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気象庁奮闘す!

読んで頂いてありがとうございます。

今回は閑話的な話です。

 地球における温暖化についての問題について触れておきたい。

 従来、地球温暖化については、二酸化炭素濃度の上昇による温室化効果が原因とされてきた。それに対する解決策として、原子力発電が一つの解決策としてあるのは確かであるが、その危険性も同じように指摘されてきた。


 その最大の欠点は、原子力発電に伴って発生する放射能廃棄物を処理する技術が発見・開発されていないということである。つまり、発生する放射能廃棄物は害のないように密閉して隔離するしか方法がない。つまり、核分裂による原子力利用は、長期間続けられないという宿命を持つということだ。

 しかしながら、一方で化石エネルギーの利用は、まさに大気中の二酸化炭素の上昇を招いているし、その資源はいずれにせよ有限である。太陽光・風力などの自然エネルギー利用は資源である光、風の密度が低く、安定性も低くコストが高い。


 コストが高いということは、結局その構成部品の製作等に二酸化炭素を多量に排出しているわけでトータルとして解決策になっていない。また水力は有力だが、そのキャパシティが知れている。

 地球人全員が豊かになった将来の時代を考えれば、原子力利用しか道はないという意見は根強くある。ただし、その原子力とは核分裂電子はなく、核融合であるが。だから、一時燃え上がった怪しげな常温核融合があれほどに注目を集めたのだ。


 核融合は実際に、太陽の中で起きている。水素原子4つが融合してヘリウムになる時、水素原子4つよりヘリウムの質量は小さく、その質量が減った部分がエネルギーに変わるのだ。太陽の中では、最終的に鉄などの重い元素への融合まで進み、そのあたりになると超新星になって爆発するか、ガス巨星になってその寿命を終えると言われる。


 AE発電は銅シリンダーを励起して、最終的に質量を電子の形に変えるものだ。この場合、1gの銅原子が電力に変換すると3x10^7kWhの電力が発生するのだ。そして、これはシリンダーを励起して電力を吐き出させ、再度励起するという工程を繰り返す。すなわちバッチ式であるが、これを複数で繰り返すことで連続の出力を得ている。


 その間、燃料として銅シリンダーが徐々に食われていくので、ある程度使ったシリンダーは交換して、そのシリンダーは再度溶解されて再生される。この過程で熱が発生するが、精々500℃程度であり、放射能は発生しない。


 このシステムの欠点は、小規模なものが出来にくいことで、現状では発電出力100万㎾を最小としている。その代わりに同じ原理のAEバッテリーがあって、その大出力のものは10万kW 級のものもある。ただ、無論バッテリーである以上、励起炉で励起(充電)の必要がある。


 このシステムは、処方を受けて知力を増強された日本人の科学者と技術者によって開発されて、2027年には日本の電力システムは、95%程度がこのAE励起方式に変換された。一部発電で残ったのは、鉱石から製鉄する場合など、コークスを用いた製鉄の効率が良いため使われており、その大量の排熱を発電に使っている。


 このように、産業部分の製造工程上で排熱による発電が5%程度残っているわけだ。さらには二酸化炭素排出という観点から言うと、産業による排出が我が国の40%を占め、さらにその40%を製鉄のみで占めている。また、焼却を必要とする廃棄物等の燃焼による発生もあるから、日本においてAE発電に代えられるものは殆どすべて代替した現在でも、二酸化炭素の削減は2015年当時の50%程度にとどまっている。


 無論これは、AE発電の代替が最も進んでいる日本の場合であって、最も遅れている中国にあっては、現在ようやくAE発電所の稼働が始まった段階である。そうは言っても、日本及びアメリカの削減がそれなりに効いて、2027年の2酸化炭素の発生量は2015年比の12%減、さらに2035年には40%減程度になると予想されている。


 このように、二酸化炭素の排出量は比較的早く減少していくが、大気中からの減少はそれより緩やかになるため、気象変動については今後50年程度続くとされている。だから、これからも風水害・干害の頻発は続くことになる。


 それは2024年の11月の気象研究所の会議の席であった。

 有朋雅子主任気象解析班チーフ、理学博士32歳が出席者18名を見渡して言い始めた。


「ええと、すこし突飛な話であることは承知しています。しかし、私ども研究所でも意見が一致しているように、近年の台風を始めとする前線の巨大化の現象は明らかに気象変動の一環であり、今のAE発電の普及によっても今後もそれが当分は続くということです。

 私どもはそれを予報して、人々に避難を促すのみではいけないと思うのです」


「ふーん、そうは言うが出来るだけ正確に予報するのが我々の役割りではないかな?それに、それだけではいけないというのはどういう意味だ?」

 副所長の村木博人が返すが、横に座っている神谷稔所長は面白そうに聞いている。有朋はすでに今日の話の件は所長には話をしているのだ。


「はい、私が言いたいのは、我々というか日本の科学界は、すでに気候をあやつる手法を入手しているのです。それは重力エンジンです。つまり、重力エンジンは物質を介在することなく力の腕を伸ばせるのです。

 例えば台風について言えば、これは気圧の差、蒸発、温度差による密度の差、など様々な原因による力が台風の渦に及ぼした結果が、その進路を決めるわけです。

 だから、少なくとも台風に重力エンジンによる力を及ぼして進路を変える程度のことはできます。

 うまくすれば、台風を発生した時に散らすこともできるかもしれません。また前線であっても、おなじように人の住む場所に害のないように操ることができるはずです」


 有朋のこの言葉に、出席者の半分は博士号を持っていてそれなりの研究者であるだけに、愕然とした顔をして考え込む。彼らも、無論最近続々と新技術の発表をしている新技術開発研究所の成果は知っている。


 そしてそれが、“処方”による知力増強の結果であることを、自らも処方を受けているだけによく承知している。その聞いている話の中に確かに重力エンジンの話もあり、すでにそれを装備した“航空機”が実用化されている。


 出席者が考え込んで声が上がらない内に有朋が続ける。

「実は、重力エンジン関係の開発グループの責任者は仁科博士ですが、そのグループに私の同級生が加わっています。私は、重力エンジンの力場を使って、一定の年齢上の人の魔法の処方を行っているという話を聞いて、彼女に会いに名古屋に行ってきました。

 その結果、思ったとおりで重力エンジンはいわば力場を発生できて、それは集束して局部的に力を及ぼすことも、分散させて広範囲に弱い力を及ぼすこともできるそうです。

 しかし、同級生の斎藤美智子の話では気候に影響を及ぼす程度の力を出すには、バッテリー駆動では無理だろうということです。だから、AE励起発電機を積んだ大型空中船を新たに建造する必要があるといいます」


「うん、私も有朋君からこの話を聞いて、これはやってみるべきだと思った。AE励起発電機は船舶というか大型航空機に積めるように小型化は進められており、すでに軍用として製造は始まっているらしい。

 だから、政府の了解を得て、是非気象庁として気象コントロールのために大型航空船を一隻確保したいと思っている。気象については、10年程前から殆ど正確な予報が出来ているが、最近は陽電子頭脳の開発でさらに精度が上がっている。

 君たちも、台風の上空に行って、その渦にどのように力をかければ、進路がどのようになるとか、また力をかけることで、渦を弱めるまたは解くかなどのシミュレーションはできるだろう?」話を引き取った神谷所長の言葉に研究員の面々は力強く頷く。


「そう、できますね。たしかに、そういう船があれば」村木副所長が代表して答える。


「私は君たちの賛同を得て、桐田長官、さらに皆川国交大臣を説いてその船、そうだね。『気象災害防止号』-Weather Disaster Protector 略してWDP号の建造予算をもぎ取ろう。むろん、我々も新技術開発研究所の協力を得て、その重力エンジンの特性を把握した上でその操作のための理論と実施手法を確立する必要がある。

 近年の気象災害はまことにしゃれにならない。多分年間の被害額は1兆円になるから、そのWDP号の建造費と建造費がいくらになるか分からんが、いずれにせよ十分ペイするだろう。それに……」

 神谷は一旦言葉を切って、目を輝かせて彼を見る皆を見渡し続ける。


「こういう可能性もある。知っての通り、地震については地盤の力学的な動きとそれに伴う電磁的な関係が近年把握できるようになって、その予知についてはほぼ確実にできるようになった。

 その知見を活かせば、その重力エンジンによる力場で地盤の急激な動きを制御して緩やかにできる可能性がある。つまり、地震を防止できるのではないかと私は思う」


「ええ!そ、そんな。し、しかし、地盤中に力を及ぼすことができれば、確かに可能かもしれない」夢中で立ち上がって、最初叫び、しかし腕を組んで呟きながら立ちすくむのは、地震研究チームの西川チーフだ。それに、神谷が笑って言う。


「まあ、西川君座ってくれ。我々は今、物質の介在なしに他に力を及ぼす方法を手に入れたのだ。この活用は、それこそ災害のような極端な事象のみならず、場合によって干害を防ぐとかの気象の操作にも使えるかもしれない。

 これは、もちろん、過去の先輩たちを含む我々の努力、さらには近年の観測機器の発達のコンピュータの発達によって、気象のほぼあらゆる事象の因果関係が解明されたからこういうことが言えるのだ。いずれにせよ、台風のような極端な事象のコントロールはコースを変える程度の限定的なことであれば、確実にできる。

 私は、我々のこの要望はまず認められると思う。皆!賛成してくれるかな?」


「「「はい!もちろん!」」」出席者全員の熱烈な賛成であった。


 その賛成を受けて、神谷所長は、提案者の有朋と共に、研究者出身の気象庁長官である桐田茂に話を持っていった。無論、桐田長官は直ぐに賛同し、すぐさま国交省の皆川大臣に連絡をとり、折よくスケジュールが空いていた大臣に会いに行っている。


「それで、暴風雨を防止できる可能性があるというのだね。そのために、重力エンジン駆動の大型船が欲しいということだな」お互いの紹介の後、大臣からの問いに、大臣室の会議机に大臣に向かって座った桐田、神谷、有朋の内で、有朋が上司に促されて回答する。


「はい、現在重力エンジン駆動で、AE励起発電機を積んだ大型船の建造が進んでいるとか。重力エンジンの使い方については、聞いている限りでは少し改造の必要はあるようです。しかし、それがあれば、確実に台風の進路を逸らすくらいのことはできますし、近年しばしば大規模な豪雨を振らせている前線の位置をずらすくらいのことは確実にできます。

 つまり、過去5年において平均1兆円の被害を与えている風水害を防止することができます」


 続いて神谷が言う。

「今はまだ可能性の話ですが、さらに大雨、干害を防ぐための雨のコントロールができる可能性もあります。また、すでに東南海トラフに海洋型地震はすでに2023年に起きましたが、直下型の地震もほぼ予測できるようになった今、地震の防止もこの技術の延長でできる可能性があります。我々はどの程度の予算が必要かは掴んでいないので、無責任ではありますがいかがでしょうか」


 皆川は腕を組んでそれを聞いていたが、腕を説いておもむろに話し始めた。

「うん、それを聞いて、日本新世紀会の幹事長の水田さんに聞いてみた。ちょっと変則だけど、省庁を横断した話と技術開発に関しては彼が一番詳しいののだよね」


 苦笑して一旦話を切ってさらに続ける。

「それで、現在確かに君らが言うようなことは、重力エンジンにはできるだろうと言っている。しかし、無論どのようにコントロールするするかは、きちんと確立されていなくてはならんがね」目で聞く大臣に気象庁の3人は頷く。


「また、重力エンジンを積んで、AE励起発電機を積んだ船は建造中だがこれは自衛艦だ。

 ただ、1隻は試験艦であり、他に自衛艦が8隻着工している。試験艦に武装はなく半年もすれば完成する。だから、試験運転を終えればそれを使うのはありのようだね。予算的には、400億円位らしいし、これは政府の技術開発費から支出している。

 知っての通り、政府は2年前に技術開発費として、3兆円の予算を組んだからね。だから、気象庁が後でもらい受けて、君らが都合の良いように改造しても100億円はかからんだろう。まあ、君らの言うような効果が得られるのだったら反対する者はいないさ。

 来年の台風シーズンまでには何とかしたいところだね。その実験艦は新技術開発研究所と防衛省の管轄なので、研究所を管轄する経産省と文科省には私から話をしておく。さらに首相にも話をして優先度を上げてもらおう」


「そうですか。それは有難い。実験艦の話はそう言えばありましたね」大臣の話を受けて桐田が笑顔を浮かべて言う。


「うん、私も大いに期待しているよ。気象による災害を防げる、さらには地震を防止できるようになれば、莫大なこれらの防止のための予算が浮くわけだ。なにより、均せば年間千人を越えるような犠牲者を出さなくて済むのだ。君らの功績は歴史に残るものになるよ。私も管轄する一人として誇りに思うよ」


 大臣の言葉の通り、翌2025年、WDP号と名付けられた気象庁の専用艦は、見事にその期待された役割を果たした。それは、日本列島に迫るもののみならず、フィリピン諸島、大陸に近づく台風を人々の被害の出ないようにコースを逸らすか、またはその威力を弱めた。


 WDP号はその卓越した加速性能を生かして、日本のみならず、米国、インド、スリランカ、インドネシアなどの要請に応じて太平洋のみならず大西洋とインド洋で暴風雨の被害の防止に従事した。


 地震防止については容易でなかったが、何度もの弱めの地震による実験の結果、効果が確かめられて、2027年に長野で起きたはずのM7.5に達する直下型の地震を防止した。

 この防止法は、しかし地盤の割れ・変位を防ぐことはかなわずその過程を緩やかにするだけであるが、揺れがないということで大部分の被害は防げることは確かである。


 WDP号はその実績に鑑み、他に2艦が建造されて世界中を飛びまわって自然被害の防止に努めている。このことで、日本の気象研究所の声価は世界に高くなって、発案者の有朋博士はその後ノーベル賞と合体した世界科学大賞を受賞した。


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