マダン解放のその後1
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西野少尉は、同僚の山路少尉及び三股少尉の2人と一緒に、マダン人の娘3人とデートだ。先日の空戦によって、サーダルタ側に勝ち目がないことが明らかになって以来、まずサーダルタ側の攻撃は考えられない状態になっている。
そうは言っても、他世界からの侵攻は考えられるので、一定の戦闘機と攻撃機は上空に上げている。山路たちは、今日交代制で休みをもらっているので、当初は世話をしてくれて、今は訓練生の立場の女性に声をかけて、3人ずつでジルルカン市を案内してもらおうということになったのだ。
女性達は、メリーナ、キララ、セミールナで、大学生の身分で休学の形で来ているらしい。当初は世話役ということで基地に来て、地球側のパイロットたちの世話に当たっていたが、彼女らも元々“しでん”戦闘機の訓練を受けるという含みだったようだ。
どうも、マダン人の最初の訓練生の千名の半分は女性らしく、この点はせいぜいその割合が3割程度の地球側より大きい。これはマダン人の男女は体格・体力的にも性格的にも男女の差は小さいことから、概ね社会的に男女の働きは同等らしい。
しかし、一緒に歩いているマダン人の女性達の体つきは、十分以上に女らしく仕草は優雅である。顔つきは全体に丸みを帯びており、大きなぱっちりした目、控えめな鼻、茶色っぽい柔らかそうな(実際の柔らかい)すこしカールした髪、さらに更に柔らかい毛に包まれたケモミミが違和感なくある。とりわけ西野は、その横を歩いている、大きくその制服が盛り上がっている胸と、背丈は拳一つ小さいメリーナを見ると、その完璧な女性らしさと可愛さに、彼の胸はドキドキが収まらない。
21歳の西野は、身長は178cmで体重75kgのがっちりしたスポーツマンタイプで、浅黒く精悍な顔つきである。実際彼は空手に有段者であり、身体強化の状態であると、身体強化のできない白人や黒人の巨人の対しても、10人位は軽く相手にできる。
彼は、明るく爽やかなナイスガイではあるが、ややごつすぎて日本においては若い女性に敬遠されがちであり、年齢=彼女いない歴になっている。しかし、彼の理想の彼女はラノベを映像化したケモミミの女性であり、その意味では日本において、もてていないのはさほど気にしていなかった。
その彼だから、マダンへのパイロット養成のための教官役の人員派遣のプロモーションビデオを見て、大きな衝撃を受けた。何とケモミミのかわいこちゃんが沢山、その中に確かにメリーナを始め、今日一緒の皆も入っていた。彼の応募の決心はその瞬間に決まった。そして、なんといってもほとんどのラノベ読者は日本人なので、同じ決心をした者は大部分が日本人パイロットだった。
かくして、200人の予定の教官役の枠はあっという間に埋まり、西野もその一員に選ばれたし、山路、三股もまた選ばれたケモナーである。山路は少し小柄で色の白い優男であるが、ラグビー選手の彼の動作は鋭敏で操縦の腕は3人の内でもピカ一である。
三股の身長は西野とおなじ程度であるが、やせ型であるが筋肉はしっかりついたテニスプレイヤーである。操縦の腕は西野よりやや劣るが、探知魔法が使えるので、撃墜数は西野より2機多い。
山路のパートナーとなって横を歩いているのは、キララであり、動作がひと際敏捷な彼女は彼より少し背は小さい程度で、少しやせ気味でその分余り丸っこくは見えない。少し高い鼻と目は切れ長であるが、ケモミミと調和してやはり可愛い。
三股の横にはセミールナ、3人の女性の中で最も大柄な彼女は、三股と5cm程度しか身長に差がない。ゆったりとした動作と丸っこく整った顔立ちの彼女は、可愛いというより美人と呼ぶべき部類だろう。
彼女らは、元々地球の重力エンジン機のパイロットに育てるべく選び抜かれたメンバーであり、それも最も初期に選抜されて決まった者達である。みな、この国の最高ランクのジルルカン大学の学生であって、学業及び運動能力においてトップクラスであるが故の選抜である。
彼女らは、現在はすでに基礎的なパイロットの訓練に入っており、西野達3人の指導も受けている。その中で、彼女等も自分たちをいつも熱い目で見ているパイロットの3人には気がついており、最初は少しキモイと思ったものである。
しかし、指導を受けるうちに、若い年齢に似合わあない幅広い知識と技能、それを裏打ちする高い知能、加えて超人的な身体能力を見て目を見張っていた。
さらに訓練の過程で、戦闘機や攻撃機を見せてもらい、その聞かされるとんでもない能力には信じがたい思いをしたし、地球人が使っている通信・制御システムの精緻かつ即応性に驚嘆している。
また一方、これほどのテクノロジーをあっけらかん見せる地球人の彼らに、いささか驚いてもいた。加えて、実際に見てどうなっているかは理解できても、自ら製作をするとなると及びもつかない自分たちの能力と工業基盤を思い、自嘲せざるを得なかった。
なお、彼らのコミュニケーションは各人の持っているスマホのような端末によって、英語〜マダン語または日本語〜マダン語の同時通訳によっている。しかし、西野達日本人は、その増強された知能によって、ケモミミの彼女との付き合いを目指して15日ほど後には、それほど不自由なくマダン語で会話ができるようになっていた。
こうした、地球人の持つテクノロジー及び、彼らの簡単に違う言語を身につけることのできる能力に、自分の能力に自信のあった彼女らも、聊かそれが揺らいでいたところだ。
またそれは、自分に好意を持っていることが明らかな、その異性への好意に変わっていった。さらに地球人と交流するうちに、地球人相互の知性としては、それほど差があるようには見られないが、身体的な能力は桁が違うものを見せるのが、西野や彼に似た人々(日本人)であることを、彼女らを含めマダン人は奇異に思っていた。
だから、西野が代表して彼女らに、休暇を利用してジルルカン市の案内を頼んだのには、その目的がデートであることを承知しながら喜んで応じたのだ。なお、基地から市内へは、ジルルカン市側がバスを定期的に走らせていた。
また、西野たちは現地支給の給料として、現地のアリージル帝国の貨幣である紙幣を与えられた。サーダルタ帝国は、通貨については自分たちのものを押し付けることはせずに、従来からの通貨をそのまま通用させている。税を取り上げる際には、彼らなりに測ったGDPの15%程度の生産物を取り上げる形で支払わせている。
アリージル帝国に限らず、マダンの世界の主要生産物、は穀物と様々な果物や広大な海の水産物を中心とする食料である。その世界の巨大さの割に人口が少なく、農業生産の技術が進んでいるマダンとしては、サーダルタ帝国の税は過酷というほどの大きな負担ではなかった。
一方で、地球側は現在臨時大使となったイマリルーナル公爵と様々な調整をしている。この中で今後交易をおこなっていくには、お互いの通貨のレートを決める必要があるが、現状のところ、地球の貨幣とアリージル帝国の通貨であるサダルとの交換レートは決められていない。
しかし、暫定的に地球防衛軍の駐留経費の、現地で支払いが必要な部分はサーダルタ帝国が負担することは決まっている。この中には、基地に滞在するようになった地球人パイロット及び管理要員に対する基地内の食事等については当然含まれる。だから、地球側の要員に対して、いわゆる小遣いとして現地通貨を月に5万円程度が支給されている。
なお、重力エンジン機は、ジェットエンジン機やレシプロエンジン機に比べるとメンテナンス部分は大幅に少ないが、それでも10機に1名程度のメカニックと電気技能工が必要なので、600人程の整備要員が別途“らいでん”の非武装版の輸送機に乗って戦闘機に2日遅れて来ていた。
つまり、西野達は前払いで支給された各々5百サダル(1サダルは100円程度と想定されている)を持ってきているのだ。それは、百サダル紙幣が4枚と1、5、10、50サダルが混じっているものであるが、西野がバスを待つ間、100サダル紙幣を示してメリーナに聞いた。
「メリーナ、これは、どの程度使えるものかな?」
「そうね。ジルルカンの普通の宿なら2日位は泊まれるかな。でも、地方に行くと宿は少し粗末になるけど4日くらいは大丈夫ね。また、昼食などだと一食で5サダル程度ね。夕食でそうね、この6人で食べてお酒も飲んでも50サダルはいかないな」
「だけど、あなた達が持っている50サダルはジルルカン市でも普通の市民の1月(25日で年間は15ヵ月)の給料を越えるわ。私の家でも父と兄が働いてその2倍程度よ」
キララがメリーナの話を引き取ってそのように言う。そのように言うキララは、平民の公務員の家の長女らしい。また、メリーナは男爵に相当する家の長女らしく、セミールナはその優雅な動作に似合って伯爵の家の長女らしい。
マダンの人々の出生率は比較的低く、大抵カップルが持つ子供は2人で、3人は少なく4人以上は非常に稀らしい。そのこともあって、過去において多くの人が死ぬ戦争は少なかったようだ。戦争の原因は人口圧力によることが多いことはすでに公理となっている。
やがて、バスがやって来るが、これはいわゆるボンネットバスだがまだ真新しい。西野達の他にもマダン人10人ほどが乗り込もうとしたが、発車間際にどやどやと地球人のパイロットや多分整備士たちがやってくる。
「よお、ニシノとヤマジにミマタ。いいなあ、可愛子ちゃんをつれて羨ましいぜ」中の金髪の一人が、彼等を見て3人のパイロットに声をかける。仲の良いアメリカ人の白人ボリス中尉だ。
「ああ、羨め。俺たちは市内を案内してもらうのだ。だけどお前たちも案内の美人を連れているじゃないか」三股が答えるが、確かに彼らアメリカ人5人に2人のマダン人の女性が混じっている
「うん、無理を言って案内を頼んだのだ。だけど、お前らのようにデートとは言えないな」
ボリスが苦笑して答えるが、彼らアメリカ人は、ラノベになじんでいるものは少数派なので、ケモミミに違和感を持つ者が多く西野達のようなマダン人女性への思いはない。
西野達は、2人かけのシートにお互いパートナー同士で座って、語り合いながら市内のバスセンターまでの10㎞余りを行く
「西野さん、あなたは学生だったのを志願して“しでん”戦闘機のパイロットになったのだそうね?」。メリーナが西野に聞き、彼が答える。
「うん、大学の2年生だったけど、サーダルタ帝国の侵攻が迫ってきて、僕の国の日本でとりあえず戦闘機の大増産とパイロットの大量養成をしたんだよ。志願すれば、大学は休学だけどまた帰って卒業は保証するとのことだったしね。
それに、地球の危機だったもの、どうのこうのと言っていられなかった。ところで、僕の名前は西野浩二で、西野はファミリーネームだからメリーナはコウジと呼んで欲しいな」
「コ、コウジね。分かったわ。ちなみに私の名前はメリーナ・ジズ・マーカランよ。一応貴族だから、ファミリーネームのマーカランに中間名もあるわ。私はメリーナのままよね?」
西野は「あ、ああ。そうだね。メリーナ」そう言って頷く。
「ところで、コウジの国には貴族はいないようね。それで大学に行けるのはどのくらいの割合なの?」メリーナの質問に西野は答える。
「ああ、今は50%くらいかな。でも魔法の処方が始まって以来、教育も加速されて今の大学の講義の進度はものすごく早い。大学の4年間で学ぶ内容はかっての2年の修士、3年の博士課程を加えた内容を越えているよ」
「50%?私たちは10%程度だから高いわね。私たちの大学は、一応実力制度だけど、やはし教育に金をかけている貴族が半分程度、平民のごく優秀な者が半分程度よね」メリーナは答え、続けて聞く。
「ところで、魔法の処方ってちょくちょく聞くのだけど、知力を伸ばすことが出来るらしいわね。それに、ハヤトさんという人がすごい魔法使いだって、聞いているわ。まだ会っていないけど」
「ああ、魔法の処方を僕は7年程前に受けたけれど、僕は魔力が結構強かったために知力増強も身体強化の効果もかなり高かった。地球はマナの濃度が低いので弱いけれど魔法もある程度使えるよ。その魔法を地球に持ち込んだのはハヤトさんだ」
「ええ!知力増加と身体強化って、それらはどの程度効果があるの?」
「僕の場合は知力の上昇は60%弱だから結構なものだよ。身体強化は2倍に近いよ」
「いいなあ。私達、マダン人はどうだろう?」
「うん、地球でも僕たち日本人は特別なんだよ。君らは地球の有色人と同じくらいだから、補助器がいるけれど知力増強はできるよ。身体強化は人によるかな」
「そうなの!やってほしいなあ」メリーナが夢中で言うのに西野が付けくわえる。
「ハヤトさんは、マダンの人々にはやるべきという意見だ。処方の創始者だけあって、基本は彼の意見が最も重視されるよ。ただ、偵察隊の行動になるので、地球の同意を一応取り付けようということで、いま連絡をとっているはずだ」
「そうなの、楽しみだわ。実現すると良いわね」
そのような話をするうちに、バスは市内に入り欧州を思わせる街路を走る。バスのエンジン音は大きいが、動きは滑らかであり、道路の舗装も良好で大きな振動は感じない。
その街路は主要街路であろうが、片道2車線程度の広さであるが、その広さに比して通行量は少ない。とりわけ、乗用車に当たる車両が少なく、バイクが多く、次いでトラックやバスであった。それは、あたかもかっての地球の途上国を思わせる光景であるが、その割に重厚な街なみが不釣り合いであった。
やがて、バスは中央バスターミナルに到着して、人々がごったがえす中に3つのカップルは巻き込まれることになった。この混雑も200万都市の主要交通手段の中央駅と考えれば当然であろう。