表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/180

朝鮮半島の混迷

沢山の人に読んでいただいて嬉しいです。今後もよろしくお願いします。

 金傍訓は、側近の朴を怒鳴り上げている。「なんだと、日本が我が国のミサイル、あるいは人工衛星と称するものが上空を通過した場合はそれを全て破壊する、と宣言しただと!日本にそんな技術はないと言ったではないか」


「は、はいその通りです。日本の総連の連絡では日本列島を高度1000km以上、秒速5km以上で通過する場合には、日本のミサイル防衛システムでは撃墜はほぼできないということです。

 無論打ち上げ後の上昇過程ではあれば、速度がずっと低いですから、彼らのイージス艦のミサイルで撃墜可能ですが、何といっても日本にはあの都合のよい憲法がありますから、政治的にできないでしょう」

 朴は冷や汗をかきつつ『この豚が!』と内心ののしって答える。


 なにしろ、この独裁者の気に入らない答えをすれば命が危ないのだ。現に彼の前任者は、8カ月ほど前に気に入らない答えをしたということで、独裁者のごきげんを損ねて裏切り者として処刑されている。通常は、強制収容所行きであるが、朴のようにあらゆる重要な情報を知り得る立場のものは、死以外の選択肢はない。

 そういう意味では、8ヵ月も独裁者の側近で生き延びている朴は優秀である証拠である。


「では、2週間後の火星8号の打ち上げは予定通りできるな?」若き独裁者の問いに朴は答える。


「はい、日本については問題ないかと。今度の火星8号はロフテッド軌道で打ち上げて、日本上空を9000㎞の高度で通過し、設定した座標である北海道の東北東2000kmの沖に打ち込む予定です。

 これは、ご存知のように新開発の核弾頭を積めますので、目標の座標の50㎞以内の誤差で着水すればアメリカの西海岸のロサンゼルス、あるいはサンフランシスコを直撃できます。これが成功すれば、すでに、火星8号は2基完成しており、直ちに核弾頭を積む準備も出来ているので、これでアメリカも我が国に手を出せなくなります。これは偉大なる総書記様のご指導の賜物です」


「うむ、その時世界は我が国の威光にひれ伏すのだ」独裁者は、手を後ろに組み天を仰いで胸を張る。


『ばかが』朴は内心ののしる。『たった2基の、それもたかが50キロトンの核弾道弾で世界を脅せると考えるとは。今の国内にある資材では、この2基を製造するのが限度なのだ。また、今度の発射で、直ちにアメリカが空爆をかけてくる可能性が非常に高い。

 なにしろ、日本海には空母が2隻、さらに韓国軍の協力者の情報ではオハイオ級の原子力潜水艦が3隻おり、またグアムにはB2爆撃機が10機いる。これらから総攻撃を食らえば、降ってくる爆弾、ミサイルは数千発だ。我が国の地上にある軍事施設は殆ど破壊される』朴はさらに考えを巡らせる。


『しかし、1000門に近い我が国の長距離砲とロケット砲が半分でも生き残れば、その一斉射撃で、ソウルと国際空港のインチョンは全面的に破壊される。さらに、少なくとも半分以上は生き残る300発のスカッドは韓国の各都市を破壊し、150発のノドンは日本の西日本を狙う。

 これらは全て通常弾頭だが、さらに8発実戦配備している核弾頭を積んだテポドンがあるが、これは、5発は日本を、3発は韓国を狙っている。ただ、残念ながら我が国の工業レベルでは半分がまともに飛べばいいほうだろう。

 しかし、これらがある程度でも有効に働けば、通常弾頭の長距離砲、ロケット砲、ミサイルで韓国では百万人、日本では1万人程度、さらに核ミサイルが一発でも落ちれば数十万は確実に死ぬだろう。人命に異常にこだわる日本や韓国でこの犠牲に耐えられる訳がない』彼はしかし頭を振ってさらに考える。


『しかし、その時は我が国が滅ぶ時だがな。それだけの一般人民を殺して、アメリカが容赦するわけがない。おそらく、少なくとも私を含めた指導層は皆殺しで、一般人民も数百万のオーダーで死ぬだろう。無論私の妻と子供2人も。いずれにせよ国としては終わりだ』


 朴は、彼のまだ若々しくい美しい妻と5歳と7歳の可愛いわが娘を思い浮かべ、胸を張って自己陶酔に陥っている独裁者を見てたまらない怒りを覚える。

『あの豚がアメリカに対抗しようなどとバカなことを考えるから、こういう羽目になったのだ。世界一の軍を持つアメリカに敵う訳がないのに、その相手を恫喝するなどと馬鹿の極みだ。

 あいつは、自分の立場さえ守れればいいと考えて、人民が飢えるのを放置してミサイルと核の開発に血道をあげてとうとうアメリカをして、我々を攻撃しないと自分が危ないと思わせるに至った』


 朴はさらに、独裁者の進める核ミサイルの開発を密かに援助してきた連中に対しても怒りを募らせる。『CCCというふざけたコードネームの援助者は、多分アメリカの軍需産業の連中だろう。アメリカの軍事予算を減らさないためだろうが、我が国の核ミサイル開発に長く援助してきたが、あいつら最近になって少しやばくなったと考えたかいきなり援助を切りやがって。

 中国の東北軍区の連中も国に逆らって物資の援助、ロシアもアメリカが嫌がることをするということで技術援助と部品の供給、さらに韓国の馬鹿大統領の白も豚があきらめかけたときちょこちょこ手助けと、こいつらのお陰で、この豚があきらめずここまでやって来たのだ』


 朴が考えに耽っていると、独裁者は自己陶酔の構えを解いて朴に話しかける。「ところで、日本の声明に対して我が国は歯牙にかけていないことを発表するようにせよ。我が国の無慈悲な報復によって列島を沈めたくなければ、要らざる挑発はするなとな」

「はい、偉大なる指導者の仰せの通りに!」内心さらにののしりながら朴は答える。


 さて、日本政府の宣言であるが、それなりの議論と根回しの結果である。

 閣議の席で、15分程度の議論の後に官房長官の篠山が、防衛大臣に新たな議題を説明するように促す。「では、西村防衛大臣、防衛省で今般策定したミサイル防衛対策について説明してください」


「はい、今般防衛省で現在我が国の安全保障上の最大の問題になっている、北朝鮮のミサイルに対して確実と思われる防衛方法が策定できましたのでご説明し、その運用法について閣議決定を頂くようにお願いします」

 その言葉に出席した大臣たちからは思わず「ほお!」と言う声が漏れ、殆どのものが座った椅子から身を乗り出す。すでに、このことを耳に入れられていた首相の阿山と官房長官の篠山は大臣たちの反応を窺っている。

 阿山と篠山は、ハヤトの能力によってミサイルの撃墜が出来ること、そのハヤトを自衛隊で囲い込んでいることを伝えられている。


 西村は話を続ける。「この対策の具体的な内容は、実際にその機能を実証するまでですが、暫くの間、明らかにしませんので、皆さんもその間は秘密にしてください。

 また、この方法は極めて突飛なもので信じがたいかもしれませんが、実際に父島で発射した誘導弾、ミサイルを、防衛研究所に設置したその装置によって撃墜をして、その性能は確認しています」


 それから西村は持ってきた大ぶりのケースからB3版の写真を取り出して出席者に見せる。その写真には、横に人に持たれている標尺と比べると高さ1.5m幅1m奥行き0.5mほどの曲線を描いて黄白色のどこか愛嬌があり可愛いものが写っている。

 それには、正面にスクリーン様のものが取り付けられ、レバーめいたものが5つ取り付けられている。


「これが、少なくとも1000㎞の彼方のミサイルを撃墜できる日本を守る防衛装置であり、防衛研究所に置かれています。防衛装置では固すぎるということでしょう、名前は誰ともなく出てきた“まもる君”ということになりました」西村は一旦言葉を切る。


 財務大臣早山が、少し傾いた口を開いてだみ声で聞く。「それが、さっき言った父島で発射されたミサイルを撃ち落としたということかい?」

「はい、そうです。まもる君は電磁波をミサイルに局部的に送り込んでミサイルの固体燃料である推進剤を発火させて爆発させるものです」


 そのように西村が答えるのに、今度は科学に強い文部科学大臣の木川が聞く。

「電磁波を送り込むということは、熱を発して酸化剤と混合されている燃料を燃やすということですよね。液体燃料の場合には燃料は酸化剤とは別のタンクに蓄えられるようになっているので、爆発させるのは難しいのではないですか?」

「流石ですね。その通りなのですが、液体燃料のミサイルは全体として複雑な構造であり、切り離しのための炸薬、また自爆用の爆薬が備えられています。ですから、この爆薬なり、炸薬を燃やせば爆発させるか墜落させられます」西村は頷いて言うが、木川はさらに聞く。


「それにしても、このような装置、まもる君ですか。どうやって開発したのですか?どう見ても、装置としては普通ではないようですが」


「ええ、これはわれわれも良く判っていないのですが、ある仲介してくれる人を通じてとしか言いようがありません。しかし、実際に機能するわけでして、どこから、誰からと言うことは深く詮索しないことにしています」西村はすこし苦し気に答えるが、官房長官の篠山が助け舟を出す。


「ここでは、そういうもの、つまりその“まもる君”が現にわが自衛隊が所有しているということで了解してください。それで、西村防衛大臣、閣議決定したいという内容はどういうことですか?」


 篠山の問いに西村は答える。「はい、このように我が国は、我が領土に打ち込まれるミサイルを撃墜できる能力を手に入れた訳です。一方で、我が国は北朝鮮がしばしば我が国の上空を越えてミサイルを飛ばすのを看過してきました。

 これは、他の普通の国であれば戦争行為であり、開戦しても不思議でない行為です。実際、わが国の上空を越えて一定の範囲の目標にミサイルを撃ち込めるということは、我が国の領土にミサイルを撃ち込める能力があるということに他なりませんから。

 こうして看過してきた理由は、一つには憲法の規定もありますが、大きい理由は撃墜する能力がなかったということも大きかったわけです。しかし、いま我が国はそうしたミサイルを撃ち落とせる能力を手にいれたわけです。

 従って、決定して頂きたいのは、今後我が国の領海を含めての上空を通過するような、ミサイルあるいは人工衛星と称するものは全て撃ち落とすという宣言を行うことです。なお、人工衛星というのならそれを証明できない限りミサイルとみなすとすればよいと思います。

 さらにもう一つ、この“まもる君”を国民の前に発表して、日本国が飛んでくるミサイルから守られていることを公表したいと思います。ただし、それは先の宣言を行って、北がそれでもミサイルを撃ってそれを撃墜してその能力を確認してからがよろしいと思います」


 その提案は閣議に出席した全員の賛成を得て決定された。ただ、西村からこの方法はミサイルの撃墜はできるものの、その大きい部分、または破片が、意図せぬ方向に飛び散る危険性があるので、できるだけ日本の領土から離れた場所で撃墜することにしたい、という申し入れがありこれも了解された。

 具体的には、ミサイルを打ち出した国の領海あるいは領土を越えて公海に出た時点で、日本領土に到達または飛び越すことが確実になった場合ということになった。


 日本国政府のこの宣言は、日例の官房長官篠山の記者会見の場で以下のように行われた。

「北朝鮮は、弾道弾、ミサイルを我が国の上空を越えてしばしば飛翔させておりました。これは、通常の場合は戦争行為に当たるものであり、看過しがたいものでありました。

 実際にこの行為の意味するところは、北朝鮮がいつでも我が領土にミサイルを撃ち込めるという脅迫行為であります。しかも、かの国はその国営放送において、我が国を沈める、また火の海にするというまさに脅迫を行っております。

 従って、我が国はここにおいて宣言します。北朝鮮あるいは他の国も同様ですが、人工衛星であると通告し、かつそれが人工衛星であることを証明できる資料を提出した場合について以外の、我が国の上空を通過することが確実な飛翔体、これをミサイルと呼びますが、こうしたミサイルは全て撃墜します」

 

 この発表は大きな反響を呼んだ。まず国内からは方針については賛同の声が多かったが、実際にそうした手段があるのか疑問の声が大きかった。これは、将官だった自衛隊のOBが語った言葉が代表的なものであろう。


「ミサイルを撃ち落とすと言っても、まさか相手の領土内で撃墜できないだろうから、近年の火星5号などのロフテッド軌道だと、公海ではすでに高度は800㎞で、速度は5㎞/秒程度になってとても今の迎撃システムでは無理だろう。しかし、防衛省からの申し入れということは、なにか方法があるのだろうが、うまくいってほしいと思う」


 北朝鮮に対して、臨戦状態にある米軍からは当然自衛隊に問い合わせがあった。


「どういうことだ。そのような新兵器の話は聞いていないし、我が国でも困難なタスクを宣言するとはどういうことだ?」


 これについては、防衛省として「今は答えられないが、実際に撃墜に成功したらすべてを教える」一点張りで回答を拒絶している。


 さらに、首相の阿山は、アメリカの大統領スペードと緊急電話会談を行っている。

「大統領、今まで説明しましたように我が国は東京を中心として半径1000km高度は3万㎞の範囲でミサイルを撃墜できる装置を手に入れました。

 それの意味するところは、北朝鮮は貴国にミサイルを撃ち込むためにはその範囲外を飛翔させる必要がありますが、これは極めて高度なミサイルのシステムとコントロールが必要であり、北朝鮮がここ10年以内にその技術を開発できる可能性はゼロでしょう。

 また、彼らがすべての資源を投じて一点張りをしていた核ミサイルが、我が国によって、我が国及び貴国に対して完全に封じられたことが明らかになった場合に、あの体制が保つとは思えません」


 阿山の言葉にスペードが答える。

「うむ、ミスター阿山、そういうことになると、話は違ってくるな。我々は知っての通り、空爆とミサイル攻撃で、この際目障りな施設は全て潰してしまうつもりだった。

 同時に電磁攻撃で彼らの武器体系のコントロールを奪うつもりであった。従って、彼らが反撃しようとした場合、誘導されるテポドンやノドン等の被害は殆ど抑えられるが無誘導の長距離砲、ロケット砲やミサイルは生き残れば使える点が問題ではあった」

 スペードはしばし口をつぐんで続ける。


「貴国の場合は、無誘導ミサイルなら殆ど迎撃でき被害は殆どないだろうが、韓国では相当な被害が出るだろうな。しかしそれは、我々が過去口を酸っぱくして、国境から住民を遠ざけよ、さらにはミサイル防衛システムを構築しろという提言を一切聞いてこなかったのだから自業自得だ。

 また、あの国はあの馬鹿大統領の下で赤い国の体制に半分片足を突っ込んでいるしな。まあ、韓国に居るアメリカ国民は避難場所があるから被害は小さいだろうが、韓国人が10万以上も死んだらさぞかしうるさかろう。

 わかった。しかし、軍の臨戦態勢は続ける。そして、君たちの作戦が成功したら、我が国の軍は引き上げる。あとは北の金傍訓は国民の生活を犠牲にして、全力で開発に取り組んできた核ミサイルが、用をなさなくなったことが判るわけだ。それを国民に知られた間抜けな指導者を抱く北の体制が崩壊するのを待つ。

 しかし、日本に向いてない方向には有効であるわけだな。中国、ロシア、韓国か。これは愉快だ、わははは」両首脳の会談は終わった。


次のアップは明後日になります。

今後は週に3話以上を目指したいと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ