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だて男にーさんの鬼推理  作者: 花シュウ
#1「8%の悪意」
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「8%の悪意」第二章 問題提示01

<霧島 聖司 / 男性 / 高校三年生>

「現段階において、生徒会が把握している状況。それは先日まで行われていた」


   『五日間に渡る期末テスト』


「において、テスト問題の内容がテスト開始以前に、外部へと流出していた──という事実です」

「その現状を、我々は“情報”としてではなく“報告”と言う形で、教頭先生より直接聞かされました。つい数時間前のことです」

「そして。その報告の中で、教頭先生の口から一人の女生徒の名前が上りました」

「その女生徒の名が……」


<泉 まゆか / 女性 / 高校二年生>

「私……ですね?」


<聖司>

「そうです」


<まゆか>

「……じゃあ。もう先生方の中で、"やった"のは私だという事になっているんですね」


<水城 優希 / 女性 / 高校三年生>

「それは分からん」


<まゆか>

「?」


<優希>

「教頭が君の名前を出したのは、単に会話内でのアクシデントだった節があったからな」


<牧 双葉 / 女性 / 高校二年生>

「アクシデント……ですか?」


<優希>

「そうだ。教頭の話し振りを見た限り……」

「当初の予定では恐らく、『流出した』という事実のみを、我々に伝えるつもりだったのかもしれん」

「だが、何事にも“ついうっかり”という事はあるものだ」


<聖司>

「あれが“ついうっかり”ですか、会長?」


<優希>

「何か言いたい事でもあるのかな?」


<聖司>

「いえ別に。ただ、隣で見てた自分としては、年配の教頭先生をあの手この手で誘導尋問にかけてたようにしか見えませんでしたので」


<優希>

「失礼だな。あれはアクシデントだろうが、誰がどうみても」


<まゆか>

「ええと、あの……」


<優希>

「とにかくだ、泉まゆか君」

「我々は流出の事実を告げられた場で、同時に君の名前を耳にしている」

「実際問題として、『いつ』『どこで』『何を』した事が原因で、君が今のような立場に立たされているのかまでは知れなかったが……」

「しかし少なくとも。君には案件に関わる容疑ないし疑惑の対象にいる事は、間違いないだろう」

「現に。君は工藤先生に呼び出しをうけているらしいな?」


<まゆか>

「……はい」


<秋人>

「くどう?」


<双葉>

「私たち二年の学年主任で、生活指導の担当教師でもある『工藤 幸之助』先生よ。人呼んで“クドケン”」


<秋人>

「クドケンって、さっき聞いた気がするな。しかし……」

「工藤だから“クド”ってのは分かるか、他をどう略したら“ケン”が出てくるんだ?」


<双葉>

「“クドケン”は別に、名前の省略じゃないわよ。単純に、くどくど陰険だからってだけ」


<秋人>

「あ、さいですか」


<優希>

「話を続けさせてもらっても構わないかな?」


<双葉>

「あ、はい。すいません」


<優希>

「では。呼び出されたのは、いつのことだった?」


<まゆか>

「ええと。テストが終わった後にすぐだったので、おとといの放課後……です」


<優希>

「工藤教諭に呼び出された理由。それは問題流出に関わった事案だった。相違ないね?」


<まゆか>

「……はい」


<優希>

「では、改めて問いたい。なぜ君が……泉まゆか君。君だけが、呼び出しを受ける羽目になったのかな?」


<まゆか>

「ええと、それは……」


<優希>

「それは?」


<まゆか>

「………」

「……」

「…」

「その、色々とあって……」


<優希>

「ふむ。説明しづらいと言うのなら、聞き方を変えよう。工藤教諭に呼び出された際、彼は君に何と問いかけた?」


<まゆか>

「その……」

「テストの問題が漏れていたけど、何か知らないか……って」


<優希>

「それで君は、なんと答えた?」


<まゆか>

「し、知りませんって! で、でもそう言ったら……」


<優希>

「そう言ったら?」


<まゆか>

「私は……今回のテストで不利な状況にあったって……」


<聖司>

「不利ですか。どういう意味なんでしょうね?」


<双葉>

「この子。テスト前に一週間くらい、学校を休んでるんです」


<秋人>

(そう言えば。なんか始めのときにハンデがどうのとか言ってたな、こいつが)


<優希>

「休んだ理由は?」


<まゆか>

「それが、その……」


<双葉>

「おたふく風邪です」


<優希>

「おたふく風邪? その年齢で?」


<双葉>

「かかるのが遅い人もいます。実際、お見舞いに行ったとき、顔は見事にパンパンでした」


<秋人>

(パンパン……それはそれは)


<まゆか>

「ふ、双葉ちゃん~」


<双葉>

「そんなんで恥ずかしがってる場合じゃないでしょうが」


<まゆか>

「それはそうだけど……」


<優希>

「つまり。『おたふく風邪で長期休養していた。だから君には、テスト問題を欲する動機があるのではないのか』というような事を、言われたわけだな?」


<まゆか>

「そこまで直接的ではなかったですけれど。でも多分、口には出さないけどそんな事を考えているんじゃないかとは感じました。薄々ですけど」


<聖司>

「確かに、動機という面ではあり得ない話でもなさそうですね。とはいえ……」


<優希>

「ピンポイント呼び出しの理由としては、あまりに弱すぎる」

「となれば、まだ何かあるな。他には何を聞かれた?」


<まゆか>

「後は、その……」


<優希>

「後は?」


<まゆか>

「そ……の……」


<双葉>

「18日の夜、まゆかがどこで何をしていたのか。それを聞かれたんです」


<まゆか>

「ふ、双葉ちゃん……」


<双葉>

「別に構いやしないわよ。やってないんだもん。まゆかが変に縮こまる必要なんてない。でしょ?」


<まゆか>

「う……うん」


<聖司>

「18日? と言うと“テストが21日の月曜日から”だったから、ええと……」


<秋人>

(……何だって?)


<聖司>

「泉さんが問われたのは、テスト開始の三日前。金曜の夜の行動という事になりますね」


<優希>

「となれば」

「問題の流出に『18日金曜日の夜』が大きく関わっていると、学校側の判断では、そうなっている事になるわけか」

「ふむ。その日、特に目立った出来事などあったか?」

「どうだ霧島。何か覚えていないか?」


<聖司>

「と言われましても。何せ、一週間以上も前のことですから……」

「ちょっと待ってくださいね。手帳に何かメモしてるかも」


<優希>

「いつもの手帳か。しかしその様子だと期待薄だな」


<聖司>

「だから、待ってくださいってば。ええと、ああ、この辺りか……あ」


<優希>

「どうした? 何か見つかったのか?」


<聖司>

「いや、うーん。どうですかね、今回の案件と直接関わりがあるか、判断に困りますが……」

「一つ、気になる雑記が」


<優希>

「どんなだ?」


<聖司>

「端的に言えば。18日金曜日の放課後、職員室の窓ガラスが一枚、破損していますね」


<優希>

「職員室の……ガラス。ああ、そう言えばそんな事もあったな」


<聖司>

「あれ? ご存知でしたか?」


<優希>

「ああ、思い出した。その出来事なら知っている」


<聖司>

「なら話は早いですね。職員室の窓ガラス破損と、テスト問題の流出」

「確かに、関わりを疑いたくなるような間柄ではあります」

「とすると、そのガラスを割ったのが泉さんだった……とか?」


<まゆか>

「ち、違います! 私そんな事してません!」


<優希>

「その通り。ガラスを割ったのは、泉君ではなかった」


<聖司>

「え? そうなんですか?」


<優希>

「ああ。割れたとき、すぐ近くにいたから状況は知っている」

「割ったのは、三年男子のバカどもだ。他愛ない遊びが悪ふざけに発展しての不届きだったはずだ。当然その場で全員、ちびるまでドヤしつけてやった」


<聖司>

「それはそれは。あなたが言うのなら、本当にちびっていたんでしょうね」


<優希>

「無論だ」


<秋人>

(うおお。とんでもない女だな、こいつは。黙って立ってりゃ美人さんなんだろうに、恐ろしい)


<優希>

「しかし、分からんな。ガラスが割れたといっても、窓の端っこの一部だけだったはずだぞ」

「その穴も、すぐに用務員がダンボールとガムテープでふさいでいたと記憶している」


<聖司>

「みたいですね。ちなみに……」

「割れたガラス窓は、翌日の土曜日には業者が入って修繕しているようです」


<優希>

「そうか。と言うか、相変わらず妙なことを手帳に書き記しているな、霧島」


<聖司>

「いやぁ。まあ、昔からの習慣みたいなものですから」

「ふふ。天気と最高気温だけは、何があっても記し続けますよ自分は」


<優希>

「ああ、分かった分かった。そんな事よりもだ」

「翌日には窓ガラスが修繕されていると言うのならば。職員室の窓ガラスが破損していたのは、実質『18日金曜日の夕方~19日土曜日に業者が修繕に入るまで』の間だったという事になる」

「工藤先生が泉君に問いかけた『18日金曜日の夜』というキーワードとタイミングは合致することになるな」


<聖司>

「だったら……」

「誰かが、ガラス窓が割れた事を利用して、18日の夜に職員室へ侵入。テスト問題を盗み出す」

「そんな感じですか。まあ、あり得ない話ではなさそうですが、しかし」


<優希>

「うむ、気に食わん」

「仮に職員室のガラスが割れた事と問題の流出に関わりがあったのだとしてもだ」

「それだけでは、テスト問題の流出と泉まゆか君を結びつける要因にはなりえない」


<聖司>

「とは言うものの。実際問題として、工藤先生は泉さんに『18日金曜日の夜、どこで何をしていたか』と、尋ねている事は確かでしょう」

「これは暗に、その夜、泉さんが職員室へと侵入したのではないか? と勘ぐっているのだと考えるべきでしょうね」


<優希>

「まだ、つながらないな。ならば、まだまだ他にも何かあるということだ」

「泉 まゆか君。君と18日の夜を結びつけたもの。それはいったい何だったのだ?」


<まゆか>

「それは……」


<双葉>

「まゆか。心配いらない」


<まゆか>

「う、うん。あの、私。テスト三日前の18日、金曜日の夜……」

「私は、その。無断で学校に入り込んでしまいました」


<聖司>

「え?」


<優希>

「……なんだと?」


<秋人>

(……んん?)

(まただ。何だ? 何かヘンだぞ? どうしてこうもズレる?)


<聖司>

「ええと要するに、泉さん。あなたは金曜日の夜、割れた窓から職員室に忍び込んで……?」


<まゆか>

「違います! 夜の学校に入ったことは本当ですけど、でも。職員室へは近づいていません!」


<優希>

「しかし。敷地内に入った事は、認めるのだな?」


<まゆか>

「……はい」


<優希>

「その事実を、先生たちは知っているのか?」


<まゆか>

「はい。金曜日の夜、何をしていたのかって聞かれたので、その……」


<聖司>

「正直に答えた、と」


<双葉>

「やってないんだもん。嘘をつく理由なんてない」


<優希>

「では君は……」

「学校敷地内に進入したことは認める。が、職員室には近づいてもいないし、テスト問題を盗み出してもいない」

「と、そう主張したのだな?」


<まゆか>

「そう、です」


<優希>

「これは。もう少し詳しく、話を聞かせてもらう必要がありそうだな」


<まゆか>

「……はい」

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