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第二章 無限の虚無編 四話 ~迷い人~

「うわぁぁぁぁあぁぁぁぁああああああ!!」


 ドッスン、と可笑しな音を落下直後に聞こえて、風真は、いててて、と手を腰に当てながら立ち上がった。


「ここは、一体?」


 辺りを見回すと、そこは、秋の季節の小さな森。


「そ、そんな……」


 驚愕の表情を浮かべ、風真は、大きく動揺を覚える。


「何でや……はっ!!身体が……」


 手元を見て自分の体格が一回り小さくなっているのに気づく。


「何で、あの時(・・・)がまた、再現されるんや」


 昔見た、いや過ごした光景にただただ唖然と繰り返す。

 そして――


「何でや、何で君もここにいるんや、(みどり)


 少女が目の前に現れる。

 翠と呼んだ少女は、風真に取って、大切な友人、けど同時に自分の罪の表れでもあった。


「風真君、また会えて嬉しいよ」


 霞むような笑み。

 穏やかに、優しく微笑む少女を見て、風真は、身体を大きく震わせた。

 その正体は、即ち、恐怖に他ならない。


「何で君がここにいるんや、翠。だって、君は、あの時(・・・)、おいらの、所為で……」


 呼吸を荒げ、問い質す風真の眼を見て、呟いた。


「優しいんだね、風真君。まだあの時のことを気にしてたんだね、でも嬉しいよ。風真君が、まだあの頃と何も変わってないんだもん」


 これは、一体なんなんだ?


 何が起きている、と頭の中で問いながら、一つの決断に達した風真は、翠という少女に尋ねた。


「君は、本当の翠やない。一体何者や?」


 少女は、顔を俯かせ、微笑した。



 ■■■■



 燃え行く屋敷を、幼い姿の鏡は、唖然と見詰めていた。

 これは、何かの冗談だろう、と。

 その屋敷が十三年前、無神皇が水晶一族に(もたら)した災厄。

 悲劇の晩。虚空の夜。

 当時五歳だった鏡には、あまりにも残酷な光景。

 未だ知られていない風真の現象同様、鏡の肉体にも同じような変化が起きていた。

 身体の小型化と言うべき現象が彼に起きているのだった。

 けど、今の鏡の心情では、それに気づくことはないだろう。

 何故なら、それができないから。

 再現される一族掃討、抹殺、壊滅の夜。

 唯一生き残った鏡が持つ傷、悔い、嘆きが目の前に起きているのだから無理もない。

 唖然し続ける中、炎が舞い上がる中から誰かが現れる。

 以前鏡が叔父と呼んでいた男、水晶イヅキ。

 けど、単なるまやかしだった。

 ある者の策略――理由まではわからないが――によって齎した災厄。


「無神、皇ぉ!!」


 そう呼ぶ男、水晶イヅキの正体が(まさ)しく虚空の神、無の神、無神皇その者だ。


「正体まで見破るとはね~意外だわ~、鏡坊ちゃん」


 指で顔の皮膚に減り込ませ、ズズズー、とその皮膚を剥がした。

 虚ろな眼、正しく闇よりも暗いその両()、空想の伝承を百年も掛けて、作り上げた奴を――何故か、十一族の一つ水晶を壊滅に追いやった無神皇(やろう)

 吠えるように名を叫ぶ鏡を見て、苦笑する。


「何だ~、まだ生き残りがいるのか~?私としたことが、何たる失敗♪」


 違和感を早急に感じ取った鏡はぽつりと零す。


「違う……アイツじゃない……」


 態度からして、明らかに違う無神の様子を見て冷静さを取り戻す。

 そんな五歳児の少年を不思議そうな眼で眺める無神は、どこか楽しい感覚に包まれていた。


「ほほ~、君は、誰かね?鏡坊ちゃん、鏡君だけど、中身は誰だろうね~?」


 観察の鋭い無神でも流石に全てを知ることはできない。

 十三年後の鏡が目の前にいるという事実までは……

 けれど、一つ不可解な疑問を鏡が抱えていた。

 記憶の再現に、何故この無神(・・・・)が話し掛けられるかを。

 謎めいた空間に鏡の思考は、ある可能性を見出す。



 ■■■■



「~ん……ん?」


 眼を開けると巨大なふかふかベッドで寝そべっていた。


「私は……そうだ」


 困惑する思考を瞬時に消し飛ばし、思い出す。


「灯火流?灯火流、何処?」


 再び状況を掴めず慌しさが戻り、灯火流の捜し求める。


「黙れ、女」

「――ッ!!」


 視線を前方に送った先にタルに座る小柄な銀髪の少年を友香は見詰める。


「……君は誰?」


 そう尋ねる友香に少年は、短く応える。


「ポーベル」


 その名を聞き、友香はある神物(しんぶつ)の名を零す。


「……ポベートール……」


 それを聞いたポーベルは、驚愕を覚える。


「小娘、何故その名を、知っている」


 何故だろう、と思う反面、しっくりと来る少年の名を不思議そうに友香もまた自分でも驚いていた。


「あはは、凄いね~、本っ当ぅに素晴らしいよ、友香ちゃん」


 扉の背後から聞こえる奇妙に若々しい声。

 風穴でも開けられたかのような両()で不気味な笑みを浮かべる無神には、はっ、と何か忘れていたこと思い出すかのように零した。


「友香ちゃんと会うのは、初めて(・・・)だったね。私は、無神皇。宜しくね♪」


 あくまで気軽に、そう応える無神は、無邪気な笑みで友香の疑問をあっさりと応える。


「気になっているでしょ?何故名を知っているのか。それは、ね……思い出している(・・・・・・・)からだよ♪けど、まだ早い……君が全てを思い出すのは、これから先なんだ~……だから、ね。君の王子が来るまで(くつろ)いでいるといいよ~、じゃあ、また後でね♪」


 最後の一言を言い終えるとすぐさま立ち去る無神の背中を見ながら、彼が言った王子に反応して友香は叫んだ。


「ね、灯火流はどこ?」

「あっ、そうそう。ポーベル、彼女に見せてやりなよ」

「了解、した」


 ポーベルは、指を鳴らし画面が幾つか出現した。


「これは……あっ!!」


 驚く暇もなく必死に十ある画面の中央を見詰める。


「灯火流が、二人・・……!?」

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