超過労働【月.ヨウスケ】
【月曜日】
==ヨウスケ==
「は? どういうことです?」
「いや、その場のノリというやつで」
「ノリで人の予定決められても困るんですが」
「その場で断りにくいという雰囲気とかあるじゃん?」
「今ばかりはわかりたくないですけどね」
「で、どう? 来週の土曜」
「勝手ですね」
レジ点検を進めながら汐田の返事を待つ。
汐田は黙ったまま、レジ周りの備品の補充作業を進める。嘆息をつき、「わかりましたよ」と答えた。
「やった、助かる」
「良かったですね」
「彼女がいることを仄めかした手前、トリプルデートなんて断れなくてさ」
不機嫌そうに見える汐田に焦った俺は、言い訳じみた言葉で宥めにかかる。
昨日のテスト勉強の際、サキに彼女がいることを問い詰められ、嘘じゃないことを証明するためにトリプルデートをすることになったのだ。ここで彼女がいないことがバレてしまえば、この2週間と十万円が無駄になってしまう。それだけは避けたかった。
「これは超過労働ということで、追加で給与を請求しても?」
「え、それは」
しまった。トリプルデートも、追加の一週間のようにタダで引き受けてくれると思い込んでいた。あと一週間の延長で、さらに十万円、計二十万円を請求されてしまうと財布が厳しすぎる。
「さらに十万円欲しい?」
「それは結構です」
「えっ?」
「私も一週間延長をお願いしましたし、一週間分はチャラってことで」
「お、おお」
「ただし、給与に少し、色つけてくださいね」
汐田は立てた指を口元に添え、いたずらっぽく笑った。