているような航空攻撃等を行う際には、地球同盟軍としての宣言を行うという命令を受けている。
パイロットの西田が長瀬の言葉に頷いて、しゃべり始める。
「了解。しかし、どうやら、我々を検知したようだぞ。ジェット機が離陸して上昇してくるが、50㎞の高度の我々の高度には上がれないだろう。では放送する。
『こちら、地球同盟軍、ミモザラ共和国を支配するノメラに対して以下宣言する。ザラムム帝国の要請に応じて、ザラムム帝国への侵攻とその市民への残虐行為を防止するため。眼下の基地を攻撃する。以上』」次いで彼は僚機に通信する。
「列機の“しでん”隊、今から下方の基地、仮にA基地と称する、A基地の建物および軍事施設を破壊せよ。適宜射撃を開始せよ、降下加速3G!」
“らいでん”改211は仮称A基地へほとんど垂直に降下を始め、直ちに1基のみ積んでいる口径150mmのレールガンを発射する。列機も、重力加速度を含めて4G で降下しながら、それぞれレールガンの連続発射を始める。
ミモザラ共和国首都にあるミモザ基地で、ザラムム帝国侵攻部隊の送り出し責任者モーマラ・アジマ少将は、軍の重鎮たちから吊し上げを食っていた。
「して、貴様は第2大隊の侵攻は失敗したというのだな。なぜだ?」
共和国軍の参謀総長、ギララムラが剃り上げた頭の冷酷な顔をゆがめて冷静に聞く。
「はい、先ほど申したように、航空機による爆撃を受けているという念話を、能力の強い者10人以上から受け取っております。その後、かれらの悲鳴にあたる念話と共にそれは途切れていますので、送り込んだ大隊は全滅したのではないかと思います。
最初から、これらの航空機が待ち構えていたとは考えられないので、この原因としてはゲートが形成されたのを検知されて、集まってきたとしか考えられません。ご存知のように、空間ゲートを形成するには、多量の魔力を必要とします。何らかの形でそのチキュウという世界の者達は魔力を検出できるのだと思います」アジマ少将の答えにギララムラ参謀総長は、考えながら応じる。
「うむ。魔力の大量の発散を検知して、それを目掛けて飛んできたと?」しかし、航空軍司令官のイザヤム・ベンダン中将が激しく否定する。
「ばかな。わが軍でも魔力の計器による感知はできるので、電波と同様にレーダーの形で検知はできるかもしれん。しかし、感知に応じて、たかだか数分の時間で、戦闘機を送り込んでくるというのは、不可能だろう」
「いや、彼らの戦闘機に関しては送り込んでいるスパイが探ったところでは、とんでもない性能らしい。我々ような質量を噴出して反力で飛ぶというものでなく、重力を操るらしい。加速は5G以上であり、空中で停止することも自由自在らしい。
その戦闘機の相当な数がジュラムス市に来ていたことは確認されている。だから、いまアジマ少将の言ったようなことは考えられる。いや、それどころかこの基地も彼らの機体の性能からすれば、簡単に攻撃できる……」参謀長が言いかけた時、どたどたと部屋に駆け寄る音がして、ドアが慌ただしいノックと共に引き明けられる。
「お知らせします。地球同盟軍というものから、この基地を攻撃するとの宣言がありました!」若い将校が叫ぶのに、参謀長が返す。
「レーダーは敵を検知しているのか?」
「はい、超高空、多分高さ50㎞ぐらいだと思いますが………」将校が言いかけた時、ズーンと重い振動と音、続いてド、ド、ドンと殆ど一緒になった音と振動があり、部屋が揺れる。
ほぼ50㎞の高空から撃ち込まれた150mmの秒速10㎞の砲弾は、地中に潜り込んでその運動量を熱に変えて様々な成分を蒸散させた結果、急激な体積膨張、すなわち爆発を起こした。それに秒速7㎞の10発の25mm砲弾が続き、規模は小さいが同様な爆発を起こす。
1秒に1発、それが地上に向かって降下する40秒足らずの間に30発が発射される。その爆発によって、燃料タンク、アンテナの集中するコントロールセンター、事務所ビル、駐機している航空機、宿舎ビルあらゆるものが爆発を繰り返す。
加えて、ハヤトは地上の様子を検知して、場合によって火魔法で焼き尽くす。 “らいでん”1機と“しでん”10機が地上1㎞に降りた時には、すでにその基地は爆発を繰り返し、もくもくと煙の立ち上る廃墟になっており、目立つ本部ビルの会議室に集まっていた軍の重鎮たちは全滅した。