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ハル遠からじ  作者: NES
2/7

ハル遠からじ (2)

 昼休みのチャイムが鳴ると、もうお馴染みのお弁当組が集合する。十人か。多くなったものだ。

 ヒナのいる女子グループがもう六人だもんな。気が付いたらこんな状態になっていた。っていうかユマがしれっと加わってるんですが。なんだかなぁ。

「いよいよこのメンバーでお昼っていうのもあと一ヶ月切ったかもね」

 黒髪ロング眼鏡のお嬢様サユリ。我がグループのリーダーにして若年性お局様。ヒナとは同じ水泳部。競泳水着目当てに男子生徒が見学に訪れることがちらほら。ヒナなんかは学校指定の半袖セパレートで通してる。いやぁ、それでも水着姿で並んで立ちたくはないなぁー。身長もスタイルも何一つ勝ち目が無いもんなぁ。

「クラスが替わっても、みんな友達なのは一緒でしょ」

 ショートヘアに猫みたいな眼、スラリとした長身のサキ。女子にして王子様。女子高だったら大変そうだな。陸上部期待のホープだそうです。あの陸上のユニフォームって、絶対に選定の過程に何かよこしまな意思が働いてるって。それをばっちりと着こなしちゃうサキのせいで、陰で他の女子たちが羞恥のあまり涙しているに違いないよ。

「やっぱりみんなと離れちゃうのはさみしいな」

 ふわふわロングで、お人形みたいに可愛くて小さな身体のチサト。吹奏楽部の実力派フルート奏者。普段はぽんやりしているように見えて、実は強い意志の持ち主。流されそうで流されない。過去に色々あったからか、人間関係のこじれにちょっと敏感。

 ここまでがレギュラーメンバーだったんだよね。


「まー、しょうがないよ。クラス替えも大事なイベント。楽しみにしておくくらいじゃないと」

 などと強がっているさびしんぼうが、ポニーテールにそばかす顔の元気印少女ユマ。イベント大好きで、学園祭実行委員もやっていた。部活はおよめさんクラブこと家庭科部で、中身は結構乙女なんだよね。クラスが分かれたら、なんだかんだで一番ぎゃあぎゃあ言い出しそう。

「新しいクラスか。知らない人と、お友達になれたら嬉しいな」

 にこにこしているほっそりとした子が、フユ。一月にやってきた転校生。ヒナにとっては、ちょっと特別な関係の子。それについては一旦脇に置いといて。フユは手足も何もかもが細い。背中の真ん中にまで届く黒い髪と、真っ白な肌のコントラストが美しい。長いまつげの大きな垂れ目が、見る人をそれだけで癒してくれる。

 入学した時から考えてみたら、ここまで賑やかになるなんて想像もしていなかった。みんな大切なヒナの友達。きらきらしている高校生活の象徴だ。


「おーい、曙川食堂」

 うっさいな。

 男子ィも一緒にご飯食べてるんだよね。ハルのいるグループって言うか、ハルとハルのお友達。名前を覚える気もないし、ヒナはずっとじゃがいも、じゃがいも、さといもって呼んでいた。

 そうしたらもうすっかり根菜として記憶しちゃったんだよね。フユの方が先に三人の顔と名前と特徴を覚えちゃってて、ビックリしたくらいだ。いや、ハル以外の男子なんて知っておく価値ないじゃん。そう言ったら「流石に酷過ぎるよ」だって。えー、だってホントに価値ないし

 モテたい系男子、じゃがいも1号、宮下。ヒナのことをハンドボール部のマネージャーにしようとしたり、学園祭のインチキなイベントで出し抜こうとしたり、スキー教室にモテたいという理由で参加したり、ロクなイメージが無い。ヒナは真っ直ぐな人が好きだな。

 ムッツリ系男子、じゃがいも2号、和田。あんまり口数は多くないが、いざ喋り出すとミョーな知識ばっかり。フユはいつもじゃがいも2号の話を面白がって聞いている。いや、あれはムッツリなだけだよ?まあ、悪い人ではないのかな。

 不良になりきれないニヒル系男子、さといも、高橋。背が低いよね。なので、威圧感が圧倒的に足りなくて、子供が粋がっているように見えてしまうというか。ああ、チサトと最近良い仲らしいので、あんまり言い過ぎないようにしておこう。ご飯、ちゃんと食べろよ。

 これにヒナの素敵な彼氏様、ハルを加えてお弁当組男子の部、完成だ。ふむ、一年近くかけてようやくここまで覚えた。賞賛に値すると思うのに、誰も褒めてくれやしない。クラスが替わったら瞬間的に忘却だな。


 とりあえず今日の分のタッパーを取り出す。こいつらの目的はこれでしかないからね。取り皿とお箸を並べて、蓋を開ける。

「今日はガーリックバターチキン。リクエストに応えてやったんだから感謝しな」

 ウェーイ、と声をあげていもたちががっつく。タッパーの中は四人分のおかず。ヒナが朝早くに起きて作ったものだ。

 別にヒナの家は食堂でも何でもない。ハルのために頑張ってお弁当を作っていたら、恵まれない男子ィがもの欲しそうに見てくるので、哀れに思って恵んでやったのだ。それが今じゃこう。野生動物に安易にエサを与えてはいけないって、身をもって理解しましたよ。あ、フユの分もあるけど、これは特別。フユはもっとちゃんと栄養を摂らないと。

 ハルには、ヒナからお弁当を渡す。あんなカロリーのお化けに手を出しちゃいけません。ハルの栄養は、ヒナがきっちりと管理してますからね。


「なんかもうその辺の夫婦っぷりもすっかり板についてきたな」

 じゃがいも1号が余計なことを言った。ぎろり、と睨みつける。今その話はするな、やめろ。

 びくっとなってじゃがいも1号が目を逸らした。あー、ほら、ハルがちょっと悩みだしちゃったじゃん。ハル、考えながらご飯食べると、消化に良くないよ?

 サユリがにやにやしながらヒナのことを見ている。う、これはバレたな。いや、別に隠すつもりは無いよ。ただ、結果が出てからのご報告とさせてもらいたかったので。大事なところなんですよ。お願いします。

「いいよねー、ヒナと朝倉君。やっぱり結婚するんだよねー。羨ましいなぁ」

 フユが能天気な声を出した。

 ああああああ、もう!

 台無しだ。いや、フユに悪気が無いのは判ってる。怒っても仕方が無い。しかし、もうずばっと直球がすっ飛んできちゃった。ちらりとハルの様子を見る。

 箸、止まってますね。うう、せめてホワイトデーの後にしてほしかった。きっかけを作ったじゃがいも1号、もうお前一生じゃがいも。絶対に許さない。絶対にだ。

「フユも結婚に憧れたりするの?」

 横からユマが食いついてきた。まあ、ユマはおよめさんクラブだしな。いい年して将来の夢はお嫁さん、とか臆面もなく言い出しかねないクチだ。

 フユはうーん、と考え込んだ。

「そうだなぁ。ヒナを見てると、いいなぁ、羨ましいなぁ、とは思うよ?」

 フユには、色々な事情がある。このメンバーの中で、そのことを知っているのはヒナだけだ。フユが結婚とか、そういった普通のことに憧れる気持ちはよく解る。

「でも、難しいなぁ、って。何しろ一人じゃ出来ないからね」

 さみしそうなフユの笑顔を見ると、ちょっと心が痛んだ。いつか、フユの全てを受け入れてくれる人が現れるって、そう言い切ってあげられれば良いけど。

「大丈夫よ。出来る、出来るって!」

 ユマが、がたん、と椅子を跳ね飛ばして立ち上がった。あー、およめさんクラブに火が点いた。

「女の子には皆、幸せになる権利があるの。大丈夫。フユもきっと幸せになれる」

「ヒナみたいに?」

「うん、ヒナみたいに・・・」

 そこまで言って、ユマはヒナの方にちらり、と視線を向けてきた。なんすか。なんか文句あるんすか。

「なれる!きっと!」

 おおー、と一同から拍手が沸き起こった。うん、なれるなら是非なっていただきたいですよ。ヒナだってみんなが幸せな方が良い。フユだけじゃなくて、ユマも、サユリも、サキも、チサトも。みんなに幸せになってほしい。


 まあ、その前に自分のことなんだよな。ハルは黙って食事を再開していた。冷やかされるのはいつものこととして。今はちょっとナーバスだよね。うーん、やっぱり良く無かったかなぁ。

「朝倉はこの前十六になったんだよね。ヒナは誕生日いつなの?」

 ぐええ、サユリ、なんで追い打ちかけて来るの?

 楽しそうな笑顔浮かべやがってぇ。ひょっとして判って言ってやがるなぁ。

「三月の二十三日だよ」

「あれ?三月三日じゃないの?」

 ユマが首をかしげた。うん、よく言われる。

 えーっとね、それは当初の予定日だったのです。ヒナはぜーんぜんお母さんのお腹から出て来なくって、最終的に陣痛誘発剤で無理矢理生まれてきた感じだったのね。お父さんもお母さんもヒナっていう名前だけは先に決めてあって、色々と準備した後だったから、もうヒナで行こうって、そういうことらしいよ。

「いよいよ十六だよね。出来ること増えるよね」

 折角話を逸らしたのに、いちいち元に戻さないでくださいってば。これ、絶対わざとだ。くそう。

「あー、自動二輪の免許とか?」

「結婚、でしょ?」

 ぐええ。

「高校生なんて結構あっという間に終わっちゃうもんよ?」

 現役高校生がそれを言っちゃうのはどうかとも思いますが。

「その先のこと、考えてないわけじゃないんでしょ?」


「当然だ」


 しん、となった。

 ハルはその一言のみ口にすると、後は黙ってヒナの作ったお弁当を食べていた。

 顔が熱くなる。ハル、やっぱり考えてくれてるんだ。ヒナのこと、大事にしてくれてるんだもんね。

 嬉しいよ、ハル。


 サユリが、ふぅ、と息を吐いて、「二年のクラス分けって、基準があるらしいんだよね」と話題を変えてきた。

 やれやれ、どういうつもりで突っついてきたんだか。多分、いい加減にするなよ、ってけしかけてきたんだろう。大丈夫だよ。ハルはちゃんと考えてくれてるって。ヒナは、ハルのこと信じてる。

 ほっとしたところで、フユがヒナの方を見てにっこりと微笑んだ。声を出さずに、口だけが動く。

 あとでね。

 ん、判った。話の見当はついている。ちょっと面倒そうなことだよね。

 ハルはさっさと食べ終わって、ペットボトルのお茶を飲んでいた。ハル、ありがとう。ハルはいつでもヒナのことを助けてくれる。ヒナはハルのこと、大好きだよ。


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