願 前篇
達也は目を覚さますと自分がベッドに横になっているのに気付いた。ここはどこだろう。今何時だ。起き上がりあたりを見回すと看護師みたいな女性と目が合った。するとその人は大きな声を上げた。
「江波戸さんが目を覚ましました!!」
うるさいから黙っていて欲しかったがそう言えるほどに達也は頭が回らなかった。
すぐに医師らしき人が走ってきて、達也の様態を見るなり言った。
「無事でよかった。もう運ばれて来てから3週間が経っていたんだ。だがまだしばらく休んでいなさい。薬の投与は止めるからね」
そう言って病室にある何かのスイッチを切った。
しばらく上半身を起こして呆然としていた。
(何があったんだっけ、車に跳ねられたのかな。何か重要な事があった気がする。ずっと寝ていたから頭が痛くて思い出せない。えーっと・・・)
思い出せず頭を掻いたら急に思い出した。
(俺達はテロに巻き込まれたんだ!考一と隆樹は?)
不安になってベッドから降りようとした時、の黒い影が勢いよく入ってきて達也に殴りかかって来た。
「いつまで寝てんだ馬鹿野郎!」
なんだか懐かしい声。
「?」
「お前が一番軽い傷なのによ、何で俺より目え覚めるの遅いんだ?」
「考一?」
「ったりめえじゃねえか!!退屈させんな」
「あああああ!!」
途端に達也の目から涙が溢れてきた。すると考一がゲラゲラと笑いだす。
「バッカ!こいつ、まあ確かに俺は死にそうだったが、何とか助かった訳よ。まあ今回の事件に国が関わっていたから治療費も全部国が負担してくれたんだ。そして最先端の治療を受けれたから助かった。実は俺も覚えていないがあの事件でリベルティを鎮圧したあとに俺達は救助されたんだ。お前は助かるっぽかったけれど俺と隆樹はかなりまずかったらしい」
「あ、隆樹はどうなんだ!!」
最悪の事態を想像した。
「来な」
そう言って考一が手を差し伸べて達也に肩を貸そうとしたがが大丈夫だと言って達也はベッドから降りた。
しかし立とうとした瞬間に倒れそうになった。すかさず考一が肩を貸す。
「3週間も動いてなかったんだからいきなり素早く動くなって」
隆樹の部屋に着くまでこの3週間で何があったのか聞いた。
「ぶっちゃけ俺は運ばれて2週間が過ぎたころに目を覚ましたんだ。だが不運な事に首が動かなかった」
「不随になったのか?」
「いや、違う。サポーターを付けられていた」
孝一は真面目な顔で言った。
「いちいち話をでかくするのやめろ」
「動脈と骨髄が無事だったから助かったんだと思う」
「だってお前、言い方ひどいが首・・・切れただろ?まっ2つに」
そう言った途端に考一が大笑いをした。
「それはお前の思い込みだ!!記憶の整理がつかない時によく起こる症状だ。まあ実際にまっ2つに切れたら俺はここにいないのかもね。こんな時代でも首から下を完全なるサイボーグにすることはできないしね」
「そうか、良かった。確かにあの時は気が動転していた」
しばらく歩くと、 入るのを躊躇するような大きな扉の前で孝一が立ち止った。
「着いたぞ」
「入っていいのか?」
入り口が大きい為に入るのも戸惑う。
「ああ、ただしショックを受けるなよ」
「どういう事?」
何も言わずに考一は開閉ボタンを押し、部屋に入って行った。続けて達也も入る。
「・・・・!!」
「命に別条はない」
「でも。顔が見えないんだが」
隆樹は頭全体にギブスみたいなものを付けていてそこから配線が伸びており、沢山の機械が隆樹を囲んでいた。
「隆樹に放たれた弾丸は頭の正面からずれた所に当たったんだ。そういうの好きなお前なら頭に当たった時の弾丸の仕組みは分かるよな?」
「ああ、頭に当たって死ぬのは弾丸が脳を破壊するんじゃなくて弾丸によって砕かれた頭蓋骨の破片が脳の組織を破壊するんだろ。だから奇跡的にその被害が少なくて済んだってことか?」
「いたって冷静だな・・・。そう、だが全く損傷していない訳じゃないからこうして、今治療しているんだ」
「そうか、良かった。ところで俺達はいつ退院できるんだろう?」
その言葉に考一は戸惑った顔をした。
「実は簡単に退院できる訳じゃないらしいんだ」
「え?」
「俺達は生きてちゃいけない存在だから」
「なんで?」
「テロに巻き込まれた時にあいつ等に俺達の情報が漏れた。逆に俺達もその存在を間近で見てしまった。そうなると当然奴等にとって都合が悪い訳だ。だから仮に俺達は退院しても再び命を狙われる事になるんだ」
「じゃあどうすれば?」
「それなんだが、俺達はただじゃ生きていけない。だから今日、一昨日も来たんだが、国の人がとある案を出してきた。国が俺達を匿う代わりに仕事をして欲しいそうだ。匿名の効く組織の仕事だ」
「なんだそれ?」
「対テロ部隊への入隊だ」
達也の年頃だと一度はそう言った組織へのあこがれはあった。しかし、実際に目の前にそれが来るとどうしても迷うものだ。
「でも、これしかないんだよね?」
「まあ、なんとかなるんだろうけど面倒なんじゃん?俺も迷っているんだが。一度話を聞いてみるか?」
「うん。と言うよりあくまでそれを理由に無理に誘導して勧誘しているようにも感じる」
そう言った途端背後から強く方を叩かれた。
「それは失礼だな!!」
低い声だが身長は低く、横幅があり多少体格が良さそうに見える男がそこにいた。
「この人が?」
その質問に考一が頷く。
「対テロ部隊総司令官の縁さんだ」
「あ、すみません。あいにくHMD盗まれたみたいなので。グローブしかないんですが」
自己紹介も映像で行う今、このような所でのHMDは必要不可欠であった。
「ああ、そうか。じゃあこれ使っていいよ」
達也のHMDが盗まれたと聞いたのか予め達也のHMDを用意してくれた。
「ありがとうございます」
サイズを頭に合わせて装着した。
「あ、名字『ゆかり』で『縁』って書くんですね」
縁の略歴をHMDで確認した。
「ああ、変わっているか」
「漢字苦手だし、見たことなかったもので」
「外に出よう、近藤君に迷惑だろう」
「あ、そうですね」
3人は病院の中庭に出た。
「で、その部隊についてですけれども」
「ああ、それか。じゃあ、簡単に説明するからな。映像受信モードオンにして。映像を見ながら教えるから」
縁による対テロ部隊の説明が長々とされ、映像は明らかに戦闘員の仕事とはかけ離れたような、いかにも格好良さを追求した映像だった。全国の青年男子に見せたら過半数は入るだろう。
「どうだ?」
「格好良さだけは十分伝わってきました」
皮肉たっぷりの言い返しだ。
「そうか、残念だな。気に入ってくれると思ったのに。まあ気が向いたら連絡入れてよ」
「入るしかないじゃないですか?」
そう反論したが
「いや、入らなくても大丈夫。君の顔を知っているリベルティの人間を拘束するまで俺達が提供する安全地帯にいればいい」
「・・・・」
正直達也はこの男が分からなくなった。
(何か気味の悪い男だ)
気軽さと言い何か軽い感じがするのが達也は気に入らなかった。そう考えていると事件の前の日まで一緒だった学の安否が気になり始めた。
「あの?」
「なんだ?」
真剣な顔だったのか縁も真面目な顔になった。
「俺の引き取り人の学、越川 学っていう人がいるんですけれど安否が気になるんで連絡入れてもいいでしょうか?」
「あ、俺もそうだ。色々事情聴取とかあって本当に忘れていた。俺も教えてくれ」
「・・・・・」
突然縁の顔が険しくなった。聞いて欲しくなかったのだろう。同時に達也には答えて欲しくないと頭の中で思っていた。何と無く予想は付いていたからだ。
考一は何故か黙って下を向いてる。。
「我々が行った時にはもう・・・皆、殺されていた」
「・・・・・」
何となく分かっていた。だけど認めたくなかった。同時に今まで我慢していた感情がむき出しになる。
「どうしてアイツらを止められなかった!!止めれば学さんや孝一の家族は死ななかった!!他にもいるんだろうが!?あ!?言ってみろよ!!」
その達也の怒りに答えるように悔しさの感情を露にした縁が言い返す。
「最善の努力はした!だが、助けられなかった!!これは俺の責任でもある!」
途端、達也が縁の胸倉に掴みかかった。
「うるせえよ!謝って済まされねえって事はあんたが一番知ってるだろ!?謝罪一つで退職して退職金巻き上げる、そんなお前等国の人間は俺は前々から嫌いなんだよ!!」
「落ち着け達也!」
達也の荒れ具合に孝一は自分も暴れる気力は無くなったらしく、違和感が出るほど冷静だった。
「ふざけるな、お前まで敵かよ!隆樹を見ただろ?あれは国と馬鹿の戦争に巻き込まれてああなったんだぞ!!それに隆樹の家族だって国に騙されたじゃねえか!?俺は入らねえ!!入りたかったらテメエが勝手に入れ馬鹿!!」
そう言うと達也は病室に戻って行った。
「これが自分の望んだ世界なのだろうか?」
ベッドに座りながら1つ1つを整理していく。
「確かに俺は退屈が消える事を望んでいたが・・・だけど、その退屈が消えた途端に1つ1つの事に何もできない自分に愕然と来た。涙が止まらなかった理由が分かったよ」
ドアが開く音がする、孝一だ。
「お前の気持ちは分かる。だがお前は一つ見落としてるよ」
いつもより冷静な声で孝一は言った。
「何だよ」
「俺達3人だけでも助かったんだぞ。これはきっと意味がある。いや、奴等に復習できるチャンスはある。確かにこの件は国と教団の抗争に巻き込まれたものだったが、でも―」
そう言いかけた途端
「おい孝一、知ってるか?」
頂点が合わない目で孝一を見るとに問いかけた。
「何をだ?」
「学さんが言ってたんだけど、この国はな。核兵器や他の色んな兵器の設計図を海外に売りに出しているらしいぜ―」
「そんなことあるか!!」
いきなり怒鳴った孝一にビクッとなった。
「いくら混乱している身でもいい加減な事を言うんじゃねえよ。いい加減目を覚ませ。お前が昔言ってた事、俺は今でも覚えているぜ。親父は嫌いだし家族何てどうだっていい。だが学さんは別だって。だから学さんに何かがあったらそいつを殺すって。今のお前はただ周りのせいにしている廃人だ」
原因は国にあるのだから周りのせいにしてもいいだろうといい加減な事を思ったがあえて言わなかった。なぜなら孝一が孝一ではないのではないかと思うくらい自分とって孝一が人に論する事などなかったからだ。
「一部納得できない所があるけど、そうかもしれない」
達也はぼそりと言う
「一部納得できないってのは何処だよ」
「今回の原因は国にあるのだから周りのせいにしてもいい権利ぐらいあるだろ?」
「ちげえよ!そうじゃなくて―」
手を前に出し、孝一の言葉を中断させた。
「あのな、お前の悪い所は、いやほとんどの日本人はそうだが自分と違う考えを持つ人間がいるのは当たり前なのにそれに疑問をもち、相手の意見を一切尊重しないで自分の意見を押しつける事なんだよ。それで俺と議論したいとか笑わせるんじゃねえ。少なくとも俺はお前の意見の大半を認めたうえで非難したまでだ」
「悪かった」
孝一が言う。
「いや、いい。論点がズレたな。確かにお前の言うとおり俺は今大事な事を見失っていたかもしれない。大切な仲間が傷つけられ殺された。今度は俺がリベンジにする番・・・かも・・な。あの縁って言うインチキ野郎に志願するべきなのかもしれない」
迷いながら言った。
「行こう」
孝一が達也に手を指し延ばした。
「俺達を対テロ部隊に入隊させろ」
達也が縁を睨みつけなが言う。
「分かった。だが、ただのピストルごっこだとは思うなよ」
(他に方法はない)
そう言いたかったが今は何も言わなかった。
「はい・・・分かりました」
悔しいが心の整理が付いていない今、誰かに身を任せるしか無かった。
次の日の朝、迎えまで少し時間があったから学が殺害された事件現場を特別な会員(この時は圭のアカウントで観た)だけに公開されている現場の検証ファイルを見た。これは地球の気候を監視する人工衛星が地球上から出てくる微弱な赤外線を探知したのを映像化しデータにした物だ。
再生するとどうやら学は仕事現場にいたらしい。だが場所などの詳細は記されていない
学の周りは炎で囲まれていて、学は何かを探しているようだ。するとそこに奴等は入ってきた。そして学を包囲するとその集団の中から1人が飛び出してきて学と話している。顔はぼやけていてよく見えない、何を話しているのか分からないが仲間ではない事は確かだ。すると突然学の頭を銃で撃ち抜いた。
「あ・・・!!」
達也は慌てて口を塞いだ。
もう見たくない。
「朝食です」
目の前に食事が並べられた。不味そうだ。
「あの、もう体は大丈夫なのでもう少し病人らしくない物を出してもらえますか?」
確かにもう体は治っている。患者用のカルテを見せてもらったが体は2週間で完治したのだ。だが目をなかなか覚まさなかった理由は極度の疲労が重なったせいだと書かれている。つまり自分の体は一週間前から治っていたのだ。
「じゃあ、これね」
とテーブルにアイスクリームが置かれた。
「消えろゴミが!!」
人に当たってしまった。
食べていると考一が入って来るなり野球ボールを投げつけてきた。
「痛てーな、なんだよ朝から」
「いよいよだな俺達。まだ迎えは来ないけど」
次の瞬間
「なんで朝から笑っているんだよ。家族が死んだんだぞ」
考一に思いもよらない事を言ってしまった事に後悔したが考一は冷静に返した。
「まあ、そうだがどう足掻いたってもう戻ってこない。だから、それよりも俺達これからはどうするかを考えるべきなんじゃないのか?いつまでも過去に捕らわれちゃ意味がない」
学と似ていた。学は達也が未来を見つめながらも過去の過ちについて喋ると止まらなくなるを知っていた。だからよく、決まって同じ事を言っていたのだ。 あの事件以来から孝一が大人びて見えて、別人に見えて来た。
「どうかしたか?」
「ああ、いや。そうだよな、うん。悪かった」
すると遠くから縁の声が聞こえた。慌てて朝食を食べ、アイスを片手に外へ出た。
「おう」
縁を睨むようにして達也は挨拶した。
「おはよう、あのさお前どうでもいいんだがそのアイスどうしたんだ?」
寝ぐせが酷く、そのうえ服も慌てて着替えた感じで見た目は非常に変な格好だろうと思った。
「いや、朝食についてきただけ」
「そうか、まあ乗れよ」
車に乗ると革の匂いがした。高級車なのだろう。考一は「なんで俺にはアイスが付いてこなかったんだ」とこんな車には慣れているのだろうか。別に緊張するそぶりも見せず達也に冗談を言ったりしていた。
「着いたら軽い面接するから。リラックスしててよ」
どのような面接なのだろうか?志願理由?そんなところだろう。でも、本当だったら自分はここにいなかった。ちゃんと学校に行っていれば。もし、仮にあの場を逃げ切れていたらどうなっていたのだろうか?
面接と言う本題からずれている事に気づくと同時に自分が寝ていた事に気づいた。
目的地に着き車から降りると沢山の銃を持った人達がいた。
「お疲れ様です、彼らが新人の?」
縁がそうだと頷くと「こちらにどうぞ」と案内された。
「俺はあとから行く」
と2人を置いて縁が別のところに行った。これから何が始まるんだ。
部屋に案内されるとすでに縁が座って待っていた。
「じゃあ始めよう。面接と言うより講義だから楽にしてね」
そう言って達也達は長い講義を受けた。
講義の内容はこの部隊の目的。そしてこの講義で達也にとって一番重要な話題が出された。リベルティが一部のこの国の人間との核兵器の製造に加担していて、その核兵器の抑止力で日本を牛耳ろうとしていると言う物だった。そして最終的には世界に核兵器をばらまき核兵器の通信システムによりいつでも世界中で核攻撃、設置場所近辺の破壊ができるようなシステムを作り世界を掌握しようとするのが狙いだと言う数日前学から聞いたような事だった。
講義が終わると養成スケジュール資料が配布され目を通すように言われた。
「初めは戦う為の体の作り方。目を通したらすぐに始めるぞ。10時半までにステージG6に集合だ」
そう言い終えると縁はそそくさと部屋を出た。
「なあ、どう思った?」
達也は孝一に問いかける。
「核兵器を製造しようとしているのは全く知らなかった。学校で教わってないよ」
「だよな、俺達にそれが止められるのかが心配だよ」
「でも俺は仇を取るからやらなくちゃいけないと思う」
別にここで疑問を解決しようとは思わない。達也はただ不安を誤魔化したかっただけだった。
これから厳しい訓練が始まるのだろう。これも復讐の為の一歩だ。頑張ろう。と自分に言い聞かせ2人は縁を追うように部屋を出た。
CHILD REVOLUTION 願 前編 完