第一章 永久の桜編 第二話
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部室から聞こえるはぁぁ~、というため息ずいた声。
「まあ、捜索範囲は、格段に下がったのはいいが、ど~やって、二千人以上の生徒もいるこの学園でたった一人を探せばいいんだ!!」
と絶叫しながら灯火流が頭を掻き毟りながら思い悩んでいた。
「まあまあ、落ち着いて下さい灯火流君。ちゃんと考えれば自ずと道が解っていきますよ、きっと……ほら、お茶をどうぞ」
天磨は、後ろからぽん、と灯火流の肩を叩き慰めるような囁き声を掛け、机の上にハーブティーを置いておいた。
そのティーカップを手に取りゆっくりと飲み干す。
ふぅ~、とため息混じりの声を漏らし、静かになる。
その姿を他の異常現象研究部の部員全員が呆れ顔で灯火流を見入る。
「それで……これからどうする?」
そう尋ねる鏡に部室の空気ドッと重くなる。
その理由は、誰もが本当の意味での神頼みをしたいぐらい判らないからだ。二千人の生徒に加え約百五十人の教員がいるからだ。更に加えるとほとんどの教員達は、この学校の卒業生が複数いるというイレギュラーな自体に見舞われているからでもある。
頭を悩ませる問題に頭を抱える一同。
そこで、今まで何で見落としていたのかと呟きながら電樹が口を開く。
「そういえば、クロノ何とかが言っていたな……十年間もこの体にいたって……」
それは――つまり、と全員が一斉に口にすると、頭の回転が急加速し一つの答えに辿りつく。この学園に就いてから十年で神隠高等学園の生徒だった人を。
早速一同は調べ始めたが――結果は、そう芳しくなかった。
結論から言えるのは、十年前にここの生徒だった人が現在教師という人は、存在しないようだ。
百五十人の中の教員ならもしかしたらと考えた一同は、虚ろのまま部室に戻ったが、もちろん誰もが何かを言い出すことはないかった。
互いの目と目が合い、同時にため息をブレスみたく思いっきり吐き出す。
この日は、そのまま解散し明日への対策を考えようとしていた。
■■■■
ここ最近になって、家の中が随分と静けさが大いに感じ取らせる。
無神皇との最初の試練以降、氷心臓の財力で神力使い全員(家を持つ灯火流と家出の真白と居候の鏡を除く)にアパートの建設を取り行っていた。
その建設がつい最近完成して間も無く他の全員が移り住んだ。
賑やかだった家も廃墟の如く静かになった。
灯火流の母、紅城花紅良もすっかりと元気を失くしていた。
そんな母を余所に気がかりなのがもう一つ増えていたのを灯火流は、今更になって気づく。
それは、幼馴染の八守友香のことだ。
神力使いの一族と関わりを持ってからというもの、彼女への注意が疎かになってしまったのは曲げようもない真実。
けれど数日前、ここで語られてない友香と灯火流の約束が存在していた。
それは、現在近づいている日付のことだ。
現在は、冬の真っ只中、寒い気温に気をつけないと肌がキーンと何本の針が刺さるような痛みを感じ取らせる。
けれど、女子生徒の多くが好むこの日に友香と約束を交わす。
二月十四日、バレンタインである。
それに対して思い返すと以外なことに気づく。
彼女が指定した場所が今まさに調べている桜の樹の下だということに。
何の話であれ、詫びればあるまいと一つサプライズのプレゼントを用意しようと考えた。
だが、もちろん何のサプライズをするのかまるで検討も付かない。
バレンタインに関してのプレゼントがいいと考えたものの具体的には何がいいのかは判らない。
仲間に相談しよにも小っ恥ずかしくい上に、灯火流のプライドがそれを許さない。
しかし、有余もなくそうは言ってられない。
だから、と思った灯火流は、真白の所に相談することにした。
「なるほど、です。灯火流は、友香さんに何か礼がしたい、と」
と、頷きながら事情を理解した真白が応える。
「ああ、何がいいと思う?」
悩んだ末二人が選んだのは、結果がチョコだ。
しかし、そこにある工夫を施すのに思考を巡らせた。
バレンタインまで後ちょうど一週間、その間に今抱えている問題、或いは、願いを果たすべく動く決意をここで決めた。
■■■■
翌日、再び桜の樹の下へと赴いた一同は、クロノスティアの話をもう一度聞くことにした。
「あら、皆さん。どうかなさいましたか?」
樹の枝から出迎えたのは、クロノスティアではなく、学園の制服を着こなしている記憶喪失の少女だった。
相変わらずのクールな顔立ちとは縁遠い彼女の口調にまだ慣れない一同は、気を改め、彼女に尋ねる。
「あれから、何か思い出したか?」
そう聞いたのは、鏡だった。
「いいえ、まだ何も……けどこのままで良いとも思っております。例え記憶がなくてもこうして毎日、街の風景を眺めながら過ごすのは、ありかな~~なんて……えへへへへ」
嬉しそうな顔を見せてもその声には、ある種の悲しみが入り混じっていた。
しかし、認識して言葉を発したのではなく、彼女自身の奥底に眠る彼女心が無意識の内に彼女に呼び掛けるみたいに――
「来た、の」
突如少女の様子、気配が変わったことに気づいた真白の声に合わせて一同も同じく気づく。
「妾に何か用か、小僧供?」
神々しい口調、如何に神様だって思わせるその姿勢に鳥肌が立つ感覚が体中を駆け巡らせる。
息を呑み込み覚悟を決めたが如く真剣な眼差しで尋ねる。
彼女自身の存在を、何故少女に手を貸そうっと思ったのかを――
答えを如何にして単純だった。
気になったからである。
永遠の時を生きる神達にとっては、例え十年が経とうとも、それはほんの一瞬の一時であると。
「じゃが、妾ら神でさえも人間と何にも変わりはない。ただ尽きることのない身体を持っているのに過ぎないのじゃ……」
遠い過去を見据えるように天に顔を合わせ呟いた。
しばらく、沈黙が辺りに充満する。
山風の吹く音、木々の掠れる音、小鳥や様々な小動物の鳴き声などなど、耳に入る。