サーダルタ帝国侵攻、日本の決算2
最近順位があがってきたので、つい張り切って更新分できましたので投稿します。
読んで頂きありがとうございます。
瀬川英二はその通達を、イギリスから日本へ帰ったその日に知った。
彼はバトル・オブ・ブリテンと、欧州開放に参加して、欧州上空の空中戦の後にイギリスのニューカッスル基地に一旦帰り、日本への帰還の指示を受けた。イギリス上空の戦闘では、基地から直接の上空への出撃だったが、欧州開放においては、一旦成層圏にあがって、日本とアメリカからくる大編隊と時間を合わせての、サーダルタ帝国航空艦隊への一撃離脱の攻撃だった。
後者は、成層圏から舞い降りて減速して速度を調整しながら、秒速2㎞で上空約1万mに滞空するガリヤーク機(アンノ機)にすれ違いざまにレールガン、及びガトリングガンの銃撃を行うものである。銃撃が5秒間隔の2基のレールガンは各1発ずつ、ガトリングガンも1連射のみで、それも到底人間の判断では間に合わないので基本的にAIによる射撃になる。
しかし、機位について操縦者の判断が大きく、敵に対する命中率もその取り方に大きく依存する。天才と言われた瀬川は、その空間把握能力に天分があり、その機位の取り方が絶妙であるため、バトル・オブ・ブリテンにおいて、12機の撃墜を達成して全体の撃墜王の称号を得た。
彼はその成層圏からの降下に当たっても、レーダーを読みを見ながら微妙に機位の調整を行い、まず秒速7㎞のレールガンの弾であれば、相手が如何に機動しても避けられない1㎞の距離で0.1秒の間隔を置いて敵に撃ち込んだ。さらに、1機のガリヤーク機にすれ違いざまレールガンの一連射を叩き込んだが、後者はやや威力不足のためよほど相手の装甲板に正面から当たらないと撃墜はできない。
しかし、操縦AIが報じる。
「レールガンにより2機撃墜、ガトリングガンにより1機損傷……、撃墜と認めます」
「オー、すげえ。3機撃墜だ!」瀬川は叫ぶ。彼は自他ともに認めるお銚子者だが、敵に対しているときは妙に冷静になるのだ。今は、最大の減速をかけて地上に激突する前に反転する必要があるが、それはAIが着実に行っているので、今の1分ほどは唯一多少気を抜いていい時だ。
反転して、まばらになった敵ガリヤーク機に襲い掛かるが、今度も一撃離脱に近いものの多少泳ぐ余地がある。瀬川は、その反転からの攻撃でさらに2機を葬り、その後の地上近くへの敵機の攻撃で加えて2機で合計7機を撃墜して、再度の撃墜王に輝いた。
その、2回の撃墜王を得た功績で、瀬川は河西大将からの戦時昇進で少尉となった。19歳で少尉(3尉相当)は日本自衛隊、防衛軍で初のことである。
列機8機で、日本への成層圏の慣性飛行を行いながら瀬川は思う。
『それにしても日本から1万㎞が1時間強か、それ1千kmの高度、秒速7.2㎞の軌道速度で成層圏を慣性飛行で跳べるからだよな。重力エンジンがあるとしても、そうでないとバッテリーが保たないものね。
近いうちに旅客機がこの飛行をするようになるだろうから、ヨーロッパが日本から1時間強か。新婚旅行はまたイギリスに行きたいな』
まだ彼女もいない彼が勝手なことを考えているが、やがて中国大陸、朝鮮半島が見えて、機は5Gで減速をしつつ高度を落としながら九州に向かう。この操作はすべてAIによる自動である。
やがて、懐かしの民間飛行場に隣接する宮崎の基地が小さく見えて、8機の“しでん”はその上空1㎞で各々20m空けて隊列を組んで停止する。
「おかえり、活躍だったようだな。皆無事に帰れてよかった。AIには伝えたが、G3地点に編隊を組んだまま、秒速10mで降りてくれ」管制官の連絡だ。
管制官の言う通り、編隊を組んだまま鉛直に滑走路に向けて降りる。無論最後の10mは減速して地上にタッチするときは柔らかく、ほとんどショックはない。
宮崎基地からは、バトル・オブ・ブリテンに第1派遣団“しでん”100機、欧州開放に第2派遣団同じく“しでん”200機が出動したが、犠牲なしとはいかず第1派遣団からは8機撃墜され、6人は脱出したが2人は戦死した。第2派遣団の被撃墜は8機で3人が戦死した。
なお、日本から欧州及び東南アジアに出撃した“しでん”、“らいでん”、及び輸送機の“ひの”の内、それぞれ、“しでん”223機、“らいでん”21機、“ひの”2機が撃墜または事故で墜落して、合計45人が戦死した。これはまた、日本の対サーダルタ防衛への直接参加への非難の種になったが、瀬川としては非難している連中を心底疎ましく思っている。
亀でもあるまいし、逃げて引っ込んでいれば嫌なことが遠ざかるものではないのだ。今回の日本政府の取った行動は、瀬川から見れば明らかに正しかったと思う。もし、日本がこの膨大な軍備を生産し、必要なパイロットを養成しなければ、イギリス、欧州、東南アジアの犠牲はもっともっと増えただろう。
確かに戦争な良いものではない。瀬川もその本質を知らないままに防衛軍に入って、肉体を鍛える段階はつらくもあったが、飛行訓練の段階は才能に恵まれたおかげでむしろ楽しかった。しかし、実戦のそのヒリヒリした緊張感と、すぐそこを死が通り抜けていく恐怖感の連続は訳が違った。たしかに、彼は才能に恵まれ、多大な成果をあげたが、それはより死に近いところを潜り抜けた証でもあったのだ。
そして、自分が直接的にはイギリスを、そして欧州を、そして、父母を、生意気な妹を守るべく行動をして、その成果を得たことに深い満足感を得ていた。だから、日本政府が欧州と東南アジアを守ることで、結果的に日本をも守り行動をしたことを、そのために死者が出てことをもって非難する連中を許せないと思った。少なくとも彼らは自分では何もしていない。
彼自身は、亡くなった戦友(真実そう思っている)の死を、自分も少し違ったことがあればそうなったと悼んでいる。しかし、彼らの犠牲は無駄にはなっていないのだ。現に地球は、もはやーダルタ帝国をたたき返したと言っていいだろう。
日本からの、これらの日本防衛軍の戦闘を非難する報道をイギリスで見て、怒りに包まれたことを思い出しながら、瀬川は地上に降りる。それは、機から整備員がかけてくれた、アルミの梯子を下りつつであるが、ハイテクとローテクのアンバランスにいつものように苦笑を浮かべる。
そこには、なつかしい教官を務めてくれた三島3佐が待っていた。瀬川は列機の8人が揃ったところで、整列させて三島に敬礼して報告する。
「三島3佐殿、瀬川少尉以下8名、イギリス及び欧州本土の戦闘から無事に戻りました」
「ご苦労、よく皆無事に戻った。貴君らの活躍は報告を受けている」三島は敬礼を返しつつ言う。
その日のみで、150機のしでんが帰還したものだから、迎える基地の上級幹部は大忙しである。その夕刻は、帰還した全員が集められて、基地司令及び宮崎県知事の賛辞があり、その後体育館に机を並べて宴会である。
そして、瀬川は久しぶりに日本の食い物を食べ、宮崎の焼酎を飲んで、いい加減に酔っ払って宿舎のベッドに倒れこみ、スマホの端末を開いてその通達を見たのだ。
それは、サーダルタ帝国の侵攻をひとまず防げたことから、防衛軍の規模を縮小するために、古巣に戻ることを認めるというものであった。
「うーん、そうだよなあ、縮小するよね。大学に戻るかなあ。まあいいや。酔っ払った。寝よう」瀬川はそう呟いて寝てしまった。
翌朝、帰ってきた者達は順次上官から呼び出しがあった。瀬川は早いうちに呼び出されたが、その小部屋には長机があって三島3佐と、村田1佐基地航空司令が座って待っていた。瀬川は彼ら2人に向かって置いてある椅子に座るように促される。
「瀬川君、通達は見たと思うが、あれは君の場合は別だよ。確かに防衛軍は、大幅に要員を減らすが解散するわけではない。その防衛軍は、イギリス、欧州本土の戦いの撃墜王を放すほどの余裕はない」
三島3佐がそう言い、それを聞いて瀬川は胸がじんときた。彼自身は自分の空戦技術と列機を率いる能力に自信はあった。そこに要らないと言われると大いにプライドに傷がつくというものだ。
さらに、それに加えて村田1佐が口説く。
「瀬川君、三島3佐の言う通りで、君にはぜひ防衛軍に残って欲しい。実は対サーダルタ防衛同盟は地球防衛軍として恒久的な組織にしようと言う話があるが、いずれにせよ今後長く“しでん”戦闘機は主力兵器として使われるだろう。
その意味では、その操縦に卓越している君には残って欲しい。この場合は、防衛軍または自衛隊に属して大学に通って卒業してもらってもいいぞ。さらに、君も気がついているだろうが、近く、そう1ケ月内外の内に、偵察のために異世界へこちらから渡ろうというミッションの計画がある。
その場合には規模の大きな部隊は送り込めないので、最精鋭のみの派遣になるので君はそれに選ばれる可能性は非常に高い。また、多分それにはあのハヤト氏も加わるだろうという話だ。どうだ、異世界に行ってみたいと思わないか?」それを聞いて、瀬川の腹は決まった。
まず、かれら幹部自衛官は瀬川のプライドをうまくくすぐり、さらに軍に属していても大学の卒業まで出来ると言っている。それに、あのハヤト氏が加わる異世界への侵入ミッションに参加できる可能性が高いとなると、断る選択肢はないというものだ。
「はい、私は残ります。ぜひ、そのミッションに加わりたいと思います。それと、時間はかかっても構わないので大学は卒業したいと思います。卒業しないと、折角入学させてもらった両親に申し訳ないので」
「おお、そうかね。うん、君の“しでん”パイロットとしての評価は、AAだから選ばれる可能性は非常に高い。それと、時間がかかってもいいというなら、任務の傍ら大学に通って卒業するのはそういうコースもあるので、大丈夫だ」2人の上官はニコニコであり、村田1佐がにこやかに請け合う。
大泉官房長官の定例記者会見に、記者から質問が飛ぶ。
「長官、中国新政府の意向については、すでに新主席の令氏からの声明がでましたが、日本政府にも当然正式な申し入れがあったと思うのですが、いかがですか?」
「ええ、文書で申し入れがありました。それは、対サーダルタ防衛同盟参加への仲介、魔法の処方のための処方士の派遣の依頼、資源探査の依頼、さらに様々な新技術の有償供与です。また令主席が日本に訪問して、過去のわだかまりを解いた上で先の依頼を改めて行いたいとの正式な話もきています。
しかしながら、ご存知のように中国とわが国は、8年前の尖閣沖紛争において戦闘行為を行い、それについて決着の話し合いもしていません。加えて、2代前の政権ですが、在日大使館に小火器を違法に貯蔵すると言う暴挙をおこない、これはわが国のみならずアジアを中心に多くの国で同じことを行っています」大泉は一旦話を切った。
すかさず、数人の記者の手が挙がるが、大泉は手を振って続ける。
「お待ちください。まだ話は終わっていません。とは言え、今回の自ら革命政権と言っていますが、令主席をトップとする政権が、今までと全く違う可能性はないわけではありません。事実、彼が声明で述べたように、過去を反省して開かれた政府を構築するのかもしれませんし、その場合過去のような覇権的な振る舞い、言動はなくなるのかもしれません。
要は判らないのです。しかし、もしわが国が中國の要求に応じた場合には、かの国はその人口と人々のバイタリティで急速に発展するでしょう。そしてこの20年ほどの間に起きたように、その結果軍備増強に走り、また同じように地球全体での覇権を求めないという保証はないのです。
なにより、中国の人口はわが国の10倍を上回るのです」
一旦話を終えると、多くの記者の手があがり、大泉は指名する。
「Y新聞の秋田です。長官がそういわれるということは、中国新政府の要求を拒否するということですか?」
「そう、検討していますが、まだ結論は出ていません。しかし、はっきり言って令新主席のお言葉のみを信じて、さっき言ったような危険を冒すことは、政府を預かるものとしてできません。魔法の処方を受けた結果、間違なく個人の能力が大きく上昇します。
そのように大きく能力が上昇した個人を、政府が強力に束ねて一致して外に当たるということがあった場合、それはまさに悪夢です」大泉が言って、さらに記者を指名する。
「A新聞の山形です。しかし、日本はすでに海外に処方士のミッションを送り出していますし、資源探査も多くの国で実施しています。隣人の中国と韓国にそれをしないのは、明らかに差別です。また、今回の中国の新政府は、明らかに過去とは違って極めてわが国に対しても融和的です。すぐにでも、要求に応じるべきです」
「差別はしていませんが区別はしています。中国に対しては過去、さっき言った理由で処方等に応じてきませんでしたし、資源探査はハヤト氏が拒否しています。
また政府としては願望で物事の決定はできません。基本的は最悪を考えるべきなのです。
韓国に関しては距離が近いこともあって、すでに必要な人は処方を済ませたと理解しています。また韓国は、金ユッケ大統領を継いだ、郭大統領以降わが国に対して極めて高圧的な外交態度になり、過去何度か処方の要求はありましたが、極めて高圧的なもので、とうてい受け入れられる条件ではありませんでした。この点は皆さんもご存知の通りです。
また資源探査はハヤト氏が韓国に対しては実施しないと言っていますので、この点は政府としては如何ともしようがありません」
大泉はこのように答えたが、その後の質問に対する答えは大同小異であった。
38話以降全体を誤字脱字、前後の矛盾点見直しました。
訂正部は結構沢山ありました。
どこを訂正したか記録をとっていません。すみません。