彼女が欲しかった理由【火.ヨウスケ】
【火曜日】
==ヨウスケ==
久々に早起きをした。寝汗でべとべとの体が厭わしい。
「腹減った」
起き上がり、眼をこすりながら冷蔵庫へと向かう。扉を開けた時の冷気が心地いい。
「やべ」
扉を閉め、肩を落とした。
昼前に起きるのが習慣になっていたので、朝ご飯になるものを用意していなかった。風呂場と自分の腹を一瞥してため息をつく。
「コンビニ行くかあ」
少しで歩くだけなので簡単に着替えを済ませ、外に出る。
「まぶし」
寝起きの気怠い体をのそのそと動かしながらコンビニへと向かう。日差しの明るさのせいか体を動かし始めたせいか、少しづつ頭に明瞭さを取り戻してくる。通り過ぎた建物からラジオ体操の掛け声が聞こえ、久々に聞いたなと頷いた。
2日も経てば流石に落ち着いてくる。彼女がいるように振る舞おうとした惨めさもだいぶ薄れてきた。むしろそのことを汐田に弱音を吐いた恥ずかしさのほうが上回っている。
「あちい」
何もかもシャワーで流して、ご飯食べて元気出そう。そう考えて、徒歩7分のコンビニへと歩みを進める。
彼女が欲しいなんて考えたのはいつだっただろう。
ふと、そんな考えがよぎった。
偽の彼女について整理がついたからかもしれない。
中学高校の頃は友達同士で「彼女ほしー彼女ほしー」なんて言い合っていたけれど、その実本当に欲しいと思ったことはなかった。ただ周りに合わせてノリで言っていただけだった。
今は、どうだっただろう。
友達に恋人がいることが羨ましいかだったろうか。大学生になったら恋人がいるのが自然なんて噂を信じたからだろうか。
それらに一因はあったろうけど、どうもしっくりこない。
大学生になって、俺に何か変化があったんだろうか。
大学で新しいことを学んで、新しい遊びとお酒を覚えて、毎日学校へと行かないで済むことに喜び浮かれた。うるさい家族と離れて一人暮らしで自由を謳歌して――。
「ああ、そっか」
小さく、独り言ちる。
「俺、思ったより寂しがりやだったんだ」
自分の情けなさに思わず笑いがこぼれた。