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第三十三話・「傷つけるだけが魔法ではないのだ!」

 どきりとする心臓にかかる、さらなる負担。

 青龍の繰り出す無詠唱魔法が、俺を四方から囲い込む。赤い球体が俺を追いかけるようにくるくると動いたかと思えば、突然球体の中心から直線的な光が放たれた。俺は直感的に触れてはならないと即断し、身をそらす。

 案の定、その光線を受けた部分は綺麗さっぱり両断され、燃え上がる町へと落下していく。切り口が真っ赤に変色しているところを見ると、かなりの熱を帯びているようだ。

 球体はそれぞれに独立して動き、それぞれの死角を補うように機敏に動く。赤い光が脇をかすめた。俺は蔓の上で前方宙返りを繰り返し、ギリギリのところで避け続ける。

 触れてもいないのに熱さを感じる。かすめた服の裾は、耐熱仕様なのにもかかわらず、ぐずぐずに溶けて無くなった。


「くっ……! 背筋も凍る熱量だな!」


「何で凍るのに熱いのよ」


 それもそうだな、などとは返せない。

 そんな軽口を聞いているうちに身体には風穴がいくつも空いてしまうだろう。

 駆けていた蔓の先が光線によって切り落とされてしまい、俺は行き場をなくす。追い詰めてくる赤い球体。

 俺は魔力量を増やして、急いでさらなる足場を作り出す。枝葉が伸び、足場を増やしていく。

 数打ちゃ当たるとばかりに光線が小刻みに発射され、さながら銃撃戦の様相。

 強引に身体を曲げながら、俺は光線から身体を逃がす。肌をかすめただけで火傷の痛みが全身に行きわたった。激痛と、遅れてやってきた吐き気に足が膝を付きそうになる。


「リニオ!?」


「……どうやら、この身体の魔力も吸い取られているようだな。分かっていたことではあるが、厄介極まりないぞ……!」


【恩寵者】ゆえに魔力量に余裕があるとはいえ、吸い取られ続ければいつかは尽きる。遅いか早いかの違いでしかない。戦い続けた代償か、キズナの魔力量にもついにそこが見え始めた。魔法の木を維持している以上、長期戦は絶対に避けたい。


「リニオ! 上!」


 キズナの言葉を聞かなくとも俺は動くつもりでいた。

 頭上から発射された熱線。俺は枝から飛び降り、蔓にぶら下がることで難を逃れる。逆上がりの要領で身体を跳ね上げると、次の蔓に飛び移る。そうして二、三本と渡り歩いたところで、俺はやっとその姿を目にすることが出来た。


「いたわ! あそこっ!」


 ハムスター姿のキズナが胸ポケットから青龍の頭の上を指差す。そこにはうつろな表情で青龍の頭上に佇立するイリスがいた。

 宝石ラピスラズリを太陽に透かしたような美しい輝きを全身にたたえている。


「イリス!」


 喉が張り裂けるぐらいに叫ぶ。でなければ、木々がはじけ飛ぶ音や、枝葉が爆発する音にかき消されてしまいそうだったからだ。

 俺は飛んできた梢を【鶺鴒】ではじき落とすと、もう一度叫ぶ。


「魔法は傷つけるために存在するのかも知れない! 血を流させ、住み家を奪い、絶望を導くのかも知れない!」


 避けきれなかった光線が、胸に迫る。

 完全なる直撃コース。

 俺はとっさに【鶺鴒】で迎え撃ち、奇跡的にも弾くことに成功した。弾けなければ確実に心臓を貫かれていた。

 まだ、運はあるようだ。


「だが! 傷つけるだけが魔法ではないのだ! 確かに傷つける力を秘めてはいる!」


 俺は蔓の上を高速で移動しながら、追いかけてくる球体が放つ細かい光線を【鶺鴒】で防いでいく。


「その一方で! 守る力も秘めているとは思わないのか!」


 武器を振う代わりに言葉をぶつける。


「少なくとも! 俺はそう思うのだ!」


 真っ赤な直線は絶え間ない。

 目の筋肉がつりそうになるほど眼球を動かし、全てを視認して迎撃していく。

 こういうのはキズナの方が得意なのだがな……。


「リニオ! 下よ!」


 【鶺鴒】で光線を弾くと、青白い火花が散った。


「右から来るわ! 次いで右下! 左斜め下! 右、左、後方斜め左45度!」


 おい、キズナ、ちょ……。


「上上下下右左右左BA!」


「BAってなんだ!?」


「……ちょっと言ってみたかっただけ」


「やかましい!」


 逃げ場のない無詠唱魔法の連発に、俺はたった一回の無詠唱魔法で身を守るしかなかった。

 身体の前方を視認し、魔力を最大限に込める。空間を歪める透明な壁を出現させ、何とか当座をしのぐ。

 二発で砕け散った壁に半ば愕然としながら、俺は転がって緊急回避するしかない。

 雷撃が蔓を直撃し、伝導してきた電流が足下からはい上がってくる。あまりのしびれに自分の身体がどこかへ飛んでいきそうになる。そこへ追撃してきたのは、無詠唱魔法ではなかった。


 月の光が隠れる。

 暗闇に埋め尽くされた背後に戦慄を感じ、肩越しに振り返る。視界に大写しになったのは、青龍の巨大な口腔だった。

 そそり立つ牙が俺とキズナを噛み砕こうと迫る。


「私なんて食べても美味しくないわよっ!?」


「俺なんて食べても美味しくなんか無いぞっ!?」


 火の輪くぐりさながらに、牙の隙間からぎりぎりで抜け出す。


「食べるならリニオの方にしてよねっ!」


「食べるならキズナの方にするのだなっ!」


 蔓にぶら下がっていると、さらに青龍が大口を開けて迫ってくる。


「師匠のくせになんてことを言うのよ!」


「弟子のくせになんてことを言うのだ!」


 叫び、慌てふためき、なぜか最後にはいがみ合った。

 魔力の供給にかげりが見え始めたせいか、青龍は自由に動き始めている。蔓の拘束を払いのけ、地面すれすれを飛び回れば、炎の暴風で町全体に火が放たれる。蔓を口で引きちぎり、口に引っかけたまま動き回る青龍。

 俺達は足場の蔓を青龍に食いちぎられてしまう。さらなる足場を見つけるより先に蔓を青龍にくわえられてしまったため、蔓をつかむ俺達はいいように振り回されている。


 地面を這うように飛ぶ青龍。

 地面が、民家の屋根が俺達に迫る。


 いかん、叩き付けられるぞ。


 俺は吹き付ける風にまぶたを落としながらも、身を守るべく、無詠唱魔法を防御に回す。身体全体を鋼鉄で覆うイメージ。

 風を切る音と、燃えさかる町並み。高速で飛び回る青龍。俺達は蔓につかまったまま、民家の中を突き抜けていく。

 二階のクローゼットをぶち破り、武器屋の窓を突き破る。飲食店で棚を引き倒すと、その隣の民家のベランダを破壊した。再び舞い上がった青龍に、俺達は疲弊を隠すことが出来なかった。


 突き抜けた家々の土産か、頭に被っていたパンツとブラジャー(おお、巨乳だ)を引きはがす。


 蔓が今にも燃えてちぎれそうだ。俺はありったけの声でイリスに届ける。


「お前の耳に俺達の声が聞こえないのなら、その目に見せてやろう! 傷つけるためではない、守るための魔法というものを!」


 青龍の頭上でただ何をするでもなく立っていたイリスの肩が震えた気がした。


「そして……! お前が持つ心の恐怖を……俺が! 俺が払拭してやる!」


 ……いや、確かに震えた。

 何かにおびえ、それを指摘されたときのような小さな震えだった。


「お前は一人じゃないのだ! 寂しくなんかないのだ!」


 蔓がちぎれて高空に投げ出される直前。


「……ムス……太……」


 そんな弱々しい声を。


「…………助け……て……!」


 俺は聞いた。


一日二話更新です。ラストまで一気に行きます。頑張ります。

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