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だて男にーさんの鬼推理  作者: 花シュウ
#1「8%の悪意」
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「8%の悪意」第二章 問題提示02


 あの夜、私が学校に忍び込んだ理由をお聞かせするためには、その日、私が帰宅するところからお話しを始めなければなりません。


 期末テストを三日後に控えた、18日の金曜日。

 長くお休みをしていた私は、その日の授業が終わると期末テストも近いという事で、寄り道せずに学校からまっすぐ家まで帰りました。

 帰宅してすぐにシャワーを浴び、その後はテストに備えて勉強を始めたはずです。母が夕食の準備を終えるまでの短い時間でしたけど、でもテスト直前に随分と休みを取っていた私には、少しの時間でも貴重なものでした。

 勉強の合間、途中何度かメールに返信したり夕食を食べたり……と。取り立てて何事もなく、それなりに有意義な時間を過ごしていたはずです。


 思いのほかテスト勉強がはかどり、結局夕食は少し遅めの時間になってしまいました。食事を終えてリビングを出て、さてもう一分張り。と、そう思ったとき、私はそこで始めて気がついたんです。

 ずっと大切にしてきたお守り。祖母が亡くなる前にくれた、大切なお守りがなくなっていることに。

 最初は家のどこかにあるんだろうって思ってたんですけど、何となく不安になって探してみたら、どこにもなくて。それで、ああ落としたんだって判断できるまで、それほど時間はかからなかったと思います。


 落とした事に気付き、そのとき時計を見たらもう11時を回っていました。

 遅い時間という事もあって、探しに行くべきかどうか一瞬だけ躊躇いました。曇りだったから月の光も乏しくて、そんな中を探して見つかるとも思えなかったし、それにそんな時間に外出なんてしたら、お母さんが心配するに決まってると思ったので。

 だから、翌日の明るい時間に探すべきかな……って考えたんですけど。でも……

 天気予報を調べたら、明日は早朝から激しい雨が降るだろうって。

 それで、亡くなった祖母の形見を雨ざらしにするのが忍びなく思え、私は家をこっそりと抜け出して、一人で探しに行く事にしたんです。そのとき持って行ったのは、携帯電話と懐中電灯とお財布……くらいだったと思います。


 街灯が照らす薄暗い夜道を、私は順に懐中電灯で照らし出しながら、学校への道を歩きました。

 教室を出たときは確かにあったんです。だったら、学校から家までの道のりのどこかに落ちているだろう……なんてくらいに考えていました。

 その日は帰宅のときに寄り道をしていなかった事も幸いし、探すべきエリアは最初からある程度絞り込まれていると思い、少し楽観視していたかもしれません。

 でも結局、お守りを見つけられないまま、気付けば学校の前まで来ていました。


 校門は閉じられていて、当然ですけどその向こう側に人気なんて感じませんでした。

 ひょっとしたら、校庭で落としたのかもしれない。

 帰路を探しても見つからなかったなら。残るは校庭と、あとは教室から昇降口までのどこかなのかなって……。そう考えて、とりあえず校門の柵ごしにライトで校庭を照らしてみました。

 でも、そんな遠くからじゃ分かるわけもなくて。それで仕方なしに、辺りに人目のない事を確認してから、校門の柵を乗り越えたんです。

 なんといえばいいのかな。そういう事をやった事がなかったので、正直言えばちょっとだけドキドキしたのを覚えています。


 それでそのまま、校門から玄関口までの下校時に通った道のりを逆にたどってみたんですけど、でもやっぱりお守りは見つからなくて。

 で、そのとき思い出したのが、帰り際に用務員さんが校庭の掃除をしていた事でした。

 ひょっとしたら、用務員さんが落し物として拾っていないかな? 何て事を考えました。そうでなくとも、誰かが拾って、やはり落し物としてどこかに保管されてはいないだろうか? とも考えました。


 一般の公道だと、お守りが落ちているのを見つけたところで、拾ってどうこうしようという人も少ないでしょうけれど。でも学校という敷地内なら、拾われている可能性があるかもしれない。

 そんな考えに、見つからなくて落ち込んでいた私の気持ちは、少しだけ前向きになった気がしました。

 誰かが保管していてくれるなら、雨ざらしになる事はないし、明日にでも改めて聞いてみればいいかな……なんて事を考えて。

 結局、その夜は諦めて、何も見つけられないまま家に帰りました。


 そして翌日の土曜日。予報どおり、早朝から降り出した土砂降りの雨の中。私は朝一番に、用務員さんを尋ねて学校まで行ってみました。でも結局、お守りは見つかっていなくて。それで仕方なく、届出だけを提出してその日もそのまま家へと帰ったんです。



<まゆか>

「なのに……」

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