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異世界マダンでの戦闘1

読んで頂いてありがとうございます。

 瀬川少尉は自機“しでん”M-12を5G加速にして、最も近いガリヤーク機らしき反応に向かっている。その距離は約30㎞であるが他にも点々と反応がある。


 当然その間は下界の景色も意識している。そこは、海と里山そして原生林という感じの景色であり、高度2万mから見下ろすそれは、晴天で雲が殆どない空からは色鮮やかである。朝この世界に渡ってきたかれらは、今は地球の太陽と同じく黄色っぽい白の光のこの世界の太陽がすでに傾いた夕方の時間の中にいる。


 この世界マダンの、大気の状態はほとんど地球と同じであり、直径は1万3千kmでやや大きいので重力は10%程度高めである。陸地面積は表面積の20%程度と少なく、2つの大きな大陸から成る。生物相は地球に似ており、かつ人間に似た知的生物が住んで相当な文明を築いているが、100年程前にサーダルタ帝国に空を支配されてその傘下に入った。


 ちなみに、地球でも防衛同盟が経験したことだが、異世界の門を開いて、母艦や戦闘機が実際にその世界に入ってこない限り、防衛側はどこに出現するかは判らないのだ。だから、できるだけ早く敵に対処するには、空中に迎撃機を遊弋させるしかないわけだ。


 また、サーダルタ側の問題としては、地球側の母艦は魔力を主として使う異世界転移装置により転移するので、その瞬間は魔力レーダーで検知できる。だが“しでん”等の戦闘機は魔力を発していないので、電波によるレーダーでしか探知できない。


 さらに母艦も異世界転移装置を止めると戦闘機と同じ条件になる。むろん、サーダルタ側は電波によるレーダーも持っているが、それは地球側のものに比べると遅れたもので、塗装によってステレス性の高い“しでん”等の戦闘機や“らいでん”などの攻撃機には殆ど無力である。


 反対に地球側は、魔力をまき散らし、かつステレス性などの概念すらないサーダルタ側の戦闘機や母艦は、どちらのレーダーにも相手を捕まえるのに問題はない。“しでん”で大体200kmの範囲の敵を捕まえることができ、母艦はこれが500〜1000㎞になる。


 瀬川達移転時護衛隊の任務は、母艦に敵機を近づけないことであるので、レーダーに検知できる範囲の敵機を撃破または追い払うことである。“しでん”、スターダストでは敵ガリヤーク母艦には歯が立たないが、予想通りレーダーで検知できる範囲では母艦はいない。


 母艦は地球で相当撃沈されているので、“らいでん”の前にはただの的にしかならないということは解かっているだろうから、母艦はなかなか出しては来ないとは当初から予想されていた。だから、ガリヤーク母艦を撃破できる攻撃機の“らいでん”などの出番はまだない。


 敵機が、瀬川が視認できる距離まで近づいてきた。やはりガリヤーク機で、高度は1万5千mで多分全速で近づいてきている。多分転移時の魔力の放出を感知したのだろうし、また巨体である“ありあけ”型、ギャラクシー型を電波式のレーダーで捕まえたのであろう。しかし、“しでん”そのものは捕まえていないだろうと想定できる。


 ただ、サーダルタ人は魔力が強く、魔法で探知ができる者も多いという。ガリヤーク機のパイロットは全員がサーダルタ人であるということなので、探知されていないと思い込むのは危険である。


 “しでん”のレールガンの利点は射程が長いことであるが、一方でガトリングガンと同様に機体に固定されているので、機体が正しく相手を向いていないと当たらないのである。その点では、例えば1㎞の距離では射程内ではあるが、ジェットエンジン駆動では如何に電子的に機体をコントロールしても、到底小さい的であるガリヤーク機には当たらない。


 その点で、重力エンジンの特性が生きてくる。重力エンジンは人工的に重力を発生すると言われているが、実際のところは力場を発生するのだ。だから、重力エンジンの一部の機能を割いて機体の向きをコントロールすることは可能である。


 したがって、相手の機に対して、速度を決めて大まかな機位に持っていくのは人間のパイロットの役割であり、その後機体を力場で操って、照準を合わせるのはAIの役割である。そこで99%の命中の確率が得られたら、魔力でガンを撃つ指令を出すのはパイロットまたは銃手の役割である。


 だから、“しでん”のレールガンはガリヤーク機に対しては、3㎞程度の距離で命中が可能であり、1㎞であればほぼ必中距離である。とはいえ、3㎞の距離でも相対速度が3㎞/秒で近づいているときは、わずか1秒の距離である。むろん、弾の速さは7㎞/秒でそれに機体の速度が加わるから、0.2秒以内に相手の機体に届く。


 瀬川が目指しているガリヤーク機は、全速で4隻の母艦を目指しているようだ。瀬川はそれに向かって秒速2㎞で加速を止めて、等速で近づくと双方の機体の動きが単純であることもあって、3㎞の位置で必要な確率が得られたのでレールガンを発射する。


 その赤熱した弾はあっさりガリヤークの機首を貫き、機体を縦に貫通して機尾から大量の瓦礫と共に飛び出した。

 ちなみに、このとき4隻の母艦は全力で艦載の戦闘機を射出していたが、自身は高度をあげて成層圏の高度で惑星を周回すべく斜め上に向かって5Gで加速していた。また、艦載機の内の戦闘機はガリヤーク機の迎撃に向かわせ、各艦8機の攻撃機は収納したままである。


 母艦が攻撃機を抱いたまま成層圏に上がっているのは、サーダルタ帝国の母艦は可能だがガリヤーク機は成層圏には昇れないという捕虜の証言があってのことである。

 また、これらの母艦は大出力のレーダーによるその優れた探知能力と、どんどん上がっているその高度によって、多数のガリヤーク機が近づいてきているのを検知している。しかし、移転後暫くの探知範囲で検知できている数は500機足らずなので、十分艦載機で対処できると判断していた。


 また、移転時護衛隊の各艦8機の護衛の“しでん”とスターダストは、瀬川と同様に最も近いガリヤーク機に向かって加速して、それぞれ撃破を試みて全て初撃は成功している。瀬川は直ちに次の直近の敵機に向かった。


 しかし、その地区には比較的規模の大きいガリヤーク機の基地があるらしく、多数の敵が向かってくるのに気が付いた。しかし、近づいてくる機は今向かっている敵機を落とすには問題はない位置であるが、少し高度を失うためにその後その編隊と交叉することになる。


 無理をすることはない。こちらは成層圏に逃げれば、ガリヤーク機は追って来られないのでまず大丈夫というアドバンテージがある。ただ、敵機の群れと交叉してもガリヤーク機の攻撃力はお粗末で、唯一危ない空中爆弾は高速ですれ違う時に使えるようなものではない。それに、すれ違う時に何機か食えるだろう。


『いくぞ!』瀬川は腹を決めて、ターゲットにしている敵機に向かって加速した。あっという間にその機が目視できるまでに近づき、レールガンの照準が必要な確率を得て直ちに撃つ。その敵機も最初のものと同様にガクンと揺れて、破片をまき散らして錐もみ状態で墜落していく。


 数瞬後に、10機ほどの敵機とすれ違う格好になるので、1機に照準を合わせて射撃が可能になったガンを再度撃って、相手がガクンと揺れるのを確認してすれ違おうとした。しかし、その時、敵機の半分ほどがチカチカと連続した火を吐いた。


『銃撃だ、それも火薬を使ったガンだ!』機体にひどいショックを受けて、その後重力エンジンが死んだのを意識しながら瀬川は後悔と共に思った。


 サーダルタ帝国人相手に火薬を使った武器は、魔法で火薬を爆破されるために使えないが、我々相手には別だ。それに、たぶんEU諸国を支配下に置いた時に技術と現物を手に入れたか、支配下の種族から手に入れたか。いずれにせよ、“しでん”に対して自分の戦闘機の分が悪いとなれば彼らだって当然工夫はする。


 たぶん、光景が30㎜以上ある爆裂弾だ。“しでん”の厚さ25mmの特殊鋼板は、口径25mmでも正面から食らえば打ち抜かれる。重力エンジンもぶち抜いたらしい。

 そのように考えながらも、瀬川は慣性で飛んでいる機の中で、急ぎ背負式の反重力脱出装置をかついでしっかり固定する。電源は生きており高度は1万mである。


 彼はパイロットスーツを着込んでおり、これは圧力を受けると硬化して着用者を守る。また頭には電子的なコントロールのためにヘルメットを被っており、これに呼吸補助装置を装着する。外の空気は薄いが、秒速1㎞で機体から飛び出した時に、激烈な空気抵抗に人体が耐えられるか。


 無論身体強化はかけるものの、耐えられる自信はないが飛び出すなら早い方が良い。慣性で飛んでいる機体は空気抵抗で速度は落ちていくが、それよりも高度を失うことによる気圧の上昇、すなわち空気が濃くなる方が怖い。


 この速度では、身体強化をかけても、ハッチを開けて飛び出すなどということは不可能である。従って、その時のマニュアル通り座席に座ってフレームで覆い、超強力なばねで上方に射出する方法を選ぶ。


 席に背負っている装置を座席に固定して座り、外つけの鋼製のフレームに体を固定して、さらに息を飲んで気合を入れて叫びスイッチを入れる。「いくぞ!」天板が吹き飛び、座席が射出される。


 しかし、そのフレームは人体を守る役目を見事に果たした。ガクンという始めて経験するひどいショックと共に、大気中に放り出されてぐるぐる回って、方向も何もわからなくなったが、何とか気を失わずに呼吸している。


 廻りを強烈に空気が流れているのを意識するが、まだ回転はしているもののようやく定常状態になったのを意識した。身体強化のお陰であのショックと今の大きな空気抵抗を乗り切れているのを強く意識しながら、イスやもはや邪魔者になったフレームを外す。


 腰に巻いているコントローラで、小型の反重力装置を操作して最大の減速をかける。まだ速度は秒速700m程度あるだろうから、多分空気抵抗という助けがあっても、着陸時に自分が耐えられる程度の速度に落とすまで電池が持つかどうか、多分ぎりぎりだろう。


 結果的には電池は保った。瀬川は、すでに宵闇に包まれつつある林のそばの畑に静かに降りることができた。彼は畑の畝から抜け出して、横の草むらに疲れ果てて倒れ込んだ。



 ジラス司令官は、思ったより敵の戦力が大きくすでに犠牲が生じたのに対して、テレビ会議を開いている。現状で確認された敵航空戦力は、全て地上に係留されるか修理中のガリヤーク母艦が22艦、ガリヤーク機が約1万2千機であり、半分が滞空している。


 ガリヤーク母艦は、この場合の防衛戦には実質的に戦力にならないと考えられるが、ガリヤーク機の数が多すぎる。しかも、ガリヤーク機は味方に対して有効な空中爆弾の他に、機関砲を備えており、今のように完全に数で負けている場合には極めて危険である。実際にそのために少なからずの犠牲が生じている。


 “ありあけ”を始め4隻の母艦はすで高度千㎞の成層圏にあがって、秒速7.3kmの軌道速度で惑星の周回に入っており、その状態でわかる範囲で惑星の表面の状態の観測を行っている。

 現状のところ、母艦に収納していなかった32機の転移護衛隊の戦闘機は、すでに敵と交戦して、それぞれ数機を撃墜している。しかし、思ったより敵機の増え方が早くさらに、攻撃に先述のような火薬使用の機関砲を装備していたために12機が撃墜された。


 これは転移後に射出されて、迎撃に向かった戦闘機も同じで、25機が撃墜されている。

 撃墜された37機の戦闘機の乗員の内の、22人は地上でまだ生存していることが、着陸後の一瞬の信号によって知らせてきているので確認されている。


 そのことから、ジラスは各戦闘機に成層圏への脱出を命じたために、全320機の艦載の“しでん”とスターダストの内の残余の280機余は、成層圏を軌道速度で惑星を周回している。

 この場合の問題は、ありあけ・スターダスト型母艦は成層圏、すなわち完全な真空状態での収容機能を持たない点である。


 それに対して、単座の“しでん”とスターダストの乗員は、その滞在が3日を超えると健康状態に問題が出る恐れが強いということだ。まず、エネルギーについては慣性で飛んでいるので問題はないと考えられ、酸素も2酸化炭素の分解によって1週間程度は問題ないであろう。


 しかし、水と食料については2日分しか持っていない。だから、戦闘機乗員の生命の危機ということになれば1週間がぎりぎりであろうと考えられている。


 “ありあけ”の会議室には、偵察隊の司令官のチャールス・ジラス大将、参謀長のジョン・ブレイン、旗艦艦長の室田に副艦長のジーラスにハヤトが出席している。画面にはオリオン、アンタレスと“むつ”の艦長に副艦長と“むつ”座乗の副司令官葛西も無論出席している。


 このようなテレビ会議では、いわゆるテレビは使わず、各出席者は疑似的に一緒の会議室に出席しているように錯覚させる技術がすでに開発されて、この場合はその技術が使われている。


「それでは、皆さんもご存知の現在の状況を取りまとめます。それから、対処方法を討議したいと思います。

 まず、我々はマイアミの上空から2027年3月2日午前9時30分にマダンへの門をくぐりました。こちらの地域は、2つある大陸の一つミスカルのササールという地方のようで、現地時間は午後4時半程度でした」参謀長のジョン・ブレインが出席者の顔を見ながら説明を始める。


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