表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/180

サーダルタ帝国侵攻、中国の決算

お読みいただき感謝します。

 サーダルタ帝国の地球侵攻は、様々な意味で地球のいわゆる国際社会を揺り動かした。まず大きかったのは、地球は孤独ではないということがはっきりしたことである。この点は、宇宙には多くの知的生物がいるであろう、ということは普通に信じられてはいたが、そこに到達するのは自分の関係する世代ではないとも思われていた。


 ところが、そこへ異世界からの侵攻である。それも、地球に(あるいは地球から)到達できる異世界が、少なくとも13(サーダルタ帝国及びその従属世界)あるということが判ったのだ。この点を最も強く感じたのは、地球世界の過去の成功(?)体験を引っ張り出して、地域の覇権を握ろうと様々な動きをして、結局世界から孤立しつつあった中国である。


『世界に冠たる中国』などというスローガンは、もはや到底言えない。確かに人口だけは、インドの人口増加率が人口抑制策の成功で、過去5年大幅に低下した結果、未だ世界一である。しかし、GDPも正直な統計を取り始めてから、2020年に実は日本円で750兆円ということがわかり、その後世界からの投資引き上げ、貿易制限の影響もあって全く伸びていない。


 一方で日本のGDPは、魔法の処方が始まって以来すさまじく伸びてきており、すでに1千兆円のオーダーに乗って、1ドル75円の円高であることも手伝って、すでにアメリカの半分以上になっている。さらには、日本のGDPは今も年率8%程度伸びており、中国との差は開く一方である。それだけではなく、日本は近年の大発明、AE励起・発電、重力エンジン等のほとんど全ての発信源である。


 さらに、枚挙にいとまがないほど技術・システム面での発明と呼べるほどの改善を続けて、近年ますます重要性が増している、情報・通信に関しても、現状では明らかにトップランナーになっている。

 これらすべての源は、結局『魔法の処方』に行きつく。


 中国人も、日本で働いていた者やその子供が日本の学校に通っていた場合には、処方を受けたものもいる。しかし、尖閣沖紛争時に大部分の中国人は帰国しているため、その数はわずかなものである。また、中国人の場合は自ら処方できるほど魔力の強いものはいないので、日本人あるいは台湾人から処方をしてもらうしか処方は受けられないのだ。


 しかし、中国は日本に敗れた尖閣沖紛争において、非は認めず相手を継続的に非難してきたこともあって、日本とは半ば敵国同士の関係にある。日本も中国に多くのメーカーが進出して生産を行い、中国国内で様々な販売も行っているため、それなりの関係は保っている。しかし、在日中国人はかって100万人を越えていたものが現状では15万人であり、在中日本人は1万人に過ぎない。


 また、製造業は、処方を受けた日本人の生産性が極端に高まり、かつ日々小さな開発・改善がなされている日本を離れることが、大きな損失を招くとの判断を下している。そのため、中国に拠点を持っていた会社の2/3がすでに日本に回帰している。この点は、台湾企業でも早くから同じ判断を下しており、日本と同じ動きをしている。

 また、現状では中国は回避しながら、全ての国々に魔法の処方、また資源探査が行われつつあり、この状態を放置すれば中国は世界の最も遅れた国になることは明らかである。


 一方で安全保障の面でも、深刻な問題が生じてつつある。それは、中国周辺の国々は、対サーダルタ防衛同盟に加入した結果、新世代の兵器を供給されている。特に台湾について言えば、国民の魔力が強いという利点を生かして、早くから日本の技術革新に追随しており、さらに国民同士の友好関係もあって、兵器体系もすでに新世代のものに更新されている。

 すなわち、重力エンジン駆動の改“しでん”戦闘機、改“らいでん”攻撃機をすでに実戦配備している。このことのみで、すでに共産中国の敵う相手ではなくなったのであり、それはサーダルタ帝国の欧州侵攻を見ても明らかである。


 さらに、東南アジアは、連合を組んで対サーダルタ防衛同盟に加わっており、同様に“しでん”、“らいでん”を配備している。これらは、正式には対サーダルタ防衛同盟の一部ではあるが、一面では各国の防衛軍でもある。すなわち、かってであれば中国はこれらの国々に、好きな時に侵攻して占領するだけの武力を持ち、実際にそれをちらつかせてきた。


 しかも、強力な核兵器体系はその裏付けでもあった。

 確かに、核ミサイルは依然として周辺の国々にとっては脅威である。しかし、一方で強力なレールガンを装備して、マッハ5を超え、成層圏まで上がれ、地球を楽々半周できる“しでん”、“らいでん”は中国本土を好きなように攻撃でき、中国には迎撃する能力はない。


 このような相手に、実際には使えない核で脅しても無駄というものだし、そのようなことをすれば、地球全体の脅威ということになり、対サーダルタ防衛同盟が出張ってくることになるだろう。ちなみに、対サーダルタ防衛同盟の中心は、すでに配備している兵器の量からみても明らかに日本である。半面、日本は憲法の制約があって、他国の防衛はできない。しかし同盟の名において行う軍事行動の場合は別なのだ。


 このように、中国は、安い労働力を生かして世界の工場として築いたその経済力は、それが故に傲慢になった振る舞いのため招いた孤立化によって、GDPはすでに5年以上も横ばいになっている。その上に、国力のよりどころにしていた軍備も、先述の自国以外の革新によってすでに陳腐化している。


 そのことから、中国でも様々なルートで処方を受けた若手の政治家、財界人がその圧倒的な知的能力から必然的に、指導者になりあがっている。中でも、38歳の令シュンジュンは、処方が始まってごく初期に役人として日本に留学をしていて、伝手を辿って処方を受け、その後帰国して、着々と同志を募り力をつけてきた結果、これら若手の優秀なテクノラートの中心的な存在になっている。


 令は、全国から集まった同志に向けて演説している。

「今まで述べてきたように、残念ながらわが国は、このままの状態を続けていけば、再度世界でも最も遅れた貧しい国になるであろう。確かに、過去10数年わが国は傲慢にふるまいすぎ、一方でその面子を保つために、世界中に今となってみれば莫大な無駄な投資を行ってきた。

 巨大な規模の異世界の存在が明らかになった以上、もはや地球上で覇を唱える時代ではなくなったのだ。いずれにしても失敗したがな。もはや、唯我独尊は許されないのであり、地球における世界の一員として、身の丈に合った振る舞いをしなければならない。


 具体的にはとりあえず日本に膝を屈して、我々が渇望している様々なものを入手するのだ。日本人というのは、基本的にお人よしだ。それなりに敬意を払って頼めば、必ずそれに応じてくれるはずだ。また、今や最も重要な要素になっている魔法について言えば、地球上でもっとも魔力の強い人種であることは明らかだ。その意味では、敬意を払っても良い相手ではある。

 まず、全ての国民に魔法の処方を受けさせる必要がある。そうして、国民の知的レベルを上げて、彼らの能力を十分駆使してすでに実用化されている様々な技術、AE励起発電、重力エンジン、様々なソフトウェア技術を導入し、わが国に根づかせる必要がある。


 さらには、資源探査だ。もはや地球の陸地の55%の探査は終了しているが、まだ我が国は目途さえ立っていない。今までの資源探査の実績をみると、広大なわが国には知られていない資源は莫大にあることは間違いないと思う。しかし、これを実施できるのはただ一人、日本人のハヤト氏のみであり、まずいことにわが国は彼に向けて数度の敵対行為を実施してきた。結果的には、被害はこちらの方がはるかに大きかったのだが。


 しかし、状況はいまや変わった。敵対的である異世界の存在が明らかになった以上、わが国がこの世界に覇を唱えることがナンセンスになった。それと同様に、地球上の国で人口が最大であり、それなりに文明も発達しているわが国を孤立させることは、全体の安全保障に有害であることもこれまた事実だ。

 従って、わが国が対サーダルタ防衛同盟に加わり、その標準的な装備を要求し、技術の開示を求めることもこれまた当然のことだ。欧州の内でEUに当たる国々が同様の要請というか要求をしているので、これは時期としてはチャンスだ。


 すなわち、対サーダルタ防衛同盟及び日本に対して、指導者自らの働きかけが直ちに必要だ。しかしながら、現指導部へのわれわれのその提言は無視されている。

 周同志、軍部の準備は終了しているな?陳同志、軍警察は?郭同志、警察は?」


「はい、令同志、指令があればわが実動部隊が全部を抑えきれます」それぞれ、陳人民解放軍参謀副長、郭軍警察警備副局長、警察庁全国観察副部長が口々に言い、令が命じる。


「では、わが国の将来のために、現在の指導部は排除せざるを得ない。予定通り2日後の深夜0時を期して指示した指導層は拘束し、放送局及び電子監視隊を占拠せよ」



 欧州のサーダルタ艦隊が全滅した2日後、中国から全世界に向けての放送があった。新主席である令シュンジュン自らテレビに出演しての声明であるが、紹介するアナウンサーが令は38歳という異例の若さであり、日本に留学していたことを明らかにしている。


「私は、新生中國の指導者に指名された令シュンジュンです。我々新政府首脳は、多くが魔法の処方を受けた実動部隊の指揮官からなっており、旧来の主席や政治委員は我々の実動部隊によって拘束されています。そういう意味では、我々の政権転覆の方法は、暴力は使っていませんが、武器によって威嚇して旧指導部を拘束しましたから、暴力革命と言ってもよいと思います。

 その権力のよりどころは我々の同志の持つ武力であり、今のところわが国の指導システムは旧来の共産主義のままであります。しかし、可及的速やかに選挙を行って共産党一党独裁を改め、民意に基づく政府を樹立します。


 さて、何故に我々が今回のような革命に走ったかでありますが、それはわが地球自体が、まずは日本発の魔法の処方による人々の変化及び、サーダルタ帝国の侵攻によってすでに新しい時代に入った一方、旧来のわが国の政治体系ではその時代に対応できないことが明らかであったからであります。

 私は、日本においてかのハヤト氏によって魔法の処方が始まったころ、その日本に留学しており、ごく初期の処方をハヤト氏自ら受ける幸運に恵まれました。ですから、その恩恵がどれほど大きいか体験しています。

 しかしながらわが国は愚かな大国主義に染まり、日本と対立する道を選んだ結果、ほとんどの国民がその処方を受けることが出来ないということになりました。これは、しかし、共産党政府にとっては人々を団結させ、支配するには容易な道ではありました。


 しかし、国民の皆さんがよく知っているように、日本は大幅に賢くなった国民によって、数々の大発明を成しとげ、さらすでにその実用化を行っております。加えて既存技術・システムの大幅な改善を成し遂げて、社会全体を極めて効率の良いものに改善しています。

 また、その恩恵を友好諸国へもたらすべく、魔法の処方、並びに資源探査を世界各国に向けて実施しました。その結果、対サーダルタ防衛同盟という世界的な組織が結成されましたが、その構成は結局日本とアメリカの友好国のみによるものでした。

 サーダルタ帝国に制圧され、今般日本等の軍事力によって解放されたEU諸国も、我が国と似たような立ち位置にありましたが、結果としてあのように、全く外部からの援助によって解放されるのを待つしかない状態に置かれたわけです。


 わが国が、魔法の処方を封印されてきたのは日本の潜在敵国であったからです。資源探査から除外されてきたのは共産国であって、専制政治を行い他国からして信頼できない行動をとってきたからであります。この点は、かのハヤト氏は、わが国に対し資源探査を行わない理由として、そのように述べております。

 ですから、一つ目は日本の潜在敵国でなくなれば良いのですが、この点は悲しいかなすでに軍事的にはわが国は、日本に敵し得る武力をもっていません。また、このことに鑑み、過去わが国が日本に対してとってきた、無礼なあるいは敵対的な言動・行動を陳謝したうえで、日本に対しては国民への早急な魔法の処方をお願いします。また、サーダルタ帝国に関して、わが国は欧州と同様に無力です。ですから、わが国は対サーダルタ防衛同盟に加盟して他の加盟国と同様な武装をすべく要請します。


 2つめは、先ほども申し上げたようにわが国は、とりわけ個人への余りの権力集中の弊害のあった共産党一党独裁を止め、選挙を行って出来るだけ民主主義的な政府を作ります。このことで、すでに世界中で素晴らしい成果を上げている、ハヤト氏の資源探査をお願いしたいと考えています。

 国民の皆さん、わが中国はその実際の内容に比して虚勢を張りすぎました。その結果として、過去数年は世界のつまはじきにされてきたうえ、国民の皆さんが営々と稼いできた資産を無駄な投資で失い、かつ個人の懐に消えました。

 国民の皆さん、今やわが国は、今まで述べてきたような世界の潮流に乗ることが出来なかった結果、すでに遅れつつある社会になっています。しかし、先述の方策で世界の動きに加わることで、皆さんの勤勉さとエネルギーを持って働いていけば、再度わが国の輝きは戻ってくると確信しています」

 令の話は終わった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ