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第一章 永久の桜編 第一話 続編 ~少女の記憶~

 ――目覚めた時、この桜の樹の前で倒れていた。

 私の記憶が失われていて、唯一覚えていたのが私が誰かと交わした約束のことだけ。

 自分が誰で、何の為にこの樹の下で待っているのかは解らなかった。

 身体は軽く、食欲が全くないことには、驚きもしたものの割りとすぐに慣れた自分に不思議と違和感が感じなかった。

 けれど私の身体、いや、意思というべきか、この樹から離れることはなかった。

 何度も離れようと試みても気づけば元の場所に戻っていた。


「いやだ!ここから出られないなんて……」


 この思いが消えたのは、いつからだろうか?

 徐々に私の中からじわじわと壊れていく感覚、そして……


 ――頭の中から囁かれるような甘美な声が聞こえた。


「小娘、妾が(うぬ)の願いを叶えさせてやろう」

「貴方は、誰だ?」

「妾は、クロノスティア。時間軸を(つかさど)る神じゃ」


 夢でも見ているのでしょうか?それともどこかに頭をぶつけて幻を見ているのではないか、悩む所だ。


「これは、きっと私が編み出した幻覚……うん、そうに違いない!」


 独り言を言い始め彼女を面白げに見入る。


「汝、断っておくが、妾は、実在しておるぞ」


 幻聴ではないとやっと理解したのか、冷静さを取り戻し、後ろへ振り向く。

 辺りが急激に闇へと包み、その中ではっきりと立ち尽くす自分とほぼ同じ姿の少女だった。

 いや――その姿は、自分だ。まだ幼いちょっと昔の姿だった。

 その姿をがん見する彼女にクロノスティアが疑問であろう姿を説明する。


「これは、汝の記憶を勝手に拝借したものじゃ。そんなに気にするな」


 それより、と言わんばかりにクロノスティアの表情は真剣さを増し告げる。


「汝の願い、妾が叶えさせてやるのじゃ。その代わりに汝の身体妾にも分け与えろ」


 勝手な要求をするクロノスティア(神)に若干押しに弱い私に身体を明け渡した。


 決して彼女の意思がなかった訳ではない。彼女の内に秘めていた「願いを叶える」という言葉に無意識ながら期待で胸が一杯だったからでもあるし、クロノスティアが彼女の願いが何なのか理解していた風にも聞こえていたからである。

 吸い込まれるように目の前のクロノスティア(少女)が自分の身体の中へと入り込んでいく。

 決して気持ちのいいことではない。異物が中に入るかのように、身体が自動で防衛線を構えるように反発し合い拒絶する。

 当然反動でズキーンと針が何本、何十本、何百本も刺さるような痛みが全身を駆け巡る。

 クロノスティアの身体が私の身体に入り終えると、目を開けた瞬間元いた場所に立っていた。ただ何時間か時が過ぎていて夜空が満天の星へと風景が変わっていた。

 私の前へ通り過ぎる一礫(ひとつぶて)の光が目に焼きつく。

 何と美しい物だろうか――

 困惑していた頭の中がすっきりする。

 見る者をも穏やかな気持ちを誘う。

 後ろを振り向くとそこには、絶え間なく光り続ける桜が咲いていた。

 永遠と落ち続ける光の粒に何故か無意識の内に数滴の涙が零れ落ちていた。


「あれ……何で涙が……?」


 例え記憶がなくても心の奥、魂が受け継ぐ強い記憶が存在する。

 彼女がまだ在世(ざいせ)していた頃の果たされなかった約束、その強い念が彼女の知らぬ過去から呼び起こす感情を涙の形をして吹き出ていた。

 契約が結ばれてから五年が過ぎ、その山頂の桜の樹から眺める街の変化が目に焼きついていた。

 生きていた頃の街の風景が変わり行く様を眺め続け、心の奥底に切ない感情が否応なく襲い掛かる。

 この先、私の知っている街の影が全く消えてしまう名のだろうか?

 そう言った慰問が頭の中に()ぎる。

 更に一年が過ぎると思い返す。

 あのクロノスティアと名乗る神様があの契約時以来、何も語りかけてこない。

 更に霊体となってからの六年間、よくも退屈に済まずに過ごしてきたことに私自身を褒めるように関心する。

 やはり霊体では、時間の感覚が生身の人とは違うと三年前に回答に辿りついていた。

 身体の成長が止まっているから、と何度も考えた。

 けれど、これはあくまで憶測に過ぎない、そう考えている内に更なる年が過ぎ去って()き、霊体になってから十年が過ぎていた。


 彼女が最近に見る光景は、初々しい二組の男女がこの桜の樹で告白をしていることだった。

 樹の放つ不思議な力が加われているのかは判らないが、二人の恋が成就してからというもの、その手の男女が集うことが増えた。

 人の恋を応援するのは、断じて嫌いではないが、二人の男女を見ていると心の底が苦しいのは気のせいだろうか?

 記憶にない、ないはずなのに……

 雫が頬を(つた)って零れ落ちる。

 そして――

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