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始まり

 俺の名は、紅城くじょう)灯火流(ひかる)、十七歳。神隠町(しんいんちょう)に建設された神隠(しんいん)高校の二年生。

 紅城一族は、先祖代々神に仕える数多くの一族の一つである。

 その中でも紅城一族と他の十の一族は、残りの一族より神の力と知識を濃く受け継いでいると幼い頃から何度も祖父から聞かされてきた。

 そんな祖父の話に興味をそそられた幼少期もあったが、だんだんとその興味も薄くなりやがて気に掛けることもなくなった。

 その理由は――


 大富豪に育った俺は、小学校の入学時に、同級生達から避けられていたからだ。

 妬みの感情とともに、対立したらヤバイと直感的に感じ取った彼らが思いついた解決策が『無視』『避ける』ことだった。

 みんなに拒絶され、学校は【恐怖】の場所となった。

 普通の生活を望んでいた。

 友達も欲しかった……ただそれだけで良いとさえ思っていた。

 これからの未来に紅城家が邪魔になるというのなら紅城家との関係を断ち切ろう――と。


 しかしある時、独りだった俺にある女の子が話掛けてくれた。

 彼女の名は、八守友香(やがみゆうか)、元気一杯、誰にでも優しく接する茶髪のショートヘアで右側に結ばれた赤いリボンが目立っていた俺達のクラス一番の人気者だ。

 そんな彼女が俺に話し掛けてくれたお陰でギクシャクしていた教室の空気が変化し始め、少しずつだが同級生達と馴染めるようになっていた。


 そう、彼女には感謝してもし切れない恩がある。

 今でも友香とは同じ学園に通い、俺に取って家族以外に信用できる唯一の存在となった。

 こんな平和で当たり前の生活がとても嬉しい。

 そして、この日常をこれからも守っていくんだと……そう思っていた――


 あれさえ起こらなかったら――


 ――それは半年前の暑い夏の日。

 猛烈な日差しに当てられ、思い出すだけでも倒れそうになるぐらい暑い日。

 俺は、ふっと、『雨が降らないかな』と呟いた。

 瞬間、願いが聞き入られたかのように水色に染まった空が急激に曇り始め、次の瞬間には大地が海に変わるかのような豪雨と化していた。

 信じ難い光景を前にだが、これは、偶然だ、とその場をやり過ごした。

 けれど、月日が過ぎる去るうちに、似たような現象が度々起こるようになり、日に日に威力を増していく気がした。

 祖父にこの現象のことを話したら、深くため息を吐き『この時が来た』と呟いた。

 その言葉の意味を見出せないまま祖父は、俺に真剣な眼差しを向け、この現象の真実を話してくれた。


「我ら、紅城一族の者は、とある神を守って生きて来た。それは、わしが前々から話し続けて来たことじゃろ」


 俺は、こくりと頷き、祖父はそれを確認してから続けた。


「そして、その神は紅城の神力(じんりょく)の高い者を器としてその中に降臨し、目覚める時が来るのを待っていた」


 俺は、真剣に祖父の話を聞いた、聞いているうちに冷汗が噴き出し、額から滝のように汗が流れ落ちた。

 この話の肝心さは、祖父が口にした『時が来るのを待っていた』の一文にあると判断した。

 それは、つまり、祖父が全てを知った上で俺に黙っていたことに他ならないからだ。

 祖父は話を続けた。


「大昔から伝わって来た伝承がある。だがそれを知ることは、灯火流、お前が戦いの渦に巻き込まれると言うことじゃ。それでも聞きたいか?」


 俺の願いは、平和な毎日を送ること。

 聞くことでそれを失うかもしれない【恐怖】

 けれど、平和な日常を送ることは最早不可能だろう。

 この現象が起こった時点でそもそも平和なんて望めやしない。

 それに一族に伝わる秘密に触れられる機会があるのなら、聞きたい。

 そう決心して深く頷いた。


「そうか、なら仕方がない。わしの祖父に聞いた伝承では、こう伝えておった、『十二神(じゅうにしん)が揃いし(とき)、一人が王となり新世界を導き、真の平和が訪れるであろう』と」


 それを聞いた俺は、一つ祖父に問いかける。


「十二の神と言ったが、つまり他に十一の一族が存在するのですか?」

「昔に言った通り、紅城(くじょう)一族、天月(あまつき)一族、水晶(すいしょう)一族、風神(かぜかみ)一族、(いかずち)一族、白崎(しらさき)一族、氷の心臓(フロース・ハート)一族、毒草(どくそ)一族、土本(つちもと)一族、山鉄(ざんてつ)一族、木植(もくしょく)一族がいるのじゃ」

「あれ?俺達のと合わせても十一しかないけど」

「一つの一族には、二つも神が居るとされておる。しかし、どの一族がそうなのかは、未だ誰も知らないのじゃ」


 誰も知らない二つの神を持つ謎の一族、祖父の話を聞いた数日後、俺は、それぞれの一族のことをもっと詳しく調べ始めた。

 各地にいる一族の周囲に住む人々に紅城の使いを(よこ)し調べさせた。

 噂や、人々の目撃、図書館など様々な情報を集め、一週間後にそれらを詳しく知ることとなった。

 そして、驚くべきのは、神が宿っている一族の者全員が俺と近しい年齢の者ばかりだと突き止めた。

 それとは別に、それぞれの一族には属性が存在するのも発見した。

 紅城家は『炎』、天月は『天』、水晶は『水』、風神は『風』、雷は『雷』、白崎は『光』、フロースハートは『氷』、毒草は『毒』、土本は『土』、山鉄は『鋼』、そして木植は『木』。

 これらを合わせても十一、残りの一つの属性は、今だに不明。

 そして、もう一つ気がかりなのは、水晶一族の情報がここ数年の情報が皆無に等しいかったことだけだ。

 何故かは、もっと調べる必要があるが今はまだいい。

 まずは、誰かが動くまで待機した方が得策だろう。


 ■■■■


 一週間後、登校中に後ろから一人の茶色の髪をした少女に背中を叩かれ、聞きなれた声が耳に届いた。


「おはよう、灯火流!」


 優しい声を持つ彼女に返事を返す。


「おはよう。八守さん」


 呼び方が気に入らないせいか彼女は、パンパンに頬を膨らませ、怒った表情を見せた。


「も~、友香と呼んでっていっつも言っているのに!」


 八守友香、俺と同じ高校でとても明るい性格の持ち主でいつもイキイキと過ごしているとても元気な(やつ)だ。

 感情がそのまま露に出る性格で気楽に付き合えるのが何とも心地良いのか、小さい頃から何も変わっていない……いや、変わらなかったからこそ今の自分があるとも言える。

 普通に学校に通い、授業を受け、そして普通に自宅に帰る。

 このまま何も起きなければいい。

 しかし、真実を知ってしまった以上、このまま(・・・・)とはいかないのだろう。


 終業のベルが鳴り帰宅の時間が訪れた。

 学校に夕日が当たり始め、それぞれの学生が各々の家に帰る姿を教室から眺めながら日直だった友香が今日最後の仕事から戻って来るのを待っていた。

 帰り間際に俺は友香と一緒に寄り道して商店街の人気店に売っているソフトクリームを買った。

 帰り道にある川は黄昏色と水の動きでキラキラと輝き、空が下にもあるかのように映っていた。

 俺達は、川岸に座り込み、しばらくの間この絶景を眺めながらソフトクリームを食べていた。


「綺麗だね~」


 ソフトクリームの最後の一口を食べ終える。

 風向きが変わり遠くから何かが近づく気配を感じるまでは……

 その気配はやがて足音へと変わり、振り向いた瞬間俺達は怪しい六人組に囲まれていた。


 俺は一瞬、判断が遅れた。


 一人が割って入るように友香と俺を突き放し、その他の五人は俺を襲った。抵抗できないように連中は、俺を強く押さえ込み殴りかかって来た。

 一方的に殴られても――何もできない。

 抵抗すれば友香を更なる危険に招く、それだけは避けねばならない。

 友香を捕らえていた奴が急に血相を変え、抵抗しない俺の態度を見抜いてか気に食わなそうに表情を歪ませた。


「テメェら()めろ!!」


 命令一つ、五人はピタリと動きを止めた。

 これを機会にリーダーらしき男に訊ねる。


「何故こんなことをする?」

何故(・・)?はははははは……」


 不気味な笑い声に引きずられる様に他の連中も嗤い、そこら中に響き回る。

 そして、男は上着のポケットからナイフを取り出し、友香の腕に引き付けた。


「愚かな質問をするね君~?……何故かって……?面白れぇからに決まっているだろう!!」


 最後の言葉を言い終わったとたんにナイフで友香を刺そうとした。


(何もできない自分が情けない!!)


 突然、時間が停止した感覚を覚えた。

 数千数万もの思考が頭を過ぎる中熟考を繰り返す。

 けれど、友香が傷つけられているという状況なのに体が微動だに動こうとしない。


「くそっ動……けよ、動け、俺の身体!!守らないといけないんだ……友香を……約束したんだーーー!!」


 何らかの弾丸が頭を撃たれたかのように、急に昔の記憶が過ぎる。


 ■■■■


 それは、俺と友香が親しくなって半年が経った頃。

 家に帰る道中で俺達と同じくらいの大きさの犬と出くわした。

 犬は歯を剥き出しに唸らせ、友香は反射的に俺の後ろに隠れ必死でTシャツを鷲掴みにしながらぶるぶると身体を震わせていた。

 俺も気づけば体中が震えていた。

 しかし、怖気づいている場合ではない。

 俺は道に落ちていた木の棒を手に取り大声と共に大きくその棒を左右に振り回し、必死で犬を追い払おうとした。

 みっともなく、情けない声を出しながら。


「この……あっちにいけ!!このぉぉぉ!!」


 けど全力で振るったその棒で犬は、態度を変え、興味を失せてか、振り返り去って行った。

 遠ざかる犬を見た友香は、俺の背中にもっと強く抱きついた。

 けれど震えは綺麗さっぱりと消えて、低音で囁いた。


「ありがとう、灯火流……守ってくれて……」


 手を放し、友香は俺の前で半回転した。

 振り向けられた彼女の笑顔から差込む色鮮やかな夕日。

 影であまり表情が見えなかったけど、きっとこの夕日に負けないぐらい綺麗に違いない。


「お、おう。これからも友香を守ってやるよ。約束だ」


 彼女の笑顔を守りたい、俺に振り向かせたい、ただそれだけを追い求めて――

 この時に交わした約束は、決して忘れない。必ず守って見せる。


「どんな状況でも臆せず、真っ直ぐ前を見て、どんな時でも立ち向かえる勇気がある。それが灯火流の良い所だよ……だから、ね……約束だよ。またこんな目に遭ったら私を守ってね、絶対だよ。だって灯火流は、私のたった一人の――」


 彼女の最後の言葉を通り過ぎる電車が邪魔する。

 聞き逃しても彼女が見せるこの笑顔を守る為なら何だってする。

 どんなことが起きようが、必ず――守って見せる。

 拳を胸に当てながら自分自身に誓った――

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