ケイヤク【木.ヨウスケ】
【木曜日】
==ヨウスケ==
「涼し―」
「それで、昨日のアレはどういう意味だ?」
「まあまあ、センパイ。先に注文しましょう。あ、私この期間限定パフェにしますね」
汐田は机に置いてあったメニューを広げ、俺のほうに向ける。
「俺はフライドポテトでいいや」
ボタンを押し、店員に注文する。
3時過ぎのファミレスとあって、店内の客はまばらだ。話をするには適した場所かもしれない。
「で、昨日の言ってた契約って?」
帰り際に言われたことを聞き返す。本当は昨日詳しく聞きたいところだったが、「明日話します」と言われ、聞けていなかった。
「今日はありがとうございますね。来てもらって。バイト終わりに話しても良かったんですけど、センパイの終わりを2時間待つのは流石に、ね」
「それは、いいけどよ。この前の1週間の延長といい、何かあったのか?」
「何もありませんよ。ただ、お得だなと思ったんです」
「お得?」
「ええ、その前に。センパイはどうして彼女が欲しかったんでしたっけ?」
思わず体を強張らせた。最近の悩みを、自分の心を見好かれたような気がしたからだ。
「前は彼女がいない歴がどうのこうの言ってたけど、本当は寂しかったから、だと思う」
「え、あ、そうなんですね」
汐田は少し驚いた様子を見せたが、軽く流すように話を続けた。
「寂しいが理由ってことは恋人じゃなくて良かったってことですよね?」
「まあそうなるかな。汐田が付き合ってくれて大分助かったけれど」
「私も彼氏彼女なんて興味ないんです。今のところ好きな人もいないですし。友達と一緒にいることが楽しいんですよ」
その時、パフェとフライドポテトが運ばれてきた。汐田はパフェに、俺はフライドポテトに手を伸ばす。2、3口堪能したところで、汐田は話を続けた。
「彼氏に興味はないですけど、いると助かるなって気づいたんです、私。告白も断りやすいですし、色恋の面倒さから避けられますし。男友達と接するときも変なアプローチをかけられずに済みます」
「お前モテるの?」
「人並みには?」
汐田はフルーツとアイスをスプーンに載せ、一緒に口の中に入れた。冷たさにやられたのか甘さに悶えてるのか「んー」と声を上げる。
「で、彼氏がいてくれると助かるんですけど、実際いてもそっちに気を取られるのも面倒だなあって。でも、センパイが相手だと気を張らなくて楽なんですよ」
「あー、気が楽というところには全面的に同意だわ」
「優良物件ってところですかね?」
「俺は物件なのか」
「嫌でした?」
「んーそうでもないな」
「ですよね。お互い恋愛対象として微塵にも思ってないんですよ。楽じゃないです?」
「確かにな」
「センパイは、まあ私の兄みたいなところですかねえ」
「わかる。言われてみれば生意気な妹みたいだな」
「ですよね。私とセンパイ、とても相性いいと思うんですよ。いい距離感を保てると思うんです」
「これは恋愛関係には」
「発展する気がしない」
「だな」
「だから、仮初の恋人契約がうまくいくと思うんです」
「なるほど? 俺は寂しさを埋めて、汐田は彼氏の威光を振りかざすってか」
「威光はないですけど、その通りです。いいと思いませんか?」
ケチャップにつけたポテトを口に含みながら、考える。
契約なんて無機質そうなのに、大分温かみがありそうに思えてきた。契約でしっかり線引きしているはずなのに、その関係性はなんだかおかしさがある。
「ああ、もちろん、お金は発生しませんよ?」
「そりゃあ、断る理由がねえな」
お互い思わず噴き出した。お金での契約で始まったのに、変なところに落ち着くもんだ。
「じゃあ、改めてよろしくお願いしますね。センパイ――ヨウスケくん?」
「順応早えよ、よろしくな汐田――カヤちゃん?」
「くすぐったい」
「まあ、慣れるさ」
「ですね。ちゃんとお願いしますよ? どちらかに好きな人が出来る、その時まで」




