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サーダルタ帝国強行偵察隊出撃!

読んで頂いてありがとうございます。

 1ヵ月の訓練を終えたサーダルタ偵察隊は、一旦アメリカ・フロリダの基地に戻ったが、公には出発の時期は明らかにされていない。全地球は、地球同盟の構成国によって電波と魔力のレーダー網を構築しつつあるが、まだ穴が多く、サーダルタ帝国の艦艇が察知されず進入することも可能である。完全なレーダー網構築には、1年近くかかる予定である。


 しかし、基地はマスコミをシャットダウンしているわけではないので、記者は予定を知ろうとするし、偵察隊の要員に接触しようとする。瀬川少尉も、向かいに座っている日本のY新聞の記者である狭山沙耶から取材を受けている。狭山は若い妙齢のアメリカ駐在の記者であり、2ヶ月ほど前からフロリダのアナザ基地の専属になっている。


 ちなみに、アナザ基地はアンノ出現に合わせて、元からあった小規模な空軍基地を大拡張して、名前もAnotherから取って改称したものだ。


「こちらは瀬川英二少尉です。まだ20歳の瀬川さんは大学生だった時に応募して、対サーダルタ防衛同盟軍の戦闘機パイロットに採用されました。瀬川さんは“しでん”戦闘機の操縦に関しては天才的なパイロットで、第2次バトル・オブ・ブリテン及び欧州解放戦に参加されて、それぞれ12機と7機のガリヤーク機を撃墜して、全軍で最高の撃墜王になられています。


 瀬川さんは、このほど異世界であるジーザルとカールルで訓練をされて帰ってこられました。この2つの世界は知的生物がいないことで訓練地に選ばれたものです。瀬川さんに、パイロットとして、お乗りの“しでん”戦闘機について、さらに異世界との壁を越えた時、また2つの異世界を訪れた時の印象をお話しいただきたいと思います。

 瀬川さん、まず異世界の壁を越えた時はどんなことを感じましたか?」


 狭山が瀬川をカメラに向かって紹介して、質問を始める。

「そうですね。その時、今から壁を越えるというアナウンスはあって構えていました。そう、まず見下ろす地球の景色から、異世界の景色が切り取ったように見えます。

 その景色に向かって進むわけですが、壁を越える時点では苦痛はないものの体が引っ張られるような感じが一瞬して、その時にはもう異世界にいたということです。

 あまりショックみたいなものはなくて、“しでん”に乗っていて、低空で音速の壁を越えるときある程度のショックはありますが、それより小さいですね」


「なるほど、あまりショックはないと。それで異世界のジーザルとカールルを周回したとのことですが、どんな印象でした?」


 この基地の記者はすでに強行偵察隊が、ジーザルとカールルという異世界で訓練をしてきたことを知っているし、出発期日も察している。しかし、異世界と戦っている現在、強行偵察隊関係の報道は許可のない限りはしないことが、報道各社と同意されている。


 狭山の意図は、いずれ地球に接する異世界が地球の勢力範囲に入った時には、これらの報道は解禁されるので、その時点で書き溜めた記事を出そうというものだ。ちなみに、現時点での新聞社の報道の在り方は、新聞という紙の媒体はすでに各戸配達という形は廃止され、コンビニなどで販売されているのみである。


 大部分の新聞社の収入源は、個人との契約によるインターネットを通じてタブレットに送られる購読料であり、これはかってのように文字と写真による記事のみでなく動画も含まれる。だから、佐川の瀬川へのインタビューは、向かい合った机の横の3脚に据えられたカメラによって撮影されている。

 そのカメラは広角で撮られており、インタビューの両者を撮影して音声も取っているが、後で自由に焦点を変えられる優れものである。つまり、状況に応じて質問者・回答者に合わせる焦点を変えられるのだ。半面、こうなると、カメラマンという存在が殆ど必要なくなるということになるが。


 一方で、そのようなインタビューの動画記事が多くなると、インタビュワーも美人で感じが良い事が大いに得になる。実際、狭山沙耶は、取り立てて美人というわけではないが、スタイルが良く可愛く感じのよい女性で、瀬川にとっては年上だが十分魅力的な美人だ。


 これは瀬川に限ったことではなく、彼女はしばしば動画記事を出しているが、日本では一部に熱狂的なファンもいる。また、対サーダルタ同盟軍改めて地球同盟軍では、広報担当に届けておけば、こうしたインタビューに応じることに特に禁じてはいない。だから、瀬川としては魅力的な狭山からこうしたインタビューを受けることは正直嬉しい。


 瀬川は狭山の2つ目の問いに答える。

「感激の一言です!宇宙には地球のような星があって、そこには人間も住めるところということは子供のころから思っていました。でも、自分が生きている間には到底行き着かないだろうとも思っていました。

 ところが、異世界転移装置によってすでに2つの異世界に行けて、しかも早速ジーザルでは1周、カールルは2周もその惑星も周回できたのです。まあ、ジーザルは殆ど雲がないので、各戦闘機が1周回るだけで必要なデータが集まった一方で、カールルは雲が地球並みで多いので2周しましたが、それでも十分ではないでしょう。とは言え、こちらも学術調査ではないですからね」


「2つとも地球並みの大きさの異世界の惑星でしょう。それを周回するのに、どのくらい時間がかかるのですか?」


「1時間半程度ですね。1000㎞の高度を軌道速度で飛べば、空気抵抗もないし、慣性で加速無しに飛べますから、その速度に達するための加速と減速のためエネルギーを使うだけなので経済的なのです。“しでん”は電池で重力エンジンを駆動して動いていますからね」


「1時間半、早いですねえ。それで地上の様子はどうでしたか?」


「画像もそう時間をおかずに公開されると思いますが、先に回ったジーザルは砂漠の惑星で、陸地は殆ど砂漠に覆われています。そうは言っても、その1/3の面積は海でして、海際には植物も生えているので、海は緑で縁取られています。

 我々艦載機は地図作成、資源探査等の様々なデータを集めるために意図的に軌道をずらして周回したのです。その結果について聞いている話では、やはり気圧が低いので呼吸補助器具を着けないと呼吸は困難のようですし暑すぎますね。金属資源はあるようですが、水が少ない為か密度が低いようで、鉱山としてあまり有用ではないようです。


 一方で、カールルは殆ど地球と同じような海と陸の割合で、陸は緑で覆われている部分が多いですね。青い海、緑と薄茶色の陸地、雲がたなびき、南北の極は雪か氷に覆われて真っ白で、それは美しい世界です。サーダルタ帝国のデータでは、知的生物はいないようですし帝国も植民もしていませんし、基地も置いていない手つかずのフロンティアです。

 結局、サーダルタ帝国にとっては辺境だったようで、知的生物の住んでいる世界を征服するのに忙しい彼らにとっての利用価値はなかったようですね」


「そうですか。カールルに関しては大変いいニュースですね。地球は明らかに過密になりつつあります。そのような惑星一つのフロンティアが見つかったというのは、大ニュースです。ジーザルとカールルについては学術調査団が送り込まれると聞いていますが?」


「それは聞いていますが、何時、どのようにとかは知りません。いずれにせよ、異世界に我々地球人が渡るというのは、隣接世界を安全にするまでは公にしないということです。ですから、成果もそれまでは発表できませんね」


「なろほど。ところで、強行偵察隊という意味は、異世界に行った場合には戦闘もあるということですか?」


「そうです。今回、たまたま行った2つの世界はサーダルタ帝国の勢力はいませんでした。しかし、次の2つの世界のマダン、ジムカクは知的生物が住んでおり、かれらの総督府もあるので彼らの戦闘部隊がいることは間違いないでしょう。たぶん待ち構えていると思いますから、壁を越えたらすぐ戦闘になる可能性は高いと思います」


「イギリス上空、欧州本土上空、そして東南アジアの戦闘では、“しでん”やスターダストは随分優位に戦いを進めたようですが、どういう点で地球側の戦闘機はサーダルタ帝国のガリヤーク戦闘機に比べて有利なのですか?」


「そうですね。“しでん”とスターダストはほぼ同じ性能ですが、重力エンジンを使っている点でまず有利です。敵のガリヤークは魔力で浮かして推進していますが、加速においてはしでんの半分程度で、最高速度もマッハ2.5程度のようです。それでも、小回りは効くので過去のジェットエンジン駆動の戦闘機では太刀打ちできませんでした。

 “しでん”は魔力で方向変更しているガリヤークには小回りは負けますが、加速力・最高速度は勝っていますし、完全な宇宙空間でも活動できる点で有利です。どうも、ガリヤーク機はせいぜい2万m程度しか上れないようですね。


 また、搭載兵器ですが、彼らの主要兵器は空中爆弾と呼んでいますが、魔力であやつるミサイルですね。数が多いと厄介ですが、避けるのはそれほど難しくないです。また魔力で打ち出す機関銃と他に熱線銃がありますが、これは作動が遅くてほとんど“しでん”の脅威にはなりません。

 一方で、“しでん”にはレールガンとガトリングガンさらに機種によっては爆裂弾発射機があります。特に25㎜のレールガンは、ガリヤークを完全に打ち抜きますのでほぼ必殺です。しかし、これは発射間隔が1秒という欠点があります。この点はガトリングガンが威力には劣りますが連射できる点で有利です。


 なお、ガトリングガンは口径が25mmで発射に火薬を使っていますが、魔力バリヤーに守られていますので使えるわけです。ただ、弾には炸薬が入っていませんので、ガリヤークを撃墜するには相当の弾数を当てる必要があります」


 このように、狭山沙耶から瀬川英二へのインタビューは30分ほど続けられたが、帰還後の再度のインタビューが約束されると共に、夕刻のデートも約束された。


 そして、瀬川他の偵察隊の出撃は翌朝であり、訓練航行から帰ってわずか3日後であった。当日、朝7時の早朝、偵察隊の隊員2280人は、広大な基地のグランウンドに整列して、司令官チャールス・ジラス大将の訓示を聞く。


「わがサーダルタ帝国強行偵察隊の諸君。私と、ここに集まった約2300人の諸君が、今日から旗艦“ありあけ”以下、オリオン、アンタレス、“むつ”の4隻の母艦に分乗して。サーダルタ帝国の総督府のある異世界に乗り込むことになる。対象の世界はマダンとジムカクであり、まずマダンに乗り込み状況を確認して、その後時を置かずにジムカクに乗り込む。

 我が部隊は強行偵察隊と名のつく通り、異世界を覗いて帰って来るというものではない。世界深く入り込んで、サーダルタ帝国の兵力と抵抗力を試すレベルの偵察を行う。このために、4艦の母艦は迎撃して来るであろう敵機が現れても、これを退けて過剰と判断する敵が現われない限り、“しでん”またはスターダスト機による惑星成層圏の周回して世界全体の情報を集めるものとする。


 これから入り込む予定の2世界には、一定の敵艦隊があることは確実であるため、戦闘が起きることも確実である。今のところ得ている情報では、マダンとジムカク両世界のサーダルタ帝国の勢力は、大きくはないであろうということだ。

 しかし、最初に訪れるマダンを通じて、かの帝国が地球への多数の母艦を送り込んできたのであり油断はできない。そして最初に訪れるのはマダンなのだ。訓練通り戦闘機1編隊は、母艦の外で異世界への壁を越えて母艦を近づいてくる敵機から守れ。

 今回の遠征は攻勢に出るものでない。あくまで情報を得るためのものだ。しかし、攻撃があれば反撃せよ。一機の戦闘機も欠けることなく帰還できることを望む。

 では諸君乗艦せよ。出発だ!」


 ハヤトは、“ありあけ”の指令室に立って大スクリーンと魔力・電波レーダーの表示を示すパネルを見ている。横にはサーダルタ帝国人のミールク・ダ・マダンと、ヤフワ・ジェジャートの巨体も立っている。


 旗艦艦長の室田将司大佐が、ジラス司令官の指示に応じて号令する。

「では異世界転移装置起動、マダンへの門を開け!」この号令は司令官の指揮下の他の3艦にも伝わっており、同時に同じ操作がなされる。


 暫くして、転移装置係官の鍛冶洋治が「マダンへの門が開きました」と報告するが、指令室の皆にはマイアミの大地の景色がぼんやりして、夕刻の海と森と田園の風景が切り取ったように鮮明に見えてきた。

「門を越えよ」室田艦長がそれを確認して冷静に命令する。


 瀬川少尉は、愛機に乗ってむつの舷側に力場で固定された状態で門が開くのを待っていた。エースパイロットの彼は、当然最も技量を要求される『移転時護衛隊』のパイロットに選ばれて今まさに異世界へ移転しようとしているのだ。


『おお、マダンの世界が見えてきた!』彼はマイアミのジャングルと海の景色から、切り取ったように見えてきた世界を見て思わず心の中で叫んだ。

 そして、すぐに魔力レーダーの反応に気が付いた。何機ものガリヤーク機だ。しかし、距離は遠くばらついている。

 彼は、母艦からの「門を越えた。力場を切るぞ!」との連絡と、操縦パネルの力場が切られた表示に、すでに稼働していた重力エンジンを加速状態にして、最も近いガリヤーク機に向かった。


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