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だて男にーさんの鬼推理  作者: 花シュウ
#1「8%の悪意」
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「8%の悪意」第一章 始業の鐘01

手短な登場人物紹介

<伊達 秋人 / 男性 / 大学生>

やる気のなさを前面に押し出して生きる貧乏大学生。

見てくれの悪印象と愛想の無さから、ご近所でも評判の「変な人」。

過去に何度か奇妙な事件に巻き込まれたことがある。


<牧 双葉 / 女性 / 高校二年生>

以前、とある事件で主人公と遭遇。

互いに名前と顔を知っている程度の面識。

口やかましい。無鉄砲。いのしし。何か変な特性が三拍子揃った熱血正義感少女。

 漠然とした推論から導かれた結論は、やっぱりぼんやりとしてあやふやで。

 それなのに。眉間に深いしわを刻んだ教師は、そんな出来損ないの空論を「さも正論だ」とでも言いたげな顔で振りかざしてきたそうよ。


『何か知っているのではないのかね?』


 不機嫌そうな顔と腕組みで、そんな言葉を口にしながらね。

 知ってるわけがないじゃない。そんな後ろめたい事に“あの子”が関わったなんてこと、あるはずないじゃない。

 だって“まゆか”なんだよ? 物静かで。どこまでもお人よしで。もともと“生活指導室”なんて場所とはまるで縁のない、あの“まゆか”なんだよ?

 あの子が関わっていたなんてこと、あるはずない。それは幼馴染の私が一番よく分かってる。それなのにっ!



<伊達 秋人 / 男性 / 大学生>

「いや、そう力説されても困るんだが。それから机をたたくな、コーヒーがこぼれる」



 生活指導室から戻ってきた時の、まゆかの顔。いつもと同じ、ふんわりした表情だった。でも分かるわよ。しんどそうだなって、何か困ってるみたいだなってことくらい、分からないわけないじゃない。私が何年、あの子の友達やってると思うのよ。

 だから聞いたわ。「どうしたの?」って「何かあったの?」って。そしたら小さな声で「大した事じゃないよ」って微笑むわけ。

 嘘がヘタだと思ったし、私をたばかろうなんて片腹痛いと思ったわ。だから、一も二もなく問いただしてやったの、友達としてね。



<秋人>

「それは……困った友達だな」


<牧 双葉 / 女性 / 高校二年生>

「なんでよ。私なにか間違ってる?」


<秋人>

「……さあね」



 とにかく。聞き出してみれば、それは随分と馬鹿げた話しだったわ。

 わけの分からな事で、あらぬ疑いをかけられてきた。身に覚えなんて無いのに、あれやこれやと問攻めにされてきた。しかも、まだ疑われたままだって言うじゃない。


 何よそれ!?


 こちとらね、やっとの思いで期末テストを乗り切ったばかりだってのよ? なのに、その日のうちにそんな展開、あんまりじゃない?

 おかげで、満喫できるはずの開放感も台無しになったわ。

 そりゃね。今度のテスト、まゆかにはちょっとハンデがあったのは確かだけど。でもだからって、それが疑われる理由になるなんて絶対おかしい。そんなの、納得できない。

 だから、口下手なまゆかの代わりに、私が指導室まで乗り込んでやったのよ。



<秋人>

「あ~。うん、そうかスゴイなそれは。おお~!」


<双葉>

「ちゃんと聞いてよ!」


<秋人>

「あー。へいへい」



 約束の地で待ち構えていたのは、冷徹さと陰険さと眉間のシワに定評のある、学年主任の“クドケン”。相手にとって不足なし。

 私としては、その場でたちどころに、あの子の身の潔白を証明してやるつもりだったのだけど。

 でも結果は、おしくも惨敗。相手の掲げるよく分からない根拠に、当然納得なんて出来るはずもなかったけど。でも私に、疑い色に染まった学年主任の目を覚まさせる事は出来なかった。



<秋人>

「惨敗なのにおしかったのか。それは悔しいな。うん、とても悔しい」


<双葉>

「ひょっとしてバカにしてる?」


<秋人>

「滅相もない」


<双葉>

「あんたねぇ。せめて、おごってあげたコーヒー飲み終えるまでくらい、少しは真面目に聞いてくれてもいいんじゃない?」


<秋人>

「……ちっ」



 そりゃあね。何の予備知識もないままに、勢い任せで指導室に乗り込んだ私も浅はかだったんだと思う。

 なにせ向こうは、まゆかを名指しで呼び出すくらいなんだ。当然、問い詰められるだけの材料を予め用意していたと考えてしかるべき。

 ならせめて、呼びつけた相手が“あの子がやった”なんて馬鹿げた思い込みを掲げるに至った根拠くらいは、前もって調べておくべきだったって、今更ながらにそう思う。



<双葉>

「うん。それに関しては、ちょっと反省してる。知っていればもっと上手く立ち回れたと思うの。例えあの“クドケン”が相手だったとしてもね」


<秋人>

「そうか。反省したなら、一つ成長したんだな。ならもう次は負けないさ。大丈夫。お前なら出来る。俺は信じてる」

「これ、テイクアウトして帰っていいか?」


<双葉>

「良いわけねーだろ」



 私は調べたわ。まだ手遅れではない、そう思って。

 このまま状況を放置していても、まゆかの疑いは晴れない。だから、テスト終わりの翌日。そう、貴重な日曜日をまるっと浪費して、私は可能な限り“件”に関わる情報をかき集めたの。

 まゆかの潔白を証明する。そのために、常日頃から培ってきた双葉ちゃんネットワークを最大限に活用してね。

 そしたらよ。昨日の今日で、またしても呼び出されたってまゆかから連絡があった。前回同様、今回も“泉まゆか”を直接ご指名でね。しかも……

 今度の呼び出し相手は、クドケンじゃなくて生徒会からだっていうじゃない。

 よもや、教師だけでなく全校生徒の代表までもが敵に回っているかもしれない。これは……由々しき事態だわ。

 生徒会がクドケンと同じような内容の話を展開させてきたら、凌ぎきれるか自信がない。

 ううん。本当のところを言えば、正直、不安なんだ。結局、情報だって全然集まっていないし。

 その上相手は“あの”生徒会。ひょっとしたら、クドケンなんかよりもずっと面倒な相手かもしれない。



<双葉>

「何て事を考えながら、それでも呼び出されたこの店にやって来た……そんな時だったのよ。うん。今日はツイてる!」


<秋人>

「うん?」


<双葉>

「こうなりゃ私だって」

「よっこい……しょ!」


<秋人>

「おま、なに脱いで!?」


<双葉>

「備えあれば憂いなし!」


<秋人>

「って。わざわざ下に制服着込んでたのかよ?」


<双葉>

「そりゃそうよ。向こうは多分、学校帰りのはずだしね。ならこっちも、それなりの装束でお出迎えするべきでしょ?」

「相手が相手だし。この格好の方が、まだ対等に渡り合える気がするってもんだわ! ビシッ!」


<秋人>

「いやまあ、何でもいいけどよ。とりあえずあれだ。脱ぎ捨てた上着を拾え。他の客の邪魔になる。もたもたしてたら踏みにじるぞ」


<双葉>

「ちょ! 何すんのよ、ってか本当に踏むな!」


<秋人>

(っち。にじり損ねたか)


<双葉>

「あんた……そう言えば、そういう奴だったわよね」


<秋人>

「お前の中の俺像になんて、興味ないな」


<双葉>

「あんたって奴は……」

「言っとくけど! この店のコーヒー、安くないんだからね!」

「外見からして高級そうな感じの喫茶店だとは思ったけど。まさか1グラスで1200円税別とか」

「ぼったくりもいいとこよ。はぁ」


<秋人>

「千……二百……」


<双葉>

「呼び出されたんじゃなきゃ、絶対入ったりしないわよね」


<秋人>

「チュー! チュチューーー! ジュルルルル!」


<双葉>

「値段を知った途端に、それか」


<秋人>

(一滴も残さん)


<双葉>

「あぁ……何だかどっと疲れたわ。戦いはこれからだってのに」


<秋人>

「ジュルレレレレ! カランカラン! ガリガリガリ!」


<双葉>

「……氷まで」


<秋人>

「よし……完食だ」


<双葉>

「はいはい、気は済んだ?」


<秋人>

「店員のおねーさん! オカワリください!」


<双葉>

「ザケンナ、ブットバスゾ、テメー」


<秋人>

「おおう。おいおい冗談だって。怒るなってば」


<双葉>

「はぁぁぁぁ……」


<秋人>

「まあ何だかよく分からんが、とにかくあれだ。頑張ってちょーだいな。とまあ、そう言うわけなんで……」

「ご馳走さん。もう二度と、会うこともないだろうぜ」


<双葉>

「は? 帰れるわけ、ないでしょ?」


<秋人>

「何でだよ……」


<双葉>

「飲んだ」


<秋人>

「へ?」


<双葉>

「完食した。なら協力して」


<秋人>

「おい、まさか……」


<双葉>

「下心もないのに、善意であんたにコーヒー奢ったげるわけないじゃない」


<秋人>

「……え、ちょ。これって、そう言うコーヒーなのか?」


<双葉>

「そうだけど、何か? って言うか、分かるでしょフツー?」


<秋人>

「うべろれれれれ……」


<双葉>

「グラスに戻すな! 今さら遅いから!」

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