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新地球の開発1

読んで頂いてありがとうございます。

 2027年8月に行われたこの会議に、アメリカ合衆国の代表であるアメリア・カーターは、世界一の経済大国であり、かつまた格差が最も大きい国である立場から、この新しい世界に対する期待を正直に述べた。


 確かに、処方による知力強化による新たな発明、さらにはハヤトの探査による資源発見によって、今後地球人類は全体に豊かになり、かつ飢え・資源の不足に悩まされることなく生き延びていくことは確かであろう。

 しかし、一つには他の様々な世界と繋がっていることが明らかになったことも原因で、とりわけ若者の間に閉塞感があることも事実である。さらには、皮肉なことにもう一つの要因として人々の知力が増強されたこともあると言っているわけである。


 つまり、知力の増強は人を有能にするが、またその野心も膨らませることになるということである。確かに、地球人類は今もっているテクノロジーと資源で、地球という世界のなかで生きていけるだろう。しかし、若者は単純にそれに満足できないということである。


 類似の新世界へ期待するという議論の後、議長である阿山がまとめた。

「皆さんの議論によって、新しい世界を活用することの大きな期待を強く感じました。従いまして、この会議ではその新世界の開発をどのように実行することが、いままでの議論に応えることになるかということをさらに論じるべきであろうと思います。

 地球は未だ200近くの国に分かれており、現状のところこの国境を無くす状況にはありません。しかし、この国々の枠組みを新世界に適用することは避けるべきだと思います。これは、はっきり言って力で決着をつける以外にまとまらないからであります」


 阿山が肩をすくめながら言葉を切るとくすくす笑いが広がっていく。

「これは、何人かの委員と話し合った上でのものですが、新世界の政府は一つにすることを提案します。つまり、この地球同盟が主導し人材も出して新政府を構成します。その政府が、入植の計画と実施を管理・コントロールするのです。

 また、実際の入植に当たっては、いきなり入植者を送り込むことはできません。どういう危険があるか、また現地でどういう物資が必要か、さらには現地で調達できる物資は何かなどの点を事前にクリヤーする必要があります。

 その点は、ご存知の通り2千人以上の学術研究者の調査団がすでに送り込まれており、その報告があと3ヶ月ほどでまとまる予定です。さらには、こうした調査の後に、入植者が入るに先立って、最低限の生活に必要なインフラを整える必要があります。

 従来の地球の新世界で行われたような無秩序な開発は許されないと考えていますから、そのインフラは、ある程度しっかりしたものになるでしょう。

 また、この調査団もそうだったのですが、現状で異世界への門をくぐって、カールルへ資材と人員を送り込むことは今のところ同盟軍のみがその能力を持っています。もっともこの点は、軍でなく地球同盟として、異世界へのゲートの建造に着手し、異世界へ渡ることのできる非武装の旅客・貨物船を量産の準備にかかっています。

 しかし、先ほど申し上げた旅客・貨物船の建造にはそれなりの時間を要します。だから、インフラ建設隊とその資材を送り込む段階までは、軍用の重力エンジン機を使うしかないでしょう。この会議で開発の方向の賛意を得次第、建設隊の募集等の準備にかかりたいと考えています。

 さて、ここで新世界の政府は単一という点の同意を得たいと思っていますが、同じく大きな事項の賛同も同じく得たいと思います。

 それは、新世界の土地の私有を認めないという点です。土地は個人・企業の財産の最も重要な要素であり、資本主義の根源であることは承知しています。しかしながら、新世界においてそれを認めると、将来においての不公平の源となります。

 一方で、自分の居住する土地の私有が出来ていないとすると、人はその土地に建物などに投資する気にはなれないでしょう。だから、現状では暫定的にこう考えています。それは、土地を新世界の政府から貸与されて建物など投資した場合には、その土地にはそれらを更新するだけの価格に相当する権利があるものとします

 したがって、仮に政府がその土地が必要なので収容する場合には、無論正当な理由が必要なのは当然として、代替する土地を供与し、そこにある財産を更新するだけの補償をするということです。まあ、この辺りは今現在においてそう決めても、新世界の政府及び国民がどう変えても我々には感知できません。

 ちなみに、新政府には莫大な資金が必要です。なぜなら、入植者を自分で資本を準備して来るもののみとした場合には、間違いなく今の世界の豊かな国の子弟、またはそうでない国のすでに財を持った者のみになります。

 ですから、いずれそれは返済を求めるとしても、当面は身一つで入植することも可能であるようにすべきです。その場合には政府は入植にあたり、必要な準備の費用を当面負担する必要があります。先ほど言ったのはその資金です。

 その資金を得るために、新政府の資産の源は惑星丸々ひとつです。土地そのもの、それから様々な資源、例えば淡水源、地下の鉱物資源、森林の木材他の植物資源などそれは莫大ですから、十分必要な資金は得られるでしょう。

 しかし、無論一定の金利を乗せた返済が必要ですから、新世界の政府は貸与する土地代、資源料金などを個人、法人から徴収して、所得税等の諸税が過大にならないようにすることになると思います。このようにして、貧しい若者であっても、新世界で家を持って地球にいた時よりもむしろ豊かに暮らせるようにしたいと考えています。

 いかがでしょう、新世界の原理原則として、新政府は当面この地球同盟が作る一つのみ、さらに当面は土地の私有は認めないという点で合意を得たいと思います」


 阿山は、議場を見渡して質問・意見を募った。

 単一の新世界政府という点は、すでにそういう議論は流布していたのと、地球にしても将来は単一の地球政府にせざるを得ないということから、反対意見はでなかった。しかし、土地の私有を認めないという点は異論が多かった。


 資本主義の国の人々にとっては認めがたい概念であるのと、入植者希望のものには最初に乗り込んで一獲千金を狙うという狙いのものが多かったためである。しかし、地球においても現在は、貧富の差が開きすぎて様々な弊害が起きており、現在はその是正に動いている。


 この点は、とりわけそういう意識の強かった日本において、日本新世紀会の提案で富の集中阻止に向かったのだ。日本において、これが可能であったのは、突出して発展している日本国籍を離脱しようとする富裕層は殆どでないという読みであった。

 従来グローバリゼーションの進展で、富裕層への税金負担が重い場合には、税の安い国や地域に逃げることが可能であったため、競って最高税率を下げてきた経緯があったが日本は違うということである。


 この見込みの下で、日本において最初に魔法能力の処方が始まり、突出した技術と経済の発展が始まったことから、その経済発展の過程でその果実を富裕層が独占しないように、様々な規制をかけたのである。

 合わせて、最高税率の引き上げ、相続税の引き上げ、労働分配率を引き上げざるを得ない企業税法の改定ま、などいわば賢くなった国民の理解の下で急速に進めていった。


 また、国民背番号制、急速に進んたコンピュータとそれを利用したAIによって、事実上脱税・様々な抜け道を使った節税も系統的な規則の見直しによって不可能になっている。こうした施策によって日本にいる富裕層は諸外国に比べ、確実に税金は多くとられるようになったが、実際に国籍を離脱するものは出たが、大勢に影響はなかった。


 さらには、知力が増強された人々は、確かに自分に自信を持ってきたこともあってか、過去程に資産を積み上げるということにこだわらなくなっている。無論これは、経済発展著しく、所得の公平さが進んでいる日本の普通の給与所得者が、その給与で不自由なく子弟に教育を受けさせ、それなりに豊かに暮らしていけるからでもある。


 このシステムは、日本の成功例を見て、台湾、東南アジア、アフリカ、欧州など世界に伝播し始めている。こうした趨勢も、土地私有を認めないという方針が合意を得た理由であろう。

 こうして、新世界政府の2大原則が合意を得たところで、阿山は次に進んだ。


「2つの原則にご賛同有難うございます。では、最大の問題である入植者をどのように選ぶかという点の議論に移りたいと思います。

 すでに、新世界カールルへの入植を希望する人々が、どの程度いるかの調査はすでに行われております。その結果、抽出したサンプルのアンケート結果のAIによる処理の結果、現状で約10.5億人ということになります。

 これは、無論地球連盟に入っていない国も含まれており、家庭を持っている場合の子供を含めた人数であります」一旦切った阿山の言葉に、会場がどよめく。


「むろん、開発を行えば、地球とほぼおなじ生活圏の面積が確保できると考えられている、カールルにその程度の人数を収容することは可能です。しかしながら、こうなるとある程度大規模に入植を行う必要がありますから、最初のインフラ整備も大規模に行う必要があります。

 そうなると、最短で最初の本格入植は2030年になるでしょう。それから、さらにインフラを拡充しながら、食料・鉱業・工業製品の生産などを拡充していくとして、最も効率よく事業を進めても、10億を越える人口を住まわせるには20年はかかります。

 これは、新世界の開発のみで考えれば、時間を半分程度に短縮するすることは可能です。しかし、今現在全地球規模で主として開発途上国向けの経済開発のためのインフラ投資が行われており、このようなインフラ開発のみにあまり極端な負荷をかけると、その終了時の経済的な負のインパクトが大きすぎるということです。

 カールルのただ一つである大陸の面積は、ほぼ地球の陸地面積と同じです。しかし、これは大きく3つの大きな楕円の陸の塊が、陸橋で繋がっているという地形です。当面はその一つで最も住みやすいと考えられる陸塊の一つに住むことになるでしょう。

 それでも、10億人程度の人々には十分な広さがあります。

 さて、このカールルへの移住計画は、まず移住のために交通インフラ、異世界転移のゲート建設、資材運搬船・旅客船の建造等が必要です。さらに、先ほど申したように、初期の移住者のためにインフラ、道路、上下水道、電力、行政機能の諸施設、さらに個人のための住居等の建設が必要です。

 最初に作られる都市・集落は1千万人程度のものを考えていますから、その人数の人々が、続いて住む人々のためのインフラを建設していくのです。10億から11億の人々を20年で移住させるとすると、ピークは後半に出てくると思います。

 これは、優先する途上国の開発がピークを過ぎて、新世界の開発のピークを持ってきてインフラ開発の負荷の平準化をしようということです。現在も、地球全体の経済成長はすさまじいものですが、今後カールルの開発が自身で産みだされる資材で賄えるようになる15年程度後までその経済成長は続くでしょう。

 そういうことで、今考えているのは、移住を希望する人々は全員認めるということです。ただ、概ね20年に渡ってそれが行われるということで、その順番が問題ですね。また、20年の時間を要するということは、待っている途中であきらめる人も出るでしょうし、新たに希望する人も出るでしょう。

 ですから、最初のインフラの建設の目途がついた時点で全体の移住の枠組みを示して、最初の募集を行います。これは2次のインフラ建設の従事者とその家族に限りますが、規模としては1千万人規模です。その建設が進むにつれて一般の入植者を募集するということです。

 この際に考慮したいのは、途上国において盛んに進んでいるインフラ建設が無駄にならないようにしたいということです。つまり、完成してもすぐにカールルに移住するとか、移住して対象の人がいなかったということを避けたいということです」阿山が一旦言葉を切ると質問が出る。


「言われたいのは、途上国の人々の移住を優先したいということですか?」


「ええ、その通りです。つまり、途上国において家屋も含めて行われているインフラ開発は、生活環境の改善と共に経済成長を狙ってのものです。それは、借金によって進められているものですから、効率よく無駄なく進める必要があります。

 だから、その点は選択の余地はないと思っています。そうした人々はモチベーションも高いでしょうから」阿山は答え、さらに続ける。


「この地球始まって以来の大事業については、すでに地球同盟のためにもう1基の陽電子頭脳を用意しまして、計画の枠組みを策定中です。今日の議論の結果をインプットして計画の概略を示せるのは2ヵ月後ですから、その時点で地球同盟の総会を開いて、議決を取ります。

 さらに、総会での意見を汲んだうえで、来年1月には資金の確保とインフラ建設団の団員募集を始めたいと考えています」


 阿山が全体像を示して、全体の賛同を得た。さらに、その会議においてカールルを新地球と呼ぶことが提案されて、賛同を得て次回の総会で正式に決定した。


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