水神VS土神
遡ること一時間――
灯火流と電樹が体育館に到着する少し前、手紙を受け取った鏡はそこに書いていた指定場所である鴉魔公園に向かっていた。
時刻は、灯火流と電樹より三十分も遅かった。
けれど鏡は目を覚ましたばかり、混乱と疲労でまともに思考が働いていない。
そんな状態でただ怒りに身を任せ無神皇に会える可能性に賭けた。
あの時感じた無神皇への殺意は尋常ではなかった。
彼を蝕む強い憎しみがそう語っていた。
『僕の邪魔をするな』と言わんばかりの顔つきで。
そんな不機嫌な状態の彼の前に現れたのは大地だった。
「お前が水晶鏡ッスか」
鏡の背後から聞こえる大地の声、しかし彼の声を知らぬ鏡にとっては、頭から離れない無神皇と錯覚し、声を聞いたのと同時に無意識に鏡の拳は、大地の顔面に直撃した。
「がはっ!」
吹き出る赤い雫、大地は右手で自分の顔を押さえ、吹き出る血を止めつつ言葉を走らせた。
「そうか、もう勝負は始まっていたのかッスか。しかし鏡、いきなり殴る……こと……ない……で……しょ?」
大地の顔が青く染まっていた。
鏡の表情を見た瞬間、体中から冷たい風が体中に感じた。
怒りとは程遠い殺気が鏡から放たれていたからだ。
人間は動物同様強い力の持ち主『こいつには勝てない』そう思い込んでしまった瞬間、本能的にそれを恐れ、立ち向かう勇気さえも失ってしまう。
まさしくこの状況はそう語っていた。
ねずみがライオンと立ち向かうようなものだと。
理不尽な戦いを強いられた状況、それが今の大地に唯一立ち向かう力を与えていた。
「面白れぇ――俺も最初っから全力で行かせてもらいますよー!!」
大地は地面を震わせ、彼の周りから次々と地面がひび割れていった。
地面から欠けた大きな岩が大地の体にくっつき始めた。
大地が自ら卵を作り自身を包んだ。
だがその卵は、一分もしない内に皹が入りパリパリと壊れていった。
【土の鎧】
彼はそう唱えた。
しかし、彼の姿はただ土の鎧を身に付けただけとは一味違っていた。
そんな違和感を浮かばせていた、いや明らかに違っていた。
何故なら体に蓄積されていはずの岩の姿はなく。
それ以上に体にできていた鎧は、鉄でできているかのようにピカピカと輝かせていた。
「何だお前、まだ神装ができないッスか?」
そう大地が呟いた。
神装は、神獣に新たなる神力者として認められた後にできる高度な業の一つである。
その業は防具と武器、二つの種類の業である。
しかし、武器の場合は、特定の武具があるらしいが、ここ数百年見つかっていないらしい。
大地の土の鎧を見ても、鏡の表情が変わる気配はなかった。
冷静に見えて、冷酷な表情を浮かべながら大地に答えた。
「関係ない……」
神装しているはず、だが力の差も明らかなはずなのに、大地は以前抱いていた恐怖がまだ消えていなかった。
鏡は神装できないにもかかわらず大地より強いと語っていた。
大地はそれを認めたくない気持ちを持ちながら鏡に襲い掛かった。
だが鏡は大地の攻撃すら避け様ともしなかった。
彼の行動に気づいた大地は頭に血が上り、更に加速し、拳の周りに何もないところから岩が出現させた。
【隕石落し】/【水圧砲】
ほぼ同時に二人がそれぞれの技を放った。
しかし大地が放った技は、あっけなく破れ、鏡の攻撃は、大地に直撃した。
彼が装備していた鎧も砕け散った。
「何故だ?神装もろくにしていないのに、何故おいらに勝てたんッスか」
不思議そうに思っていた大地だったが、鏡は、低い声で大地の問いに答えた。
「答えは、簡単だ。僕の方が強いからだ」
当然のように大地を見下ろす鏡は、答えた後大地の頭を手の平で掴み持ち上げた。
そこへ割って入ったのが灯火流と空中に浮いている無神皇だった。
「おい鏡、止せ、やりすぎだ」
咄嗟の判断故、灯火流は、鏡がやろうといたであろう行動を止める。
鏡がこっちを向いた瞬間、心を落ち着かせたのかは知らんが、大地から手を放し、腰を抜かして地面に倒れた。
力も入らず体を動かすことができない鏡の目の前で、無神皇が地上に降りてきた。
やっと落ち着いた鏡の心は、無神皇を見た瞬間、消えたはずの火花がまた燃えるかのように怒りに全身を食われた。
自分の体を動かせないクセに全身を震わせながら動こうとする鏡の姿は、恐怖を誘う。
復讐という名の魔物に取り付かれた鏡の姿は、闇よりも濃く、薄く輝いていた鏡の清らかな水色の左目は、空ろな目になっていた。
「はははは、思い出した。五年前の坊ちゃんじゃねぇか。あの時は、気の毒だったね。その後も家に帰ってないて聞いているだけど、どうしたのかしら~♪」
あからさまな皮肉の口調で、何かを知っている。
「誰のせいで帰れなくなってんだよ。全部てめぇのヤッタことだろうが。僕の家族、その全て――」
鏡は語り続けるのを辞めた。
理由は知らない。
そして、割って入る理由もない。
けどどこか放って置けないように写る鏡の表情を何もできずに見てることしかできない。
沈黙した空気、風の音が周りを包み込む。
サラサラと舞い落ちる木の葉の音、道路から聞こえる車の音。様々な音が交差する中、最初に言葉を発したのは無神皇だった。
「ちっ、つまらないな。勝負は、どうした?相手はまだ生きているではないか」
頭の中にある一つの糸が切れた感覚がした。
それは、灯火流だけでなく鏡も自分と同じ、いや、それ以上の怒りの感情を抱いていたに違いない。
灯火流が鏡の隣へ行き、ぼそぼそとと何かを呟いていた。
「それがてめぇの考えていたことか」
「はあ?聞こえねぇな。もっとはっきりと言えよ」
明らかな挑発を言い出す無神、だがこの挑発に乗ってもいいと思う。
鏡の過去を知らない灯火流も顔面に一発殴ってやりたいぐらいだ。
けど鏡が我慢しているのに手を出せば、彼の頑張りを無駄にすることになる。
拳を強く握り締め、強く床に叩き、叫んだ、
「ふざけるな!たったそれだけの理由で人を、僕の家族を殺したって言うつもりか!!」
しかし、無神は、軽い口で答える。
「そうだよ」
まるでそれが普通であるかのように答える無神皇にビチッと切れた鏡の冷静の糸、しかしやはりまだ体を動かせない。
だが、無神皇が吹っ飛ぶ姿を見て、鏡は後ろから一つの影を見つめた。
それは、突風の如く現れ、拳でその仮面に一撃を与えた。
だが仮面には皹が入る感触すらなくただ飛んだだけっという印象が残った。
当たったのは、確かだが、無神皇は、攻撃を予想したかのように衝撃直前、一歩後ろに飛んでいた。
「なかなか、良い攻撃だ。不意打ちを喰らってしまったよ」
「な~にが、『不意打ちを喰らってしまった』だ。明らかにかわしていたやろうが」
聞き慣れたその口調と突風を引き起こせる唯一の人間。
風を利用したダッシュ、風真がそこに立っていた。
だけどそれだけであらず、後から影が五、六、いや、七人の人の影。
この暗闇の中、ライトに当てられ片方の目が光を帯びていた。
それぞれの属性、それぞれの色を持った片目。
また揃った。十二人の神力使い。
『十二神が揃いし刻、一人が王となり新世界を導き、真の平和が訪れるであろう』
灯火流は、あの伝承を思い出す。
だがあの時と違い、違和感を感じた。
まるで何かが違う、言い換えるなら、何かが抜き取られ、植えつけられたような感じ。
何もすることもできず、ただただ頭を抱えながら現在の状況に集中し直す。
「はははは、まさか全員が揃うとは思わなかったよ。ま、今晩はあまり良い試合は、見えなかったし、つまらないからこの大会は、おしまい。では、またね、バイビ~♪」
そして、無神皇は、その場から消えた。
シーンとした空気、暗黙の空間、この状況を説明するのにふさわしい言葉は様々あるが正しい言葉が入る状況でもあった。
誰も何も語らない、いや何を語り始めれば良いのか分からないのが正しい。
ただ一人、真白が真っ先に大地の治療に移った。
以前足を骨折した灯火流を完治させた技で大地を回復させる。
皆が何もできない中で唯一行動を行った。
動けない者もいた。しかし何かをしようともしなかったことも真実の一つである。
真白が、治療を終えた後立ち上がり言った。
「早く、家に戻りましょう。大地君を安静に、しないといけません」
見違えるほどの真白の発言。
今まで誰も、真白の兄さえも見たこともない様子で彼女を見ていた。
その発言のおかげで、皆が固まりから逃れあっという間にことが収まった。
■■■■
《紅城本家》
真白の能力のおかげで、重傷だった大地は、すっかり顔色が良くなり、今は布団で休んでいる。
だが、大地の命に危機が迫ったのは、明白な事実であり、鏡は鉄平に罵声を受けていた。
「鏡、君の暴走の所為で、大地は命を落とすところだったぞ!」
「それで、君に何の関係があるの?つい最近まで赤の他人だった相手に友情でも芽生えたのか」
大地に起きた出来事がまるで自分のせいではないと言う鏡、更に鉄平の怒りをかう。
「貴様ぁ、許さんぞ。この手でぶん殴らないと気がすまない……この、放せ……」
鏡を殴りに向かう鉄平を押さえる電樹と風真。
「まあまあ、落ち着けや鉄平はん、鏡はんも気落ちしているんや。大目に見たってや」
「おい、鏡、お前も落ち着け。はっきり言って迷惑だ」
「僕は、平気だ。ただ、頭がもやもやしているだけだ」
「それを腹立っていることや」
収拾がつかないこの状況で、場を押さえようと灯火流が立ち上がったのだが、先に先手を打ったのは、真白だった。
夜空を照らす一つの光が皆を包み、怒りや様々な不の感情が消え行くのが皆が感じ取れた。
「落ちつい、て、ください。喧嘩は、良く、ないです」
真白の言葉に皆が目を見開く。
公園で見た真白はここにはもういなかった。
だがしかし元に戻った真白を見る皆は、安心感を覚える。
「やっぱり、真白はんは、こうでなくちゃな」
皆がうなずき、にぎやかな食事を取った。
食事の後、鏡は一つの報告をする。
無神皇との因縁、家族が殺されたこと。
そして、無神皇の正体を明かしてくれた。
「無神皇、彼は数百年前に姿を現した。長きに渡り我々の一族とその他十一の一族が彼と戦っていた」
鏡が明かした真実はあまりにも現実離れした話で皆の目が見開いていた。
鏡は続いて語った。
「無神皇が現れて三百年後に一度倒した。だがそこにこそ無神皇の罠が組まれていた。倒したはずの相手は、あくまで倒しただけであって死に至らしめた理由ではない」
「じゃあ、何だ。その他の一族って、俺らのことか?」
突っ込む電樹に続ける鏡。
「その通りだ。僕らは彼を倒すために結成された一族達だ。つまり、僕らの先祖は共に戦った、いわば戦友だ。僕らの目的はただ一つ、無神皇を倒すこと」
ほぼ全員が頷く。
灯火流もまた気づく、言い伝えに抱いていた違和感。
鏡が打ち明けてくれた真実こそがこの違和感を導き出す何よりの証拠。
『十二神が揃いし刻、一人が王となり』の文、ここに表している意味は、すなわち闘いあうこと。残った一人が王の文そこが違和感の源。
つまりこの文だけが、書き換えられた可能性が高い。
「だが、解せないな、何故無神は、そのような行動に徹したのか」
と疑問付ける鉄平、しかし鏡が応える。
「何を言っていっる、そんなの決まっているじゃないか……この 事態を招く為だ」
無神皇は、おそらく記憶の改変、あるいは記憶の消去の能力を使ったに違いない。
当然ながら、納得できない者もいた。
「信じられねい。仮に記憶の改変、消去が可能だったとしても何百年もの間の記憶、それに我ら一族全員の記憶を変えるなどできやしない。それに君が嘘、あるいは無神皇に操られているとも言いかねない」
と鉄平が抱いていた不満を語る。
確かにその可能性は十分にありえる。しかし見落としている点が幾つかある。
そう指摘するように俺が考えゆる可能性を彼に説明した。
人差し指を上げ告ぐ、
「鉄平、君の考えは穴だらけだ。まず一つ、百年間の全ての記憶を書き換える必要はない。証拠はたった一つ、数年の記憶を書き換え、俺らの言い伝えを片っ端から変えれば良いだけ」
と続けて中指を上げ告げる、
「二つ、水晶一族の情報は、ここ数年、つまり五年間途絶えている」
「三つ、仮に鏡に記憶の改変を施した無神皇が、わざわざ自分の存在を露にする行動に意味がわからない」
「四つ、これはおれのことだが。俺の記憶も改変された可能性も高い」
「五つ、――」
「ああ、わかった、わかった。もう良い。だがまだ信じられない。何故鏡の一族を襲った?」
苦しそうに動く鏡は、過去の地獄映像を思い出して、鉄平の問いに応えようとした。
「僕は、あの夜無神皇に会った。血塗れた仮面の奥から感じ取れる視線、僕なんて殺す価値がないと告げているみたいに立ち去った。笑い声しながら『楽しかった』と」
苦しそうに、口にするだけで吐き気がする思い出、いや思い出すことの方が正しいと言っても良い。
彼、無神皇はこの状況を遊びとしか思っていないことに誰もが歯を軋ませるぐらい怒りをむき出していた。
その直後に窓の外から、パチパチと手を叩く無神皇が空中に浮かびながら中を覗き込んでいた。
一斉に全員が一歩下がり警戒した。
ガラス扉に予め強化していたとはいえ、過去の歴史を変えるほどの能力、それだけでなく他に能力を持っている可能性がある以上迂闊に安心することはできない。
しかし、神力者の思考を遥かに超えて無神皇は力を知らしめた。意図も簡単に扉をすり抜けた。
まるで幽霊のように、そして手を顔に寄り付かせて仮面を手に取った。
満面の笑顔でこちらを向いた。その姿は、彼らと同じ位の年齢の黒髪の少年。
少しずつ目を見開いた無神皇の目には、文字道理の虚ろな目を持っていた。
目玉が刳り貫かれたような目に闇しか見せない。光が当たろうが浴びせようがその瞳には、一切の光が映らないだろうと思わせる。
「いやぁ~、こんなに早くばれるなんて、想定外だ~」
「貴様にとって、今いる現状をどう思っている?」
とっさの言葉に訊く灯火流。
「何って、私を楽しませる為の『ゲーム』だろ?」
無神皇にとって、人殺しも殺し合いもただの『ゲーム』
皆が怒りで突っ掛かろうとした瞬間、無神は強く叩いた。
「は~い、ばれてしまえばしょうがない。ルールを変更しま~す!」
戦い方法の内容を説明し始めた。
「まず、君達はもう敵同士ではありませ~ん。そして、倒すべき相手は私に変更。だがまだ私という存在の説明が必要となりますので、先に話しておきますとしよう」
無神皇の正体が判るという真実に皆が息を呑む。
「私、無神皇は、単純に言えば、『無』の神、存在しない神としても無限の神とも言える存在」
矛盾している中、戸惑う一同に無神皇が続ける。
「存在しない者が何故存在しているという顔だね~。応えは簡単だ、無ければ有るようにする。たったそれだけのことさ」
それはつまり他人から奪う行為に直結する言い回しだった。
「まさかお前――」
と恐ろしげに、そして当たって欲しくない予感を口にする鏡。
「君たちが唯一の神だと思い上がるな」
無神皇は語っていた。
自分たち以外にも神が存在していると。
ただ違うのは、家庭による受け継ぎが無いだけで、この世には、無数の神が身を隠し暮らしているだけだと改めて思わされた。
しかしそれだけで終えず無神皇は、続けた。
「私の正体、それは即ちその無数の神の存在そのものだ!」
大量の神々の存在を喰らい、自分の存在を残すためにやった行為。
決して許されることではないが、正体がばれたせいか誰一人体を動かせなくなっていた。
「もちろん、喰らった神の能力を使えるし、誰かに与えることもできる。それと、まだ喰らってない神もまだたくさん要るので間違えないように、気を付けてね~」
最後の言葉を言い終えると姿を消した。
緊張が融け、体を動かせるようになった今汗を零し、座り込んだ。
ドッと疲労が体を覆いつくし今夜は、紅城本家に泊まった。
迫り来る太陽の日差し、目を覚ますと食堂で皆が寝ていた。
(そっか、そのまま寝てしまったか)
昨日の出来事がまるで夢のように感じていた。そして、皆も少しずつめを覚まし、俺は食事の準備を手伝いに行ってた。
「私も、手伝い、します」
真白が続いて台所に入り助力を提供した。
普段道理の生活、楽しく賑やかな俺の日々。
無神皇の語っていた、新たなるルールを付け加えたその『ゲーム』がどうしても頭から離れない。
そして、再度過ぎる疑念を思い出し、その中心にいる鏡に尋ねた。
「そう言えば、鏡。お前、何故無神の正体に気が付いたんだ?その点だけが解らない」
無機質な表情を向けながら、どこか切なそうな悲しいような声で応える。
「昔、まだ僕が五歳の頃、一族の一員が誰もが知らない隠し部屋を見つけた。その部屋には、あらゆる書物が置かれていて、どれもかなり昔のモノばかりだった。そこに書かれていたのは、三百年も前のこと、丁度無神皇を封印ができた頃についてのモノだった。真実を知った時、真っ先に脳裏に浮かんだのがあの伝承だった。そして、一族内で誰かに変装していた無神が自分の仕業だと解って、一夜にして水晶一族は滅ぼされた。だから僕は、彼の存在を認識できた時からあの伝承が偽物だと気づけた」
信じ難い事実に圧倒され、皆は呆然と何もすることなく思考が停止した。
これで、鏡が剥き出していた殺意の意味を理解し、同時に彼の事実を知ったことで胸が張り裂けそうに痛んだのを灯火流は、胸元を強く握り締めた。
■■■■
悪い予感しかしないこの胸騒ぎは、一体どこから来るのだろう?
「――る、――かる。ねぇ、灯火流てば。聞いてる?」
「あっ、ごめん、ちょっと考えことしていた。で、何の話だったっけ」
「もう、今日から期末テストだからちゃんと勉強したかって話」
「えっ!!期末って今日からだたっけ」
早朝に訪れた驚愕のニュースを友香から聞いた灯火流は、がくり、全身の力が抜ける。
最近いろんなことがあったせいですっかり忘れてた。
自分が学生であることを。
慌しくも内心で『終わった』と思いながら涙目で学校に着いた。
「おう、灯火流はん、遅いやないか。って、どうしたんや、涙なんか流し――」
「泣いてない。ただ危機にいるとだけ言っておこう。はぁ~」
変わらぬ様子の風真を見て、灯火流は、深くため息を吐いた。
※※※※
「は―い、では後ろからテストを回収して」
先生の発言の後灯火流は確信する。
「俺の夏休み、終わった(涙)」
「まぁ、どんまいや、次から気をつけるだけや」
「そう言うお前は、どうなんだよ」
「おう、ばっちしやで」
《一週間後》
「では、この前のテスト返します。え―、風神風真君」
「はい!」
「次から頑張ろうな」
「そんなアホな!あんなに勉強したのに」
強く頭を掻く風真。後ろに振り向くと笑いを堪えている灯火流の姿が目に映る。
あざ笑うかのような笑みで灯火流。
「お前も補修だな」
イラッときたのか、風真は顔を赤くして叫んだ。
「笑いなはんな、灯火流はん。自分やって補修あるやないか」
不意にも痛いところ衝かれたが、それに耐え応えようとしたが先生は風真を席に戻し静かでいるように注意をした。
「え―、では次。雷電樹君」
「はい」
普段と違う静けさに彼を知っている俺らにとっては驚くことだった。
先生の所に向かいテスト受け取った。
「上出来だ、文句もしようもない結果だ」
褒め称えられた彼は、誇らしげに生徒たちの間を通り過ぎ、風真と灯火流の所に着いた瞬間、嫌がらせするようにドヤ顔を見せながら鼻で二人を笑った。
((あいつ、絶対殺す!!))
同期した思考が通じたのか、学校の中で共通の敵を発見した。
次々と生徒を呼び出す先生、思った通り灯火流も補修を受けることになった。
結晶は、電樹同様100点を取り補修は免れた。
残念な結果に補修を受けるのが風真と灯火流だけとなった。
皆が笑いながら応援の声を叫んでいたその瞬間、バーンと爆発音が体育館から聞こえた。
天井が吹き飛び、煙を上げていた。
幸いにも体育館には誰もいなかったらしい。心当たりのある一同は、教室を飛び出し現場に向かった。