「8%の悪意」第一章 始業の鐘02
<泉 まゆか / 女性 / 高校二年生>
「ええと、それじゃあ……」
<秋人>
「そう。俺はどこからどー見ても、まったくの部外者なわけだ」
<双葉>
「で、でもね、まゆか。ほら、背に腹はかえられないというかさ」
<まゆか>
「ええと。その、双葉ちゃん」
「やっぱり、無関係の人を巻き込むのはどうかと思うんだけど。きっとご迷惑だと思うし」
<秋人>
「おお、そうだそうだ迷惑だぞ。もっと言ってやってくれ」
<双葉>
「何言ってるのよ、まゆか? だいたいさ、元をただせばあんただって例の件とは無関係なはずでしょ?」
「なら。この期に及んでモブ男一人の迷惑なんて、気にかけてる場合じゃないわ」
<秋人>
「モブってお前な。それが人に物を頼む……」
<双葉>
「あんたにはもう、前金払ってるでしょ! 少しは協力的な姿勢を見せてもいいんじゃないの!?」
<秋人>
「ああ? さっきの黒い液体の事をいってんのか?」
<双葉>
「コーヒーって言いなさいよ。1200円税別分、きっちり飲んだでしょ? ならすでに契約は成立よ」
<秋人>
「おま……あんなだまし討ちみたいな真似して、どの口でほざきやがる」
「……ったく。はなっから妙だと思ってたんだよ。街中でいきなり人の腕つかんで「のど渇いてるよね」って、なんだあれ?」
「ほんともう、新手のナンパかと思ったわよ」
<双葉>
「誰があんたみたいなのナンパするか! それに語尾が気持ち悪い!」
「つーか、あんただって最初、私のことが誰だか分からなかったみたいじゃない。そんなんで、ほいほいついてくるほうにも問題あるでしょ!」
<秋人>
「うぐ……。仕方ないだろ。のどが……だな。マジで乾いていたんだ。生理現象だ。悪魔の誘惑に逆らえんかったのだ」
<双葉>
「だれが悪魔だ、こら」
<まゆか>
「あの。自販機なら、その辺にたくさん……」
<秋人>
「いや、それはそうなんだが……」
<双葉>
「無理よ。こいつお金もってないもん、絶対」
<秋人>
「おい。失礼な事を、なんの根拠もなしに断定すんな」
<双葉>
「なら、持ってるの?」
<秋人>
「う……」
<まゆか>
「ええと……。ジュースのお金も……?」
<秋人>
「いや! それくらいならあるぞ、馬鹿にするな!」
「ただ、な。なんというか、それを使ってしまえるほどに余裕があるかどうかは別問題であってだな……」
<双葉>
「ほら見なさい。そもそも、金欠じゃないあんたっていうのが、想像できなかったからね」
<秋人>
「く。月末を越えてさえいれば、貴様の誘惑になんぞ……」
<双葉>
「うるさい貧乏人。クライアントには黙って従え」
<秋人>
「ぬぅぐ!」
<まゆか>
「で、でもね、双葉ちゃん。やっぱり、無関係で……」
「ううん。それ以前に、学校とは何の関係もない人を意味もなく巻き込むのは、やっぱり私、どうかなって思うけど?」
<双葉>
「意味があるかどうかは……賭けね。いわば、可能性にかけた青物買い」
<秋人>
「青……なんだって?」
<まゆか>
「んと。ひょっとして青田買いって言いたかったのかな?」
<双葉>
「ああもう! そんな些細な事は、今はどうでもいいのよ!」
「まゆかっ!」
<まゆか>
「ふぇ?」
<双葉>
「あなただって、このまま学校に疑われた状況でいいなんて思ってないでしょ?」
<まゆか>
「それは……」
<双葉>
「確かに。こいつが何かの役に立つ可能性は、極めて低いかもしれない」
<秋人>
「ひどい言われようだな」
<双葉>
「でも。ひょっとしたら、ひょっとするかも……しれない」
「こいつには。一応、実績があるから」
<まゆか>
「実績?」
<双葉>
「前に話したことあるでしょ? いつかの教会での事件……」
<まゆか>
「あ。それってひょっとして、私が急用で行けなくなった時の?」
<双葉>
「そう。そのとき事件を解決したのが……」
<まゆか>
「ええええ! 伊達さんがその時の人?」
<秋人>
(……余計なことを)
<双葉>
「そうよ」
<まゆか>
「でも、双葉ちゃん。その人って結局名前と人相以外、どこの誰だかもわからないって」
<双葉>
「だから、ツイてるって言ってるのよ。まさかこのタイミングでゲットできるとは、夢にも思わなかったわ」
<まゆか>
「で、でも本当にそんなに都合よく?」
<秋人>
(うぐぐ。見るな。そんな目で、俺を見ないでくれ)
<双葉>
「事実は小説より奇なり。いわば、『棚ぼたハッピーマンデー』さまさまなわけよ」
「これから始まる、会長との一戦。コイツに同席してもらうの。ひょっとしたら、私たちが気付かない何かを、見つけ出す可能性があるかもしれない」
「まゆかの潔白を、証明できる切欠になるかもしれない」
<まゆか>
「そ、それは私も、その。嬉しいし心強いけど」
「でもでも、やっぱり学校とは関係ない人だし。部外者立会いとか、そんなの絶対に会長さんは認めないと思うけど……」
<双葉>
「そこはそれよ。大丈夫。完全な部外者ではないから」
<秋人>
「はあ?」
<双葉>
「紹介するわ、まゆか。彼は私の兄、『牧 だて男』よ」
<秋人>
「んぶぅぅぅぅぅぅ!?」
<双葉>
「当事者の友人の親族。どう? これでもう部外者だなんて言わせないわ!」
<秋人>
「どうもこうもあるかー!?」
<まゆか>
「そ、そうだよ双葉ちゃん! 苗字じゃなくて、せめて名前を流用しないと、だて男さんに失礼だよ!」
<秋人>
「そっち! お前もなんかズレてるだろ!?」
<双葉>
「あ! 静かに! 無駄口の時間はおしまいよ。会長のご到着だわ」
<まゆか>
「……ピク」
<秋人>
「おい、正気かお前?」
<双葉>
「正気よ、これ以上ないくらい。だからね。うまくやってよ、だて男にーさん」