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国連、サーダルタ帝国反攻

読んで頂きありがとうございます。

 さて国連であるが、その常任理事国である中国が、その国土面積が1/20、人口で1/8になったわけでその実態がないということが言われた。国連そのものは第2次世界大戦の世界秩序に沿って形成されたもので、現状にはそぐわないことは従来から強く言われている。


 日本はごく最近、敵国条項がようやく外れて拒否権なしの常任理事国になったが、常任理事国の拒否権で何も進まない実態にうんざりしていて、裏で金の使うことで声の大きい中国や韓国の意見が通りやすい国連の存在意義を疑問に感じていた。


 実際に国連というのは、中国がこのように小さい存在になり、またその一角であるフランスは一旦サーダルタ帝国の支配下に置かれたにも拘わらず、彼らが反対すると重要なことが何も決まらない。また、中国を常任理事国から下そうにも中国自身の拒否権でどうにもならない。


 一方で、地球全体がサーダルタ帝国という存在に脅かされたことで、対サーダルタ防衛同盟は、キー・テクノロジーと生産基盤を持つ日本が音頭を取る形で自然発生的に成立したものである。実際、主兵器になった“しでん”、“らいでん”については、自分の生産技術を持つアメリカを除いて日本から、貸与の形で各国の防衛同盟軍に与えている。


 アメリカは、最近20年に渡って、製造業が衰退してきており、唯一兵器産業だけはその性能面で突出しているために、競争力を持っている。しかし、国内の製造業がその有様でその製造の技能・技術が高く効率が良い訳はない。だから、日本とほぼ同時に戦闘機、攻撃機、戦闘機母艦の製造に入ったが、日本の製造のペースに全く追いつかずにおり、コストは実質“しでん”級で2倍を超えると言われる。


 これは、一つには重力エンジンの出現により、重量を気にする必要がなくなったために、機体をチタンなど高価な特殊な材料を使う必要がなくなり、高強度のものではあるが鋼製で作れるようになった点が大きい。こうなると、生産性を重視した設計の機体は、別に大工場の特殊な技能者が作る必要がなくなり、そこらの中小造船所で十分できるのである。


 一方で、重力エンジン及びレールガンの心臓部である電磁発生器は、日本の5つの大手メーカーで大量生産システムが構築されている。これらの生産ができるのは、日本以外でアメリカのみであるが、その生産システムは日本に比べると大幅に効率が悪いと言われる。


 これは、アメリカも処方が進んで人々の知力は増大しているが、生産に直接携わる人々の集合知とその実用化という意味では、日本はその長い経験から一歩も二歩も進んでおり、これがその生産性とコストを分けた原因とされている。


 AE励起発電システムの心臓部も同じであるが、重力エンジン及びレールガンの心臓部である電磁発生器については、日本としては当面現地生産を許していない。またこれら心臓部の他にもこれら重力エンジンシステム、レールガンの発射システム、AE励起発電機、AE励起工場、AEバッテリーそのもの等の周辺機器に大量のノウハウが詰まった機器がある。そして、これらが製造できるのは今のところ日本のみである。


 話が逸れたが、いずれにせよ、サーダルタ帝国に対する防衛に関しては、国連は何の関与もしておらず、自分を無視して進む事態に抗議して実質邪魔をしたくらいである。対サーダルタ帝国防衛で国連が何の関与もしていないことは、世界のマスコミの中で声高に語られ始めた。


 元来国連というのはその本部がアメリカにあるように、アメリカの覇権の下にある組織であり、過去の国際紛争の解決も国連軍というより米軍の軍事力を背景に解決されてきている。ところが、実質今回のサーダルタ帝国の侵攻を跳ね返したのは、対サーダルタ防衛同盟という名は冠しているが、実質日本政府が用意した軍事力であった。その日本は常任理事国でもあっても拒否権を持たない存在である。


 欧州解放の後、対サーダルタ防衛同盟の総会が開かれた。そこでまず議論されたのは、サーダルタ帝国に対して今後どう対処するかである。

 これに対しては、すでに日本とアメリカの間で詰められた計画が発表された。それは、日本とアメリカの戦闘機母艦である“ありあけ”及びギャラクシーの各2艦が、異世界の壁を越えてサーダルタ帝国の版図内を強行偵察しようというものである。


 欧州において、多くのガリヤーク母艦を撃墜してそれを軟着陸させた結果、多数の捕虜が得られ、さらにその比較的遅れたコンピュータから多くの情報が集まった。さらに、稼働する異世界転移装置も100基近くが確保できた。


 その結果、サーダルタ帝国のその支配している世界及びその人々について、多くの情報が得られている。また、すでに配備済の戦闘機母艦は6隻あり、これらはその異世界転移装置を装備して、異世界の壁を越えることができるようになっている。


 そこで、実際に異世界に渡って、特にサーダルタ帝国の被支配種族と接触しようというわけである。異世界に渡る4艦には、ハヤトも乗ることになっており、防衛同盟に加わっている構成員の代表が乗り込むことになっている。


 これらのことは、基本的には既決事項の報告という形で発表されたが、大きな期待を持って出席者から受け取られた。少なくとも、サーダルタ帝国を加えると13の未知の世界が待っているのだ。その意味では久しぶりに人々の前に現れたフロンティアに今や触れることができるのだ。

 しかし、ハヤトの参加には異論が出た。なにしろ、まだ資源探査が終わっていないところはまだ40%ほども残っているのだ。欧州代表、まだウラル山脈以西が残っているロシア代表などが反対意見を述べた。


 しかし、議長による『本人の意思が固く、翻意は無理』という言葉と、空間転移を使えて強力な魔法を使える彼が加わることで、強行偵察艦隊の帰還の可能性が2倍に増すという言葉、帰還できる可能性は98%という言葉に折れた。


 次に話し合われたのは、役にたたない国連の今後である。

 当面の危機を凌いだものの、再度の侵攻がないという保証はない今の状態で、今後防衛同盟と国連の関係をどのようにするかは解決すべき問題である。現状のところ防衛同盟の正式メンバーは、日本、アメリカ、イギリス、東南アジア連合、アフリカ連合、中南米同盟、ロシア、カナダ、オーストラリアであり、EU諸国及び中国から独立を宣言した10か国が加盟希望者として加わっている。

 北朝鮮については、経済力がなく日本の隣で日本が防衛するということで今のところは加入していなかったが、中国から分離した諸国と一緒に加入することになった。


 したがって、今のところ、蚊帳の外なのは中東を中心とする西アジア、旧中国、韓国くらいである。中東については、日本がAE励起発電システムを開発して、石油の燃料としての価値を大いに下げたこと、さらにハヤトが世界各国で石油資源を発見して、中東の世界での立ち位置を切り下げたことで、日本を敵視しがちであった。


 そのあたりのわだかまりがあったためか、彼らはアメリカを通じての防衛同盟参加の打診に応じることはなかった。イスラエルについては、アメリカが加盟させるように進言してきたが、中東の火薬庫の主体であるイルラエルに、中東諸国に対して優位な兵器体系を与えるわけにはいかないとの日本政府の反対で拒否している。


 日本代表、堅田昌枝代表の演説である。

「今般、わが防衛同盟は欧州からサーダルタ帝国の勢力を一掃し、その後世界で彼らの偵察機の飛行は確認されておりません。また、捕虜になった者たちの証言によっても、帝国にはもはや地球に大きな攻勢をかけるだけの戦力は残っていないとのことです。従って、この防衛戦そのものは峠を越えたと言っても良いと思います。

 しかしながら、わが地球は異世界という存在、それも多数の住民が住む世界が、手が届くところにあることを知ったわけです。しかも、実際に近くそこに偵察に行こうとしているわけです。その世界は、サーダルタ帝国という帝国主義の国によって席巻されています。私たちは今回本当に運よく、その侵攻を跳ね返すことができましたが、その犠牲は小さいものではありませんでした。


 彼らの侵攻を跳ね返した主たる武器は、わずか5年前に開発されたもので、それら無しでは我々は一方的に蹂躙されたでしょう。それは、そういう経験を実際にされた欧州の状態を見れば明らかです。しかし、我々はその経験に照らせば、この防衛同盟に配備されている兵器で同じような侵攻であれば再度退けることが出来るという確信を持てました。


 そして今回の経験から、地球が結束してこの防衛同盟のような防衛機構を恒久的に持つ必要があることも明らかです。この防衛機構は、あくまでエマージェンシーに応じて臨時に作り上げたもので、とりあえずの意思決定のための組織はありますが、未だ全体を作り上げている途上です。

 そこで考えなくてはならないのは、現在の国連の在り方であります。皆さんもご存知のように、国連は今回のサーダルタ帝国侵攻に対しては全く機能しませんでした。しかし、元々そうした機能を与えられていないので、やむを得ないことであったでしょう。一方で、あの組織の仕組みは、ご存知のように第2次世界大戦の戦後処理として作られたもので、現在の世界情勢には全く合致していないと言って良いと思っています。

 確かに難民の援助、途上国援助には見るべきものもありますが、大きな紛争、さらに今回のように地球全体の危機には機能しないことは明らかです。また、その最大の欠点と言っていいのが、常任理事国の拒否権であります。しかし、それと裏表の関係にあるのは数の論理であります。国の規模によらず各国が一票を持つ仕組みのために、その票を得るための露骨な援助等は目に余るものです。

 しかし、世界の国々が力を合わせるような、あるいは利害を調整するような、国連のような場は必要でしょう。とは言え、大事なところで機能しないような今の国連をそのまま保持するのは問題ですが、それは拒否権のために改革もままならない状態です。


 我が国は、このような国連を一旦解体することを提案します。

 そして、地球が孤独ではないことが判った今、新たな仕組みの例えば地球同盟という仕組みを作るのです。そして、国の利害・主義主張に左右されがちな議決事項には、陽電子頭脳による公平な判断支援を利用しましょう。その判断に全く反する議決は出来ないようにするのです。

 地球の人々は、近いうち、多分5年以内に10歳以下の子供を除いて魔法の処方を受けることが出来るでしょう。その時にはこれらの知力が増強された人々は、これら陽電子頭脳による判断を正当に理解し、審判できるでしょうから、それらの人々の理解・審判に反するような投票行動はとれないでしょう」

 この演説については、出席者の間にざわざわと私語が交わされたが、この日本の提案にロシアから反対の意見が出た。


「わがロシアは、日本の提案に反対である。国連は確かに第2次世界大戦の戦後処理のためにできたことは事実である。しかしながら、それは当時の枢軸国であったドイツ、日本などが侵略行為を働いたことによるもので因果応報である。しかも、そのために、多くの人々が死に世界は荒廃したのだ。

 また、確かにサーダルタ帝国侵攻にあたり国連は機能しなかったが、それは今後改めていけばよいのだ。さらにこの対サーダルタ防衛同盟というような強力な軍事力を持つ存在は、国連軍に組み込みべきであって、その指揮体制も国連の仕組みの中に置くべきである」


 ロシアにとってみれば、当然そういう意見であることは理解できる。今まで最も拒否権で国連の議決を妨害してきたのがロシアであり、そのわがままを今後も続けようという訳だ。


「お国が、そのように言われるのは理解できます。今の国連の平和維持機能を機能不全に陥らせた主因は貴国ですからね。今後もそれを続けたいと、そしてあなた方の政治信条以外の公平な判断があってそれが実際の判断の基準になるのは困るわけですよね。

 私どもは今の国連に、今の防衛同盟の戦力を管理し有効に活用する力はないと判断しています。なにより、サーダルタ帝国との関係をどう決着するか、おそらく何も描けていないと思います。あなた方は、今の国連における拒否権付きの常任理事国の立場を利用して、それを支配しようという魂胆でしょう。

 ですから言っておきますが、少なくとも、我が国の貸与している“しでん”、“らいでん”等の戦力を国連の手に預けることは決して致しません。そのように言い張るのでしたら、貴国に貸与しているこれらの機体をお返し願いましょうか」


 日本代表堅田の皮肉に満ちた、また強硬な言葉に会議場は凍り付いた。今のところ防衛同盟の主兵器である“しでん”、“らいでん”は大部分日本政府からの貸与であり、その要求があれば返さなくてはならないのだ。そうすると、防衛同盟そのものが成り立たなくなる。


「わがアメリカ合衆国は、日本の意見に基本的に賛成だ。国連は、今の状態を見ると新しい衣を着せる必要があるだろう。今のところ、サーダルタ帝国との戦争状態は終わったわけではないから、防衛同盟は今の状態で保持する必要がある。

 だから、対サーダルタ防衛同盟軍は地球防衛軍として改称し、その司令部機能を充実させる。さらに、それに取り込む形で今の国連の機関を日本の提案する『地球同盟』として形成させていけばよいのではないかな。そこら辺りは高級官僚化した今の国連の職員に仕切らせないように気を付けてやることだな。人道支援など、すぐにやめるわけにはいかない活動も多いが、分担金は徐々に減らしていこう」

 アメリカ代表のジョン・リッカードが述べて、それが基本的な国連解体の方針となった。


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