表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
125/180

マダンの解放5

読んで頂いてありがとうございます。

 ダラス司令官は、キルマールン総督の実質的な降伏の言葉を聞いて聊か驚いたが、論理的にはそういう回答もありうるとは思っていた。


 すでに、地球側はマダンの制空権は成層圏を含めて完全に取っている。

 確かに、戦闘機の数はサーダルタ帝国側が1.5倍ほど多いが、彼らの動きを見ていると明らかに個々の機の管制がされていない。秒速1㎞を超える速度の戦闘において、完全な母艦からのAIの補助を受けた管制を受けている地球側の戦闘機と、おそらく精々編隊ごとの管制を受けているレベルのサーダルタ帝国側では、性能が同等としても数の優位が少なくとの3倍はないと一方的な虐殺だ。


 その上に、地球側は成層圏も使えるので、少し不利になれば逃げ込める一方で、サーダルタ側の高度は20㎞程度が限度のようだ。従って、レールガンが主要兵器でである地球側は安全な高度から命中率は落ちるが一方的に攻撃も可能だ。


 こうしたことから、地球側が5千機の戦闘機をマダンに持ち込んだ段階で、サーダルタ側がよほど画期的な新兵器でも持っていない限りすでに勝負はついている。地球側の唯一の懸念は空中での戦闘に伴うマダンの地元への被害のみである。


 その意味では総督からこの話があったということは、サーダルタ帝国の軍の幹部は論理的な思考ができるということを意味する。ダラス将軍は一瞬考え直ぐに回答した。


「よろしい、貴君の勇気ある決断を讃えたい。地球で捕虜になった君たちの人員の扱いも一緒であるが、我々は戦いを挑んで来ない者達を傷つける意図はない。

 基本的には戦闘をすることなく退去するのであれば退去を認めるが、問題は君たちには異世界を渡ることのできる母艦がすでにない。その点はどうするのか?」


「基本的には、マダンに居る人員である約7万9千人の人員を、隣接の世界であるギームラスに移送するには、ガリヤーク母艦と同じ大きさの非武装の輸送船を使う。この輸送船の収容人数が1万名なので8隻または1隻が8往復することが必要である。

 ただ、その輸送船は無論このマダンにはないし、隣接のカメラマームにもあるかどうか疑問だ。それを呼び寄せるので、その通過と我が人員を集めてその輸送船へ乗船させることを認めて欲しい」

 キルマールン総督が答える。


「どうやって、呼び寄せるのか?」


「小型の異世界の連絡艇があり、それで輸送艦呼び寄せの依頼を行う」

 マダン司令官の質問への総督の答えだが、ダラスは躊躇した。


「隣接世界への連絡は待って欲しい、内部で少し協議したい」


「その点は、隣接のカメラマームからの反攻を懸念しているのだと思うが、すでにカメラマーム総督府はマダンの戦況が不利なのは承知している。すでに数度連絡を取らせたからな。また、カメラマームにこちらに攻め込む十分な戦力はない。

 それに、帝国艦隊総司令部から、当面カメラマーム経由の反攻はないと通知があっている。よほど、地球での戦力の大量の喪失が深刻に受け止められているようだな」


 総督の言葉にダラス司令官は応じる。

「うむ、状況は承知した。ではすこし待って欲しい」


 話が一旦途切れている際に、総督府軍副司令官のミワーミル中将が抗議して言う。

「総督閣下、そのように降伏して逃げ出すなどとの協議をするのは時期尚早ではないでしょうか」


「しかし、君も現状において我々の出来ることは、地元の住民を人質に、時間を引き延ばすことと、あとは相手に出来るだけの損害を与えて全滅するしかない、というのは認めるだろう?」


 総督の言葉に、副司令官は言葉に詰まりながら答える。

「え、ええ。ただ、今朝のカメラマームへの連絡で、増援がないとは限りません」

 彼らの隣接世界との通信方法は、異世界転移装置を持つサカン1号を上空にあげてそこから隣接のカメラマームに無線または念話連絡しているのである。


「いや、それ以前の連絡で総司令部からの通達では、要するに戦力の逐次投入はしないということだ。チキュウにおいては、極めて大規模な戦力を集めて3度も侵攻したが叩き返されている。連絡艇での通信では、あと15日ほどかければ、カメラマームを経由しての戦力は母艦で50隻程度集められるという。

 しかし、その程度では今この世界にいるチキュウの戦力を押し返すことはできんだろう。確かに、母艦の数を含めた戦力自体は、我が帝国はチキュウを上回っているだろう。しかし、わが帝国はほぼ全力を尽くしたが、彼らの世界を征服することができなかった。

 また、この世界においても、彼らの“偵察隊”に対して圧倒的に優勢な戦力を持っていながら、それを有効に使えずに補給を許して必敗の態勢にある。

 この状態において、私の判断は、帝国はこれ以上チキュウと争うべきでないということだ。つまり、彼らの司令官のいう和平を受け入れるべきだと思う。わが帝国は帝国本国を除いて12の世界を支配している。そのうちの2つは、知的生物がいなかった世界であり、わが国民が植民した世界だから、10の異世界の異民族を支配していることになる。

 私が把握している報告書によると、この異民族支配によって得られる税によってわ帝国は利益を得ていることになっている。しかし、多数の母艦と戦闘機を中心とした膨大な軍の経費の多分2/3はこれら支配している異世界のためのものであり、その経費を含めると大きな赤字である。

 それと、マダンで感じているとは思うが、我々は比較的善政を布いていると思うものの、間違いなく地元のマダン人から嫌われ憎まれている。結局、我々は持ち出しで他の世界を支配して、かつ憎まれているのだよ。

 チキュウと和平を結んだ場合には、彼等はその住民が望めば解放すると言っているので、我が国民の植民した世界は、そのまま帝国に残るだろう。あと2つ、キララムとミズラーヌは住民の知能の低さから言えば、帝国に留まる可能性があるが、あの2つの世界こそ独立して欲しい。帝国に抱えるメリットはないものな。

 要するに、『利』で考えれば彼らの申し出を受けた方が得なのだが、残るは大帝国の主であるというプライドだな」


 総督はそう言い、副司令官が応じる。

「そうなのですよ。私も閣下の言われることは感じてきました。しかし、大帝国の支配層の一員であるというこの思いはなかなか捨てきれないのです」この言葉に総督は応じる。


「うむ。私とてそうだ。しかし、わが帝国は勝てない相手の世界に侵攻してしまった。彼らチキュウ人は、当然今後はその恐れを取り除こうとするだろう。その試みの最初がこの偵察隊をこのマダンに送り込んで来たのだ。

 偵察隊と言っても、それなりに戦力を揃えていたこのマダンの防衛体制を破るほどのものであったがね。さらに、彼等は我々という潜在侵略者の存在を知った今、全力で戦力増強に励んでいるだろう。

 私が怖いのは、彼らの異様な技術進歩の速さだ。100年前このマダンを我々が征服したころは、彼らのテクノロジーはマダンの土着民より低かったのだ。さらに、我々を圧倒しているあの飛行技術、超強力なガンはどうもここ数年のうちに現れている。

 また、多分彼らは、異世界転移装置は我が帝国のものをコピーしたかそれより捕獲したものを使っているのだろう。つまり、10年前に我々が地球に侵攻していれば、マダンと同様何の問題もなく征服できていただろう。とは言っても、すでにことは起きたのだ。

 間違いなく、彼等は我が帝国をあの司令官が言ったようにするために追い詰めるだろうし、100年の間殆ど技術的な進歩のなかった我々帝国は、無念ながらそれを食い止めることはできないだろう。そして、そのために大きな物的・人的損害を受けるだろう。

 もし、チキュウ人が我々のような、相手を物理的な支配下に置こうするする民であれば、私も真剣に抵抗を考える。しかし、どうも彼らはお互い同士の激烈かつ残虐な争いを経てそういうことをしないということにしたらしい。

 まだ、彼等は一つのまとまっておらず100以上の国に分かれているらしいが、どうもその代表のいくつかがこのマダンに来ている軍の構成員らしい。たぶん、そうした寄せ集めだから尚更きれいごとを言うのだろうな。

 だから、少なくとの彼らの責任者がそういうことを言うというのであれば、戦いで大きな被害を受けて強制されるよりは、彼らのいう和平を受け入れるべきと私は思うがね」


「そうですね。論理的な帰結はそうなりますよね。ただ、部下には血の気の多いものも多くいますから、なかなかおとなしく総督が言われることを受け入れられないでしょうな」


 副司令官が言い、サイルンタ大佐も同意する

「私も相当な数の士官及び兵士が反発すると思います。しかし、私は総督の言われることは正しいと思いますし、ぜひ犠牲なしで和平を達成したいですね。その意味では、このマダンで無事に無血の撤退を成し遂げたいと思っています」


 そのように総督府で話し合っているうちに、偵察隊旗艦“ありあけ”でも話し合いがなされていた。これには“ありあけ”の乗組員のみならず葛西副司令官を含む“むつ”などの母艦乗員も参加するテレビ会議になっている。ダラス司令官が口火を切る。


「そのように、サーダルタ帝国側から自発的撤退の申し入れがされたが、そのためにはまず隣接の世界カメラマームへの連絡を認め、さらに彼らが言うガリヤーク母艦と同じ大きさの輸送船を受け入れる必要がある。加えて彼らの8万人近くの要員が輸送船に乗り込み、去っていくのを見送ることになるわけだな。

 問題は隣接世界への連絡を認めると、その連絡によって反攻がある可能性があるということだ。さらに、敵の8万もの人員の移送には時間を要するが、その間に同様に反攻がある可能性があるということだ」この言葉に対して、副司令官の葛西中将が話し始める。


「なるほど、帝国側から自発的撤退とは、地球でまとめられた彼らのメンタリティからすると意外だったですね。しかし、我々の方針が戦争の泥沼化を避けて早期和平を目指すということからすれば望ましい話です。

 まず、隣接世界のカメラマームですか、その世界へ彼らの連絡艇が無線等で連絡するかまたは入っていくか。情報を与える点は確かに危ういですが、我々は転移して来るガリヤーク母艦の迎撃には訓練を積んでいます。

 もっとも母艦の迎撃能力を持つのは、“らいでん”あるいはコメットのみですので、これらが現在の32機ではすこし心細いですね。アナザ地区に十分な機体はあったはずですから地球から50機ほど呼び寄せましょう。それで、攻撃機を25機と、全体の半数1千機程度の戦闘機を常時遊弋させておけばまず大丈夫でしょう。

 また、地球では日本で作っていた新造母艦の試運転が終わったようなので、今の4隻に加えてあと4隻をマダンに派遣するようにお願いしましょう。それと失われた戦闘機の補充をしておけば、成層圏において常時母艦8隻、戦闘機640機、攻撃機64機が使えるようになるわけです。

 偵察隊がずいぶん戦力を拡充することになりますが、今話が出ている流れで帝国との和平が達成できる可能性がある状況ですから問題ないでしょう」


 葛西副司令官の言葉にブレイン参謀長が続く。

「ええ、もしカメラマームから反抗があっても、それだけの兵力があれば大丈夫でしょう。ただ、もし本当にそれなりの勢力の反攻があった時は地上へのある程度の被害は避けられないので好ましくはないですね。

 それから、サーダルタ帝国側にもマダン総督という高位のカウンターパートが得られたことは有難いことです。当然、彼に和平交渉を帝国政府に持ち込んでもらう訳でしょう?」


「そうだ、それは頼むつもりだ。彼も自分の立場を守るためには、その役割を果たすしかないだろう。その意味でも、この世界でこれ以上の戦いは無いほうが望ましい。彼にその件を頼むと共に、申し入れのあったように彼らの帰還を認めるぞ」


 そう言ったダラス司令官に、さらに葛西副司令官が言う。

「まだ、彼らの機材をどう要求するかの話をする必要があります。彼らの推進機構は魔力を使ってのもので、地球人で操れるものはごく少数です。現在わかっている限り、ガリヤーク機が7300機、輸送機のサカン1号が10基ほど、サカン2号が200機ほどあります。

 他に無論彼らの使っていた建物の中に様々な機材が残っているでしょうが、これらをどうするかです」これに対して、ハヤトが口を挟む。


「はっきり言って、戦闘機やサカン1号・2号については、性能も中途半端だしあまり価値はないですね。ただ、マナのタンクは私が魔法を使うために欲しいので破壊せずに残してもらいたいですね。

 ですから、私物は当然持ち去ることを認めるけれど、戦闘機や輸送機、あるいは建物の中の機材を破壊することは許さないということでどうでしょうか。まあデータはどうせ消去するでしょうが」


「いいのじゃないかな。では、そういう線で話をしよう。よろしいか?」最後のダラス司令官の言葉に「はい」皆が一斉に答える。


 その後の話で、マダンからのサーダルタ帝国人の退去とかれらの機材の放棄が合意され、総督キルマールンと偵察隊司令官のダラス大将の合意文書が交わされた。

 合意文書には総督が地球とサーダルタ帝国との和平の提言を政府に対して行うこと、さらにこの退去時間中の停戦が付記された。最後はあまり意味のない文言であったが。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ