表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/180

欧州開放1

読んで頂いてありがとうございます。

 実際のところ、欧州からの軍事力による解放への依頼が、対サーダルタ防衛同盟のイギリス支部に着いた時には、すでに同盟は依頼があった場合の受諾の決断を下し、出動の準備を終えつつあるところであった。欧州の放送電波は、すべて海上部にあるスクリーンの下の海中部を有線で結んだ受発信機により、イギリスではキャッチされていたのだ。


 これは、欧州側の政府機関も承知のことであり、無線による連絡網も備えられていた。従って、『外の世界』も欧州での出来事は把握しており、中でも人々への隷属化が欧州として、断固たる措置に踏み込む引き金になると確信していた。しかし、断固たる措置とは言っても、火薬を封じられたEU諸国には軍事的な力はない。

 一方で、人々の意志を奪って隷属化させる理由は、地球征服の兵士にするためとしか思えない。これを許せば人類同時の殺し合いに発展する。従って、対サーダルタ防衛同盟の決心は、例え欧州諸国から軍事力投入の依頼がなくとも、欧州上空のサーダルタ帝国の艦船はたたき出すということであった。


 そこに、腹を決めたEU本部に詰めている欧州政府首脳からの解放への依頼があったのだ。連盟は、すでに欧州に遊弋するガリヤーク母艦(アンノ母艦)が約80隻、ガリヤーク機(アンノ機)が約2万機であることは掴んでいた。今回の連盟側の作戦は、成層圏から敵に上回る戦力で一気に攻撃して殲滅するというものである。


 EU本部への連盟からの回答はなされたが、「依頼の受諾の確約と可及的速やかに開放する」ということのみで、いつとどうやってと言う知らせはなかった。

「それはそうでしょう。私たちの通信網も、漏れていないという保証はないから、どうやって、いつなんてことは知らせられないでしょう」


 ドイツ首相のマニエルの、この言葉に他の首脳も頷き、フランス前大統領ロムランが応じる。

「まあ、やむをえんな。しかし、どういう攻撃をするかわからんが、一気に相手の戦力を奪うレベルの戦力の投入は必要だろう。だから、相当に時間はかかるだろうな」


「ああ、まあ準備の期間は最低で1週間と言うところか、しかし、暴動がどんどん広がっているな。市民の抵抗にサーダルタ帝国もどんどん過激な反撃をするようになって、すでに犠牲者が1万を越えているとか、でも、自分の肉親が奴隷化されて連れ去られているのに、抵抗するなとは言えないものな」スペインの前首相のフランコが言う。


「そういう意味では出来るだけ早くしてほしいですね。でも、これは全面的にお願いすることなので、こちらから無理は言えないものね」マニエルの言葉に憂鬱に頷く前首脳達であった。


 しかし、連盟の準備は早かった。

 イギリスから日本からの増援を含めて“しでん”7千機、“らいでん”80機に加え、日本から“しでん”1万機、“らいでん”100機、アメリカからスターダスト機5千機の出動が決められた。なお、アメリカのスターダスト級は、“しでん”と性能は同等であるが、流線形のスマートな機であるため、コストが2割高で量産性に劣る。


 “しでん”とスターダストは無論ガリヤーク機(アンノ機)に当たり、“らいでん”はガリヤーク母艦(アンノ母艦)に当たる。

 これらの機はAIにコントロールされて、日本、アメリカから成層圏を飛んでくる。さらにイギリスからの機も、やはり成層圏まで舞い上がってアメリカ側の機と合流する。これらの3群はタイミングを合わせて、同時に秒速3㎞の速度で、欧州上空のガリヤーク機とガリヤーク母艦を攻撃することになっている。


 サーダルタ側のガリヤーク機とガリヤーク母艦、さらにサカン1号、2号についてはイギリスの上空1万kmに上昇した、探査機“らいでん”2改によってその位置を検知されている。この“らいでん”2改は、日本から飛んできた高感度レーダーと魔力レーダーを備えた管制機であり、サーダルタ側の欧州上空のすべての空中機の位置を3次元で把握している。従って、この情報と各編隊の誘導AIと連携して、欧州の成層圏に集結する日本、アメリカ、イギリス発の攻撃隊を一元的に誘導することになる。


 ちなみに、ガリヤーク母艦については、その25万トンに及ぶ質量から、地上に自由落下した場合の被害が大きいことから、母艦の浮遊装置を避けた攻撃をする必要がある。この点は、これを攻撃する各“らいでん”機の搭載AIによる射撃管制で、それを避けたレールガンの射撃を行うことになっている。


 このように、同時攻撃を行わなくてはならない理由は、ガリヤーク機が持つ空中爆弾とガリヤーク母艦がもつ同じ空中爆弾及び超大型ミサイルを、市街地に意図的に落とす時間を与えないためである。

 また、これらの市街地に対する攻撃の可能性こそが、これまで対サーダルタ防衛同盟が、欧州のサーダルタ艦隊を駆逐できない理由であった。


 しかし、こうした攻撃によっても、市街地に対するある程度の被害は避けられないという予測であった。従って、対サーダルタ防衛同盟からは、欧州側に出来るだけ被害を受けないような地下鉄、地下室等にこもるように、人々に広報するように依頼があった。

 各国政府もその必要性はよく理解できるので、サーダルタ側の人狩りにかこつけて、あらゆるチャンネルをつかって、この要請を人々に直ちに伝えた。


 しかし、この広報は当然サーダルタ側に把握され、総督府から直ちに叱責があった。

「地球総督のアヌラッタ・シジンだ。各国の政府首脳に申しつける、直ちに人民を煽動するようなわが調査の妨害を止めよ。止めないと、お前たち及び、お前たちの政庁に居るものを処刑する」首脳が集まっている会議室の大スクリーンに、総督の画像が出て叱りつける。


 しかし、フランス前大統領ロムランが断固として言い返す。

「いや、地球総督府というあなた方の、人々を隷属化させようという今のやり方には承服できない。これだけは人々にあなた方に従えとは言えない。断る!」


「ふむ、我に逆らうか。こうした場合の措置はすでに通告してある。やむを得ない」

 シジンは、その整った顔の鋭い目を冷ややかに光らせて、一瞬手元に視線を下げてスイッチを入れ替えて再度カメラを見てさらにいう。


「私は、地球総督のアヌラッタ・シジンだ。私はお前たちの前の指導者たちに、我々が今行っている調査活動に協力しろと申し付けた。しかし、彼らは拒否した。従って、私は皇帝陛下から与えられた私の権限に基づいて、これら指導者に暫定的に与えている、お前たちの統治権を取り上げる。さらに、彼らは、服従の義務に反した罪で、処刑する。

 処刑は、彼らの居る建物にわが23AA弾を撃ち込む。そのことにより、周辺の街区も大きく破壊されるが、これがわが帝国および総督府の、お前たちに対する警告と捉えよ。我々は寛大ではあるが、甘い支配者ではない。不服従はこのような結果を招くことを肝に銘じよ。では、EU本部という建物に23AA弾を撃ち込め!」


 この言明は、ドイツ語、フランス語、スペイン語等の各国語で欧州中に放送されており、スイッチの入っていないラジオ・テレビも自動でスイッチが入るようになっているため、概ね半分以上の人々は見聞きした。


 またシジンの指示と同時に、彼の座乗しているガリヤーク母艦から大型ミサイル23AA弾が発射され、秒速4㎞の速度でEU本部に突っ込んだ。その1ktの爆発力はすさまじく、キノコ雲があがり、その爆音は所在地ベルギーのブリュッセルから、200㎞離れたドーバー海峡のイギリス沿岸でも聞き取れた。

 EU本部は無論粉々に砕け散り、半径0.5㎞の範囲を完全に全壊、さらに1.0kmの範囲を全半壊させた。その発による死者は推定7万5千人、重軽傷者21万人に上ったが、幸いに原子爆弾と違って放射能による障害は発生しなかった。


 これだけの犠牲が出た理由は、一つには亡くなった首脳を通じて出された警告が、発表の直後で、まだそれが実質的に効力を持たなかったためである。しかし、EU本部壊滅は無論直ちに報道されて、人々が避難し隠れる十分な警告になった。


 欧州のサーダルタ帝国の艦艇への攻撃は、EU本部への攻撃の6時間後であった。その意味では、欧州側の予測からは大幅に前倒しされたことになる。ほとんど同時に、欧州上空に成層圏から降下した、中型攻撃機180機、小型戦闘機2万3千機は、1時間以内にサーダルタ帝国艦体の艦艇を一掃し、ただの1隻の異世界への帰還も許さなかった。


 これは、ガリヤーク母艦82隻は、AIにコントロールされた“らいでん”攻撃機180機により、成層圏からの秒速3㎞の1撃で、少なくとも2発以上のレールガンの弾に撃ち抜かれた。そのことで、ほとんどの母艦は浮力以外の機能を失った。さらに、その後5分後急旋回して帰ってきた同攻撃機より2発ずつ以上の命中弾を受け、全ての艦の機能が失われた。


 また、しでん戦闘機1万7千機、スターダスト戦闘機5千機は、滞空中の敵ガリヤーク機1万2千機に対して、“らいでん”と同じく、秒速3㎞で成層圏から径25㎜のレールガンによる一撃離脱をかけた。その結果、最初の1撃で高空に滞空していた、8500機余をすべて撃ち落とすこと成功した。


 しかし、高度2千m以下に滞空していた3千5百機は、“しでん”またはスターダスト機が、速度を調整して適切な銃撃位置につくことが必要であったため、全滅させるまで30分以上の時間を要している。この間に当然、ガリヤークも“しでん”等の接近に気づき反撃もしてきたが、機動性及び武器に劣る勝るうえ、圧倒的な数の劣勢にあるガリヤーク機は殆どなすすべなく撃墜されている。


 一方で、旅客用のサカン1、2号機については、基本的には武装が熱戦銃のみで、危険性が少ないこと、さらに地球人を乗せている可能性が高いことから、基本的に撃墜はしないようにしている。

 確認された数は、サカン1号が120機、サカン2号が350機であるため、“しでん機”がピタリとついて着陸するように強要し、ガトリングガンによる警告射撃をして地上に下ろしている。


 このようにほとんどダブりもなく、“らいでん”攻撃機、“しでん”及びスターダストが必中の命中率を得たのは、あらかじめ“らいでん”2改によりその位置を完全に掴んでいたためである。

 とは言え、何事も完璧であることはなく、主として市街地の低空を飛んでいたガリヤーク機の放った空中爆弾550発、及び市街地上空で撃ち落とされた4千機に及ぶ機体そのもののために市街地に大きな被害が生じた。


 しかし、人的被害は、人々があらかじめ住宅から避難していたために、全半壊した建物2300戸の割に、死者375名、重軽傷者820人と比較的抑えられた。また攻撃した編隊も無傷とはいかず、“らいでん”2機、“しでん”12機、スターダスト6機が墜落し、パイロット等に12人の死者が生じた。一方で、ガリヤーク母艦については、幸い自由落下した艦はなく、地上に大きな被害は生じなかった。


 このように、欧州のサーダルタ帝国の軍事力は排除した。しかし、まだ隷属化された人々の開放、さらに、地上に降りたガリヤーク母艦、墜落したガリヤーク機の負傷者等の捕虜の確保が必要になる。

 これらについては、サーダルタ帝国人が、補助器を使えば人を魔法で操ることが出来ることが確かめられており、さらにイギリスにおいて、サーダルタ人は簡単に捕虜にはならないこともこれまた確認されている。また、隷属の首輪をされた人々をどのように開放するか、この手法も見いだされていないのだ。


 とりわけ、サーダルタ人の降伏を促すためと、隷属の指輪の解除のために、ハヤトはサーダルタ人であるミールク・ダ・マダンを連れて、“らいでん”改に乗って欧州に現れた。

 最初に訪れたのは、フランスの田園地帯に建設された奴隷兵の駐屯地である。

 その正門らしきところには、官僚らしき人々、地元の警察官及び、この駐屯地に肉親等親しいものが捕えられている多くの人々が集まっている。


 “らいでん”改が地上に降り、ハヤトがミールクと降りていくと、官僚らしき人が階段の下に待っており、手を差し出す。

「ハヤトさん、ようこそ。政府から派遣されました、イレーヌ・ジュモンです。人々の開放をよろしくお願いいたします」


 彼女の説明によると、この中には奴隷化された人々が、9千人入っており、その監視員も数多くいて、門を開くことを拒んでいる。また、武器を使って中に入るなら、中の人々を殺すと言っているという。

 ジュモンは英語で説明したので、ミールクも理解しており、さらに中の様子も魔法で探った後、彼女はハヤトに言う。


「わかりました。閉じこもっても無駄だと説得しましょう。責任者の彼女は、私より2段階下の者なので、たぶん私の言うことを聞いて門を聞くと思います」確かにサーダルタ帝国のシステムは完全な上位下達の面があって、上位者の命令は素直に聞く文化である。


 ミールクは、すでに地球においてサーダルタ帝国は破れ、回復の余地はないこと、及び地球人は残虐な行為はしないし、帝国に帰すことを決めていることを説いた。すでに捕虜になっている、上位者ガリヤーク母艦イルレーナ23号の艦長、ミールク・ダ・マダンの話は、駐屯地の暫定指揮官アミラ・ズ・カイマクに納得いくもので、彼女は駐屯地の門を開いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ