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CHILD REVOLUTION  作者: Gunchan
9/9

RESET 後篇

「これに着替えて、このナイフを持って祈りの部屋に行け。刃はないから大丈夫だ」

そう言って徳は達也に衣類と手のひらに乗るくらいの小さなナイフを渡した。


「これから何をするんだ?まさか祈りでもするのか?」

徳に問う。


「ああ、本当に祈りだ。詳しい事は明日説明する」

そう言うと達也の後ろに並んでいた人が達也を押しのけ徳からナイフを受け取った。


「分かった」

そう言って達也は祈りの部屋に向かった。


 部屋に入ると部屋の真ん中に大きな壺がありそのつもの中からは炎立っている。その場にいる者達は皆その壺を囲んで立っている。達也も同じようにしてその輪の中に入った。それにしてもこの衣装は何なんだろう。水色の布で体を覆いフードみたいなものが付いている。これは自分だけ支給されたが、皆はすでに同じようなものを着ている。これは祈りの時のみ着るものなのだろうか?


 しばらくすると徳が来た。


「おーい、皆集まったか?じゃあこれから前夜祈りの集会を始める。ハーガンドには後から入ってもらう。まず達也がこの祈りは初めてだから説明させてもらうな」

皆がしんと静間に帰り、徳はそのまま続けた。


「これは古くから戦いの前夜、あるいは人を殺める前夜に行われている儀式だ。まずやり方を説明してからその歴史について話そう。達也、目の前にワインの入った銀色のゴブレットがあるだろ?それをまず利き手に持つ。おい、レダン。達也に見せてやれ」

そう言うと、達也の隣にいたレダンが達也に手本を見せた。


「達也、レダンと一緒にやってみろ。まずゴブレットを利き手で持ったら、利き手じゃない方に先ほど渡したナイフを持つんだ。そしてゴブレットを落とさないように飲み口の所に反対側まで親指を乗せる。そして・・・ああレダン、投げなくていいからな。後で一緒に皆でやるから。達也もここからは見てるだけでいい。そして親指を乗せたらそこにナイフで親指に軽く傷を付ける真似をする。刃はないから大丈夫だ。そして切る真似をしたら黙祷。そして次に中にあるワインを飲み干しゴブレットを元あった場所に戻したらナイフを目の前の火に向かって投げ入れる。これだけだ、何か分からない事あるか?」

話し終わると達也に聞いた。


「もしかして昔は本物のナイフだったの?」

 徳が達也にこの儀式について説明した。


 昔はナイフに刃があるだけではなくて酒もワインの代わりにウォッカだった。この儀式は殺める相手に対しての慰めの祈りでもある。一般的に食事をする時に人は「いただきます」と言うような感じだろうか。


 そして昔と今が違うのは、昔の儀式では刃のあったナイフで指を軽く切り流れ出た血をゴブレットの中に入れそれを飲んだ。そしてその傷口に墨を入れていた。その時代は傷の数(敵を殺めた数)が多ければ多いほど自分の強さ、英雄度が大きかった時代だった。そしてその強さを再認識する為に相手を殺める銃を持つ際に一番見える親指の甲の位置に傷を付けた。しかし17世紀に入ってその考えが変わった。この時は今より人の命は軽かった時代だったが、その前の時代よりは人は命を考えるようになった。命の重さを彼等リベルティは再認識して、「傷の多さ=己の強さ」ではなく「傷の多さ=己の弱さ」となった。


 もしかしたら殺めなくてもよかった命かもしれないが自分が弱いゆえに命を奪うこととなってしまったという意味になった。銃を構える時も出来るだけ祈りをした時を思い出し、本当に殺めなくてはならない人なのかとも再度考え直してほしいって言う理由になった。そしていつしかナイフも、感染病などの懸念により模擬刀になった。ちなみに近代に入り、この儀式は人を殺めない時でも何かあるとその前夜にすることになっている。その儀式もあって、敵を殺す時に敵が反逆してきそうになかったら自分の顔をしっかりとさらけ出して名前を言ってから命を頂く。正義が自分にあれば何も恐れる事はないという教えにちなんでいる。


「さて、歴史の話はこのくらいだ、じゃあやってみようか。初めは皆に合わせるだけでいい、ただしっかり祈ってくれ」

歴史の説明が終わり徳はハーガンドに向き直った。


「ハーガンド老師、お願いします」

皆が一斉にフードをかぶりゴブレットを持つのにつられ、達也も同じように動いた。そして先ほどハーガンドと呼ばれた老人が入ってくると儀式が始まるという異様な空気に包まれた。ちなみに老師と皆は敬意を示しているが現役を引退した長老というだけで与えられた儀式遂行の権限を持っている他に何か特別な地位は持っていない。だが皆は彼を敬っている。


「・・・・・・・・・・・・・・・」

ハーガンド老師は何かを言っているが声が小さく、日本語でもないから聞き取れない。すると勢いよくグラスを上に掲げ中に注いであったウォッカが宙に舞う。すると皆が一斉にナイフで親指を着る真似をし黙祷に入った。



ハーガンド老師が放ったウォッカが炎にかかると一気に青白い炎となって燃えた。それど同時に皆が一斉にワインを飲み、ゴブレットを置くとナイフを炎の中に投げ入れた。


 長い沈黙だ。誰かがぼそぼそと何かをつぶやいている。


「以上で祈りの儀式を終了する。各自明日の準備に備えろ」

 達也の隣にいる男の親指が入れ墨で青黒く染まっていて、赤い血が流れ落ちていた。ぞっとした達也はすぐにその場をすぐに離れた。








 廊下を歩いているとまた徳から呼び出しされた。指示された場所に行くとハーガンド老師と一緒に徳は待っていた。


「おお」

達也は驚いたことがバレないように平然を装った。


「ああ、来たか。まあ座れ。実はな、ハーガンド老師がお前がベリスにいた時の事を知りたいそうだ」

同時にハーガンドは達也を鋭い目つきで見た。ただし見ているのは右目だけだ。左目はとうの昔にベリスとの戦いで失くしたらしい。


「分かった」

 達也はありのままを話した。


「・・・という事なんだ。そこでリベルティに助けてもらった訳。だけど俺がいまいち分からないのは、ベリスはどうやってこの日本政府の背後で暗躍出来るようになったんだ?」

達也の質問に徳が答えた。


「16世紀半ばに日本にリベルティとベリスの2組の宣教師が各自預言者を連れてやってきた。2組とも別々に訪問したらしいがリベルティはこの先に起こる災いを防ぐために組織として活動させてほしいと言った。当然当時のお偉いさん達は未来が見える力があれば世界を掌握出来ると信じ、協力しようとした。だがその考えがリベルティには受け入れる事が出来ず、未来を知る者が未来を変えてしまってはいけないという事で自ら手を引いたんだ。だが一方ベリスは未来を変えさせない代わりにあなたたちの都合の悪い人間を消す仕事を引き受けることを条件に交渉に臨んだんだ。結果は皮肉にも成功した。そしてまず日本に居座っていたリベルティの宣教師は殺害され、その間にベリスの組織を国に根強く建てたんだ。それが今に至るんだ。数ヶ月前の大沢議員が記者会見で記者に手で銃を向ける真似をした晩にその記者は何者かに殺害されただろ?」


「まさか!?」

達也は驚きのあまりに目を大きく開いた。


「そうだ、それは今でも行われている。あれは政府が下した殺害命令だったんだ」

それを聞いた達也は動揺を隠せなかった。


「じゃ、じゃあリベルティが国民にとっては有利な組織だという事実を隠すために・・・・」

「君の友人たちは殺された」

徳は悲しそうな顔で言った。


「・・・!!」

達也は悶えて嘔吐した。


「うわあああああああああああ!!!」

大きな奇声を上げると、壁に頭を打ちつけた。心配したハーガンド老師や他の者が止めようとしたが徳がそれを制止した。


「そのまま、泣かせてやれ。おれも似たような事あったんだ。ちょっと外の様子を見てくる」

そう言った徳はそそくさと隠すには遅い涙で濡れた顔を隠して外に出た。


「・・・・・・」

ハーガンド老師は何かを言ったが達也には聞き取れなかった。







 次の日、昨夜は泣き疲れたからよく寝れた。鏡を見ると額に包帯が巻かれていた。


(だれが巻いてくれたんだろう。寝起きの時はいつもドアから孝一や隆樹が来ないかと期待してしまう。今日もいなかった。いや、これからもいないのだが。もしもう一度会えるなら会いたい)

そう思いながら服に着替えるとその上から戦闘服を着た。そしてそのまま集会場へと行くともうすでに皆集まっていた、達也は慌てて席に座ると、徳が咳払いをし話し始めた。


「おはよう、いよいよ今日となった。ざっと流れを説明する。HMDの電源を切っているものは起動してくれ。映像を配信する」

そう言うと達也のHMDに作戦のシュミレーション映像が映し出された。


「まず、外にいる人間に現場周囲の監視カメラにハッキングしてもらいターゲットがいるかどうか確認してもらう。そして確認し次第、地上と上空の2つに分けて侵入する。地上の人間には下水道を通って移動してもらうがくれぐれも下水道は一方通行だがその先にいるSPは殺すな。ワイヤレステーザーガン(スタンガンみたいなもの)を使用して殺害しないようにしてくれ。上空部隊は今まで通りやる。最後に確認だ。上空からの侵入に成功したら地上の人間は周りを包囲しろ。上空の人間は建物に侵入したのち中にいる人間を銃で制圧しろ。弾丸は入っているがくれぐれも発砲するんじゃないぞ。そして捜索部隊は外部ハッカーの映像を頼りにターゲットを確保しろ。以上が作戦だ。あとは各自映像で確認してくれ。健闘をいのる。出発準備しろ!!」


 皆が各配置につく、達也は上空からの突撃部隊だ。1機につき6人収容したジェット機20機をでレーダーに引っ掛からないよう低空飛行し、各隊員の入ったカプセルをターゲットの建物に撃つのだ。そして建物内に侵入した事を確認し、カプセルから出て作戦開始となる。


「江波戸達也、安全装置、引力負荷緩和装置確認完了!!」

達也がカプセルの中に入る。他の隊員も次々と準備が完了した。


「よし、全て準備がそろったな。たった今、外部ハッカーからのカメラ映像を確認したがターゲットは現場に存在した。よって作戦を開始する。15分後に太平洋沖で無人で遠隔操作している漁船が3艘同時に爆発する。その間、上空の飛行体が地上観測を停止し漁船に向かう。その時が作戦開始の合図だ。カウントダウン開始!!時計合わせ!!」

 達也に緊張が走る。


「どうだルーキー緊張しているのか、顔が割れないようにマスク付けたか?」

達也の緊張をほぐす為レダンが声を掛けてくれた。


「ああ、俺どうなるか分からない。本当に恐い。このカプセル本当に落っこちた時は大丈夫なんだよな?本当に恐い」

達也の声が震えている。背中からは大量の汗が吹き出てすでに服は濡れている。


「大丈夫大丈夫、これは今まで事故起こした事はないから。だから普通に作戦を実行して終わったら回収してもらえば大丈夫だ」

達也はその吸い込まれるようなやさしい口調に安心した。


「そうか、分かったありがと・・・・」

突然無線が使えなくなり徳の声が入る。


「飛行体の観測停止確認、繰り返す飛行体の地上観測停止確認!!上空隊第1段2段発進!!健闘を祈るぞ!!」

気合いを入れる声が周りから漏れる。


 戦闘機が発射し仰向けになった状態で体が勢いで上に引っ張られる。今の時速は324キロ。引力負荷緩和装置がなかったら間違いなく今頃トマトケチャップになっていただろう。


「現場到着まであと40秒、準備してください」

アナウンスが流れると同時にカプセルの先端から見た視界がHMDに映る。いよいよ始まる。


「10・9・8・7・6・5・4・3・2・・・・」

次の瞬間衝撃と爆発音が響く。


「作戦開始!!最短距離の人間を制圧する!!」

達也はカプセルのドアを蹴り開け外に出る。


「動くな!!動いたら殺す!!」

皆が一瞬の出来事で皆があっけに取られていた。だがすぐさま状況を把握した人々が泣き始めたり騒ぎたてる。中には裸の男女の姿もあった。


 目の前にいる人間は恐らく国会議員。要はターゲットではないからターゲットを確保するまで監視していればいい。そう思い達也は少し安心した。


 第2段に捜索隊が乗ったカプセルが次々と建物の天井を破り落下してきた。自分に当たったらどうすると思ったが打ちこまれたカプセルで負傷者は両者共に出ていない。もしかしてここまで計算されたものだったのだろうか?


「こ、これからどうなるんだ?」

目の前にいる政治家の男が言う。


「黙れ、それとグローブを捨てろ。あとそのHMDもだ。電源も切れ」

達也は心を鬼にしていた。下手したら自分が死ぬのだから。


 捜索隊の視界の映像が皆の所に配信される。


(早くしてくれ)


 外が騒がしくなっている。映像を見ると下水道のSP達を人質に取り、店を包囲したようだ。


「おうルーキー初めてにしては上出来だな。一応、念の為通信は切らないでおくからな」

無線でレダンが声をかけて来た。


「黙ってろ、お前は周辺を守ることに専念しろ」

そう言った。正直会話などしている余裕などない。だが周りを見ると明らかに店の様子が変だと言う事は酒屋に行った事ないが達也でも一目でわかった。よく見ると店は普通の店ではない、何というか映画や成人向けのビデオなどで観る風俗店に見える。するとレダンから連絡が入る。


「あーこりゃ違法風俗店だね」

レダンが能天気な口調で達也に言った。


「見える?なんか変だって思ったんだがやっぱり普通の店じゃないよな。でもどうして?今この時代に運営するなんて不可能だ」

達也達のいる時代は店が1店1店の防犯対応が厳しく酒屋となれば常に警察が出入りするだけではなく常にネットワークで監視されているのだ。もちろん誤魔化す方法はいくらでもあるのだが建物の広さだけでも到底誤魔化しのきかない店くらい達也にでも分かる。


「じゃあ目の前のおっさんに聞いてみな」

全部知っているようにレダンが言った。


「え?まさか」


「取り締まるべき人間達の為、つまり官僚達の為の違法風俗店だとしたらどうなる?」

この言葉を聞き達也がようやく理解した。


「そうだったのか」

達也が銃を強く握る。


「うわあ銃を下せ」

醜く太った中年の男は震えながら体を丸くした。


「官僚達が絡んだ売春が平成初期にはあったと噂で聞いた事があったが、昔の事が今でも行われていたのか・・・」

達也は動揺した。


「知らねえけどそんなのあったの?あ、あった。」

「おい!任務につけ!!」

ネットサーフィンをしていたレダンを怒鳴った。正直その気持ちの余裕が羨ましかったというのもあるのかもしれない。だが冷静になると恐怖で体が震えて来た。それを見た政治家は隙を突こうと様子を窺っている。


「君、震えているね。しかも声を聞く限り若いんだね」

「うるさい黙れ、殺すぞ」

達也は銃を握りなおす。


「君に殺せるのかな?あるいは殺す権限はあるのかな?」

手のひらを返したように目の前の男が話し始める。その言葉に達也は銃の取っ手で殴った。


「黙れ、早くHMDを取れ!!」

達也に再び恐怖がこみ上げてきた。同時に隅で体を震わせ怯えていた店の少女が泣きだした。


「テロ対策で被っていたんだけど、私が取らないからといってパニック起こして撃たれたらたまったもんじゃない。取るとしようか」

唇が切れ、そこから血を流した政治家はゆっくりと自分のHMDを取った。


「・・・この顔!!」

男は笑みを浮かべる。


「そうだよ、僕だよ。一時テレビで冤罪報道されていた大沢だよ。何?髪型で分からなかったの?」

しばらくテレビなど見ていなかったから分からなかった。達也の体が激しく震えだす。


「お、俺の・・・」

達也は震えた声で言った。


「何?分からないよ」

隙を見て大沢議員が達也の銃を取ろうとした時だった。達也はHMDとマスクを外し、腰に掛けた。


「俺の名は江波戸達也」

無線での達也の異変にに気付いたレダンは中にいる捜索隊を除いた全員に無線を入れる!!


「おい!達也を止めろ!!」

皆は何の事だかわからないが、レダンには達也が次に何をするかを理解した。


「俺の名は江波戸達也。あんたの名の下に俺の大切な仲間と俺の親父と俺の親父の親友を殺されました」

達也は引き金に手をかける。


「こちら捜索隊、ターゲット確保、繰り返すターゲット確保!」

その無線も達也の耳には入らない。


「アイラインをシェアする!」

隊員の視界がレダンに共有され、その眼には今まさに引き金を引こうとする達也がいた。



「やめろ!!!」

レダンが叫ぶ。




不気味な笑みを浮かべた小太りな中年男は無残にも自分の読みが外れ、死んだ。床に大量の血が広がる。


「おい、何があった!!」

レダンが中に入ってきた。


先ほど視界を共有した隊員は達也を床に押さえつけている。どうやら発砲した瞬間に間に合わずそのまま体当たりをしたようだった。


「俺、やっちった」

力のない一言だ。


「何やってるんだ!!おいお前ら逃げるぞ!達也、来い!」

達也の肘を引っ張るが達也は石のように固まったまま動かない。


「おい、あれってまさか圭の息子の江波戸達也じゃないのか?」

急に一人の男が言った。


「え、本当だ!!未だに捕まっていなかったが、まさかリベルティにいて生き残っていたとは。これは不味いぞ」

他の政治家達も騒ぎ出す。


「ヤバい!行くぞ達也、ほら動け!」

レダンが再び引っ張る。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

達也はレダンを吹き飛ばすとレダンから奪った銃で無言で乱射し始めた。最悪の事態を招いてしまった。


 政治家やそれを取り巻くセキュリティポリス達は拳銃を取り出し応戦してきた。他のリベルティの隊員も銃で応戦する。


「クソ!最悪だ!達也やめろ!!」

銃撃戦はやむことはない。


「・・・・・・・・・・・・・」

達也は彼らが放つ弾丸を容易く避けると不気味な笑みを浮かべながら撃ち続ける。

 

 弾が切れた達也は銃を目の前にいた男に投げた。銃の先端が男の左目に刺さった。男は凄まじい悲鳴を上げた。達也はそんな事お構いなしに背中に提げている鉈を取り出した。その隙に敵は3人がかりで達也に向かって走り発砲してきた。達也は再び体感時間を遅くするボタンを押すとまるでそのボタンが彼らの体に仕掛けた爆弾の起爆装置ように一瞬で3人はバラバラな姿になった。


「もっと死ね」

その時だった。


「やめろ達也!!」

行き交う銃声の中からどこか懐かしい声がした。その声の方向を見るとそこにいたのは死んだはずの孝一と隆樹だった。


「え?」

達也は鉈を落とした。


「やめるんだ」

今度は隆樹が言った。


「お前ら?おい!!」

走り寄ろうとしたところで他の隊員に体当たりされ、だらしなく転んだ。


「逃げるぞ!」

「離せ!!」

隊員を払いのけ2人のもとに走るが2人の体に触れようとした瞬間すり抜けてしまった。


「なんで?」

「俺達はここにはいない。電霊って言われる奴だ、外見や内容は一緒だけどこれは俺たちじゃない?後でゆっくり話す。だからもう帰ろう」

隆樹がほほ笑む。達也はHMDを外すと彼等は見えなくなった。


「え?何?分からない?」



 達也が混乱していると外が騒がしくなった。するとすぐに建物の出入り口から孝一と隆樹を殺した忘れもしない奴らが入ってきたのだ。


「ベリスだ!!」

誰かが叫んだ。


「クッソやっぱ繋がってんのかよ!達也、逃げろ!!」

孝一が叫ぶ。


「え?」

まだ混乱している。


「おい、何やってんだ馬鹿!」

レダンが達也の胸ぐらを掴み頬を拳で殴った。


「孝一と隆樹」

達也は2人の方に指をさす。


「ああ?誰もいねえよ!行くぞ」

レダンを振りほどく。


「だって!」

「お前にしか見えないんだ!だから言う事を聞いてレダンと逃げろ。俺達は後から行く」

そう言うと二人は消えた。


「わ、分かった。じゃあ後で」

達也は混乱していて言われるままに動くしかなかった。そしてレダンに引きずられながらべリスを見ると混乱した達也にさらなる追い打ちをかける事が起きた。入口に死んだはずの越川学が立っているのだ。


「ま、学さん?隆樹、あれも電霊か?」

「違う!なんか変だぞ気をつけろ」

孝一が言う。すると学が達也を見つけるなり指を指して言った。


「いたぞ!あいつを逃がすな!生け捕りにするんだ!!」

何も言い返せなかった。目から大量の涙がこぼれて来た。


「ふざけるな!」

達也が再び暴れだす。


「おい行くぞ!!しっかり立て!」

レダンが達也の脇を持ち引きずろうとする。


「レダン、銃をよこせ!いつ殺すあいつ殺す!!」

周りからみたらとても無様だろう。だがそれも今の達也にとってはどうでもよかった。レダンはどうにか達也を外に引きずり出して上から垂れてくるロープの先にあるカラビナを自分の腰と達也の腰にかけた。


「逃げるぞ!おい、達也を優先に回収しろ。オーライ!!達也掴まれ!!」

2人は勢いよく上に引き上げられ回収された。


RESET 後篇 完

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