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異世界マダン、パイロットの救出

読んで頂いてありがとうございます。

すこし短いです。

 会議室ではまだ議論が続く。

「まず、サーダルタ帝国の脅威に対しては、ガリヤーク母艦を全て撃破しておけば、この世界から地球へ渡ることはできません。もちろん、違う世界から母艦を持ってくれば可能ですが、一つの方法として、我々の“ありあけ”かギャラクシー級を地球に繋がる世界に常時貼り付けておき、母艦が現れ次第破壊するというオプションもあります。


 成層圏で滞空することが安全であり、わが重力エンジン機が敵より優速という点は確かなようですから、今言ったオプションは実現可能です。ただ、問題はこのオプションでは、サーダルタ帝国との間に何の交渉もできず、前に進まないということです。

 とは言え、我々に外交交渉は許されておらず、この場合はガリヤーク母艦を破壊して、この世界のサーダルタ総督府に次回に交渉に来ることを通告するべきでしょう」


 副司令官の葛西中将が提案するのに対し、ブレイン参謀長が賛同する。

「それが現実的ですね。たしかに、この世界のサーダルタ軍は我々を撃破できない一方で、我々は優速を生かして、あるいは彼らの手の届かない成層圏から、彼らの施設あるいは艦を破壊できる。

 そして、今この世界にある母艦を全て破壊することで、我々の不可侵性を見せつけるのです。そのうえで、彼らに次回には正式に外交交渉に来ると通告しておけば、まず間違いなく交渉に応じるでしょう。


 また、地球の安全を保つという意味では、地球に直接移転できる4つの世界を押さえておけば、それを達成できます。まず、すでに訓練で訪れた2つの無人の世界を押さえることは状況も確認しておりますし容易です。さらに、この世界マダンともう一つの知的生物が住もジムカクを押さえれば地球はサーダルタ帝国からは安全です。

 ですから手始めに、このマダンで彼らには我々を撃退できないうえに、彼らのガリヤーク母艦を破壊してもそれを防ぐことはできないことを知らしめましょう」


 ジラス大将も賛同して、異論は出ずにこの作戦は実行されることになった。

 さらに、葛西中将の提案が続く。

「しかしながら、地球連盟のサーダルタ帝国に対する別の方針である、彼らの支配種族の解放という命題がありますが、これについては、なかなか難しい面があります。

 現在わが艦隊は、こうやって惑星の周りを周回するのみで、マダンの上空から判断できる物理的なデータは集まります。しかし、残念ながら被支配種族と交渉するための、肝心の社会的なデータは上空から見ての推測に過ぎません。


 いわゆる戦後処理として、サーダルタ帝国の支配している諸世界を解放するためには、それぞれの世界の人々に接触する必要があります。しかしながら、この点は現実にサーダルタ帝国がこれらの世界をその総督府を通じて支配しており、かつこちらもそれぞれの世界の言葉も解らない以上は、実質的に困難を極めるでしょう。

 さらに、この世界にはガリヤーク機の数が多すぎて、わが方の戦闘機は数的優位になるほどに当分の間は持ち込めません。ですから、戦闘機等を使って地上に降りて調査することは困難です。ただ、ハヤト氏の空間移動・ジャンプによればこうした調査は可能でしょう。この点で、地上に降りたパイロットの救出の段階でなにかわかるかもしれません。


 もう一つの方策としては、まず先ほど言ったように武力を見せつけ、その力を背景に、サーダルタ帝国との交渉によってこれらの惑星から追い出すという方法もあります。しかし、この場合はいずれにせよ、サーダルタ帝国の出方によるわけです」



 このような議論がされている最中に、ハヤトは直卒部隊とパイロット救出の出発準備をしていた。

 まずはブリーフィングである。部屋は当然救出してパイロットをすぐに治療室に運べる医務前室である。そこに置いてあるモニターに会議室で映されていたとの同じ、この下界の世界の地図とパイロットの位置を示す点が写っている。


 直卒隊の自衛隊出身の5人にヤフワ・ジェジャート及び医療関係者が3人聞いている。

「状況は余り良くない。どうも、だいぶ捜索が迫っている様子だ。3人ほどはすでに拘束されたようで、建物の中のある部屋から動けなくなっている。

 その捕虜になっているパイロットの廻りの人々は、魔力からして大部分がサーダルタ帝国人だね。どうもこの反応からすると、サーダルタ帝国人とこの世界のマダン人との接点は少ないようだ。また、パイロットを捕らえようとするものは多分サーダルタ帝国人だな。


 その点では、救出を邪魔しようとする者達に対しては遠慮する必要はなさそうだな。サーダルタ帝国とはわが地球は戦争中だからね。しかし、このマダンの土着の人々はできるだけ傷つけたくない。この点は留意しておこう」


 ハヤトがそう言うのに、直卒隊の皆が頷くのを確認して彼は言葉を続ける。

「まずは、この動かない点1,3,5,6にいるパイロットを救出する。恐らく重症または足を損傷して動くことが出来ないのだと思うので、迅速に転移してすぐに帰ってくる。

 現在、“ありあけ”から一番遠いものまで350kmだ。移転に要する魔力の面で、連れて行く護衛はできるだけ減らしたい。

 1,5,6の場合は近くに生物の気配はないので、この場合は、随行は石田1曹にお願いしたい。いいかな?」ハヤトは35歳のベテラン下士官と、隊長の影山中尉を見る。


 本人は無論やる気は満々で「は!もちろんです」と返すが、ハヤトの護衛の責任者の影山はすこし躊躇い、しかし頷く。


「慎重に願います」影山はハヤトを見つめて言うが、ハヤトはあっさり返事をする。


「もちろんです。ヤフワもな、少し待ってくれ。すぐ出番は来るからな」ハヤトは影山に返事をして、かつ黒い巨人に声をかける。


「おお、待ってるよ」ヤフワ・ジャガートは短く返事をする。


「では、行きますよ」ハヤトは先端に銃剣をつけた電磁銃を腰だめにしている石田に頷き、相手が頷くのを見て跳ぶ。

 石田はベテランらしく、油断なく銃をすぐに使えるように両手で下げているが、力は抜けている。彼の身長は、170cmとやや小柄だが、体重は70kgあるので少しずんぐりして見える。頭は短く刈り上げており、レンジャーらしく精悍な顔で肌色は日に焼けて褐色だ。


 彼は、格闘術、射撃に優れ、銃剣術も達人の域に達している。電磁銃の射撃についてはAIが一定の確率に達した時に撃つわけだから、腕は関係ないというものもいる。しかし、それは実際を知らないものが言っているだけで、その腕の見せどころは、その確率を得るまでの、的を見てそれに銃を向ける素早さ、さらにその銃の保持の安定性がある。


 実際、素早く撃つ必要がある時、300mを越えるような中距離射撃になると、極端に腕の差が生じて、500mを越えると初心者ににはまず必要な確率を得ることは無理である。20(にまる)式電磁銃の場合には、初速が2㎞/秒と早く発射時の反力の補償が優れているので、石田が撃てば、2㎞程度の距離まで当てることができる。


 散々訓練で一緒にジャンプした時のように、ドンと叩かれたようなショックがあってそこはすでにまばらな森の中である。木々が立ち並んでいるのが見えて足元は草に覆われている。石田は油断なく、銃を構えて辺りを見渡すが、夜明けの薄明るくなつつ状態であり、身体強化している石田にははっきり周辺が見える。


 すぐそばに、横たわっている人影が見える。脱出装置は脱いで傍に置かれており、頭の下には脱出装置のクッションを敷いているところを見ると、少なくとも着陸後のしばらくは活動ができたのだ。。

 石田がハヤトを見ると、彼はすでパイロットのそばにしゃがんで、呼吸はしているのが石田にも見えるその体の様子を見ている。それから、脱出装置をパイロットの体のそばに引き寄せながら立ち上がって石田を見て、横たわっているパイロットのそばに招く。


「帰るぞ!ここに来てください。いいか?」ジャンプの時はその時の位置関係のままで跳ぶのだ。また、脱出装置はハイテクの塊なので置いて行くわけにはいかない。


『ええ、もう帰るの!』そう思いながらも「了解!」石田は短く答える。ハヤトのそばに立った途端、またドンというショックがあったと思うと、直前に出て行ったままの部屋だ。わずか1分足らずの、異世界行きである。


 救出された黒人のアメリカ人は、脱出装置と共に部屋のクッションの上に落ち、それを見た白衣の医者が看護師と共に駆け寄る。ハヤトはそれを見もせず、着いた状態のまま立って目を閉じている。次のターゲットを探っているのだ。


「次は3番だ。生物の反応、多分サーダルタ人が近くに寄ってきているが、まだ大丈夫だ。石田さん、再度行くぞ!」ハヤトは目を開いて、石田を見て平静に言う。


「了解!」石田が叫んだ途端に再度ショックがある。

 今度の場所は、広がった畑地の隅であり近くに灌木がある。300mほど離れたところに明かりがあり近づいているが、まだそれほど警戒するほどの距離ではない。薄明るさの中で、3mほどの距離に、先ほどと同じように横たわっている人がいるが、こちらは意識があり突然現れた人に驚いている。


「お、おお!友軍か。何とハヤトさんではないか。ジャンプというやつだな。ありがとう、助かった」その細面の白人のパイロットはニッコリ笑って白い歯を見せて言う。


「遅くなりました。すぐに帰れますよ。足をやられたのですか?」ハヤトが言葉を返すとパイロットが尚も笑顔で言う。


「英国防衛軍、ジョナサン・ローパー中尉だ。足を折った。折角の異世界なのにね」


「ではローパー中尉、今から跳ぶよ」おしゃべりをしている余裕はなくハヤトが言うと「お、おう。早いね」そう戸惑ったように返す。


「悪いね。後がつかえていてね。では!石田さんもいいね?」石田がローパーのそばに寄って承知して頷くのを確認して、ハヤトは人間を2人と脱出装置を伴って転移する。


 またショックがあって、再びの医務前室である。今度もまた待機していた看護師がストレッチャーにローパーを載せて押して行く。


 このように4人を救出して、同じ部屋に帰ったハヤトは大きく息をついて言う。

「ふう!少し休む。連続転移で聊か疲れた」


 帰ってきたパイロットは、2人が意識不明の重体で2人が足の骨折で動けなかった者達であった。またその特徴として、日本人はいなかったところをみると、不時着などの身体に無理がかかる場合は、大けがを防ぐためにはやはり身体強化の能力がものをいうようだ。


 ハヤトは、30分ほどコーヒーを飲みながら皆と今後の予定の話と雑談をしていた。その間、唯一地上に降りた石田が皆に羨ましがられるが、手を振って本人は否定する。

「地上に降り立ったと言っても、着いたら周りを警戒して見渡して負傷したパイロットを見つけたと思ったら、またこの部屋ですよ。印象もなにもありませんよ」


「いや、いや申し訳ないね。早い方が安全だからね」ハヤトがその話に決着をつけるように言って立ち上がる。


「さて、先ほど言った通りで残り11人だ。一人は残念ながら死体だけど。7番の瀬川君は、今は街の中にいて移動は止まったようだね。捉えられている3人である8、11、14番に7番の瀬川君は後回しだ。

 4、10、13番にはサーダルタ人が急行しており危ない。ちゃ、ちゃ!と片付けよう。次は一緒にヤフワで行くが、いいかな?」


 ヤフワは目を輝かして、達者な日本語で応じる。

「おお、もちろんだ。いいぜ!」


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