分岐とヤル気
目がさめると、そこはいつもの自分の部屋だった。何も変わりなく親に朝の挨拶をし、朝食と着替えを済ました。
「今日の時間割は確か......」
思い出しながら教科書を整理していると、物理の教科書がなかった。おそらく教室にあるのだろうと思い、準備をして家を出た。
学校に着くと自分の靴箱がそこにはなかった。代わりに違う人の名札が貼ってあった。頭の中は疑問符でいっぱいだ。そこにちょうど同じクラスのIがやってきた。
「俺の靴箱どこ??」
挨拶もせずに唐突に質問してしまった。一瞬の間の後、彼が答えた。
「お前、確か2組だったろ?」
「は?」
こいつは何をほざいてるんだ?お前は俺と同じ4組だろう。そう言い返そうと思ったが、あまりにまっすぐこっちを見て話すもんだから、おかしいと思った。返事もせずに2組の靴箱を見に行くと自分の名前がそこに書かれていた。上靴も間違いなく自分のものだ。
「お前、大丈夫か?」
そう半笑いで言うとIは去っていった。
教室の前で少し立ち止まった。4組と2組は階がちがうから、この教室には入ったことがない。このままこの手の込んだいたずらに乗っかったら、どんな反応をされるだろうか。幸いまだクラスの3分の1程度しか登校していないみたいだ。そこまで大恥はかかないだろう。意を決してドアを開いた。その音に反応して数人がこちらを見たが、表情を変えず、すぐに元していたことに戻った。予想ではイタズラを知っていたなら笑うだろうし、しらなくても、見慣れぬ存在に眉を動かすだろう。どちらにせよなんらかの反応は見せるはずだ。だが、それがない。入って右手の掲示を見ると、座席表には自分の名前があるし、掃除分担表にもある。さすがに手が混みすぎだ。ここまできたらタチの悪いイジメだろう。だが、座席表や掃除分担表はれっきとした証拠にできる。とりあえず座席表どうりの席に座り、誰も掲示物をいらわないか監視しながらHRまで待った。だが、誰も気がつかないし。自分の存在に違和感を持たれた様子もない。
そのうち先生が入ってきた。俺が知ってる2組の担任の先生だった。流石に先生までグルということはないだろう。そう思い様子を伺っていると、出欠確認の名前が呼ばれ始めた。そして、自分の名前が呼ばれたのである。もう何が何やら、さっぱりわからなくなってしまった。そして考えた末に出た結論なパラレルワールドだ。俺は理系を選考した。だから理系クラスの4組に入っついたのだ。だがここは文系クラス。つまりここは、俺が文系を選択した世界なのだ。
根拠はある。今朝の一連のできごともそうだが、俺の知っているものと違うことが他にもあった。スマホの中にある写真だ。文化祭の日に撮ったと思われるクラス写真が4組のものではなく、2組のものに変わっており、しかもその中に自分がいたのだ。他にも、時間割のメモが文系用になっていた。さすがにここまで細工できるはずがない。
実際、俺はこの状況をうれしく思っていた。実は理系を選択したことに後悔を感じていたのだ。国語と英語は得意科目だが、理科や数学はボロボロなのだ。きっと文系を選択した自分は成功しているのだろう。
幸いその日の授業は理系と被っている教科がほとんどで、ボロが出ることはなかった。そして、帰りのHR。先日こちらの世界の俺が受けたはずのテストの結果が返ってきた。各教科の点数と順位が表になって渡される。俺は結果を見るのがとても楽しみだった。少なくとも、前の世界よりひどいことはないだろう。先生から紙を受け取り席に帰って、二つ折りになった紙を開いた。
「……変わんねーじゃん……」
しばらく固まった後、そう呟いた。