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だて男にーさんの鬼推理  作者: 花シュウ
#1「8%の悪意」
21/40

「8%の悪意」居残り授業04

<用務員>

「まったく。信じられない思いとは、こういう事を言うのでしょうかね」


<秋人>

「さあ、どうだかね」


<用務員>

「まさか、お守りが汚れていないから私が犯人だ、などと」

「信じられないような屁理屈を、よくもまあ捏ねまくってくれたものです。いやもう屁理屈どころか、暴論と言ってもいい」


<秋人>

「……そうかい」


<用務員>

「貴方、本当に学校の関係者ではないのですか?」


<秋人>

「ああ。縁もゆかりもない、それこそただのエキストラだ」


<用務員>

「エキストラ……ですか。そうか、私もそうあるべきだったのかもしれない」

「学校の用務員。そんな、名もない役柄に徹していればよかったのかもしれない」


<秋人>

「……なに?」


<用務員>

「……汚していたら、どうなっていたんでしょうね?」


<秋人>

「そいつは何の話だ?」


<用務員>

「お守りですよ、あの子のお守り。泥水にでもつけておけば、きっと私の望むような幕引きもできたのでしょうか?」


<秋人>

「おいおい、それはつまり……」


<用務員>

「まあ、いいでしょう。この場は貴方のお話、認めさせていただきましょうか」


<秋人>

「…………」


<用務員>

「おや。意外そうな顔をしておいでですね?」


<秋人>

「お、おお。なんつーか、正直、もっとごねられるかと思っていたから」


<用務員>

「まあ、ごねようと思えば出来なくも無いですが、構いませんよ。私にとってはどうせ、遅いか早いかの違いだけですから」


<秋人>

「…………」


<用務員>

「でもまあ、それでも。もしもお守りをちゃんと汚しておいたら、本当にどうなっていたんでしょうね?」

「気付いてはいたんです。不安要素として、あの子のお守りは、汚しておいた方がいいかと、考えはしたんです」


<秋人>

「…………」


<用務員>

「いや、負け惜しみとかではなく。本当にそうしようかと思った瞬間も、確かにあったのですよ?」


<秋人>

「ならどうして、そうしなかった?」


<用務員>

「出来るわけないでしょう? やれ、とても大切なものだと。やれ、おばあちゃんの形見だと」

「あんな顔してせっつかれれば、誰だってね」


<秋人>

「……分からないな」

「どうして、今そんな面してる奴が、こんな馬鹿げた騒動を起こした?」


<用務員>

「そうですね。しいて言うなら……確認したかったから、でしょうか?」


<秋人>

「確認?」


<用務員>

「ええ。貴方、言いましたよね? 私がどうやって、工藤の管理するPCのパスワードを手に入れたのか知らない、と」


<秋人>

「ああ。そこまで推測できる術はなかったよ」

「とはいえ、あんたは用務員だ。なら、チャンスくらい幾らでもありそうだと思ってたけどな」


<用務員>

「ないですよ、そんなチャンス。あるわけがないでしょう?」


<秋人>

「……そうか」


<用務員>

「貴方の言い方を借りるなら、答えは簡単っと言うやつです。初めから知っていた」


<秋人>

「初めから?」


<用務員>

「もっと正確にいうなら、そう。五年前のあの時から、私は工藤が使っているパスワードを知っていた」


<秋人>

(……五年前)


<用務員>

「もっとも。あの文字列がパスワードだと知ったのは、つい最近でしたけどね」

「それにしても、信じられますか? あんな事があったというのに、まさか未だに五年前と同じパスワードを使っていただなんて」


<秋人>

「…………」


<用務員>

「それを知った瞬間から、私は止まれなくなりました。確認をしたくて、しょうがなくなりまして」

「それで今回。五年前と同じ状況を用意してみようと考えたのです。だから、工藤の管理するテスト問題を事前に外部へと漏らし……」

「そして。明らかに疑わしい状況の生徒を一人、作り上げた」

「その状況で、あいつがどう考え、どう動くのか。私は今一度、確認しなければいけないはずだったから」

「結果は案の定でした。奴はまた、大した証拠もない状況で、ただ怪しいというだけで一人の生徒を槍玉にあげた」

「工藤は何も。性格もあり方も、あのパスワードでさえも、何一つ変わっていなかった」

「五年前、無実の生徒を疑いったあの時のまま、あいつは何も変わってなどいなかった」


<秋人>

「五年前、何があった?」


<用務員>

「今回と同じですよ。テストが漏れ、生徒が一人疑われた。それだけです。ただ一つ違うのは……」

「五年前のあの時。そこに貴方はいなかった。貴方のようなエキストラに、あの子はめぐり合うことができなかった」

「違いと言えば、その程度でしょう。今もあの時も、結局犯人が誰なのかは分かっていたのだから」

「でも結局。そんな違いのせいで、あの子は終わってしまった。疑われたまま学校生活を終えた。そう、終えたのです」


<秋人>

「…………」


<用務員>

「何事にも終わりはあります。五年前にあの子が終わったように、今こうして私の悪ふざけが終わったように。何事にも等しく終わりと言うものはあるものです」

「この学校で用務員として働くようになってからしばらくして、工藤が赴任してきたときも。私の日常はどこかが終わってしまった」

「役職こそ違えど、同じ職場で働く同僚。顔を合わせたとき、私はすぐに気が付きました。が、どうだろう。工藤は私に気が付いていたのか」

「五年前はまだ、私は別の職種についていましたし。それに、奴にとって五年前の事は、どれだけ後悔していても過去の出来事。きっとそれは、もう過ぎ去った出来事で」

「だからきっと私が誰なのか、あいつは気付いてなどいなかったでしょう」

「私が、あの子の幸せを願っていた人間だったのだとしてもね」


<秋人>

「…………」


<用務員>

「さて、それでは私も終わらせなくては」


<秋人>

「どこへいく?」


<用務員>

「決まっているでしょう? 工藤のところですよ」

「予定よりも少し早いですが、私が犯人だと名乗り出に行くのです」

「本当なら、工藤が泉さんを疑いつくした末に、満を持して登場しようかと思っていたのですが……」

「こうしてワザワザ指摘に来られてしまっては。こればかりは、致し方ありませんね」

「何事も、思い通りにはいかないものですね」


<秋人>

「そういうもんだ」


<用務員>

「もし。貴方が泉さんとお会いする機会が……いや、止めましょう。謝ったところで、どうなるものでもない」


<秋人>

「だろうな」

「ま。頼まれたところで、俺は伝えたりしないけどな」


<用務員>

「酷い人だ」


<秋人>

「よく言われる」


<用務員>

「そうですか。それでは」


<秋人>

「…………」



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