カヤババ【木.カヤ】
【木曜日】
==カヤ==
今日も今日とて夏期講習だ。夏休みとは名ばかりで、平日は休みがない。午前授業が終わるのが救い。
刺激が足りない夏だから、少しでも面白そうな話でも飛びついてしまうのは仕方がない。
授業が終わり、一緒にご飯を食べてると、マユミが声を潜めて話を切り出した。
「ねね、知ってる?」
「なに?」
「何の話?」
私たちは自然と顔をよせあって、マユミの話に耳を傾ける。
「ハナと3組のササキくん付き合ってるんだって。あ、これ内緒ね」
「嘘嘘、いつから?」
「文化祭の終わりに、ササキくんから告白したって」
「へー意外」
「でしょ。で、そんな風に告白されたくない?」
「そんな風って?」
カナコがふると、マユミは熱を持って話し始めた。
「こう、二人きりの教室で作業してて、お互い意識し合ってるんだけど、きっかけがなくて友達以上恋人未満で、で、お互い作業に夢中な時に肩と肩がぶつかって、謝ろうとしたら目と目があって、お互い赤面しているんだけど、夕日のおかげでお互いに気が付かなくて、お互い目をそらさずに二人だけの時間が過ぎて、自然と男の口から『好きですー』ってぇえ」
語るマユミの目は爛々と輝いている。
「マユミ、割と乙女だよね」
「やべ、キュン死しそ」
「だねー。こういうところ可愛いのに、普段全然出さないよね」
「えぇ。こんなの普段言ってたら引かれるっての」
マユミは口を尖らせて反対の意を示す。
「引きはしないけど、シチュエーションが先行しすぎなところはあるかもね」
「シチュエーションが整ってれば、誰でも告白オーケーしそうなところはあるかも」
だねー、とマユミ以外の三人で顔を見合わせて笑う。
実際、普段のガサツなふるまいとのギャップを知れば、今より好きになる人はいそうな気がする。
「そん、なことない、とも言いきれないな、あたし」
「まず友達以上恋人未満の相手がいないって話だけど」
「それね」
「わかる」
「ドキドも大事だけど、私は一緒にいて安心できる方がいいなあ」
私が呟くと、三人は顔を見合わせてから私に向き直る。
「おばあちゃん?」
「所帯じみてる」
「カヤババだ」
「いいね、カヤババ」
3人は私のあだ名を考えようと、わいわいと盛り上がり始める。
「ちょっと待てー! 私はあんたらと同じ、高校生だって!」