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異世界マダンでの戦闘2

読んで頂いてありがとうございます。

 ちなみに、ハヤトは偵察隊幹部の会議の話がある前に、撃墜されて脱出し生存のコールをしてきた者達を直ちに救出することを申し入れた。空間移動/ジャンプによって遭難者のそばに跳んで、再度一緒に跳んで帰ってくるわけだ。

 人一人を連れてのジャンプであれば、ハヤトは10回くらい連続で可能である。ただ、ジャンプできる距離は700㎞程度が限度なので、現在の艦隊がいる高さ1000㎞では跳べないので、もっと地上に近づく必要がある。


 この点は直ちに司令官・副司令官・参謀長と協議され、当面のところは脱出装置のビーコンから海に落ちた7人のみに限ることになった。これは、海に落ちた者は脱出時に背負った装置にはバルーンもついているので浮上することは問題ないとしても、海にどんな生物がいるか判らないので、早急に救出の必要と判断されたのだ。


 なお、脱出装置のビーコンは検知されにくいように、1分に0.1秒程度の時間で断続的に超高周波の電波を発するようになっている。サーダルタ帝国は、電波による通信技術は劣っているので、彼らには検知できないと見られている。


 さらに陸に降りた者については、現地はそれなりの文明国であり、狂暴な生物もおらず、もしサーダルタ帝国人に捕らえられても直ちに生命の危機にはならないと判断したのだ。最終的には救出はハヤトに頼る必要があるとしても、単独行ではなく慎重に準備をしてからということになったのだ。


 ハヤトは準備されていた異環境スーツを着てジャンプすることになった。このスーツは、気密でかつ丈夫で柔らかい服に軽いヘルメットの構成に、酸素ユニットを背負うものだ。酸素ユニットは一応圧搾酸素ボンベもついているが、呼吸中の2酸化酸素を分解して酸素を回収する機能もついている。


 また周囲の空気中に酸素があれば、それを濾して酸素を取り込む機能がある。このスーツの全重量は10kgであり、従来の宇宙服に比べると格段に軽い。もちろんこれは水中でも使えるが、水から酸素を取り込む機能はないので、宇宙空間と一緒で最も不利ではあるが、それでも5時間程度の活動が可能である。


 “ありあけ”は高度を100kmまで下げた。この場合は、救出のために、一定の空域に留まる必要があるので、軌道速度は取れないためにどんどん減速して、目的地周辺では時速100km程度に押さえている。万が一のことを考えて、周囲には20基の“しでん”とスターダストが護衛についている。


 救出には“らいでん”を使う案もでたが、実際は母艦を使うのは遭難者に重症の者がいる可能性が高い事、さらに電池容量を気にしなくても良い点である。

 ハヤトは、すでに海を漂うパイロットの位置は検知できている。幸いに、戦闘が行われたのは、異世界マダンの大陸ミスカルの西端の半径500㎞程度の範囲なので、ハヤトの乗る“ありあけ”は、それほど広範囲を動く必要はない。


 今や、艦からは半径500㎞以内の範囲に3名のパイロットが海を漂っている。ハヤトは連れて帰る要員が、怪我かまたはどこか損傷している可能性が高いと考えて医務前室からジャンプして同じ部屋に帰ってくる。


 実際のところ、ハヤトは数百㎞の距離の探知をして、さらに対象をズームすることでその様子の大体は解かる。しかし、距離がこのように遠い場合は目で見るように鮮明なわけではない。それが、親しい人であればその人の持っている魔力で、より詳しく状態が解かるが、今回の場合面識のないものばかりである。


 しかし、1人についてはもう死んでいるのはわかったし、2人は相当に弱っているのも感じられる。そういう意味では緊急ミッションではある。今回の場合は対象のそばの海に飛び込む形のジャンプであり、対象のパイロットを確認して近寄ったらすぐに跳ぶので彼の単独行である。


 ハヤトは部屋にいる人々を見て頷き、医務前室から最初のジャンプを行った。司令官と参謀長に医師と看護師3名が、消えて行く彼を見守っている。

 彼は、狙い通り、パイロットから3mほど離れた海面上2mに、空中に立ったまま現れ落下し、水中に3mほど潜った。今は夜間であるが、ハヤトにはパイロットがベージュのスーツを着て、浮いているのが見える。魔法の探知を使いながら、水中をパイロットに向かって上に向けて泳ぐ。パイロットは日本人岡谷中尉だ。


「岡谷さん、ハヤトです。助けにきました」水上に顔を出して、頭上のライトとマイクをのスイッチを入れて呼びかける。暗闇で、星の明かりのみが頼りだった岡谷は、まばゆい光を手で遮って「え、え!ハヤト、さん?」そう言う。


 彼は憔悴しているが、精悍な顔を光にさらして目を丸くしている。

「“ありあけ”にジャンプします!それ1、2、3!」議論している場面では無いので、ハヤトはスーツの浮力で浮きながら精神を集中して、出発点の医務前室を探知してズームして、ジャンプ!

 次の瞬間、ハヤトは床から10cmほどを落下して降り立ち、岡谷は寝た状態で、床においた分厚いクッションに落ちる。2人ともびしょぬれだが、クッションは防水樹脂でカバーされている。


 部屋の照明は暗めになっているが、岡谷はそれでもまぶしくて目をすがめている。部屋で待っていた5人は、わずか5分足らずで帰って来たハヤトと救出されたパイロットの姿に茫然としている。

 このようにしてハヤトは、1体の死体を含め7人を2時間足らずの間に救出した。


 このうち、死亡したのはアメリカ人パイロットであり、アメリカ人の1人とイギリス人が1人重傷で、残りの日本人の3人、アメリカ人1人は殆ど無傷であった。この結果からこのような脱出に当たっては身体強化の効果が高いことが判る。

 ちなみに、“ありあけ”は第1次救出ミッションを終えた後は、高度300kmの軌道速度で惑星を周回している。さらに、今後のことも考えて全艦隊の周回高度は300㎞とした。



 さて、その救出ミッションの後の偵察隊幹部の会議である。ジョン・ブレイン参謀長はマダン到着後の状況を取りまとめ、現状の課題とそれらに対処するために議論すべき事項を述べた。


「このように、ガリヤーク母艦はまず当面の戦力としてはカウントしなくてよいと思います。しかし、大口径の機関砲によって武装強化型のガリヤーク機が、この世界では1万2千機配備されています。

 これは、わが方の残存している“しでん”・スターダスト戦闘機の合計約280機に大きく優越しています。このことを受けて、“しでん”・スターダスト戦闘機は母艦と同じ成層圏に避難しており、このような環境での収容は禁じられていますが、早いうちの母艦への収容が望まれます。

 ここで、緊急の問題は、残念ながら撃墜された戦闘機のパイロットの内、生存を通知してきた22名について早急に救出する必要があることです。ただ、このうち脱出後に海に降りた7名については、すでにここに居られるハヤト氏にお願いして、空間移動/ジャンプによってすでに亡くなっていた1名を除き救出済みです。

 危険を冒して海中にジャンプして救出に当たってくれたハヤト氏に感謝する次第です。


 さて、我々の与えられたミッション(命題)は、地球からサーダルタ帝国の脅威を取り除くためにどういうオプションがあるか、その判断材料を集めることです。

 一方で、そのサーダルタ帝国との“戦後”を見据えて、かの帝国の支配する12の世界とどう付き合うか、その判断材料集めもそのターゲットに入っています。

 ここで、考えなけらばならないのは、我々は地球上にいる異世界へ渡ることのできる戦力の2/3を持ってきており、この戦力はそう急速に増える見込みはないことです。つまり、今回の戦力では不足なので、もっと規模を大きくということは難しいということです。

 このマダンにおいての現状を見据えて、今申し上げたミッションをどう果たすか。皆さんの意見を伺いたい」


 参謀長の求めに、“むつ”艦長の菊田がまず応じる。

「まず、戦闘機を母艦に収容する件ですが、確かに設計時において高度100㎞を超えるような宇宙空間における収容は考えていません。しかしながら、ご存知のように収容は基本的に力場によって行われており、最後の係留点への固定のみを人間の要員が確認して固定のスイッチを入れています。

 艦載機を収容時には、当然3段の収納デッキは大面積の艦載機ハッチの気密の面から、このように成層圏にある時は真空になっています。居住区からデッキに出入りするには異環境スーツを着てエアロックを通ることになります。


 艦載機の収容要員は、本艦の場合には今回のように、全戦闘機を順次収容する場合には5名を配置しています。そして、異環境スーツは各艦で20着配置されていますから、環境スーツでの作業はやり難さはあっても収容は可能であるということになります。

 さて、今度はパイロットの問題ですが、“しでん”とスターダストにはエアロックはありませんので、真空の中でハッチを開けて梯子を下りて居住区へのエアロックを通る必要があります。だからこの場合には、パイロットには呼吸装置が必要ですが、ご存知のようにしでん等の戦闘機は成層圏の飛行も考慮されています。


 機体の気密は無論ですが、シートに固定のパイロットスーツの呼吸装置は真空でも利用可能であり、この呼吸装置は、脱出装置から取り外せば酸素供給装置に繋げます。だから、母艦のマニュアルには真空中の収容を禁じていますが、技術的、実務的には可能です。

 このようにして、狭い機体に閉じ込められているパイロットのために戦闘機は早急に収容するべきだと思います」


 司令官のジラス大将は、我が意を得たりと内心ニヤリとした。彼にも、菊田の提示した方法は解かっていたが、やはり安全な方法ではないことは確かである。その意味で司令官から押し付けるのはまずいという思いがあり、運用側からの意見を待っていたのだ。

 菊田の意見に、各艦の艦長、副長が口々に賛同しその件は解決した。


 次にやはり各艦の関心が高いのは、パイロットの救出問題である。どの母艦の艦長・副長にとっても、自艦所属のパイロットが異郷に遭難していることを思えば無関心ではいられない。それに、パイロット、とりわけこの艦隊に選ばれた者達というのは、特別に才能のある人々であって、おろそかに扱ってよい存在ではない。


 次々に早期の救出を求める意見が出されたが、結局はハヤト頼りにならざるを得ない。それに陸上の場合には、海上よりサーダルタ帝国の兵と遭遇する危険性が高いため、貴重な存在である彼をそういう危険なところへ軽々に投入するわけにはいかない。


 ハヤトが、魔法による探知でわかる範囲の脱出したパイロットの状況を説明した。

「陸上に降りて信号を発信した15人について探知しました。彼らの位置はこのマップの通りです」

 ハヤトが空中に浮かんでいる像を示す。そこにはミスカル大陸の西端の地図が表示され、それには大体の土地の用途範囲それに町の位置も示されている。


 そこに点々と15の光点が示されて、それぞれナンバリングされているが、森林の面積が半分以上を占めているためか、森林にある光点が半分程度ある。この番号ごとにパイロットの名前が判っており、各艦の艦長と副長が自分の艦の所属パイロットの点と番号を承知している。ハヤトが言葉を続ける。


「まず、残念ながら一人はすでに亡くなっています。12番の点の方です」


「ええ!ロバートソンが!」母艦オリオンの副長が叫び、艦長と共にうなだれる。


「後の方で、1、3、5、6番の方はほとんど動いていませんので、負傷していて重症である可能性があり、この話の後にすぐに救出にかかります。またその内、5番の方は都市近郊ですので注意が必要になります。

 他の方は多かれ少なかれ動き回っていますので、元気なのだろうと思います。また、動いていない方もそうですが、2人を除いて傍に他の生物はいませんので、救出には大きな問題はないだろうと思います。

 逆にいうと、2人は多分現地の人と一緒に行動しており、1人は、これは7番の“むつ”所属の瀬川英二少尉ですが、大きな距離を移動しており、すでに半径500㎞圏を越えています。11番のもう1人は、そんなに動いておらずどこかの家にいる感じですね」


 殆どの艦長・副長が安心した顔をするなか、むつの菊田艦長が困惑して聞く。

「瀬川少尉ですか?ハヤトさんはよくお判りですね」


「ええ、彼には個人的に面識があるのです。バトル・オブ・ブリテンの後に、イギリスで。私は個人的に面識があると、その人は見分けられるし、その状態がより詳しく解かるのです。彼は元気であることは確かですよ。

 以上ですので、まだ議論がお在りかと思いますので、私は再度救出にかかります。

 それと、地上に行く場合には、直卒隊を連れて行きますので、よほどのことがないと大丈夫だと思いますよ。いずれにせよ、救出には全力を尽くします」


 ハヤトは出席者を見渡し、皆に向かって力強く頷いて、会議室から出て行った。


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