やってしまった【水.カヤ】
【水曜日】
==カヤ==
あれから一週間。
今日で恋人のフリも終わりだ。
十万円になるよう時給換算で考えると、雇用契約は二十一時までのはずだから、あと五時間で終わりかな。
「カヤ」
「ん、何、ミサ」
鞄を私の机に置きながら可愛らしく小首をかしげる。
「今日一緒に帰ろ?」
「あれ、部活は?」
「今日は休みなの」
「ほんと? なら一緒帰ろ」
手早く荷物をまとめて、ミサと雑談をしながら帰宅の途につく。
「あのさー、カヤ、好きな人って、いる?」
「えー、何急にー」
これは面倒そうだなーと内心呟いた。
「いるの、いないの? どっち?」
「えー、どうだろ?」
曖昧な返答でお茶を濁す。ミサは何を聞きたいんだろう。
「同じ学校? 同級生?」
ミサは私に好きな人がいる前提で話を進めてきた。
これは早めに切り替えたほうが楽そうだ。
「同じ学校じゃないよ。同級生でもない」
「ほんと?」
ミサは眼を輝かせてこちらに顔を向ける。
大方、ミサの好きなケンイチくんと私の噂でも耳にしたんだろう。どんな噂かわからないけれど。
「うん。ほんと。だって」
「だって?」
しまった。
そう思ったときには、既に口が動いてしまっていた。
「私、彼氏いるんだ。皆には内緒にしといてね」