崩壊
見渡す限りの真っ赤な空。それをさえぎることのない真っ平らな平地。360度全てに地平線が見える。
ある年のはじめ、アメリカが、宗教の名を借りた国際的テロ組織に対する駆逐作戦を決行した。それはあまりにも一方的な戦いだった。組織の中でも中心的に活動している集団を、数千もの無人爆撃機が襲ったのだ。それまでも無人爆撃機を使った攻撃は行われていたが、実験的にしか使われておらず、誰もそれほどの規模の無人爆撃機を、アメリカが所有しているとは思わなかった。もちろんテロ組織も抵抗したが、相手は命が奪われるリスクがないので、攻撃の手を緩めることはなかった。一つの国ほどの軍事力を持っていた組織は、僅か3ヶ月でまとまりを失った。完全に芽を摘めたわけではないが、大きな脅威ではなくなり、作戦を決行し、圧勝したアメリカは、軍事的にかなりの存在感を示した。その後は各国が、ロボット開発にかなり力を入れ出した。しかしその目的は軍事力の増強。それが、文明崩壊の始まりだった。
その後の戦争は、格段に人命の消費が少なくなった。そして、その国の工業生産力が露骨に現れるようになったのだ。何時しか勢力はアメリカ側と中国側に分かれていた。
その時日本はどちら側にも立てない状況にあった。主力が変わっても、核の牽制力は強く、非核三原則を頑なに守り、技術はありながらも生産力も資源もない日本は、軍事的にほぼ無力であった。日本は自分の身を守るため、立場を中立にし、各国に技術を提供することにより、技術開発の要として、何処からも攻撃されないギリギリのバランスを保っていた。おかげで日本は金銭的に豊かになった。
最終的にそのバランスが安定し、アメリカと中国が、新たに平和条約を結んだことをきっかけに戦争は無くなっていったが、火種はくすぶり続けていた。それを爆発させたのが日本である。各国の軍はすっかり日本の開発した技術に染まってしまい、日本のバカな野心的政治家がそれを利用したのだ。あらかじめシステムに仕込んでおいたバグを一斉に発動させ、事実上世界中を武装解除させ、それらを自分たちの軍としてしまったのだ。
そこからは早かった。全世界が日本の占領下に入るかと思いきや、忘れ去られた核兵器が世界中で始動したのだ。どの国も手動で動かせる原始的な兵器を少しだけ持っていた。それが核兵器だったのだ。
全世界が日本に向けて核ミサイルを発射した。その後のことまで、考える暇などなかったのだ。日本はそれに合わせて、あるプログラムをロボット兵に送り暴走させた。直後日本のほとんどの都市が滅び、ロボット兵は破壊の限りを尽くした。全てのロボット兵がエネルギー切れや故障で止まるまでの間に、全ての国が国としての機能を失った。日本がロボット兵に送った破壊命令には優先順位があり、まずは軍事施設、その次に発電所や役所。文明を崩壊させてしまったのだ。
わずかに残った人類は、必死に生き抜き、数千年かけて少しずつ数を増やしていった。
再びお互いに滅ぼし合うまで……。