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サーダルタ帝国侵攻、日本の決算1

お読みいただきありがとうございます。

読者の方のご意見で、少し方向を変えました。

 サーダルタ帝国の侵攻に対して、その抵抗を支えてきたのは主として日本である。その意味では、早々に莫大な予算を組んで、産業構造及び社会の仕組みそのものを対サーダルタ防衛戦争に向けたことが功を奏したわけで、国際社会からは称賛の声が浴びせられている。


 しかしながら、日本国内においては、例によって物事を斜めに見る半数ほどのマスコミと野党を中心に、むしろ批判の声が高まっている。たしかに、巨額の予算を投じて整備した軍備は、結局にところ日本の防衛には役にたたず、他の地域の防衛に使われたのみである。他国・他地域への軍備の提供及び直接の防衛戦への参加は、対サーダルタ防衛同盟を通したと言え、それが他国においての戦闘であることから、憲法に違反するとの議論が起きた。


 しかし、この論は高名な憲法学者の、以下のような論文で一蹴された。

「改正された日本国憲法の条文では、専守防衛のためには軍備を持つこと、そのための戦闘を行うことは認めている。しかし、明確には述べてはいないが、その範囲は日本の周辺に限るというように解釈できる。一方で、これらの条文は、あくまで地球上の国々に係わることであり、異世界のからの侵攻のようなことは想定していない。


 今般、日本政府は対サーダルタ防衛同盟を通して、他国への大規模な軍備の提供と直接の戦闘への参加を行った。これは、万人が認めるように、地球をサーダルタ帝国の侵攻から守るために必要な行為であった。日本政府のこの決断が無かったとすれば、現在欧州と東南アジアはすでに侵略されて、多くの人々があの首輪で隷属状態にされたことであろう。さらには、日本等他の国々は、そうした隷属状態にされた人々をも含む泥沼の防衛戦争を戦う必要があっただろう。


 確かに、対サーダルタ帝国に関して、日本政府の今般の行動は憲法上グレーではある。しかし、その行動は正しかったのだ。そうであれば、グレーであるような憲法の方がおかしいということになる。この場合、すべきことは政府の行動を憲法に照らして非難することではなく、結果的に正しい行動を妨げる憲法をどう改正することだ。

 憲法は不朽の大典ではないのだ」


 日本政府は、国内の防衛総力体制を解除した。これは、対サーダルタ防衛同盟が欧州においてサーダルタ帝国を排除して、多くの捕虜から、サーダルタ帝国には再度の大規模な侵攻の軍事力は残っていないとの証言を得たうえである。


 その時点での、日本政府の管轄下の兵力は、防衛同盟軍所属を含めて、配備済みのものが、航空型として、“しでん”戦闘機4万2千機、“らいでん”攻撃機が2千機、“ひの”輸送機が1200機であった。さらに母艦である“ありあけ”が4艦完成して試運転状態にあり、2ヵ月以内には6艦が完成する。また、陸上には高射型レールガンが3千基配備済であり、戦車に代わる“らいでん”地上型(時速500kmで飛行可能)が500機準備されている。


 海上は、将来は航空及び宇宙に統合されるが、既存の艦船に高射レールガンが積み込まれている。このような兵器体系を運用するため、近年増強されて30万人所属していた自衛隊員に加え、社会人からの採用隊員5万人、学生・社会人の期間限定隊員24万人が日本自衛隊と同盟防衛軍に配属されている。

 結果的には、活動期間が7ヵ月と短かったこともあって、通常の防衛予算が8兆2千億円にくわえ、12兆3千億円の追加経費に留まる予定である。更には、日本単独でこれだけの膨大な戦力を保持する必要はないうえに、いたずらに他国の猜疑を引き起こすとして、多くの兵器を他国へ売却する予定にしているので、かなりの売却益が見込まれている。


 この点では、すでにEU軍および欧州諸国を始め、アジア諸国、アフリカ諸国、カナダ、ロシア、オーストラリア、南アメリカ諸国等から多数のオファーが来ている。これは一つには、“しでん”、“らいでん”等の重力エンジン機のコストの低さが原因している。


 重力エンジン機は、全く重量増加を嫌う必要がないため、機体が特殊鋼板で作られている。また、重力エンジンがジェットエンジンに比べ、大幅に軽くシンプルな構造である。加えて、情報・管制機器が日本で急速に発達した、汎用の革命的な情報システムにより構成されている。

 これらの構成要素すべてが、既存の戦闘機等に比べると極めて低コストでできるのだ。そのため、武装を含めた調達費がしでんが15億円、らいでんが22億円になって従来のものに比べて一桁低い。


 これらの生産を大幅に縮小する兵器に対して、“ありあけ”母艦のみは今後も増産する予定であり、完成済・完成が近い10艦に加えて、20艦が追加着工されており、半年以内には完成の予定である。

 なお、アメリカも“ありあけ”と同級のギャラクシー型の4艦が完成間近であり、建造中の残り12艦が5ヵ月足らずで完成する。なお、日本の近く完成する6艦の内の2艦はイギリスの予約が入っている。

 更に、追加建造中の20艦は各国の奪い合いになっているが、現状のところ欧州に8艦、東南アジアに2艦、ロシアに4艦、アフリカ連合に2艦、台湾に2艦の輸出が決まっている。なお、アメリカは、他国への輸出の余力はないということで輸出の申し入れを断っている。



 日本政府の閣議である。

「では岸山外務大臣、中国新政府の申し入れについて御説明ください」大泉官房長官が、岸田を見て促し、外務大臣の岸山もと子が話し始める。


「はい、中国から革命政府の発表があったこと、及びその内容は皆さんご存知の通りです。あの内容は今までのドクトリンの反省と、今後は別の道をとるという表明でありましたが、中国の近世の我が国との関係において、その約束した態度は長く続けた例がありません。

 典型的には、例の天安門事件において、世界に孤立した中国を我が国はその要請に応じて天皇陛下の訪中までを実現させて、いわば救ったわけですが、その結果はどうだったでしょうか。反日活動を激化させ、尖閣はおろか沖縄までを自国のものと世界に向けて言い出す始末です。


 まあ、そのあたりは心に止めて頂いて、中国の新政府と名乗る者達からの正式な要請はお手元の通りで、相手から届けられたものもこの日本文です。

 要約すれば、1つ目には対サーダルタ防衛同盟に入れて欲しいので、日本から口添えを頼みたい。

 2つ目は、中国に魔法の処方士のミッションを送り込んで欲しい。

 3つ目は、ハヤト氏に資源探査を行って欲しい。

 4つ目は、日本で当たり前になっている様々な技術を有償で供与してもらいたい。

 それに値する国にするため、中国は共産党一党独裁の政治を改め、選挙で選ばれた開かれた政府にする。さらには、日本を最友好国と位置付けるということです」


 閣僚は、文面を読みながらその話を聞き、暫くの沈黙が落ちたが、サーダルタ帝国の侵攻が明らかになってから、篠山の要請で『非常事態担当相』として閣内入りした、阿山前首相が話し始める。

「ふーん、困った時の日本頼りだね。事態を切りぬけたらまた敵視し始めるのだろうな」


 それに対して、経産大臣の向田春樹が返す。

「いえ、そうとも言えませんよ。少なくとも世界に向けて、そういう意向を発信したわけですよ。おっしゃる通り、間違いなく中国は今現在非常に困っています。このまま例えば5年たてば、中国は周りの国々から馬鹿にされる存在になるでしょう。

 だからこそ、平和裏にあの革命が成功したのです。

 また、中国は好むと好まざるに拘わらず、我が国の隣人であるわけです。ですから、その中国が遅れた、不満分子だらけの国民で構成された存在になることは、我が国にとっても安全保障上の問題があるでしょう。

 確かに、信頼しにくい相手ではありますが、今差し出された手を払いのけることは、間違いなく恨みを残し、我が国の将来に禍根を残すことになると思います」


 この言葉に少し沈黙が落ちたが、官房長官が西田防衛大臣に話を振る。

「西田さん、どう思いますか?」


「うーん、私としては弱い中国のままであった方が、地域の平和には貢献すると思いますよ。まず間違いなく、彼らが我が国と同じ技術を手に入れて、数の多さのゆえに、経済的に他に卓越したら、8年程前と同じことを繰り返すと思いますよ。

 しかし、一方でこの話を全面拒否して敵に回すのもね。なにか、話には一応応じるけど、彼らがその数の多さゆえに他に勝ることのないようにしたいですね」


 西田防衛大臣の言葉に、岸山外務大臣が応じる。

「それは、一つありますよ。分割です。要は、人口14億の巨大さが問題なのです。実のところ、今の中国は解放軍が無理にまとめているだけで、それほど国内の一体感はありません。最近では、地方の不満をなだめるために、国によって地方への投資を盛んにしていますが、豊かな沿岸部は、自分たちが稼いだ資産を貧しい地方に移転していると言って、大きな不満があります。


 一方で地方農村部も、役人がやりたい放題やった結果、多くの農民が土地を持てなくなっており、さらに沿岸部に比べ圧倒的に貧しいため、大きな不満があります。やはり、役人主導、それも私欲にまみれた役人ですから、効率が著しく低いのです。

 外務省でも、だいぶこの辺りは調べていまして、ある程度の資金を投じて、しかるべきところを刺激してやれば、分離独立というのはありますね」


 さらに岸山は官房長官の顔を見て、彼が頷くのを見て続ける。

「実は、この件はまだこの席ではお話をしていませんでしたが、首相・官房長官及び非常事態担当相ともお話しして大分準備を進めています。ただ、これはもともと台湾から来た話なのです。

 台湾の人は、ご存知のように中国人であるわけですから、中国の事を探るのはお手のものです。それに台湾は、日本に並んで処方を早く進めた結果、経済状態は大変良いわけですし、彼らの最大の懸案は大陸中国であったわけです。その軍事的な圧力に対しては、すでに重力エンジン機の導入で殆ど中国本土に対しては万全です。


 しかし、一方で大陸の巨大な人口による圧力はある訳で、それに対して彼らの出した結論が分離独立です。工作は相当に進んでおり、今のところ11の国に分かれる予定になっているそうです。その口説きの決まり文句が、『今のままでは、日本が中国に対して魔法の処方、資源探査、技術の解放をすることはない』ということです。

 また今回の中国の革命騒ぎは、この工作にとっては極めて都合の良いものです。なにしろ、すでに革命政府が世の中を大きく変えようとしているわけですから、そこをもう一押しすればいいのです。 ですから、日本がこの中国の申し出を蹴ることで、独立の引き金を引くことになります。ただ、日本政府がその分離する国の支援をするという密約と、実際の実行が必要です」


 その話に篠山首相と大泉及び阿山を除く閣議の面々が呆れて外務大臣を見ている。

「うーん、岸山さん、あなた。よくシレッというね。結論は出ているじゃないの」

 向田経産大臣がうなって非難の目で相手を見て言う。


「いや、申しわけない。皆さんのご意向も踏んでということでね。じゃあ、どう具体的に返すかは別にして、拒否ということでよろしいですね?」岸山に代わって大泉が言うと、西田防衛大臣が聞く。


「とは言え、軍部をどこまで押さえているか知りませんが、当然中南海は彼らの握っている軍を差し向けますよね。その場合はどう対処するのですか?」


「それは、台湾が改革(“しでん”改)戦闘機を100機出します。さらに、戦車代わりになる“らいでん”の簡易型の陸王攻撃機100機も出しますから、解放軍に対しては大丈夫ですね。なにしろ我が国は憲法の制約上動けませんからね」


「うん、通常攻撃はそれでいいだろう。ただ、核ミサイルについてはどうかな?」


「その点は、台湾は陸上イージスを導入しておりますので、本土からの核ミサイルに対しては安全です」

「わかりました。軍事面は納得しました」西田のこの言葉に大泉は続ける。


「さて、後は我が国からの独立後の支援の約束ですが、これは首相から台湾の総統の陳さんに直接お話し願いたいということです」大泉が更に言って、篠山首相が頷く。


「うん、わかった。中国が11の国に分割すれば、将来の危険性は低いだろう。そうした国々に支援することにはやぶさかではない」


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