第二章 無限の虚無編 三話 ~孤独の世界~
―――暗い―――
――暗い―――――――――暗い――――――――――
止め処なく広がる暗闇に飲み込まれそうな感覚。
全身の感覚が狂い、やがて時間さえ認知できなくなる。
「……気が、狂いそうだ……」
どのぐらい経ったのだろ。
暗闇に飲み込まれてから数分も経っていないのに時間の感覚がない所為で数日にも数ヶ月も感じる。
――怖い――
終わりがないことがこんなにも恐怖を当てることが――
――孤独に身が焦げそうなことが……
「俺は……?」
息はできる――けど声を発しても聞こえやしない。
「俺は……それに、ここは……?」
俺は……一体何処だ?、と問いたいように、聞こえない呟きが音と共に消える。
ドサッ、身体の右側面に軽い衝撃が迸る。
「痛っ!!」
痛い……?
感覚が戻りつつあることに全神経を通して確認する。
暗かっただけの視界に光が宿り両眼を開ける。
猛烈な日差しに一瞬盲目になったのではと思い込むくらいの眩しさに驚き、眼を光に慣らした。
手には埃っぽい感触の黒い砂、空気中に漂う錆付いた鉄の匂い。
息をするにしても、この空気はかなり、いやとてもじゃないが苦しい。
「何だ……ここは?」
立ち上がった灯火流は、辺りを見回す。
黒い地面が延々と続く中、空は、藤色に染まっていた。
雲は、見当たらず、生き物が生息するには、あまりにも食料、草や木の実が明らかに不足している。
地面に至っては、正確に表すと砂漠に近い。
つまり大地に栄養が足りていない状態。
「そりゃぁ、回りに草一つ生えていない訳だ」
――ッ!!
突然頭の中に何かが過ぎった。
大事な、とても大切なこと。
自分が何故こんな場所に来た理由。
何かを成し遂げる為に飛び込んだ理由。
りゆう……りゆう……
――友香!!
時間の狂気に明け暮れて忘れてしまった友香に気づく。
「何処だ!!」
必死に、探りに当たる。
先まで見ていた光景が一気に視野が狭まる。
気づかず、無意識の内にただ灯火流の必死な思いを裏切る身体が来たす行動。
辺りは、砂漠。
空は、藤色。
生物が生息する可能性はゼロのこの領域に、単純なことに気づかない。
探しても無駄だということに。
砂の中に埋まっている?――地面は、かなり丈夫だ――ありえない。
見えない生物に襲われた、喰われた? ――先から証明している――ありえない。
冷静に戻れ、心を無心に、視野を広く、頭を冷やせ。
――落ち着け……落ち着け……落ち着け――
――必ず見つけてやる!
動悸が治まり、緊張や焦りを強引に制止させ、冷静を取り戻した頭で熟考する。
状況を把握することに全てを掛けた。
まずは、兎に角移動だ。
把握できるための情報が一番の最優先事項だ。
駆け始めて、灯火流は広大な砂漠を彷徨った。
背中から放出する炎で速度を加速させ、その間に考え込む。
「俺と友香があの黒い穴に入ったには、本の数秒の差だ。けどあの時間の感覚を狂わせる空間でその差も不明瞭にさせた可能性が高い」
要は、無神の時間稼ぎだ。
速度が百キロを超えたところで漸く南西に建物らしい建築物が眼の端に捉える。
「まずは、下調べに行くか」
方向を変え、更に速度を百十まで引き上げた。
予想以上の大きさだった。
城に近い形状の建物だが、見た目に意見をすれば脆いに一言で片付く。
罅が広がった壁にどっからどう見ても老朽化している状態。
黴が生え尽くした黒ずんだ正門。
砂漠なのに黴が生えるという疑問はさておき、灯火流は城の調査に取り掛かった。
ぎしぎし、と軋む扉の音、中に入ると妙に湿り気が漂っていたのは、気のせいではない。
実際に大気には、外と比べるとかなりの湿り気だ。
砂漠だからその違いは、明らかだ。
建物の中は薄暗く、異臭がする、微かだが風も感じる。
肌を撫でるような微風は、正面から来ていた。
「あっちか」
ドスンドスン、と重たい音が鳴る中、水の音がし出したのを解り、音の鳴る方向へ足を進めた。
「……階段、地下に進めってことか」
音の根源は地下、距離は約数メートルなのだろう。
発言を訂正しよう。地下路の深さは、二十メートルもあった。
風景は、一風変わって爽やかの一言で事足りた。
新鮮な草原、手当たり次第見回して、草原以外に川が一本流れているだけ。
(見る限りでは、な)
上階の砂漠と同様だろう。
何処かに建物か似たような何かがあるか、あるいはここに友香が囚われている可能性もある。
けれど、心のどこかに違和感を感じるのは、気のせいだろうか。
この時間の狂った空間に誰の気配も存在しなかった。
「くそっ!急がねぇと」
タイムリミット――なのがあるのは、不明だが――この場所に閉じ込められ続ける訳にはいかない。
一刻も早く、刹那の速さで突破口を探さねばならない。
灯火流は、拳を強く握り締め草原を駆け出した。