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第一章 永久の桜編 第六話 前編

「待たせたな君達」


 用事を済ませた櫻庭が現れ、少女が待つ桜の樹の元へ出発を開始する。

 そんな高くもない山とはいえ、徒歩約一時間も掛かる坂道に加え、終業のベルがなってからかなりの時間が経っている。

 太陽が沈み始めるのにそう長くない時間だ。

 櫻庭もこの時間に山の山頂に行くのは流石に危ないと伝えようとしたが、生徒達の真剣な顔を見てその判断を暗黙した。

 真剣な眼差しを向けられ、(ただ)ならぬ決意を感じ取り一緒に行く決断に至った訳だ。

 闇夜になりかけの空は、黄昏色から薄紫色に変じつつあり、辺りもまた暗闇に包まれ始めていた。

 一同が坂道を半分まで登り、先頭に立っていた鉄平が異変に気づき全員の足を止める。


「静かに、敵がいる」


 周囲に悟られないように囁きかけ、一同に事を伝える。


「先生は、どうしますの?」


 一般人である櫻庭は、灯火流達の正体を勿論知らない。

 神力のことは、一族の最高機密とまでは言わないが、やはり関わる人は最小限、或いは誰にも関わらせないのが最も適切な結論だ。

 だが今まさに向かう目的地には、クロノスティアという神がいる。会う相手は違えど一心同体に近いクロノスティアと未だに名前も知らない少女と会うことは俺達の事情に深く関わることになるではないか。

 話すべきか否か。

 導き出される答えを見つけられず、頭を抱えながら、内心どこかにある答えに手を伸ばす。


「二手に別れるのは、どうかな?」


 先陣を切って天磨が救いの手を差し伸べる。

 二手に別れて、片方は、ここに残り、潜んでいる敵を倒す。

 もう片方は、櫻庭を連れて先へ急ぐ。

 この方法なら先生を危険に晒すことなく無事に山頂を目指せる。

 唯一気がかりなのは、敵が単体なのか、それとも複数人いるのかだ。

 もし、複数の場合、同じ手で二手に別れる可能性が高い。

 だが、単体なら、これ以上ない名案だ。

 考えた抜いたのち、灯火流は頭を縦に振る。


「判った」


 短く呟き、真白、種、クリスタ、天磨と一緒に櫻庭を山頂へと導き出し、残る大地、鉄平、風真、電樹と鏡が隠れている敵を退治する二組に別れた。


「どうして、彼らは残ったんだ?それと何故、私達は、走っているんだ?」


 右往左往する櫻庭は、灯火流側に走るが、今の状況を問う。


「気にせず走ってください、先生。あいつ等なら大丈夫です。心配しないでください」

「そ、そっか……わかった、信じよう」


 若干不安感を抱えなががらも、生徒を信じずに何が教師だ、と振り切り、前だけを見詰めながら進んだ。


 ※※※※


「さてさて、これからどうするッスかね」

「大地、敵の数は?」

「十五体はいるッス。だが、ヒカルッチ達には、誰も……」


 言葉を遮り、真剣な顔で円を描くようにいる他の四人に歩み寄る。


「気をつけるッス。森の右側面に他とは違う力を持っている敵がいるッス」

「周囲にいる敵が一なら、奴はどのくらいだ?」

「約百二十ッスね」

「「なっ!!」」


 予想外な返答に四人は驚愕を隠せず悲鳴寸前の声を唸る。


「追加に一つ。周囲の敵……おそらく先日戦った白い怪物ッス」

『正式名称は、アルブス・ベスティア、白き猛獣と言うんだ』


 右側面の奥から聞こえる錆のある声に反応し、その方向へと視線を送る。


「誰だ!?」


 ざらざらと草のざわめかせ、音が大きくなるにつれ、近づいている声の持ち主はその姿を現した。

 大柄な風貌、しかし声の割には想像よりも若い姿。焦げ茶色の短髪にきりっと鋭い翠玉色の眼。

 軽装の鎧を身にまとい、真っ直ぐ目線を四人に向ける。

 五人の身体の自由を奪われる。

 睨まれただけで……?

 プライドの高い電樹には、この状況こそが一生の屈辱に等しい。


『名乗り遅れた、無神様の側近が一人、ギガリウス。以後お見知りおきよ』


 ざくざく、一歩また一歩と近づき、五人の距離は、僅か二メートルもない。

 苦笑気味た表情を浮かばせている風真の前にギガリウスと名乗る無神皇の側近――おそらくヴァルキリアと同じ神――が立ち、その翠玉色の眼で直視される。


『怯える必要はない。私が無神様のお楽しみを横取りすることは決してない。今回は、下見するだけですが、私が作った(・・・)アルブス達は別です。言わば見学として参りました』


 言葉の最後、森の奥に潜んでいた白い怪物が現れ四人を囲む。


「グルルルルルルゥゥゥゥゥゥ」


 呻き声を発しながら接近する彼らを余所に鏡は、すぐ後ろにいるギガリウスに尋ねる。


「何故追いかけない」

「おい、アホ、何言うんや、鏡」


 思いがけない鏡の問いは、風真はすぐに察する。


「お前が気づかない訳ないだろ。何故見逃した」


 他の三人は、漸く鏡の意図に気づき、同じく罵倒の言葉を鏡に投げかける。


『言っただろ。下見って。君達の実力を改めて調べてから追うつもりだよ』


 冷徹な響きを発する声でギガリウスは返答する。

 同じ無神皇の側近でも性格は、まるで反対のようだ。

 ヴァルキリアが自由奔放なら、目の前にいるギガリウスと名乗る男は、質実剛健だ。


『じゃあ、君達の実力見させてください』


 右手を翳しパチッ、と指を鳴らす。

 同時に待機していたアルブス達が一斉に総攻撃を仕掛け始めた。


『グルララララァァァァ――』


 臨戦態勢に行こうした五人は、それぞれの単発技【身体強化能力】と【属性出現能力】を発動させた。

 まず、大地の防御強化と岩の鎧を纏い敵の突撃を片っ端から受け、勢いを殺し、鏡が出現させ水で敵全体に浴びせた。

 続いて電樹が雷で水で電流の流れを倍加させたアルブスの身体にたっぷりと浴びせた。

 麻痺した敵を竜巻の中に閉じ込め、激しく振動する渦の中に気圧を最小限に薄め、真空に近い状態でかまえたちを作り出した。

 アルブス達の身体は見る見ると切り裂かれ次々と斃れていった。

 残り数五体のアルブスは恐るべき生命力を見せ付けた。

 致命傷を幾つも受けながら、倒れず立っている。

 特に他のアルブスと違いがある訳ではない、単純に当たり所が悪かったか、そうでないだけだ。

 ヒュー、と口笛を鳴らして、ギガリウスは、五人の連携攻撃に見入っていた。

 技の一つ一つは微力ながらも、作り出した白き猛獣(アルブス・ベスティア)の三分の二を絶命まで追い詰めた。

 賞賛すべき事実に更なる試練を与えることに決める。

 肺を最大に膨らませ、雷轟の如き叫びを放った。


『アルブス達よ、喰らえ!!』


 気圧されるその声にどうにか身構え、敵が襲ってくるのを待つ。

 だがアルブス達とった行動に喫驚する。

 斃れてた仲間を喰らい始めたことだ。

 一匹ずつに二体もの死骸(しがい)を骨すら残さず喰らい尽くす。


「おい、アルブスの傷が……」


 異変に気づいた電樹は、自分の前のアルブスに視線を送る。

 致命的な傷を負ったアルブスの身体が見る見ると塞がり始めていた。

 けど、治癒だけに収まらず若干巨大化したように二メートル近かった巨体に更に十数センチも伸びていた。


「う、そ……だろ!!」


 (アルブス猛獣ベスティア)に一角獣のように突き出る鋭い角が生え、手足には、黒曜石のように黒光りしている爪を生やした。


『仲間同士で喰らい合い強くなる超生物。私が作り出した中で最も生命への執着の高い汎用型モンスターだ』


 自慢げに語るギガリウスの言葉の中に重大なことに気づく一同。

 その指摘をしたのは鏡だった。


「作った(・・・)ってことは、それがお前に与えられた力なのか」

『おっと、口が滑ってしまったな……ま、いっか――』


 息を吸い、ドンと胸を張って誇り高く盛大に名乗る。


『改めて、無神皇側近が一人、創造神――ギガリウスだ!!』


 創造神、万物を生成可能な能力を持つ彼の称号が真実ならば最強で最高の能力。無限に生成される物は尽きることを知らぬところまで。

 しかし、そんな彼が無神の側近?


「創造神たるお方が、何故に無神皇に従う必要性があろう!」


 問う鏡に意表を突かれる顔を一瞬見せ、くくくと嗤い始めた。


『創造神でありながら、か。くどいぞ、神もどきが。無神様にため口なんぞ愚か者ですら判ろうぞ』


 途端、別人にすり替わったかのように口調が貴族ぽく、漸く軽装備であるが気品さに恥じらいのない姿に収まった。


『私が、何故無神様に従う理由と言ったな……無論、私など無神様の足元にも及ばないに他ならないからだ』


 無敵とも言える神力を持っているのに、足元に及ばないと断言する彼の言葉には、嘘偽りない、と一同は感じ取った。

 迫り来る怪物達は、周囲を囲み、ギガリウスという存在自体が脅威だ。


『それでは、よい余興を期待しているぞ。行け白き猛獣(アルブス・ベスティア)達よ!』

「グララァァァァアァ――」


 雄たけびを上げる怪物達は、一対一の組合で対戦が別れる。

 どんなに離れるなと叫んでも、この状況を避けることはできなかった。

 作戦を変更せざるを得ない。

 連携攻撃を使う余地はもうどこにもない。


「各々の敵に集中、倒した敵から近くの仲間を援護!」


 鏡が叫び――


「言われなく、ても……」

「……そう、するッス……」


 電樹と大地が指示しなくともと言わんばかりに、前方にいる敵をなぎ払いながら応答する。


「とは、言っても、厄介ですね、この敵……はっ!」


 気合の入った掛け声と同時に鉄の塊と同じ硬度の拳を鉄平が怪物の腹に喰らわす。


「こいつ等、以前よりもスピードとパワーが跳ね上がってるでぇ……神獣を呼び出す隙すらないや」


 敵に知性で判断しているのか、それとも機械のように組み込まれた指示通りに動いているのかも判らず、ただ左右、上下に飛び跳ねる敵の動きを捉えるのに精一杯追いかけるのに手一杯。


「くそぉ、まさか、ここまでやるとは……」


 バチバチと電流を撒き散らしながらパンパンに滾らせた血を噴出さん電樹はとある秘策を取る。

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