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十二神集結

 控えている部屋で、真白は灯火流と友香に全てを語る。

 毒草一族の頭領が関与していたことから十一族が関係していることは明らかだ。

 増してや屍毒を従わせるあの面の男が真白の兄ときた。

 考え込む灯火流を余所に真白は続ける。


「わ、私は、白崎一族は、代々から、光と闇の神を受け継がれてきました。しかし、闇の神は、(した)われてなく、一族内部で、二つの組織に別れてしまいました。表向きが私達白崎一族、会議や大事な用事を任せた組、です。そして、奥向きには、兄様、黒崎一族なのです。彼らは、主に白崎組を支える役割が命じた組、なのです。かなり危険な任務をこなすことも多々あると、聞いています」

「じゃあ、何故追いかけられていたのだ?同じ一族ならその必要はないはずだが?」

「表向きの白崎組に対して、奥向きの黒崎組は、私達の立場をうらやみ、不穏な空気が漂わせ始めていた。だから兄様、黒崎(くろさき)黒夜(くろや)は、私を恨んで追いかけて来た、と思います。昔は、仲良かったですけど、神力者の世界に関わりを持つようになっていからはその関係が断ち切られたみたいに、会話はおろか、目線も合わせては、くれませんでした」


 真白の話によると、力を覚醒したある日の夜まで、生まれてからずっと共に過ごした部屋から黒崎黒夜は姿を消した。

 真白が目覚めた翌朝、隣に居るはずの兄の姿はなかった。

 次に兄と対面した真白は、直ぐ様気づく、慕っていた兄の姿がなかったことに。

 黒崎組の者らに囲まれながら横切る兄を肌がざわめく感覚が真白に走ったと言う。

 それでも、共に過ごした日々を思い出しながら過去を話してくれる彼女の目に一粒の涙が零れ落ちた。

 この事実を知った灯火流は、決意する。


「俺が何とかして見せる!」


 勢いで言ったのはいいけど、はっきり言って何すればいいのか分からないまま、けど真白が 目を輝かせながら灯火流は心を打たれ、より一層やり遂げたい気持ちが強まった。

 こうなったら何とかするしかない、そう考えた。


「今は、まだどうやれば良いのか分からない。少し時間がかかるかも。けど、必ず君達兄弟を仲直りさせて見せるよ。だからまずは……神獣をどうにか仲間にさせないと……」


 喋る最中に灯火流の脳裏に何かが過る。


「そういえば、君も神獣を扱えられるか」

「あ、あの、はい……です」


 少し照れながら両手を頭に置いて顔を隠すように呟く。


「見せてくれないか、何かヒントを得られるかもしれない」


 嬉しそうに頷いた白髪の少女が立ち上がり庭に出て、唱える。


「《白崎一族に使えし神獣よ、その光に導かれ闇を追い払う力で我が下に()たまえ、白龍(ハク)》」


 床に現れた光り輝く魔法陣から巨大な白い龍が出現(あらわ)れた。

 空高く飛んだその龍は、まるで太陽のように輝き世界を一瞬で真っ白に染まり尽くす。

 何でも切り裂く鋭い爪と牙、初めて見る龍に思わず腰が抜かれ、床に尻餅をつく。

 龍に近づく真白、龍は頭を下ろし真白に頭を撫でさせる。

 神の力を(さず)かった一族等(かれら)に従う神獣、ただそれだけの関係と勘違いしていた灯火流。

しかし真白と白龍あのふたりを見るていると、その光景は神獣が主に従う者の関係ではなく、思い合う仲間の関係に近い姿だった。


「そっか……」


 何かを掴み取る灯火流。

 とても単純で、いや単純すぎて見落としていた。

 急いで鏡の元へ駆け付ける。

 もう一度神獣と対面する為に――


 ■■■■


 灯火流は、友香、鏡、そして真白と共にあの部屋に向かった。

 部屋に入った灯火流は、すぐに瞑想を始めた。

 目を開けると赤く染まった大地と山々がぽつんぽつんと這い出る、そしてどの山にも匹敵しない巨大な火山。


「また来たんだ、あの場所に、(くれない)が住む世界に」


 けど目を開けると前に来たときと少し雰囲気違っていた。

 赤く染まっていた雲空(くもそら)が綺麗な青空と化していた。

 眩しい日差しに一点の影が近づいてくる。

 その影が近づくことに影が光へと変わる。

 鳳凰が炎の翼を地面に近づく少し前に羽ばたかせ、強い熱風が体中を覆う。


「また来たか、小僧」


 低い声が空間中に鳴り響き、足を地面につけバランスを取るように羽を羽ばたかせた。

 神獣(奴)が引き起こす風は、どんな寒い地域でも一瞬で暖める力を持つ。


「よう、また着てやったぜ。今度は、あの時の俺と一味違うぜ」


 思わず()(ぱし)ったものの正直まだはっきりと応えが分かってはいない、けれど今掴んでいる感覚を活かしてやるしかない。

 二人は、同時に駆け出した。

 鳳凰は、空高く飛び、灯火流は鳳凰の死角である真下に飛び込んだ。

 到着した地点で両腕を限界まで広げ、肺に入る空気を極限までに息を吸い込んだ。

 鳳凰に向かって放った以前の技をまた使い、様子を(うかが)った。

 予想していた通り技を吸収され、前と同じく倍以上の威力で返された。

 鳳凰の伝説に出てくる死からの復活、灰になり、その灰から肉体を再構築する。

 もし鳳凰の体は、火そのもだとしたら、鳳凰を宿しているこの身も同じことが出来る。

 人間は、無意識にあらゆる流れに逆らう傾向がある。

 だからこの炎耐性の体を持ってしても同じ炎同士ぶつかり合っても耐久度を上回れば傷も負う、しかし逆らわずその流れを自らの力に変える。

 それは、神力者であれ神獣であれ同じこと。

 あの時感じた、真白と白龍、従う者と従わせる者ではなく、お互いを支えあう関係、友情と信頼が灯火流の目に映っていた姿だった。


「俺も貴方に認める為にぶつけ合うんじゃなかったんだ、俺達の力を一つにしてこその『認め合う者(パートナ)』だからな」


 受け入れてこそ本来の力を出せる。

 この力を手に入れてから意識のどこかに抵抗があったと思い返す灯火流。

 真白と白龍を繋げている強い絆。

 こんな関係になろう。


「見事だ、小僧。しかし汝は、まだ弱い、弱すぎる。我についていける自信はあるか?」


 鳳凰が笑いながら語る。

 以前とは、何かが違って聞こえた。

 楽しんでいるような様子で、灯火流の中の鳳凰の印象が変わる。


「当たり前だ!俺を誰だと思っている!」


 お互い笑い始め、灯火流は床に横たわる。

 眠りが襲いかかり徐々に目蓋に重みが重なった。


 ■■■■


 覚醒した灯火流は道場地下の秘密の部屋に寝転がっていた。

 部屋の扉を開けると、真白、鏡、そして友香が外で待っていた。


「ようやく手に入れたみたいだな。手の甲に刻まれた紋章、あれは……羽だね」


 鏡に言われて俺は、そっと触り、直ぐ様鳳凰の羽の紋章だと気づく。


「おめでとう、ございます、灯火流さん」

「おめでと、灯火流。何か凄いもの手に入れたもみたいね」


 祝いの言葉を投げ掛ける友香だが、実際のところは、何も理解していない。

 日没で辺りが薄暗みが増し、空は、黄昏色へと変色し始めていた。

 雲も、日に当たりまるで名画のように綺麗な光景が四人の目に映っていた。

 灯火流の母、紅城花紅良の呼び掛けに、夕食の準備が整っていることを知らされる。

 その晩、神獣を仲間に取り入れたを知った花紅良は、ご馳走を用意し祝った。

 祖父、紅城火釜もその場に立ち寄り明け方まで晩餐が続いた。


 ■■■■


 翌日、ポストに向かった灯火流は奇妙な手紙を発見する。

 送り主の名前は、存在せずただ一つの文章が紙に刻まれていた。

 判子らしい紋章の形は、気色悪い目玉の紋章。

 手紙には、こう書かれていた。


「十二神の神力者の皆様。この手紙に書かれている通りに行動してくださ~い。もし~従わなかった場合、嫌なことが起きますよ~。何かは、貴方がたらの想像力にお任せしま~す。では、以下に書かれている指示に応じてください~。三日後、鴉魔公園へ集合してください。お待ちしおりま~す」


 数少ない一族の中、的確に十二神と書かれていた手紙に違和感が体中が寒気に包まれるように(ほとばし)る。

 そして十一しかない一族を十二神と知っているのは一族内部でも極わずかな人間しか知らないはず。

 かと言って文脈からして、誰かの一族の者からにはとても思えない。

 送り主は、紅城一族以外にも神力者が紅城家にいるのは知らないはず、なら鏡と真白を含めて他の一族にも送られたことになる。

 そう考えているうちに――手紙は、数分後忽然と消滅した。

 だが異常な、正確には次元が違う方法で消えたというのが現在の状況だ。

 物語でよく聞く、燃えたり、爆発したり、そういう(たぐい)の消え方だが、今消えた手紙はまるで別の空間に飲み込まれたように何も無いところから吸い込まれるように消えた。

 謎の送り主に俺達、神力者の秘密、三日後に行われる謎の人物とその他の一族の後継者達、これから先会わなければなら者同士、正直なところ内心ではわくわくしていた。

 鏡との戦闘で感じた感覚、そう戦いに於ける武者震い、強い相手と戦いたい気持ちが灯火流の中で生まれ始めていた。

 友香を守る以外に戦う理由がいつの間にかできていた。

 高揚感の中にいる余所に、知りえもしない鏡の異常な様子に気づくことはなかった。

 その拳に血が出るほどの怒りと憎しみがどのような意味を込められていたことにも。

 予定の三日後の日が近づく中、街に異変が起き始めていた。

 まるで嵐が来ているような、そんな奇妙な感覚を体中を蝕む。

 この先集うべき者が近づいている。

 その予感しかしない。

 もちろん彼らに会うのは、三日後、鴉魔公園でだが――


 ■■■■


 謎の送り主から手紙を送られたその次の日。

 水色の瞳に金色の髪をした白いワンピースの少女が飛行場に到着した。

 その姿から見えるのは、高貴で可憐、付き纏う執事達を見るからにして大金持ちのお嬢様。

 雨が降っていないのに日も出ていないのに曇りの日に傘を差しており。

 そして、傘に刻まれている白い狼の紋章。

 立ち止まる人々は、その姿を見て声を出さずに居れなかった。


『キャーーー!!白狼(びゃくろう)グループの社長令嬢よ!』

『何でイギリスの(こおり)(プリンセス)が来日しているんだ!?』


 通り行く人が驚きを隠せない理由、皆が噂する社長令嬢の正体こそが今世界中で一○○兆円を突破した大企業、『白狼(びゃくろう)』唯一の跡取り娘、氷心臓(フロースハート)結晶(クリスタル)の姿だった。

 世界ではその名が知れ渡り、もはや白狼を知らぬ人はいないほどに。

 様々な商品を売り出しているが、始まった頃の彼らは陰陽師(おんみょうじ)として活動していた噂、昔の記事に書いていたことから知った。

 陰陽師を受け継いだ氷心臓氷帝(ひょうてい)は、金儲けの為、陰陽師だけじゃ駄目だと感づきあらゆる物を売り出し、絶大な成功を遂げた。

 まあ言えば商売上手な人だ、その為に生き、苦しまない貧しい生活からの脱出を遂げた。

 今じゃこの企業に右に出る者はなく、社会で世界を制することが出来ると言っても過言ではない状態だ。

 しかし、その企業の裏側では、灯火流達と同じ、謎の送り主が言う神力者だ。


 ■■■■


 雷鳴の如く街中を通過し、あらゆる電気製品や信号の類が故障していた現象が最近話題になっていた。

 街に大規模な停電が起き、復旧までに数時間かかる。その期間に於ける被害は尋常ではない。

 誰もこの現象に説明はできない、ただ一部の人間を除けば。

 灯火流達以外にも数名、この現象の原因は、(いかずち)一族頭領、(いかずち)電樹(でんき)であることを知っている。

 その暴れっぷりは、街中での損害費用五○○万億円にも及ぶ。

 彼の尻拭いを行わなければならない彼の部下の事考えれば気の毒さしか思いつかない。

 一時期指名手配者となっていた彼は、一族の権力の力ですぐにもみ消された。

 しかし、電樹に付けられた仇名が『暴雷人(ぼうらいじん)

 そのあだ名を付けられた電樹はその名前で呼ばれるのを嫌い、その言葉を口にした者は必ず病院送りにされるという。


 ■■■■


 次々と街に繰り広がる天災、台風や地震、秋なのに冬のような寒さなど異常気象が収まる気配はまったくなかった。

 専門家にはこれを説明するのは不可能だった。

 ニュースでは、世界の終焉など噂が広がっていると述べる。


『十一月十日』


 約束の日を迎える。

 季節外れの雪が降り注いでいた。

 鴉魔公園に集まった十二人の影は、ついに顔を見合わせた十二神の担い手。

 公園の中心で全員が見えるように輪を結ぶように並んだ。

 そこには、この前に会った全身黒装束の男、黒崎黒夜と毒草屍毒が立っていた。

 鏡、真白、灯火流を合わせ、五人はすでに顔見知り。

 残る七人のメンバーを見た灯火流は、体がまたあの高揚感に襲われる。

 すると輪の中心の遥か上空から声が響き渡る。


「は~い皆さん、注目!(わたくし)の招待状に応じて頂きありがとうございま~す。この私、無神(むかみ)(こう)心から感謝しています。では、本題に移させてもらいま……?」


 途中で謎の送り主(むかみこう)の声が途絶え灯火流の横にいたはずの鏡は、以前毒草の時みたいに、いやそれ以上の殺気を放っていた。

 水のロープを無神皇の足に縛り付け、引っ張ると同時に反動を利用して高く跳んだ。

 真正面に遭遇した二人に鏡の拳が無神を地面に叩き付けるように真下に落下させた。

 煙が回りに広まり、見えるまで少し時間を要した。

 だんだんと薄れいった煙の中に二つの影が見えた。

 倒れている影が一つ、そして立っている影がもう一つ。

 煙が完全に消えた去った時、そこには倒れている無神と見たことのない表情をした鏡。

 鏡がまた攻撃をしようとしたその瞬間、倒れている皇に拳を人差し指で止められたと同時に蹴りを鏡の腹に喰らわせ、向かいの木まで吹っ飛ばされた。

 衝撃の反動で気を失った鏡を差し置いて無神皇がぱっと立ち上がり嫌味混じりの声で口を開けた。


「いや~、痛いですね~。さっきの一撃は、効きますしたね~」


 上空に居た時は、無神の姿が見えなかったけど、地上にいる今彼の姿がはっきりと判る。

 頭部全体を覆う白い仮面、その被り物の中心に目玉の模様が不気味に目立つ。

 首より下は、社会人を真似てか、サラリーマンのようなスーツと白い手袋を身につけていた。

 鏡への衝撃が異常に強く失神していた。

 周りにいる皆は、恐怖の所為か、驚くような表情をして体がピクリとも動かなかった。

 場の状況を未だに理解できずただ立ち尽くしていた。

 それは、灯火流にとて同じく、無神皇に勝てるイメージすら沸かなかったほどに。

 それぐらい、彼らと無神皇の間に力の差があった。

 皆もそれを感じてか何もしなかった、いや、何もできないと言った方が正しい表現かもしれない。

 相手の力量を測らない愚か者がここにはいない。


「では皆さん、改めて本題に移させてもらいま~す。まず、皆さんには大会(トーナメント)形式にお互い戦いを行うことにしました。(ぱちぱち言いながら拍手もしていた。)こほん、この大会では、私が間接的に手紙で送ります。 その日の内容は、手紙に書いてありますので、それでは、良い夢を」


 語り終わると無神皇は姿を消した。


 彼が去った直後、この場の緊張の糸が途切れ、茶髪の小柄な少年が喋り出した。


「状況が今一だけッスけど、せっかく全員が揃ってるし、自己紹介でもしまッスか?」

「なら君から名乗るのは、筋ってもんじゃねぇか」


 大柄な逆立った金髪の男が叫びながら応じる。


「おいらは、土本(つちもと)一族の大地(だいち)ッス。属性は……まあ……土ッスね。あらゆる大地を操ることができるッス、宜しくッス」


 同じく逆立った髪に加え眉間に大きな対角線型の傷が大いに目立っていた小柄な少年。

 ――が、未だに誰にも突っ込まれない。


 続いて巫女装束の少女が礼儀正しく、ちょっと大人ぽいしぐさで名乗った。


(わたし)は、天月一族次期頭領、天月(あまつき)天磨(てんま)です。天の力を纏う回復専門の神力、神社の巫女をやっております。よろしくお願いします」

「おいらは風神(かぜかみ)風真(ふうま)や。大阪出身の風神一族の頭や。よろしゅう」


 にっこりと笑みを顔に浮かばせ名乗り出た灯火流とは少し小さめな綺麗で輝く花柄の水色のペンダントを飾るオレンジ色のジャンパを着たエメラルド色の眼の少年、風神風真。

 街に数時間停電させた()が次に名乗った。


「俺様は、雷電樹だ、宜しく。あっ、後『暴雷人』と呼んだ奴はぶっ殺すから気をつけろ!」


 悪役みたく最後に宣言する脅しの一言。

 しかし一般の人と違って、回りにいる皆は驚きの表情一つも見せずいた。

 続いて名乗り出たのは白のワンピースを完璧に着こなした、薄水色の瞳を持ったあの御方(おかた)


(わたくし)は、イギリスから来ました。氷心臓結晶ですの。ご存知かも知れないけど白狼を継ぐ者ですわ」


 貴族らしい彼女の口調、それはまさしくお嬢様と思わせるほどである。


山鉄(ざんてつ)鉄平(てっぺい)、属性は金属、年は十七、宜しく」


 淡々と短く紹介する年もそう離れていない大柄の体格を持つ銀色が輝く髪の男。

 彼の隣に立っている一人の少女、真白と比べてやや大きめの体格しかし小さいという印象はまだ残したまま一歩前に歩む。


木植(もくしょく)(たね)、です。よ、宜しくお願いします」


 礼儀正しい姿勢を見せながらの自己紹介、少し照れる仕草にここにいる男子全員をドキッとさせ、また一歩後ずさった。

 残すは、灯火流、真白と鏡、それと黒崎黒夜と毒草屍毒。

 ただ、黒崎黒夜と毒草屍毒の姿は、無神皇が消えてからいなかったことに誰も気づいていなかった。

 欠けた二人のおかげでこの場にいる必要性がないとわかり、灯火流達が名乗った後一人また一人と公園を去った。

 最後に残ったのは、灯火流と真白そして失神している鏡だけだった。

 灯火流は、鏡を担ぎながら紅城家に向かった。

 道を歩く二人、所々を照らす電柱、その先に見える正門に近づいていった。


「やっと着いた……が……一つ聞きたいことがある、何でお前らがいるんだ」


 そこに立っていたのは、公園で別れたはずの他の者達だった。


「何でって、ここが俺様達が泊まる宿所とこの手紙に書いていたからだ」


 電樹が応える。

 他の皆も電樹と同様、そして頷く。


「その手紙を寄越せ!」


 咄嗟に手紙を電樹の手元から奪い取りそれを観る。


「(中略)なお、君らにとって初めての街にはとっておきの宿を提供しよう。以下に住所を書いといたのでしっかりとご覧下さい。      ○○一丁目××-02」


 その手紙の内容は、以前ポストで発見した手紙の内容と同じく、だが他にも足された文章を見た灯火流は――


「あの野郎ぉ!!」


 と大きな声で強く手紙を握り締める。

 しばらく経つと落ち着いてゆき、はあっとため息を吐き出す。


「はあ、どうせ他の宛てもねんだろう。とりあえず入れ」


 門を開けて、玄関に歩いている間思った、あの仮面野郎いつか必ずぶっ殺すっと心に誓う。

 扉を開けて入ると台所から紅城花紅良が若干驚きの顔で、でも一言も言わず一瞬で暖かな笑顔に切り替え迎え入れる。

 怪我人を背負っている灯火流を見た母親は何も告げず他の皆を食堂へ案内した。

 灯火流は鏡を控え室に寝かせ、皆の集まっている所へと向かった。

 食堂の方に物音が聞こえ、途中で母親が大量の食料を運んでいるのを見かけ、母親もまた彼のことに気づき話し掛ける。


「お友達が来たの随分久しぶりだから、お母さん、ちょっと張り切っちゃった」


 と笑いながら食堂に向かった。

 母の喜ぶ顔を見た灯火流は、小さなため息を吐いて食堂へ赴く。

 食事を開始してからわずか三十分足らずにあんな大量の食料がほとんどなくなっていた。

 天磨、結晶と種を除く皆、つまり男性組が大食い者ばかりだ。(灯火流を含めて)


「うめぇやんかこれ、何杯でもご飯食えんで。おい、灯火流のおかんとってもおいしいで~」


 風真が自分の感想を述べ終わった時、灯火流の背中をくすぐるような桃色のオーラが扉の向こうから目に見えるほど放っていた。

 全ての料理を食べ尽くし、満腹に至った男共の腹はほとんど身動きができない位膨らんでいた。

 空になった皿は女性達で台所に運び込んだ。

 食器を洗う灯火流の母親の様子から見ると風真が言った言葉を聞いていたみたいだ。

 褒められたこともあるけど、おそらく友達の少ない灯火流にこんな大勢で家に押し掛けたことが初めてで何より嬉しかったかも知れない。


 ■■■■


 振り返って見ると、力を手に入れて以来様々な出来事に振り回されて来た。

 例えるなら、普通に生活していたのが遠い過去のような感覚。

 力が覚醒した時、鏡との決闘、そしてあの言い伝え通りに先に向かっていること。

 こうして向かえた次の朝、全てが単なる夢みたい感じで食堂に足を運んだ。


「よ、灯火流、遅かったじゃねぇか。全員揃わねぇと食べれないじゃないか、さっさと座れ」


 大地の発した言葉が現実に引き戻す。

 昨日の出来事が夢でも偽りでもない現実だったのを再認識させる。

 朝食が済んだ後、他の皆は早く支度し出かけた。

 灯火流は、学校へ行く準備をし部屋に戻った。


「学校なんて随分久しぶりな感じがするな」


 玄関に向かって、そこに誰かが立っていた。

 長い白銀髪(はくぎんがみ)の真珠のような目をした少女、真白がそこにいた。真白は待っていてくれたみたいだ。

 学校へ向かう途中に友香を見かけ三人で登校し、学校に着いた頃、ある噂が学校中広まっていた。


『おい、聞いたか。何か二年に転校生が七人もいるらしいぜ』

『それだけじゃない、一年に二人くるらしいぜ』

『それにしても転校する人多くねぇか』

『そう、私もそう思った』


 と言った噂が加速して学校中に広まった。

 おそらくその転校生の中二人は、真白と鏡だ。

 しばらく家に泊めることになった二人は、灯火流と一緒に学校に通うことになっているが、負傷した鏡のは、今日は欠席だ。


「しかし、この日に限って真白と鏡以外に七人も転校する生徒がいるとは。悪い予感しかしない」


 学校のチャイムが鳴り先生が教室に入った。

 重要な発表がある発言し、それは間違いなくどの生徒が知っている転校生の話だろう。


「ええ~、皆が知っているかもしれないがこのクラスに新しく仲間が加わります。では、入ってください」


 扉が開き四人の転校生が黒板の前に立ちそれぞれの名前を書き出した。


(悪い予感がよく当たるとは、このことだな~、はっはは(涙))


「俺様の名は、雷電樹、覚えとけ」

「あ、天月天磨です。今後も宜しくお願いします」

「氷心臓結晶ですわ。以後宜しくお願いしますの」

「おいらは、風神風真。大阪から来た、超能……がはっ」


 クラスの皆は、一瞬で殺到される。

 無理もない、風真を強く壁に叩き付られ、その叩き付けた人があの大企業白狼の社長令嬢本人だったからだ。

 普通ならありえない行為を見せ付けられ、それ以前に彼女がこの高校に通うこと自体ありえない話だが、彼女がこの学園に来た理由、彼女を含めて全ての転校生がここに集まった理由を知るのは灯火流だけだ。

 もう一点、生徒達が怯えた目で見ていたのは、今、日本中に大ニュースになっている不良、雷電樹もこの学園に来た事実だった。


「ええ~では、席についてください。そうだな、紅城の周りが丁度空いているな」


 黒板の凹みにを気にならない先生もどうかと思いながらも、自分がどんな状況にいるのかを再認識する。

 それに気付かなかったが妙なことに彼の東西南北にだけ席が空いていた。

 四人ともそれぞれの席につき授業が始まった。


「大体のことは見当が付いているが、一様訊いておく。何故ここにいるんだよ」


 灯火流は、彼らが何故、こんな場所までいるのかを尋ねる。


「おいら達は、この街に来るためにおいららの街から来たやんか。そしたら、もらった手紙にこの学校の場所と入学届けもあったんや。他の皆も一緒だからおそらくあの無神ちゅう奴の差し金やろな」


 察した通り、無神の仕業だ。

 共に行動させる行為、同じ家に済ませ、挙句の果てに同じ学校まで皆を通わせる、まったく意味不明な人物だ。

 この戦いに何か裏があるのは間違いない、それに鏡のあの時の行動、明らかな殺意だった。

 鏡は、奴ともう接触していた?

 何ヶ月前、何年前なのか直接鏡に聞かないと分からない。

 無神の正体が何なのか、少し疑いを持つようになった。

 彼ら、神力者が持つ力は、一族内しか知らないはず、だが一族の名の中に無神何ていうのは、存在しない。

 下校が訪れ、生徒達が灯火流の後ろを歩いている転校生全員が付いて来ているのをじーッと見ていた。

 不快感に苛まれながらも、普通の視線があれば、背中を刺すような視線が男子と女子からの嫉妬を受ける。

 家の近くの道を歩いていると空から一人ずつに手紙が目の前に落ちた。

 その送り主の名は、『無神皇』

 手紙の内容は、皆が予想していた対戦相手の表示だった。


「ここに表示する対戦相手と明日戦うべし――『雷神』」


 灯火流の相手は、雷電樹と書かれていた。

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